表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
21/69

20. 暴かれた者

「やれば」と抑揚なくピサリーは言った。


 盗賊たちは驚きを見せると、ピサリーの言葉がまだ耳の中で反響しているのを感じて、それぞれから「あ?」という声がもれた。


 ルピネスは苦しそうに汗を流しながら自分の首を切ろと言っている張本人を見つめた。半分は疑い半分は恨んでいるような瞳を投げかけている。


「早くやれよ」


 ピサリーは畳かけるように言った。


 それを聞いたミレイザは焦燥感に駆られて息を荒げる。ピサリーに近寄って理由を聞こうしたが、この場で下手な行動を取れば自分の存在が知られてしまうと考えて、その場に留まることにした。万が一、ルピネスの首を切り落されそうになったときは、すぐにバルオの手を止めるようにいつでも走れるよう身構えた。


「おいおい、あんた正気か?」


 ミネノミは呆れたようにピサリーを眺める。


「助かる命を助けないってのか?」

「それはおまえらが助けたいんだろ?」


 彼女の言葉に盗賊3人はお互いに顔を見合わせた。なにかが知られているといったようにあせりの表情を見せる。


 ピサリーはルピネスのほうに目を向けると彼にたずねた。


「おまえ、ルピネスじゃないな」


「えっ?」とその場に声が響く。それはミレイザの声だった。彼女はあわてて口を手で押さえた。


 盗賊たちはその声に反応して辺りを見まわした。「誰の声だ?」とミネノミがつぶやく。誰もいない空間に目を凝らしながら注意深く見つめている。


「おまえらが飼っている鳥の鳴き声だろ」


 ピサリーはごまかした。そのあと、顔をしかめてそこにいるであろうミレイザを見ながら、周囲に知られないように首を小さく振る。


 誰もいないことを確認すると盗賊たちはピサリーに向き直った。するとルピネスがあご下まで水が来ているような言い方で彼女に話しかけた。


「ピサリー、俺さまだ。さっき話してたろう」

「どこで?」

「骨董屋や酒場で」

「どんな内容だった?」

「盗賊たちに狙われるかもしれないから気をつけろって」

「じゃあ、骨董屋でなにを買った?」

「……指輪だ」

「じゃあ、その店の女店主になんて言われた?」


「おい」とミネノミが話に割り込んできた。


「そんなことはどうでもいいんだよ。早くしないとそいつの命がなくなるぜ。本当に」


 それに合わせてバルオが力を強める。同時にルピネスは口を横に開いて苦しそうに目を閉じた。


「あたしの質問に答えないかぎり渡すつもりはない。さあ、ルピネス。なんて言ったんだ。彼女は?」


 緊迫した沈黙が辺りを覆う。誰もなにも答えない。それはただひとりに任せるかのようにみなが彼の言葉を待っていた。


 呼吸音が聴こえるほどの静寂がおとずれる。するとそれをかき消すかのように一陣の風が吹き抜けた。


 ふっふっふっ、ルピネスは肩を上下に動かしながら笑っている。開けてはいけない呪いの箱でも開けてしまったような不気味な笑いが辺りに響く。彼は笑い終えると「もういいぞ」と言った。


 その言葉に反応してバルオがルピネスから手を離した。

 首を軽くまわし肩の凝りをほぐす。それから腰につけている鞘に短剣をしまい前に出てきた。


「まったく、こんな疑い深いやつがいるとはな……」


 彼は怒りにゆがんだ顔を見せながら、こめかみのところをつまんでなにかを引きはがした。その指先には紐のようなものが垂れ下がっている。すると急に顔が変わり血も消えた。


 目は吊り上がり髪の毛はオレンジ色で炎のように縦にとがっている。口を横に開き不敵な笑みを見せながらその紐を握りしめた。


「一度しか使えない変装できる特殊な紐。変装したいやつにさわり声をかけるだけ。それでそいつに変わることができる。血まで再現できるものだが、おまえはだませなかったようだ」


