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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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21. 違和感の正体

 盗賊3人はまたピサリーを囲った。その後ろにガルラムが腕組みをしてたたずんでいる。


「まったく、どんな魔法を使っているのやら……」


 ガルラムは疲れたように言うと自分の指輪にふれた。それから剣を選び取り出した。その剣は切っ先が凍りついているように白い冷気が地面に流れている。そこに生えている草が凍りついて動かなくなった。


「こっちも氷の剣を使わせてもらうぜ」


 ガルラムが両手で剣を構えるとピサリーとミレイザも身構えた。盗賊たちは目配せをして合図を送る。するとガルラムとバルオが剣を振り上げながら飛び出していった。


 それと同時にピサリーは2段階目の氷のつぶてを放った。半円状に氷の破片が飛び散る。ガルラムとバルオは切り刻まれながら吹き飛ばされた。


 ミネノミは顔や腕を切り刻まれながらピサリーに向けて槍を投げた。氷のつぶてを弾きながら飛んでいく。が、方向がズレてその手前に突き刺さった。


 メギグマは傷を負いながらも前進していき、彼女のもとまで来て剣を振り下ろした。しかし、後ろに飛び退かれてかわされた。


 その隙にガルラムがピサリーたちの後ろにまわり込んでいた。それから彼女の背中に向けて氷の剣をなぎ払う。ピサリーはわざとミレイザをその場に残してすばやく刹那を使いガルラムの後ろにまわった。


 ミレイザは下半身や両腕を凍りつかせて動けないでいる。地面から氷が這い出てきたように一帯を覆っていく。


「そう来ると思ったぜ」


 ガルラムは後ろに振り向きざま蹴りを彼女の懐に入れると、ピサリーは飛ばされて地面に倒れた。それを見たミレイザはわなわなと体を震わせた。すると体にまとわりついている氷が砕け、その音に気づいたガルラムは振り返った。


 白い霧が辺り覆うなか、ピリピリと氷の解ける音がすると、そこに冷風がひとつ流れた。


 氷のつぶてによって切り刻まれた3人はガルラムに近寄っていった。


 ミレイザはピサリーに駆け寄ると彼女は目を閉じて倒れていた。声をかけようとしたが口を結んだ。自分はここにいないことになっているから、盗賊たちに知られてはいけない。だから黙ってその盗賊たちに目を向けた。


 ガルラムたちはピサリーを見ながらニヤニヤとしている。メギグマとバルオはそれぞれの指輪から小回復薬を取り出し体にかけた。するとみるみる傷がふさがっていく。


 それは指でつまめる大きさの玉状のものに回復魔法が込められている物。体に当たれば玉が割れて白い光が体全体に広がり症状を治してから消えていく。その時間差は1秒から5秒のあいだで行われる。


 効力によりそれは大、中、小と分かれている。


 大は怪我や病気の重症なものを回復。中は中等症のものを、小は軽症のものを。識別のためその玉には赤、緑、青の色がつけてある。赤は大、緑は中、青は小というぐあいに。だが、その値段には雲泥の差がある。


