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50パーセントの守護ゾンビ  作者: おんぷがねと
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18. ふたりの尾行

 ピサリーとルピネスはお互いに離れて向かい合った。ミレイザはふたりから離れた場所で見守っている。するとしだいに人が集まり出した。町の人たちは一時的なショーを楽しむために立ち止まる。


 モンスターがはびこっていたときはそうもいかなかった。毎日がモンスターとの闘いの日々でなにかを楽しむということができなかった。だから、町でなにか見世物が見れるとなれば自然と足を止めてしまうのだ。


 町の人たちが囲うなか、ピサリーとルピネスはお互いに見合っていて一歩も動かないでいた。ピサリーは杖を出してそれを握りしめている。


「おたくから先にやってきてもいいぜ」


 そう言いながら、ルピネスは両手を広げて無防備に見せる。ニヤリとピサリーは顔をゆがませて杖を振った。氷のつぶてがルピネスに向かって勢いよく飛んでいく。彼はすばやく横に飛んでかわし突進していった。


 ピサリーはさらに火の玉を放った。すると彼は飛び上がり空中から拳を振り下ろした。ピサリーはとっさに後方へ飛び退いたが、次の回し蹴りが左の視界をさえぎった。


 ピサリーはすばやくしゃがみ彼の蹴りをかわすと噴水を地面に向けて放った。するとルピネスの真下から水が勢いよく噴出する。彼はそのまま持ち上げられて空高く舞った。


 つづいて浮いている彼に杖を向けて火の玉を放つ。その熱を帯びた玉が渦を巻きながら飛んでいき彼に直撃した。が、それと同時に短剣が飛んできてピサリーの頬を切り裂いた。


 頬の傷に一瞬たじろぐと目をすぐにルピネスのほうへ向けた。その一瞬の隙で彼の蹴りがピサリーのみぞおちに入り、彼女は吹き飛ばされた。


 そのとき、ミレイザの中のなにかが反応して居ても立っても居られなくなった。助けに行かなきゃ……と思ったがその震える感情を止めた。いや、まだ。ピサリーなら大丈夫。と願いながらその力強い眼光を彼女に向けた。


 ピサリーは仰向けで倒れている。彼女は起き上がろうとしない。どうしたの? 大丈夫じゃないの? ミレイザは目を集中させて彼女の体を観察した。しかし、その体から挙動が感じられず、制服の裾が風に揺れているだけだった。


 そんな! でもわたしどうしたら……わたしが出ていってなにもできなかったら、ルピネスさんに拳法使いじゃないことを知られてしまう。どうしよう。


 ミレイザは自分の心を乱されている感覚がしだいに強くなっていくのを感じていた。


 ルピネスは短剣を取り出してピサリーに近づいていく。


 はっ! 彼はもしかして嘘をついているんじゃ? 手合わせと言っておきながら、実はピサリーの持っている指輪を狙って……やっぱり助けなきゃ! 


 その衝動だけでミレイザはルピネスに飛びかかっていった。


 ルピネスはなにかが来たのを感じてちらりとそこへ目をやった。すると、その目の数ミリ先のところに手のひらが来ていた。彼は避ける間もなく、それが頬に当たり弧を描くように吹き飛ばされた。


 その瞬間、ミレイザの仮面の奥にひそむ赤い目が、戦慄を帯びて次はないと訴えかけているのを彼は感じ取った。そのまま背中から地面に叩きつけられ「うっ」とうめく。ミレイザはそこに向かっていき蹴り上げようとした。


「待った! 待ってくれ!」


 両手を前に出して降参したように汗をかきながらルピネスは言った。ミレイザの蹴りが彼の頭、数センチのところで止まっていた。ひゅうっと風がとおり抜ける。目が覚めたかのように彼女は足を下ろしてあわてながら言った。


「あっ! だ、大丈夫ですか!?」

「あ、ああ」


 ルピネスは立ち上がり口から流れ出る血を手で拭った。


「あんた、見かけによらず強いな」

「えっ? いえ……」


 ミレイザはうつむきながらルピネスをチラチラと見ている。自分の思い過ごしだったのかと思い、身を縮こませた。


「これで、わかったろ」


 ピサリーは立ち上がり自分の頬と腹に回復をかけて近寄った。


「あたしたちが見守る理由がさ」

「ああ、手合わせと言っておきながら、ちょっと力を入れてしまったが、あんたらが強いのはわかったよ」


 すると周りの観客の何人かからコインが投げられた。「なかなか面白かったよ」などと言ってそこから去っていく。モンスターと戦っていた人々からしたら、そのときのことを思い出してしまって不快に感じる者もいる。だから途中で立ち去る者も少なくはなかった。