 そう言って、紐を川へと投げすてた。


「おとなしくだまされていればケガせずに済んだものを」


 彼は首を動かすと盗賊3人はすばやく動きピサリーを囲んだ。剣を両手で握り直して切っ先を向ける。


 ミレイザはどうしていいのかわからず、狼狽しそうになるのをこらえながら4人の盗賊たちをじっと見つめた。ただ、ピサリーになにかあれば迷わず助けに行こうと決めていた。


 ピサリーは目だけを動かして彼らのようすをうかがったあと、そのルピネスだった者に目をもどした。


「なんでわかった? 俺がその男じゃないってことが」


 腕組みをしながらピサリーに聞いてきた。彼は興味ありげにその真相を知ろうと彼女の意見を待った。


「においだよ」

「におい?」


「あたしがルピネスを追って骨董屋を出たとき姿が見えなかった。さがして見つけると明らかにさっき会ったやつのにおいじゃなかった。冒険者とはいえサービス業だ。体を清潔に保つことも必要になる。骨董屋は埃臭く湿っている場所だ。そこで彼のにおいは清々しさをほのかに漂わせていた。だが、おまえにはそれを感じない」


 においね……とルピネスだった者がふふふと笑う。それはどこか余裕のある含みを見せていた。


「だが、それだけでは俺がそいつじゃないって決めてにはならないだろう」


「そうだな」とピサリーは答えてあらゆる違和感を突いていった。


「まず、おまえがあたしたちの強さを試そうとして、手合わせを願い出てきた。おまえが人目のつかないところで行おうとしたから、あたしはそれを止めた。その誰も見ていないところであたしたちをやるつもりだったんだろ」


「ふうん、それで、ほかには?」


 全部わかっているのか? と訴えるような目つきを彼はする。それにあらがうようにピサリーは目を据わらせた。


「おまえのその無防備さだ。あたしたちは骨董屋で盗賊たちに狙われるかもしれないとルピネスに忠告してやった。それに彼はランキングでは中盤くらいの位置に存在しているし、なにより自分のアクセサリーを大事にしている。にもかかわらず、わざわざ罠に引っかかりあたしを囲っているそこの3人に襲われそうになった。本来だったらあっさり回避しているはずだ。それが首に剣を突きつけられていたとしても」


 ピサリーはそう言い終えて口を閉じる。


「ふうん、そう……だが、襲われそうになったらおまえが俺を助けてくれると言っていた。だからわざと襲われてやった。それに相手は3人もいるんだ。油断して剣を首に突きつきつけられて血まで出ている。動けるわけがないだろう。と言えばどうだ?」


「ああ、確かに助けると約束した。だから助けてやったまでだ。おまえはルピネス本人じゃない。だとしたら彼より強いはず……つまり、冒険者ランキング中盤以上の存在。そんなやつが油断して首に剣を突きつけられるとは思えない」


「なるほど……まあ、最初から疑われてたんなら仕方ねえ」


 彼は下を向いた。それから疲れたように肩の力を落とすと辺りを見まわしてたずねた。


「そういえば、あの不気味なお友達はどこへ行った? たしかアリッサって名前だったな」


 その名前を言われたとたんミレイザははっと息を殺した。わたしはここにいないことになっている。足音、息づかいなどでさっきのように気づかれたらという思いが身を硬直させた。


「彼女は体調不良でここにはいない」


 それを聞くと彼は短剣を両手に取り出して身構えた。


「それなら、好都合だ」


 ミレイザはその短剣を見て飛びかかろうとしたがやめた。ピサリーの周りには4人の盗賊たちが囲っている。盗賊のリーダーであろうルピネスだった者だけ襲ったとしても、残りの者がピサリーを襲ってくる可能性がある。そうやって下手に動けば彼女が危険になってしまう。と思いその場に留まることにした。だが盗賊たちがいつ彼女に襲いかかって来るかわからないから、一時も目を離さないように心掛けた。


