表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
28/69

27. 弱みを突く者

「ちょっとあんた」


 突然声をかけてきた人物がいた。振り返ると鋼の鎧を着た背の高い男と灰色のローブをまとった男が立っていた。ミレイザがふたりを交互に見ると彼らは安心したように話し出した。


「あんた、あのルピネスを一瞬で追い詰めた人だろ?」


 鋼の鎧の男はうれしそうにたずねた。


 腕試しのためピサリーと一緒に偽ルピネスと戦ったとき、見物をしている者たちがいたことをミレイザは思い出した。


 なんにしても、自分の正体を知られるわけにはいかないミレイザは首をかしげる。


 それを見たふたりはお互いに顔を見合わせた。すると、ローブを身にまとった男が懐から紙を取り出して見せた。


「これぇ、きみだよね?」


 ミレイザはその出された紙に目を移した。


 そこには『冒険者を一瞬で追い詰めた彼女は何者だ!?』と見出しがついている。そこに自分が偽ルピネスを吹き飛ばしている場面が映し出されていた。なんでわたしが載っているの? そう疑問に思いながら思考をめぐらせた。


 すると、ガゼルモ新聞社の社員が盗撮したのだとすぐに気づいた。社員は特殊な眼鏡で撮影している。スぺリ眼鏡と呼び、映像を記憶できる魔法が使用されている。


 ミレイザは肝を冷やしながらとっさに嘘をついた。


「ひ、人違いです」


 それから目線をそらして下を向いた。


 男たちは紙と目の前にいる彼女を交互に見比べた。どこからどう見てもミレイザ本人にしか見えない。しかし、フードをかぶり仮面をつけている女性はほかにもいる。町を歩けば、彼女と同じような格好をした人物はすぐに見つかる。


 男たちは彼女が嘘をついているかどうかさぐりを入れた。


「そういえば、妖精のお友達は?」


 鎧を着た男が辺りを見まわしながらたずねる。ミレイザは口を開けてピサリーのことを言おうとしてしまったが、口をそのまま閉じて首をかしげた。


 そのわずかな挙動を見逃さなかったローブを着た男はほくそ笑んだ。


 そうとわかった彼は鎧を着た男の背中をミレイザに悟られないように軽く叩いた。それに気づいた彼は軽くうなずいて話し出した。


「知らないか、俺たちこれからそいつをやっつけに行こうと思ってんだけどさ」


 彼の言葉にミレイザは驚き顔を上げる。彼女のおかしな動作に目を細めながらローブを着た男は言った。


「どうしたんだ? そんなあわてて」


 引っかかったと言わんばかりに彼はにやついた。ミレイザは挙動不審に下を向いて口を結んだ。それを見た彼はさらにつづけた。


「まさか知り合いなのか? この妖精と」


 それから、紙の一か所を指し示した。その紙に映し出されているはしのほうにピサリーが小さく映っている。ミレイザはちらりとそれを見た。彼女がそこにいることに一瞬目を丸くして、すばやく視線をそらした。


 ピサリーをやっつけに行くって? この人たちも盗賊? そんなことを思いながら、ミレイザはどうやってこの場を切り抜けるかを考えた。


 いまピサリーは学園にいる。彼らがそこへ行ったとしても、ローゼリス先生に追い返されるはず。だからそのことを心配する必要はない。でも、もし万が一この者たちが強敵だったら……。


 ミレイザは顔を上げて彼らを注意深く見つめた。鎧を着たほうは腰に剣をつけている。ローブを着たほうは胸まである長さの杖を片手で握り杖先を地面につけている。


 ここでよけいな行動を取ると、さらにに悪いほうへといってしまうのでは? 