 ミネノミが突き刺さっている槍を引き抜くと肩に担ぎながら言った。


「起きてこねぇな、やったのか?」


 ガルラムは風で服が揺れているだけのピサリーを見ながら答えた。


「いや、まだ生きている。結構な手ごたえがあったからな、しばらくは起き上がれんだろう」

「ったく、手こずらせやがって」

「あいつの指輪には1万リボン相当入っているはずだからな、使っていなければ。それだけでもいただいていくか」

「ああ、おまえが前に言っていた、ゾンビ退治した妖精だろ。間違いないのか?」

「あの赤い制服に赤い羽。間違いないだろう」

「盗むだけか? 口封じのためにやらないのか」

「あんなガキひとりが生きていたところで、俺たちがどうなるわけでもないからな。あいつに言った名前も偽名だしな」


 盗賊たちは疲れたようにピサリーに近寄っていく。メギグマは歩きながら奇妙な違和感を覚えたことをガルラムにたずねた。


「ガルラム」

「なんだ?」

「戦ってたとき、変じゃなかったか?」

「へん?」

「誰かいるような、見えないなにかが存在しているような」


 ガルラムはピサリーと戦っていたときのことを思い返した。投げた短剣が砕け散ったこと、剣が不自然に落ちて地面に刺さったこと。


「確かに変だと思ったが、どうせなんかの魔法だろ。俺たちが考えてもわからねーさ」

「あいつに切りかかったとき、突然なにかに腹を押されてそのまま飛ばされた気がしなんだが……そうだ。あと、勝手に手が上がったんだ。俺の意思とは関係なく、なあ」


 メギグマは体を震わせて気味悪そうにミネノミに話を振る。彼は無言でただうなずき返した。


「まあ、なんでもいいさ。どうせ俺たちの知らない魔法だろ」


 ガルラムたちはピサリーに近づいていく。余裕のある笑みを含みながら屍のように横たわる者を眺めた。


 ミレイザはピサリーがまだ起きないのか確認した。彼女は目を閉じたまま動こうとはしない。まさか死んでいるのでは? という考えがよぎり彼女の口元に手をかざす。手には息がかかり彼女は生きていることがわかった。


 ミレイザはホッと胸をなで下ろしてふたたび盗賊たちに目を向ける。


 もうすぐ彼らがピサリーのもとに来てしまう。彼らをこちらに来させないようにしなければならない。そのためには前みたいに手のひらで彼らの体を押さないといけない。


 ミレイザはため息をついた。自分の力の加減がわからずに、自分の予想よりはるかに強く押してしまっていることを感じた。


 この体になってからミレイザはそのことをあまり考えないようにしていた。それでも、こうしてピサリーが危険な状態になってしまったらどうにかして助けざるおえない。それは彼女がわたしを正しく理解してくれるゆいいつの存在だから。ミレイザはそんなことを考えながら、こぶしを握りしめた。


 でも、わたしがここにいることを知られるわけにはいかない。どうすれば……思考を巡らせながらどうすることもできずに、彼らが聖域に侵入してくるのをただ黙って見つめていた。


 ミネノミが指輪から小回復薬を取り出して自分の体に振りかける。彼から疲れた表情が消えて安堵の顔を見せた。その行動を見てミレイザは思い出した。彼らはピサリーの指輪だけを盗むだけにすると言っていたことを。


 このままなにもしなければ指輪を取られるだけで、ピサリーはやられず、わたしの存在は知られない。そう考えて、ミレイザはわきに避けて彼らを注意深く見ることにした。もし、それ以外に不審な動きがあったら、すぐに止めに入れるように。


 そして、盗賊たちはピサリーの目の前に来た。ガルラムは無防備な彼女を見下ろす。


「まったく、こんなガキが俺たちに目をつけてくるとはな……だが、さがす手間が省けた」


 自尊心の生傷がうずき苦笑いをすると彼は屈んだ。それからピサリーの指から指輪を抜き取ると自分の指に嵌めた。中を調べるため彼はその指輪にふれる。


「あれ? 約6000リボンしか入ってねぇ」


 ガルラムは眉根を寄せてほかを調べていった。小回復薬。灯し花。水筒。短剣などが入っている。


「大したもんは入ってねーな。なにに使ったんだ?」


 そうつぶやきながら、確認するのをやめて立ち上がった。


「まあいいや。行くぞ」


 彼らは歩き出した。「ひとり頭1500リボンか……」とガルラムは残念そうに言うと、ミネノミが不安そうにたずねた。


「なあ、ガルラム」

「どうした?」

「本当にあのガキをやらないのか?」

「あ?」

「おまえの変装を見破ったガキだぜ。このまま野放しにしていたら、今度はどんな手を使って俺たちを見つけに来るかわからない。それにあいつは妖精だ」


 そこでガルラムは立ち止まった。それに合わせてほかの者も立ち止まる。

 

「確かにな……今後俺たちの活動に支障をきたすかもな……悪いが誰かとどめを刺してきてくれ」


 するとミネノミが振り返りピサリーのほうへ目を向けた。


「じゃあ、言い出した俺がやってくるか」


 そうして槍を肩に担ぎ疲れたように息をひとつついて歩き出す。ほかの者は彼を待たずにピサリーから遠ざかっていく。


 ミレイザはピサリーの肩に手を乗せて揺すっている。だが、彼女は起きる気配がなかった。声をひそめるようにして彼女に呼びかけても反応がない。このまま寝かせておくのもかわいそうだと思ったミレイザは彼女を運ぼうと手をかけた。


 そのとき、足音に気づいて顔を上げると、そこにはミネノミが歩いて来ていた。


 ミレイザはその場から離れてようすをうかがった。なぜ彼がもどって来たの? そう思いながら彼の持っている槍に目を止める。彼は肩に担いでいた槍を両手で持ちピサリーに突き刺そうとしていた。


