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Diva Driver ~誰ガ為之歌~  作者: 明治サブ(SUB)
第肆楽章「歌を統べる者」
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伍「永遠の少年兵」

 日を追うごとに、ヱリスが表に出てくる頻度が下がっていった。

 彼女曰く、自身がウタコの体に定着する為に、眠りが必要なのだと云う。

 追手が襲撃した時に眠っていることも増え、少年が無我夢中で戦った。

 戦いに際しては、ヱリスから借りた拡声器(スピヰカー)――彼女が歌唱とともに虚空から引っ張り出した、『Diva Driver』と云う名の剣を使った。

 撃退することには成功しても、殲滅には失敗するようになった。

 その為か、襲撃の頻度と精度は上がっていった。






 いつの間にか、少年の髪と瞳は蒼くなっていた。






 西欧羅巴(ヨーロッパ)を超え、オスマンの版図を旅するようになって。

 一週間ほど、まったく襲撃の無い日が続いた。

 ……嵐の前の静けさであった。

 少年は、「流石の羅馬(ローマ)もオスマン帝国内では好き勝手出来ないのだろう」などと楽観視していたが、とんでもない勘違いであった。


 その日は森で野宿をしていた。


 未明、少年が目覚めて日課の索敵――ヱリスから教わった反響定位(ヱコーロケーション)の歌唱――をそっと行うと、凄まじい人数の集団に包囲されていることに気づいた。

 慌ててワタセ氏とウタコを起こすが、肝心のヱリスが一向に起きて呉れない。


「……俺が足止めする。悪いが君は、歌子を連れて逃げて呉れ」


 と、唯一の武器である回転式拳銃(リボルバー)を取り出すワタセ氏に、少年が噛みつく。


「どうやって戦うって云うのさ!? (かな)いっこないッ!!」


「だったらどうしろって云うんだッ!?」


「僕が、囮になる」


「――――……」


 言葉に詰まったワタセ氏だったが、すぐに、「分かった」と同意した。


「心から、感謝する」


 きっと()()()()()()()だったのだ、と今なら思う。

 行きずりの子供と、愛する我が子の、どちらを選ぶのか。


「そんなッ!! パパ、見捨てるなんて絶対に駄目ッ!!」


 ウタコは最後まで抵抗した。して呉れた。

 だが、じりじりと狭まってくる包囲網の中で、決断せざるを得なかった。


「嗚呼……必ず、必ず迎えに行くからッ!!」


 ウタコが泣いている――少年は感動する。

 泣いて呉れている。

 こんな、無価値な命だった、僕の為に。



   ♪   ♪   ♪



 歌唱の限りを尽くして戦った。


『Diva Driver』を振るい、ワタセ氏とウタコが突破する為の一方向を火と風の歌唱で根こそぎ燃やし尽くした。

 森に火を放ち、追い縋っている羅馬(ローマ)兵たちを次々と発火させた。

 そのうちに歌唱で逆襲している敵歌姫(Diva)が増えてきたので、大津波を起こして樹木ごと羅馬(ローマ)兵を押し流した。

 が、歌姫(Diva)たちは空から次々と攻撃してきて、ついに少年は力尽き、喉を締め上げられ、遮音結界(キャンセラ)の首輪を嵌められた。



   ♪   ♪   ♪



「へェ、貴方が噂の蒼髪君?」


 少年が閉じ込められている牢屋に現れたのは、真っ赤なドレスを着た、蒼い髪の少女だった。

 知っている……こいつは、羅馬(ローマ)皇帝だ。


「東洋人の親子の居場所を教えなさい」


 皇帝の声は、非道(ひど)く美しいソプラノだった。

 聴く者を魅了する声。

 だけど、ヱリスには及ばない。


「知らないね」きっと今頃は、森を抜けてスタンボウル(ヰスタンブール)を目指しているはずだ。


「へェ? そう。スタンボウル(ヰスタンブール)


「――ッ!?」こいつは人の思考が読めるのか!?


「簡単な内容ならねェ。さて、あの東洋人たちの目的地は何処?」


 思いっきり息を吸った。

 喉を縛っているのは遮音結界(キャンセラ)だ。

 きっと自分は、反動で死ぬ。

 けれど本望だ。

 生まれて初めて好きになった女の子――二人のウタコの為に死ねるのならば!


「――待ちなさい」


 それを、皇帝が制止した。歌唱話法で少年の喉を締め上げて。


「はぁ~……本当は両方欲しかったのだけれど、ままならないわね」


 皇帝が、呼吸出来ずにいる少年の顔を覗き込んで、嗜虐的に微笑む。


「お望み通り、東洋人の二人は見逃してあげる」


「――!?」


「だけど、条件がある」


「ぷはァッ……はぁッ、はぁッ。分かった! ()むッ! ()れるッ!! だから――――……」


宜しい(グート)


 皇帝が嗤った。


「貴方、私の物になりなさい」


「貴女の……物に?」


 頭脳は目まぐるしく運動している。


「ヤー。貴方、名前は?」


「…………ありません」


「ヱ?」


「貴女がつけて下さいませんか、皇帝陛下?」


 少しでも皇帝の歓心を買おうと、少年は皇帝に跪いて見せる。


「くふッ」


 皇帝が嗜虐的に嗤った。


「あはははッ、気に入ったわ! 善いでしょう善いでしょう。今日から貴方は私の子供。子供にして半身――フリヰデリケ」


「フリヰデリケ……? 僕は男で――」


「あら、覚悟の上じゃァなかったの? でももう遅いわ。貴方は一生、声変わりをしないの」


 こうして、少年――フリヰドリッヒ(フレドリク)フリヰデリケ(フレデリカ)は永遠の少年兵になった。

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