「なにも返答してこないことを見ると、どうやら知り合いらしいな」

「ち、違います」


 ミレイザは彼らを無視して歩き出した。ふたりはお互いの顔を見合わせてにんまりすると彼女のあとについていった。一定の間隔をあけて歩調を合わせるようにしながら歩いていく。


 鎧を着た男は歩きながらわけを話しだした。


「じつは俺たち、これから宝さがしにブロッカル鉱山へ行こうとしていたんだ。あそこは狂獣が出るって噂だからな、俺たちだけじゃ不安なんだ。そこでこの紙を見てあんたを誘おうと思ったんだよ」


 ミレイザはそれを聞かずに歩きつづけた。それはしだいに速くなっていく。


「本当だ。嘘じゃない。冒険者を雇うにも金がかかるだろ? だったら、冒険者リストに載ってないあんたを雇えばいいと思いついた。それから妖精をやっつけに行くってことも嘘なんだよ」


 歩きから小走りになっていった。足が速くなるにつれてその音が大きくなっていく。


「宝の分け前はやるからさー。なあ、だからまっ……おい!」


 ミレイザは走り出した。彼らも走り出す。が速すぎて追いつけない。どんどん離されていく。「話がある」や「待ってくれ」などといった言葉を放ちながら、彼らは彼女を追った。


 ときどき振り返り、まだ彼らが追ってきているのを確認するとやり過ごすため近く店に入った。しばらくして声とともに彼らがドアの前をとおり過ぎていく。静かになりミレイザはほっと息をついた。


「いらっしゃーい」


 すると気だるそうな女性の声が聞こえてきた。ミレイザより若い女性がカウンターに腰を下ろして頬杖をしている。ミレイザは彼女と目が合うとすぐにそらして辺りを見まわした。


 全体的に木製の室内でところどころに服が飾られている。


「お客さーん、なににします?」


 そう言って、歩くたびに床をきしませながらミレイザのところまで来た。


 彼女は薄汚れた白のワンピースを着ている。ミドルヘアーを乱しながら眠そうな顔をしているが、それでも笑みは見せていた。


 彼女は興味津々といったようにミレイザの顔をのぞき込んだ。

 その妙な圧力に耐えられずにミレイザは彼女にたずねた。


「ここは?」

「ん? ああ、ここはわたしのアトリエ。マギルナアトリエでーす」

「アトリエ?」

「はーい、そうですよ。わたしはマギルナ。この店を経営している……」


 そこまで言って彼女はひとつあくびをした。目に涙をためながら手で口を押えている。


「しつれーしました。要するにわたしの店ですよ。店内を見ておわかりのように、主に服を制作して売っています」


 マギルナは店内に手を向けながら誇らしげに胸を張った。


「服ですか……」


 ミレイザは店内に飾られている服を見てみた。ツギハギだらけやところどころ穴が開いている服が目につく。わざとそうしているのかそれとも失敗したものを飾っているのか、ミレイザには判断できなかった。だが、ちょうどさがしていた店がここにあったということがわかり頬を緩ませた。


「あのう、服を直してもらえますか?」

「ええもちろん修繕のほうもしておりますよ」

「では、お願いしたいんですが」

「ええ、ではそのお直ししたい服のほうを見せていただけますか?」

「はい」


 ミレイザは自分の服を取り出してマギルナに見せた。店のカウンターに広げてふたりは腹の部分に空いた穴を見つめる。マギルナは手で口を隠しながら困った表情をした。


「あーあ、これはひどいですね」


 その返答にミレイザは疑い深そうにしながら静かに問いかけた。


「直せそうですか?」


 マギルナはすぐに答えず、うーんとうなりながらなにかを考えている。それからミレイザを見ると軽い笑みを見せた。


「ええ、直せますよ。しかしこれは……お客さん、どうしてこんなことに?」


 盗賊と戦っているとき槍で腹をつらぬかれた。と頭に浮かんだが、それを口から出さずにほかの理由をさがした。ミレイザは服の破れているところを注意深く見ながら答えた。


「それは、以前外に干してたとき、モンスターに……」

「もんすたー?」

「ええ」


 マギルナは目を丸くながらミレイザの背の高さで年齢などをさぐった。それから何回かうなずき、彼女の理由に納得すると自分の手ひらをひとつ叩いた。


「ああ、お母さまか誰かのものですね」

「え? ええ……」

「そうですか。では、大切にお預かりします」

「お願いします。それで、いつごろ?」

「うーん、そうですねー、この破れ具合だと二日ほどかかりますね」

「ふつか?」

「はい」


 ミレイザはにこやかにしているマギルナを見たあと、店内に飾られている服を注意深く見た。なかばボロボロの服を適当に縫い合わせたようなものばかりが目立つ。この人に預けて本当に大丈夫なのか? とミレイザは思った。