 稼いだ金はピサリーたちとルピネスとで半々に分けることにした。相手が好意でくれたものなどは指輪を向けるとなんでも吸い込んでいくようになっている。そういった条件で道具なども吸い込める。


 地面に落ちているコインを拾っていくと、ルピネスは自分の嵌めている指輪を見た。


「おっと、依頼だ」


 指輪は軽い振動で相手に呼びかける。依頼の仕事が登録者に届けばその都度そうやって知らせを受けるようになっている。

 

 ルピネスは指輪にふれると自分の依頼人を調べはじめた。冒険者リスト表にある自分の名前の部分を押すと、身分証みたいなものが見れる。自分がどのくらい依頼されたか。どのくらい獣や盗賊などから依頼人を守って無事に目的の場所まで届けることができたかなど。


「30分後にダリティアの門前だそうだ。依頼人はひとり。向かう場所はリンディ」


 ピサリーは簡単な説明をルピネスにしてその場から解散した。


 依頼人が来たら彼らのあとを隠れながら追う。途中でふたり組が来て合流したら、ようすを見て後ろから攻撃を仕掛ける。仕掛けるのは相手がルピネスを襲ってきたその瞬間を狙うなど。


 ピサリーたちはダリティアの門前の茂みに隠れてようすをうかがうことにした。


 依頼人からの時間指定は自由で、この時間帯にどこどこで待っていてほしいとか、何時から何時までどこどこで待っているなどと指定してくる。


 冒険者が先に待ち合わせ場所に到着して待っていても、依頼人があらわれずにキャンセルの連絡が行くこともあったりする。その場合、依頼人はキャンセル料を冒険者に支払わないといけない。クロバーの指輪で相手に送金するか、酒場に行って店主に手数料分と一緒に支払うようにする。


 ほかにも依頼人が来ない場合もある。だから冒険者が30分だけ待って来なかったら帰るようにする。依頼をするとき、そういった説明書きが表示されたり酒場の店主などに言われたりする。


 その日に一定量のキャンセル料を支払わないかぎり、その依頼人はその指定した冒険者を雇うことが二度とできなくなる。


 逆も同じになる。依頼した冒険者があらわれなかったら、冒険者が依頼人に一定量の罰金支払うことになる。払わない場合はリスト表にそのことが自動的に書かれてランキングも下がり依頼料も少なくなってしまう。


 依頼人に対してそういったことを3回やってしまうと二度と冒険者として働けなくなる。リスト表から名前は消されずにランキング外の別枠として表示される。依頼人に対しておこなった悪事が書き足されて、それを依頼人はいつでも確認することができる。


 そうなってしまった冒険者は再登録しようとしてもできない。だから冒険者は違う仕事をするか、元冒険者として裏で依頼人をさがしたりする。


 冒険者を名乗るには冒険者リスト表に載る必要があるため、ランク外にされた元冒険者に依頼しようとする者はいない。しかし、なかには金銭面や裏仕事などで雇う依頼人もいたりする。


 門の前にはまだ誰も来ていない、しばらくしてルピネスが門のところに来た。彼はまだ依頼人が来ていないのを確認すると、門柱の前に立って腕を組んでたたずみ、あくびをしながら退屈そうに待った。


「ピサリー」


 ミレイザは彼女の背中を心配そうに眺めながら声をかけた。


「なんだ」


 ピサリーは振り向かず声だけを返して門周辺のようすを見ている。


「依頼人がもし冒険者を襲ってきたら、わたしたちが出ていってその依頼人を襲うの?」

「ああ」

「わたし、戦うのがあまり……」

「大丈夫だ。あたしひとりでやっつけてやるよ」

「うーん、でも、もしピサリーが襲われたら」

「あたしの心配をしているのか? だったら無用だ。なにも本気で戦うつもりはない。相手がうばったオボカニの持ち物に用があるだけだからな」

「本気で戦わないって、どういうこと?」


 いまから来る依頼人が号外に載っていた者たちだった場合。その彼らが罠の仕掛けを使って冒険者を襲おうとしたとき、ふたりは出ていくが、ピサリーだけしか出てきていないと彼らに思わせる。