「悪いが死んでもらうぜ」


 その言葉を聞いた瞬間、ミレイザは一瞬息を止めると全身に熱が駆け巡った。ミネノミが槍の切っ先を下に持ちピサリーの胸を貫こうとしている。


 助けなきゃ。ハラハラする気持ちが抑えられずに飛び出そうとするが、自分を知られてはいけないという状況がその足に歯止めをしていた。


 どうする……。ピサリーがいなくなったらわたしは一生このままかもしれない。それより、わたしの目の前で危険にさらされている彼女を見捨てるなんて絶対にできない。したくない。そう思った瞬間、ミレイザは飛び出した。


 槍がピサリーの胸の数センチ手前で止まった。ミネノミは眉間にしわを寄せてそのまま腕に力を込めているがピクリとも動かない。押しても引いてもその槍は動かなくなった。


「どうなってんだ?」


 ミネノミは槍を放した。そこに浮いている槍を見て首をかしげる。それから急いで新しい武器を取り出そうと指輪にふれた。それを見たミレイザはつかんでいる槍の後ろ側で彼の体をなぎ払った。ミネノミは防ぐことができず、高く吹き飛ばされてそのまま川に落ちていった。


 川から音が聞こえてガルラムたちは振り返った。そこにはミネノミの姿はなく槍だけが宙に浮いていた。


「なんだ?」


 ガルラムはつぶやいた。するとメギグマがあせったように言い放つ。


「ミネノミがいない! どこいったんだ!? それに俺の目の錯覚じゃなければ、あいつの槍が浮いているように見えるが」


 それを見てガルラムは言った。


「いや、錯覚じゃねぇさ。どうせやつの魔法だろう。やつはああやって油断させて俺たちを葬るつもりだ」

「気を失ったふりをしていたってことか。じゃあ、なんで俺たちが背中を見せて帰ろうとしたときに、襲って来なかったんだ?」

「さあな。たぶん俺たちがなにもせずに帰ってくれるように願っていたんだろ。だが、やつにとどめを刺すためにミネノミが向かった。だから抵抗してきた」

「野郎……」


 そうつぶやきながら、メギグマは気に入らないといったようにピサリーをにらみつける。


「それでミネノミは川に落とされた」


 ガルラムはそう言ってからふたりに指示を出した。


「メギグマ、バルオ。やつにとどめを刺してきてくれ。寝ているからって油断はするな。俺はミネノミを助けに行く」


 メギグマとバルオはうなずいてその場から駆け出した。ガルラムは川のほうへ駆け出す。それから堤防を下りて川沿いを走る。


 ミレイザは彼らがこちらに向かって来るのを見て槍を握りしめた。それから彼らが来るのを待たずに飛び出した。


 メギグマとバルオは槍がこちらに来ているのを確認すると身構えた。剣でその槍を防ぎながらピサリーのもとまで行こうとしていた。バルオがまず前に出て剣で槍を叩きつける。だが、槍はビクともせずにバルオの手を痺れさせた。


 メギグマはバルオに言った。


「バルオ、その槍の相手をしていてくれ。俺はやつを仕留めてくる」

「ああ」


 それを聞いたミレイザは槍でバルオの剣を払い。足でメギグマの脇腹を蹴った。彼は吹き飛び地面に叩きつけられる。バルオは剣を持ち直すと、槍を叩き落とすためふたたび振り下ろした。ミレイザはメギグマのほうを向いていて、手に力を入れておらず槍は叩き落された。


 バルオはそのまま槍の動きを止めるため足でその槍を踏みつける。するとミレイザはすばやく槍を拾いその足ごと振り上げた。その反動でバルオは宙に高く舞いそれから地面に叩きつけられた。息が一瞬でできずに彼は、うっと息をもらす。


 メギグマは脇腹を押さえながらふたたび走り出した。それに気づいたミレイザは彼を行かせないために槍でその背中をなぎ払った。だが、メギグマは後ろを気にしながら走っていたため、その槍を剣で防いだ。


 槍と剣がぶつかりあう。ミレイザは絶対行かせないと思いながら力を込めた。すると、槍が砕かれると同時にメギグマの剣も砕かれて、そのまま体ごと吹き飛ばされた。そして川へと落ちていった。