『この世に善人なんかいない』


 ピサリーが言っていたことを思い出した。もし彼女に服を渡したらよけいにひどくなるのではないか? この前みたいに店自体がなくなったりはしないか? などと考えてしまう。


 本当にこの人を信用していいものなのか。ミレイザは疑いながらマギルナを見つめた。


「どうします? お客さん」


 彼女は首をかしげながらにこやかに対応した。手を重ねてスリスリとしている。怪しいと感じたミレイザはほかの店を当たるため、適当な理由をつけてここから出ようとこころみた。


「……そうですね。二日かかってしまうのでしたらほかの店を当たってみたいと思います。すみません」


 そう早口で言うと、ミレイザは服を指輪にもどしその店を出ていこうとした。すると、マギルナは玄関ドアの前に来て彼女を止めた。


「ちょっとお客さーん」

「はい?」

「そうやすやすと逃すわけにはいかないんだよ。せっかくの来たのに、せめてなにか買っていってよ」

「えっ?」


 飾られている服の値段は1万や5万といった高額なものばかりだった。ミレイザはそれから目をそらして彼女にたずねた。


「どうして? わたしは買うために来たのでは」

「追われてたでしょ?」

「え?」

「とぼけないで。この店に入ってきたとき、明らかに誰かから逃げてここに隠れたように見えた。違う?」


 ミレイザは一瞬黙ったがすぐに返答した。


「ええ、違うわ」

「ふーん、そう。じゃあいまから外に出て、その誰かを呼んでもいいよね」

「どうしてそんなことを?」

「なんで? べつに関係ないんでしょ? ここに呼んでも」

「それは……」

「それは?」

「困ります」

「困る? どうして。なぜ困るの?」


 ミレイザは下唇をかみしめながら回避する方法がないか思考をめぐらせた。しかし、なにも出てこなくため息だけが出る。


 そんな彼女を見たマギルナはにんまりしながら言った。


「やっぱりね。だったらなにか買っていってよ」

「買いたくても、そんな高額なものは買えません。お金が足りないので」

「じゃあ服を預けてよ。直したいんでしょ?」


 ミレイザはなにも答えずに顔をそむけた。以前だまされたことが脳裏をよぎり、また同じ目にあうのではないかと思っていまい、すなおに彼女を信じられないのだ。周りに飾られている服を見ると、ますますそう思わざるおえない。とてもじゃないけど、この人に任せるのが怖いと感じてしまうほど。


 でも、それよりも自分の正体を知られてしまうほうが危険だと感じ、ミレイザは自分の服を犠牲にしてここから早く出ていこうとした。


「……わかったわ」


 ミレイザはしぶしぶとマギルナに服を渡した。両手で抱えるようにしながら彼女は笑顔を見せてくる。


「では、この服をお預かりしますね。お値段のほうは実際に直してからでないとなんとも言えないので、二日後にお伝えしますね」

「はい、お願いします」

「あっそうそう、お客さんの名前まだ聞いてなかったわね。お名前は?」

「あ、ああ、アリッサです」


 小声で答え店をあとにした。


 たぶんもう、あの服がもとにもどることはないだろう。二日後に来たとして、服を見ればきっと適当に縫い合わせたようなものになっているに違いない。そもそも店があるのだろうか? 服を取りに来て、もし店自体が忽然と消えていたら……。 


 両親からの贈り物をこんな形でだめにしてしまうとは……。そこまで考えると、ミレイザはふらふらと歩き出した。

最後までお読みいただき、ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