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第9話 人生の先輩に打ち明ける秘密

 十日に一度の休養日。レイラは休日の内、二回に一回はキャデラン夫人のところで過ごすことにしていた。

 レイラが夫人の元を訪れると、すでにコリーともう一人の客人がいた。

「アンジェラ様!」

 顔を輝かせ、丁寧にパーティーの礼を述べるレイラに、アンジェラが美しい笑顔で頷いた。


「アンジェラ様が小母様の友人とは存じませんでしたわ」

「ふふ。そう言えば、今まではすれ違いになっていたかもしれないわね? もう二年程交流があるのよ」

「まあ、そうでしたのね」

 素敵な女性の元には素敵な女性が集まるのだろう。


「コリー様もごきげんよう」

「ごきげんよう、レイラ。今日も可愛いわね」

「ありがとう存じます。コリー様も素敵です」


 すらりと背の高いコリーは、カーティスよりも少し薄い金色の髪をふんわりと膨らませ、相変わらず美しい。

 六十五歳のマーサ・キャデランに、五十代半ばくらいのアンジェラ、そして四十代くらいのコリーと、異年齢ながら皆魅力的で素晴らしい女性ばかりだ。もちろん中身同様見た目も申し分なく、レイラは(目が喜んでるわ)と、それぞれの美しさを存分に堪能した。


 夫人の今日の装いは落ち着いた緑のドレス。

 コリーは金色の縁飾りが素敵なミッドナイトブルーのドレス。

 アンジェラは白いふわふわした縁取りが印象的な赤いドレス。

 三者三様ながら、皆すこぶる美しい!

(私も将来、こんな女性になれたら素敵でしょうね)


 思わず目を輝かせているレイラに夫人が苦笑した。

「レイラ、一番若い娘がなんて地味なの。――いいえ、言い訳は結構。そういうのをね、若さに胡坐をかいているって言うのよ? さすがに鼠色はないわぁ」

「でも温かくて快適なんですよ?」

 夫人のダメ出しはいつものことなのでレイラが笑っていると、隣の部屋にドレスをかけてあるから着替えてきなさいと追い出されてしまった。

 彼女には子どもがいないこともあってか、時々レイラを着せ替え人形のようにして遊ぶことがあるので、今日もそんな気分なのだろう。

 レイラが訪れる日は住み込みのメイドも、自分の娘夫婦の元に遊びに行っている。そんな日はきっと寂しくなるのだろう。


 夫人に言われた通りに部屋に行くと、銀色の飾りが可愛らしい白いドレスがかけてあった。ついてきたボスに見守られながらドレスを着てみると、レイラのデコルテが綺麗に強調され、まろやかな胸元や腰回りも女性らしい。鏡に映った自分の姿に心浮き立った。

「ボス、どう?」

「わふ!」

「すごく気に入ってくれたみたいね。ありがとう」


(ほんとう、とても綺麗なドレスだわ。――カーティス様に見てもらいたい)

 綺麗に装った姿で彼の隣に立てる日は、もう二度とこないと分かっている。それに、

(もし彼から綺麗だなんて言ってもらえたら、雪のように溶けてしまうかもしれないしね)

 小さく頭を振って、甘い空想を振り払った。

 夢は夢。あまり考えてはだめ。

 今日は新しいボードゲームを楽しむ日。早く戻らないと。


  *


 キャデラン夫人の用意した新しいゲームは、順番に赤いカードを引いてその数字分コマを進めるものだった。止まったマスには模様や数字が書いてあり、それにあう青いカードを引いてそこに書かれた質問やクイズに答えるのだ。

 青いカードには秘密の扉というカードも混ざっていて、それを引いた場合は小さな秘密をこっそり打ち明ける。決まったゴールがないこのゲームは、いわば初対面の人同士が仲良くなったり、いつもと違うおしゃべりを楽しむためのゲームらしい。

 最初に秘密の扉を引いたのはアンジェラだ。


「小さな秘密。うーん、そうね。特に内緒にしているわけではないけれど、私と息子たちは血が繋がってません――なんていうのはどうかしら」

「えっ、そうなんですか?」

 何でもない風なアンジェラの告白に、レイラは思わず大きな声を出してしまい、ハッと口を押えた。

「はしたない声を出してすみません」

 頬を染めるレイラにアンジェラがいたずらっぽくクスクスと笑う。

「いいのよ。驚いてもらえてむしろ嬉しいわ」


 とても仲の良い親子に見えていたけれど、グレンたちはアンジェラの姉の子どもだと言う。しかもアンジェラの本当の両親は事故で亡くなっていて、彼女自身がドランベルの養子だから、グレンたちと血もつながってないそうなのだ。

「血の繋がりなんて関係ないのよ」

 ニコッと笑うアンジェラにマーサも深く頷く。

「血だけが大事なら、夫婦なんか赤の他人なんだからね」

「私、結婚したことございませんけどね」

 アンジェラ二つ目のカミングアウト。それに自分もだとコリーも頷いた。

「大切なのはお互いの愛と信頼でしょうね。そうは思わない? レイラ」

(あら。意外と独り身の方って多いのね)

 そのことに驚きながらもコリーの言葉に頷く。

 血が繋がった兄は、今は他人も同然だ。


 次に秘密の扉を引いたのはレイラだった。

「じゃあレイラの秘密を聞こうかしら」

 三人の女性からワクワクとした目で注目され、レイラは一瞬口ごもってしまう。

 特にコリーの目がキラキラ輝いているのに気付き、レイラは少しだけ苦い笑みを浮かべた。

 楽しい秘密を期待されているのだろうけれど、レイラは今一番の秘密を人生の先輩たちに打ち明けることにした。


「私、年が明けたら、今の仕事を辞めようと思っています」

多分あと1話で完結します。企画の期日終了まであと2時間ちょっと。頑張ります!

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― 新着の感想 ―
[一言]  わざわざドレスに着替えさせるということは、サプライズゲストの予感…(^^)
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