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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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19. 妖精の尋問

 3人はあわてて立ち上がり剣を構えてピサリーに向けた。鎧の隙間から多少の煙を上げ、火の玉が当たった衝撃でふらついている。そんな彼らを見てルピネスは短剣を両手に構えた。


 3人はお互いの顔を見合わせたあと小太りの男が言った。


「いきなりなんだ! なんのことだ? 妖精がよ」


 つづいてひょろりとした男が、わけがわからないと言ったようにため息をつき答えた。


「俺たちもなんのことだかわからない。なあ……」


 不機嫌そうな顔をしてとなりにいるがっしりした男に振った。それを見て彼はうなずく。それから目の前にいる妖精をにらみつけながら彼女の言葉を待った。


 ピサリーは目を据わらせてたずねた。


「おまえら、さっき冒険者を後ろから攻撃しようとしていただろ」


 その言葉に3人の男たちは一瞬黙った。先に口を開いたのはがっしりした男だった。


「ああ、それは獣が籠から出てくるんじゃないかって思って、その籠に向けて剣を振ろうとしていたんだ」


 それにつづいてひょろりとした男がわけを話す。


「そうだ、岩場から変な鳴き声がするから誰かを呼びにいったんだ。そしたら、ちょうど冒険者のルピネスさんがとおりかかったんだよ。だから一緒に見にいってもらうことにしたんだ。それで彼が危ないと思ったから剣を振り上げた」


 ピサリーは小太りの男に目を向ける。それに気づいて彼は呆れたといったように答えた。


「ははは、俺もだ。俺も、ルピネスさんが危ないと思ったから剣を抜いたんだよ」


 岩のところから鳥の鳴き声と翼をせわしなく動かしている音が聞こえてくる。ピサリーはそれに耳を傾けながらたずねた。


「ふうん、そうなんだ。鳥だとは思わなかったのか?」

「鳥だとしても凶暴なやつがいるからな。それと鳥のモンスターかとも思ったんだよ。だから体が反応したんだ。そんな者はもうこの世にいないと思っていてもな」

「おまえはミモジだったな、そっちにいる革の鎧はポラソル、そのとなりはヒウガ」


 ピサリーは男たちひとりひとりに目を向けながらその名前を言った。

 男たちは彼女に対してうすら笑いを浮かべる。それから3人はお互いに顔を見合わせて首を横に振った。


「ポラソル? 誰だいそいつは。俺はミネノミだ」とひょろりとした男は答えた。


 それにつづいてがっしりした男が答える。


「俺はヒウガってやつじゃない。メギグマって名前だ」

「俺はバルオだよ」


 小太りの男はそう答えてムスッと口をしめた。それからルピネスのほうを向いて「そうだよな」と確認を取る。


 ルピネスは疑い深そうに彼のようすを見ながら答えた。


「ああ、彼はバルオだ。そう自分で言っていたし、依頼者の名前も同じだ」

「あっそ、そういえばこの前は世話んなったな。あたしを覚えているか?」

 

 男たちはピサリーの顔を注意深く見てから首をかしげた。


「さあ……誰かと勘違いしているんじゃないのか? 俺は会った覚えはねぇ」


 ミネノミは言った。ほかのふたりも知らないと首を横に振る。


「ふうん、そう、じゃああたしがいまからひとりずつ質問をしていくから、『はい』だったら手を上げて答えろ」


 するとバルオがおどり出て言った。


「なあ、俺はべつにいいだろ? 依頼人なんだからさ」


 不自然な疑いをかけられないようにあえてバルオを質問から外すことにした。ピサリーは考えているように見せるため適当な間を取る。


「……わかった。いいよ」


 バルオがわきにはけるとピサリーはミネノミとメギグマに目を向けた。捕らえたものを逃さないようにいつでも魔法を放てるようにしている。


「なんで手を上げるんだ? 口で言えばいいだろ」


 ミネノミは面倒くさそうにたずねた。


「簡単だ。体は嘘をつかない。言葉より体のほうが正直っていうからな」


 ピサリーはそう返した。やれやれといったようにミネノミとメギグマはため息をもらす。


「じゃあ、いまから質問するからな」


 質問されるふたりはどこか落ち着かないようすで、あちこちと首を動かしたりしている。


「ミネノミ、おまえは前にあたしと会ったことがあるな」


 ミネノミは手を上げずに黙っていた。それはどこかバカにしたような笑みを含んでいる。


「ミレイザ、ミネノミの手を上げてやれ」


 ピサリーは声をひそめて言うと、ミレイザはすばやく彼の背後にまわりその腕を持ち上げた。するとミネノミが目を丸くして驚きだした。剣の柄をつかんでいた片方の手が上がりはじめる。それを見たメギグマとバルオは困惑した表情を見せた。