 ミレイザは砕かれた槍を地面に落とす。それを見たバルオはピサリーのもとへ走り出した。槍が砕かれて魔法が切れたと思い走り出したのだ。ミレイザはわきをとおり抜けていく彼を行かさないため、手のひらで川のほうへ押し出した。彼はあっけなく吹き飛ばされて川へと落ちていった。


 たびたび、川から音が聞こえてガルラムはふたりが落とされたのだと思った。まだ、あの妖精にとどめを刺してない状況に苛立ちを見せながら、彼はミネノミを助けるのをやめて妖精のもとへ向かうことにした。


 堤防を上がりピサリーをさがすと彼女をとおり越している位置にいた。ガルラムはいまだに寝ている彼女のところへと駆け出す。


 ミレイザは川に落ちていった彼らを確認するためようすを見に行った。川には魚の陰すらなくなにも浮いてこなかった。ふと、ピサリーのほうを見ると、ガルラムが氷の剣を振り上げながら彼女に向かって来ているのが目に映った。ミレイザはあせりを見せてピサリーのもとへ駆け出した。


「まったく、とんだ妖精だぜ」


 ガルラムはピサリーの目の前に来て、そのまま氷の剣を振り下ろした。

 そこに風が走り剣が止まった。思いきりガルラムは力を入れているがそれ以上動かなかった。


「な、なんだ?」


 凍りついた剣先から凍りついた手があらわれた。小さな霧の向こうでピキピキと音を立てて手から腕、腕から肩へと這い上がってくる。


 ガルラムはその剣の刃についている腕の先を見ていった。「あっ!」と声がもれた。驚いたのはミレイザが完全に姿を見せていたからだ。透明の魔法が消えて彼女の姿がもとにもどっていた。


「おまえは……」


 ガルラムとミレイザは目が合った。それに気づきミレイザは自分の体に目を移した。半分凍りつき半分ゾンビの体が見えている。その下にはピサリーが寝ていた。氷に剣によって流れ出る霧が彼女にかかり軽く体を凍らせる。


 ミレイザはその剣を思いきりつかむと刃にひびが入った。そして、ガルラムからむりやりうばい取り川へと投げ捨てた。


 ガルラムは舌打ちをすると、後ろへ飛び退いて距離を取った。ミレイザは凍りついた体をもどそうとして体に力を込めて震わせる。すると粉々に氷だけが砕け散り風に消えていった。


 ガルラムは炎の剣を取り出してそれを手に持った。


「なるほどな。姿を消せる魔法を使ってたってわけか。あいつらの不自然な行動も、妖精の目の前で武器が砕け散るのも、槍が浮いていたのも、全部おまえの仕業だったわけだ」


 その言葉に返答せずミレイザはピサリーを守るために彼女の前に飛び出た。


「まあいい、久しぶりに骨のあるやつと戦ってやるか」


 軽く笑みを見せると、ガルラムは炎の剣を両手でつかみ態勢を低くした。ミレイザもそれに対してこぶしを握り彼の行動に集中した。


 先に動いたのはガルラムだった。数歩でミレイザの位置まで行き剣を縦に振り下ろす。ミレイザは横にかわして彼の脇腹に蹴りを入れようとした。するとガルラムは剣を横へなぎ払う。ミレイザはとっさに後ろに飛び退いた。そのとき、ローブに炎が燃え移り、それをすばやく手で消した。


 ガルラムの攻撃はつづき、剣を振るうたびにそこから飛び出す火の粉が彼女の服に燃え移る。ミレイザは彼と距離を取り服についた火を消した。


 お互いがにらみ合う。ミレイザは手や足で攻撃を繰り出そうとしているが、どのくらいの力を込めれば相手を怯ませることができるのかを考えていた。いままではピサリーを助けたり、自分の身を守るため、状況に応じて体を動かしていた。


 無我夢中で攻撃を与えていたが、戦うということ改めて考えると、自分の力がどのくらいあるのかわからない。生きてきて人に平手打ちをしたことなど一度もなく、ましてや相手を攻撃してやろうなんて一度も思ったことはなかったのだ。


 ミレイザはゆっくりとこぶしを握る。このまま彼が背を向けて帰ってくれたらどれだけ助かるだろう。戦わなくて済む。指輪は取られてしまうけど、その分なにかで働けばいい。そう考えたが、それがピサリーにとって嫌悪感を抱かせてしまうのではと思い、彼女の指輪だけでも取り返そうと心に決めた。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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