 ピサリーはどうやってこの場を切り抜けるか考えるため、適当に時間を稼ぐことにした。


「あたしからも聞きたいことがある」


 ピサリーはほかの3人が襲ってこないか足音に耳を傾けながら質問する。

 ルピネスだった者は余裕の笑みを見せながら答えた。


「なんだ?」

「本物のルピネスはどこだ?」

「さあな、ダリティアのどっかで寝ているんじゃないのか」

「生きているのか?」

「ああ、相手は冒険者だ。そいつに変装した顔を見られないように後ろから襲った。おまえは誰だと聞いてからな、もともと羽振りのいいやつを狙ってたんだ。襲ってからそいつのクロバーの指輪を確認するとさっき買ったものが入ってい……あっと、丸呑みしたあめ玉の効力が消えたか」


 ルピネスだった者の声は別人の声に変わった。


「舐めたとき最初に話した相手の声をまねる代物。まったく便利なもんだぜ。声を変えられるあめ玉が売っているんだからな。ガキどもがよろこんで買うものだが、こうやって悪用すれば簡単に人をだませる。だが体のにおいだけはだませなかったわけだ」


 彼は舌なめずりをしてピサリーを恨めしそうに見つめる。それを気にせずにピサリーはつづけて質問をした。


「なぜ彼に変装した? 物だけ取っていけばいいだろ」

「変装の理由か……本当はそうしたかったんだ。だが、盗んだものは指輪には入らない。彼の装備しているものを身に着けて帰るわけだ。だから変装しなければならなかった。それに、どっかで知り合いにでもあうかもしれないからな。そうやってバルオと合流しそのまま帰る予定だった。俺たちを狙ってやってきた者を仕留めたミネノミとメギグマを途中で拾ってな」


 そこまで話すとガルラムはため息をつき、怒りがふつふつと湧いてくるのを感じた。


「案の定、おまえに捕まったから急遽作戦を変更した。こいつらと合流したあと周りに聞こえないように作戦を話した」


 そう言いながら彼はピサリーをにらみつける。ピサリーは動じなかった。ただ冷静に彼の話を聞いている。


「ふうん、なんでこんなことをしている」


 すると盗賊たちは低く笑い出した。くだらな過ぎて間抜けとでも言うような笑い方をしたあとリーダーである者が答えた。


「まあ、どうせおまえはここで終わりになるから言ってもいいだろ。俺はガルラム。元冒険者だ。そいつらも元冒険者。俺たちはランク上位にいてかなり稼いでたんだ。だが、誰かさんのおかげで大魔王がいなくなりモンスターもいなくなった。そうすると、ランク上位のやつらを雇うやつはいなくなる。依頼料が高いからな……」


 ガルラムはランキングに載っている冒険者をねたむように、一点を見ながら憎むような目つきをする。


「そりゃそうだろ。こんな平和なのに、わざわざ大金を払いランク上位の冒険者を雇う意味はない。中間にいるやつらやその下にいる手軽なやつを雇うようになる。だから俺たちは冒険者をやめたんだ。ランキングには俺たちはもう載ってない」


 それからピサリーをにらみつけた。こんな小娘になにがわかるんだというようにガルラムは不敵な笑みを見せる。


「だからだ。稼げなくなったんだよ」

「ふうん、だからこんな盗賊ごっこをやっているのか」

「ああ、そっちのほうが簡単に稼げるからな。ちゃんとした法も定まってないいまのうちに、な」

「もし、まだ大魔王が健在だったら?」

「あ? まあ、生きていたらやってねぇだろうな。だが、べつにもうどうでもいい。無能な女王がいまだにこの国のことをなにもやってないからな。人の物をだまし取っても気づかれなければ誰にもなにも言われない。大魔王がいなくなったからっていまさらこの国に倫理もクソもないだろう」


 ピサリーはミレイザをどう活かすか考えた。町でガルラムと戦ったとき、ミレイザは不意打ちだったとはいえガルラムを一瞬で追い詰めていた。だからこの場は彼女に任せようと思い至った。しかし、彼女は戦うことを好まない。そこで、わざと彼らにやられたふりをすることに決めた。