「え? なんだこいつは! 手が勝手に」


 ミネノミは手を下ろそうとしているが、その腕は動かせなかった。自分の言うことを聞かない腕を見ながら苦しそうにしている。それを見たピサリーは笑みを見せながら言った。


「ほうら、やっぱりあたしと会ったことあるんだ。あたしは覚えているからな。おまえらを」


 ミネノミは焦りながら怒鳴るように言い放つ。


「ち、違う! 手が勝手に上がったんだよ!」

「手が勝手に上がるってなに? そうやってだまそうとしてもむだだからな。おまえの体は正直なんだよ」


 何者かに体を乗っ取られているように感じたミネノミは、額から一筋の汗を流した。


「手を下ろしていいぞ」


 ピサリーの言葉に反応してミレイザは彼の腕を放した。ミネノミは上げていた腕をさすりながら痛そうにしている。ピサリーは次にメギグマを質問することにした。


「メギグマ、おまえはミネノミとバルオと一緒になってオボカニという冒険者を襲ったろ?」


 するとメギグマの腕が上がりはじめた。それを見たミネノミとバルオは固まったように動かなかった。なにを見せられているのか理解できないでいる。


「ほうら、おまえらは3人で冒険者を襲ってその冒険者の金品を盗んだ犯人だ」

「待て! 俺じゃない。て、手が勝手に上がるんだ!」

「同じ嘘をつくのが流行っているのか? 手が勝手に上がるって」

「本当だ! 信じてくれ!」

「あたしが信じるのは、あたしの質問に答えたあんたの手だけだよ」


 メギグマは手を下そうとして腕に思い切り力を入れた。だが、顔を赤めるだけで下すことはできなかった。


「もう手を下ろしていいぞ」


 ピサリーは言うと、呪縛でも解かれたかのようにメギグマは手を下ろした。


「さあ、もう言いわけはできないぞ。冒険者から盗んだものを返してもらおうか」

「でたらめだ!」


 そう怒鳴りながらミネノミはピサリーに人差し指を突きつける。ピサリーは彼をにらみ返しながらその理由を待った。


「そいつは妖精だ。魔法が使える。だからその魔法で俺たちの腕をわざと上げさせ、身に覚えのないことをむりやりでっち上げて、その犯人に仕立てようとしているんだ」


 その場の全員がピサリーを疑い深く見つめた。ミレイザは不安な表情で彼女の出方を待った。緩い風が辺りに吹く。その風が収まるとピサリーは口を開いた。


「……わかった」


 それから握っている杖を消して手のひらを見せた。


「これで魔法は使えない。それで次の質問に対してあんたが手を上げたら、それは自白したことになる。いいな」

 

 ミネノミはメギグマと目配せをした。そして、お互いにうなずき合う。


「いいだろう。なんでも言ってみろ」


 ミネノミがそう言うと、ピサリーはニヤリと笑みを見せた。


「わかった。じゃあ、おまえは前にあたしと会ったことがあるし、さっきそこの冒険者を襲おうとした」


 その言葉に反応してミレイザはミネノミの手を上げた。

 えっ? と驚きながら彼は自分の上げられている腕を見つめた。メギグマもその腕を疑いながら眉間にしわを寄せる。


 そのとき、バルオがルピネスの後ろに回り込んで彼の首に剣の切っ先を突きつけた。腕で彼の体をはさみ動かせないようにしている。ルピネスはバルオの腕から逃れようとするが、首筋から血がにじみ出てその抵抗をやめた。


「そこまでだ!」


 バルオのその行動にピサリーは杖を出してすばやく彼に向けた。ミレイザは驚いてミネノミから手を放す。とたんに彼は手を下して不思議そうに自分の腕を見たが、すぐに剣の柄を握りなおしピサリーに向けた。


 バルオはルピネスより頭ひとつ分背が低い。その肩越しから顔をのぞかせていた。ルピネスは抵抗できずに手を下げて苦しそうに顔をゆがめている。ピサリーが杖を振ろうとするとバルオはそれに気づきさらに言った。