 それにはミレイザを透明にさせておき、ピサリーの言葉に合わせて彼女がその行動を取るようにさせる。とピサリーは説明した。


「わたしが透明に?」

「そうだ、あたしが本気を出さなくても、ミレイザ、おまえがそいつらを止めればいい。あたしの指示どおりに動いて」

「指示って言われても、そうピサリーが思ったように動けるかわからないわ」

「わかりやすく簡単に言うから安心しろ」


 ふふふとピサリーはたくらみ含んだ笑みを見せる。


 ミレイザは断ろうとしたがやめた。自分がお金をだまし取られたことや襲われた冒険者、オボカニのうばわれたものを取り返してほしいという彼の願い。それと、自分の素性を知り、ゾンビの体を治そうとしてくれるゆいいつの存在、ピサリーの機嫌を損ねたくないという理由で口をつぐんだ。


「来たぞ」ピサリーが小声で言った。


 鉄の鎧を着た小太りの男がルピネスに近寄っていった。彼らはなにかを話し合ったあと、そのままルピネスを先頭にして歩き出した。


 ピサリーはその小太りの男を注意深く見た。それには見覚えがあった。以前クレマティウスまで送っていった3人のうちのひとりに似ていたからだ。


「あいつだ」


 ピサリーは頭に思い描いた犯人の顔と、いまとおり過ぎていった男の顔を照らし合わせてそうつぶやいた。


「あの人が?」


 ミレイザも小声で聞き返した。


「ああ」


 ピサリーは杖を出してミレイザに振った。すると彼女の体が透明に変わった。ミレイザは実際に見えなくなった自分の体を眺めまわしたが、草を踏んている足の空間が見えるだけだった。


「これでいい」


 完全に消えたミレイザの姿を確認してから、ピサリーは茂みを抜け出して彼らのあとを追った。


 ミレイザもそのあとにつづく。ピサリーは茂みや木の陰に隠れたりしながら進んでいった。それと同じようにミレイザも隠れながら移動した。


「おまえは透明だから隠れなくていいぞ」とピサリーは言うが、ミレイザは失敗したくない。見られたくない。という性分でついつい隠れてしまうのだ。


 ダリティアからリンディまでの道の途中には川があって橋のかかったところがある。それ以外は平原でところどころに木や茂み、緩い坂などが点在している。そういったものに隠れながらふたりはあとを追った。


 ピサリーも自分に透明をかけて移動しようとしたが、ルピネスがなにかの拍子にピサリーたちを確認するかもしれないということも考えて、あえてそうしなかった。透明になって自分の体をふたたびもとにもどすとき、その時間もむだだと考えていたために起こした行動だった。


 そうしてあとを追っていき途中で犯人が合流するのを待った。


 しだいに川の流れる音が聞こえてくる。すると橋の向こう側からふたりの男があわてながら走ってきた。ひとりはがっしりした体に鉄の鎧を着て腰に剣を下げている。もうひとりは、ひょろりとした体に革の鎧を着て同じく剣を腰に下げていた。


 ルピネスたちを見つけると、そのふたりは橋の向こう側に指を向けたりしながらあわてていた。


 4人は合流してからしばらく話したあと、ルピネスを先頭にして橋の先へ移動をはじめた。ピサリーたちもそのあとを追う。


「あそこだ」と革の鎧を着た男が橋の先にある岩場を指さした。


「見慣れない獣が岩のところに隠れているから見てくれ」


 ルピネスがゆっくりとその岩に近づいていった、あとの3人も彼の背中についていく。ルピネスが短剣を取り出すと後ろにる男たちも剣を取り出した。


 チュンチュンと岩の後ろから鳴き声が聞こえていくる。ルピネスが岩の後ろをのぞくと、そこには鉄籠が置いてありその中に鳥が入っていた。


「……なんだ、鳥じゃないか」


 そのとき、後ろいた3人は一斉にルピネスに襲いかかった。彼は振り返ってその攻撃を受け止めることができずに後ろに飛び退こうした。が、足がもつれて倒れ込んでしまう。


 3人から剣が振り下ろされそうになった瞬間、大人の体を覆うくらいの大きさの火の玉がその3人の体を押し出した。彼らはもつれて吹き飛びそのまま地面に倒れた。火の玉は勢いあまって上空へ飛んでいく。


 ピサリーは3人に近づいていき、杖を向けながら言った。


「おまえら、この前冒険者からうばったものを返してもらおうか」

最後までお読みいただきありがとうございます。

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