「さあ、話はおしまいだ。いつまでもガキとおしゃべりする趣味はねぇんだよ」


 ガルラムは短剣を両手に構えてピサリーをにらみつける。その行動にほかの3人も剣の柄を握りしめてピサリーに切っ先を向けた。

 

 ピサリーは杖を構えてすばやく振った。2段階目の火の玉が杖から噴出する。それがガルラムの体全体を襲う。熱風が草を舞い上げ、そのオレンジ色の光が辺りを照らすと、ほかの盗賊たちは一瞬怯んだ。が、一斉にピサリーに飛びかかり剣を振り下ろした。


 ミレイザはピサリーを守るためその場から飛び出した。ピサリーの背中にまわり込むと剣を振り下ろす彼らの姿が止まって見えていた。


 辺りを見まわしてみると、風に揺れる草も止まっている。目を凝らしてよく見てみるとかすかに動いているのがわかった。目をもどすとさっきよりも盗賊たちの位置が近づいているのに気づき、その開いている腹に手の当てた。


 手のひらで無防備な場所を押し出すと彼らの体は風船のように離れていった。とたんに速度がもどり3人は吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。


 ミレイザは目をパチクリさせたあと、背後から気配が消えた感じがして振り返る。そこにはピサリーはいなく火の玉が火の粉を撒きながら宙を突き抜けていった。ガルラムは上空へ飛びその火の玉をかわす。そして、短剣を構えながらピサリーがいた場所に突進してきた。


 ガルラムは誰もいないその空間に気づくと空中で彼女の居場所をさがした。


 ピサリーは刹那を使い彼から離れた場所に移動していた。居場所がわかるとガルラムは空中で振り向きざまに短剣を放つ。ピサリーは杖から氷につぶてを彼に放った。短剣は氷の破片で弾かれて地面に突き刺さる。


 ガルラムは地面に着地をするとすぐさまピサリーに突進していった。ピサリーは杖を振り氷につぶてをふたたび放つ。だが、ガルラムに短剣で弾かれていく。そのまま彼女のもとまで迫ると、短剣を首もとに目掛けて振りかざした。


 ミレイザはほかの盗賊たちがまだ倒れているのを確認したあと、短剣を止めるために飛び出した。するとガルラムの真下から噴水が上がり彼の体を空高く持ち上げた。


 ミレイザはそれを見て足を止めた。ピサリーはニヤリとほほえみながらその光景を眺めている。噴水の魔法が止み、とたんにガルラムが落ちてくる。が、その間際に短剣をピサリーに放った。太陽によってその刃が光りピサリーは目を細めた。


 それに気づいたミレイザは、その短剣を止めるため彼女のもとへと走り出す。そして短剣をつかみ動かないように握ると短剣は砕け散った。


 ピサリーの前で短剣が砕け散ったのをガルラムはいぶかしく見ると、その場から数歩飛び退いた。


 ミレイザはわきから剣がこちらに飛んできているのに気づき、そのほうへ目を向ける。盗賊たち3人が走ってきてその中のひとりが剣を放っていたのだ。ミレイザはその剣を手ではじくとそれはピサリーの側の地面に突き刺さった。


 剣を投げたミネノミは走りながら指輪にふれて槍を取り出した。それから飛び上がってピサリーに槍の切っ先を向けながら突っ込んでくる。だが、彼女の前で槍が止まりそれ以上行かなくなった。ミネノミは歯を噛みしめながら槍に力を込めているがピクリとも動かない。


 その槍はミレイザよって止めたられていた。手で槍の棒の部分をつかんている。そのまま投げ返すとミネノミは吹き飛ばされて地面に叩きつけられた。


 ピサリーは刹那を使おうとして杖を構えていたが、目の前で剣が不自然に落ちたりミネノミが目の前で吹き飛ばされたのを確認して杖を振るのをやめた。


 ミレイザが目の前にいる。無臭で体温も低いため彼女がそこにいるのかはわかりにくい。しかし、その体から放つ精力的な波動を感じ取り、そこに確かにミレイザがいるとピサリーは思った。

最後までお読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