「動くな! こいつの首が飛ぶぞ!」


 ピサリーは手を止めてただにらみつけた。

 ミネノミとメギグマは安心したように肩の力を落とすとふたりは軽く笑った。


「いいぞ、バルオ」とミネノミが言う。それから剣を片手で持ち自分の肩に担いだ。


「ああ、覚えているぜ、その赤毛。ローゼリスの代わり来た妖精のひとりだろ。たしかピサリーだったな」


 ピサリーはそれには答えず黙ってようすを見ている。


「あのときは、おまえが俺たちをずっと監視していて隙がなかったからな、襲わなかったんだ。ひとりならやっていたがふたりだったからな」


 それから目を左右に向けて辺りを確認した。


「今日はもうひとりのお友達はお休みかい? あのブロンドのおさげ髪の妖精ちゃんはよ」


 ミネノミは不敵な笑みを見せながら、固まったように動かなくなったピサリーにたずねる。


「さあ」とピサリーはぶっきらぼうに答えた。

 

「まあいいや、しかし、こんなところで会うとはな。後でもつけてたのか?」

「ああ、おまえらが号外に載っていたんでな。有名人のあとを追っかけてたんだ」

「号外?」

「そうだ、知らないのか? 今朝その紙が町に撒かれたんだよ……」


 そう言いながらピサリーは懐からその紙を取り出そうと手を動かした。バルオの行動を注意深く見ながら、ゆっくりと紙を取り出す。


「……サワビヨ、ボノソ、ゼヌア。名前を変えているが、これ、おまえらのことだろ」


 ミネノミはメギグマと目を合わせた。ふたりはばつが悪そうな顔をしたが直ぐに消してピサリーに目をもどした。


「まさか、俺たちが号外に載っているとはな。アジトにいたから知らなかった」

 

 ピサリーは号外を放すと、その紙は風に乗ってどこかへと舞っていった。ミネノミは恨めしげにそれを見送る。


「だが、そんなことはどうでもいい、身ぐるみを置いていってもらおうか」


 語気を強めてそう言うとミネノミは剣を構えた。それに合わせてメギグマも同じように構える。バルオはルピネスの首に剣をさらに押し当てる。その首筋から血が一筋流れはじめた。


「ひとつ聞きたいことがある」


 ピサリーは相手の出方を見ながら慎重に言葉をさがした。


「おまえら、さっきそこにいるルピネスを剣で刺そうとしたな。背中に刺されば致命傷だ。いや、死んでいるかもしれない。じゃあ、なぜオボカニには同じようにやらず殴るだけにしたんだ?」


 盗賊3人はお互いに目配せをした。それから代表としてメギグマが答えた。


「オボカニ? 誰だっけか……悪いが俺たち物覚えが悪いんでな」

「さっき手を上げて答えたろ。オボカニを襲ったって」

「それは手が勝手に上がったんだ」

「また嘘をつくのか? ……まあいい、それじゃあ、さっきの号外に載っていたのはおまえらだと認めていたな」


 3人は黙ったままピサリーをにらみつけている。少しでも変な行動を取ると彼女になにかを見抜かれるかもしれないという不安が自由な行動を止めていた。


「あれが撒かれたのは今朝。オボカニがおまえらに襲われて、冒険者リスト表に載る自分の欄に直接『盗賊たちに襲われた』と書き込む。そのあと彼はダリティアにあるカゼルモ新聞社に連絡を取ったのかそれとも取材が来たのかわからないが、その情報を伝えた。号外が届いていたのはあたしが起きた朝の8時くらいだったから、配られたのはそれ以前になる」


「……だから、なんだってんだ」


 ピサリーの発言に対していぶかしい顔をしながらメギグマは返した。ほかのふたりも不審な面持ちで彼女の言葉を待っている。ルピネスは歯を喰いしばりながら痛そうに顔をゆがめている。


「おまえら、オボカニと手を組んでないか?」


 一瞬の静寂が走り風が辺りを吹き抜ける。盗賊たちは硬直した顔を見合わせて苦笑いを見せた。その静寂を破るようにメギグマは答えた。


「はあ!? なんで」

「オボカニをわざと襲わせたと見せかけて、彼には盗賊たちに襲われたと町に広めてもらう。そうすることによって、こうやってあたしみたいなやつが嗅ぎつけて来るのを待つ」


 はははとメギグマは軽く笑った。それに釣られてミネノミとバルオも鼻を鳴らす。


「まったく、ご想像も豊かなこった。俺たちはそんなことを企んだ覚えはない。単純な話だ。そのオボカニって冒険者を殴ったことはあったかもしれない。だがそれは彼が気絶をしたからに過ぎない。殴って気絶をしたからやらなかったんだよ」


「わかったか」というようにメギグマは目を見開いて言った。


「じゃあ、なんで今回は殴りに行かなかったんだ?」

「そいつが強そうに見えたんだよ……なあ」


 メギグマはほかのふたりに振った。ふたりともそれに合わせて首を縦に動かす。それを確認してつづけた。


「大体、なんで俺たちがさがされるような危険なことをわざわざする必要があるんだ?」


 お互いの会話のあいだにピリピリとした空気が流れる。ピサリーは彼らの内に秘めているものを外に引きずり出そうと彼の質問に答えた。


「号外に賞金を提示していたよな。それを見たやつはその金欲しさに襲われたとされる人物をさがそうとする。だから情報を求めてとりあえず酒場に行く。号外を出した新聞社に問い詰めても名前を上げないだろう。だって本人が個人情報などは伏せてほしいと伝えればいいわけだから。このご時世にそれを断る理由はない。オボカニを見つけておまえらの情報を求めると、「『今度は、リンディにしようぜ』と言っていた」と彼は言ってくる。そうなると……」


 ピサリーはそこで辺りを見まわした。そこには誰もいなく静かな風がとおり過ぎるだけだった。


「ここに居てもいいはずだ。あたし以外におまえらを追っているやつが。だが、ここには誰もいない。そいつはどうした?」


 盗賊3人は辺りを見まわした。その場には誰もいないことを確認してメギグマは答えた。


「なんのことだよ。俺たちは誰にも会ってない。会ったのはおまえと、そこのルピネスという野郎だけだろが」


「ふうん、あたしの感が当たっていれば、もう仕留めてしまったんじゃないのか。おまえらを追ってきた者を。それで、そいつから金品をうばい、そのあと自分たちを追っている者が周りに誰もいなくなったから、冒険者リスト表に載っている金を持っていそうな冒険者に依頼をした」


「証拠でもあるのか? 俺たちがそいつらを襲ったっていう証拠がさ」


 その言葉を待っていたと言わんばかりにピサリーは口のはしを上げて笑みを見せた。


「……証拠ならおまえがさっき言ったろ。()()()()だって。あたしは、()()()としか言っていない。なんで複数形なんだ?」


 一瞬メギグマの顔が硬直したように止まった。口を半開きにさせて眉をひそめている。ほかのふたりも固唾を呑むように黙っていた。次の言葉を誰が言うかとさぐるように3人は目配せをする。


「言い間違えたんだよ」


 メギグマは色をなして答えた。歯を噛みしめてピサリーをにらみつけるが明らかにあせりを見せて汗をかきはじめている。それに気づいたミネノミは代わりに話し出した。


「そういうことだ。そんな詮索するより、さっさと身ぐるみを置いていったほうがいいんじゃないのか……」


 そう言いながらルピネスのほうにちらりと目を向ける。


「早くしないと、出血多量で死ぬぜ」


 尋問は終わりだ。といったように話を終わらそうとピサリーを急かした。剣を押しつけられているルピネスの首から血が垂れて地面に落ちる。

 

 ピサリーは目を据わらせて黙った。杖を握ったまま突き刺すように向ける。盗賊たちの動揺に彼らの言動を思い出しながら、そこにある小さな違和感をさがすように瞳を動かしている。


 ミレイザは盗賊たちの後ろに立って息を殺していた。本当はこの見えない体でルピネスを助けたいと思っているが、ピサリーの支持なしには動けない。それは勝手に動いて彼女の機嫌を損ねたくない。少しでもそんなことをしたら自分の体をもとにもどしてくれないだろうと思っている。だから待つしかない。それは信頼をより強めるために取っている行動だった。


「な、なあ、ピサリー、悪いがこいつらの言うことを聞いてやってくれないか」


 ルピネスは苦しそうに訴えた。それに合わせてバルオは剣を握り直し彼の首に押し当てる。ピサリーが動かないのを見て今度は盗賊たちに言った。


「なあ、俺さまの持ち物はあんたらにやるから、命だけは助けてくれ」


 盗賊たちはそれを聞いてニヤリとした。それからミネノミがあわれみの表情をルピネスに向けて返す。


「ああ、助けてやるさ。そこのお嬢ちゃんが身ぐるみを置いていったらな」


 それからピサリーをにらみつけた。剣を両手で握りしめて彼女に向ける。


 風がとおり抜けてざわついていたものが消える。沈黙がおとずれて、近くを流れる川の音だけが聴こえくる。

最後までお読みいただきありがとうございます。

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