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Diva Driver ~誰ガ為之歌~  作者: 明治サブ(SUB)
第肆楽章「歌を統べる者」
43/53

肆「二人のウタコ」

》一九一六年十月三日 十五時十五分 大天使内部 ――とある戦災孤児《


 少年の意識は混沌と狂乱の只中に()った。

 喉が熱い。

 痛くて苦しくて、叫ばずにはいられない。

 そして叫んだら、こちらに銃口を向ける憎い羅馬(ローマ)兵たちが燃えたり、吹き飛んだりするのだ。

 それが楽しくなってしまって、少年は遮二無二歌唱した。

 獣のように歌い上げた。

 だが、やがて体の限界が来た。

 敵の銃弾によって両の肺が潰され、呼吸と歌唱が出来なくなったのだ。

 (あと)はただ、仰向けに倒れ、自分の血液で溺れ死ぬだけだ。


(お母さん……)






 ――その時、奇跡が起きた。






 朦朧とした意識の中、目の前に、先ほど傭兵の男が抱きかかえていた少女が現れ、キスをしてきた。

 口移しで、何かを流し込まれる。

 それから、


「ラァーーーー~~ッ!!」


 少女が高らかに歌い上げた。

 その声は非道(ひど)く魅力的で蠱惑的で、少年は、死の間際に聴けたのがこんな歌で善かったと考え、そしてふと気づく。

 あれだけ撃たれたはずの怪我が、潰されたはずの肺が、綺麗さっぱり治っている!

 飛び起きると、少女が微笑み掛けてきた。

 途端、少年は猛烈な気恥しさを覚える。

 ……まったく、とんでもないファーストキスであった。



   ♪   ♪   ♪



 行く当てもないので、この奇妙な傭兵親子について行くことにした。

 少年が男に、自分を見捨てたことに対する恨み節を云うと、男は素直に「悪かったよ」と云って呉れた。

「こうなったらもう、一蓮托生だ。次は見捨てないと約束する」と。


 そうして、今。


 少年、少女、男の三人は安特堤(アムステルダム)の上空にいる。

 少女の歌唱で空を飛んでいるのだ。


「それで、行く当てはあるの?」


 少年の問いに、


「私、日本に行きたい!」


 少女が云う。

 口調が先ほどまでと全然違う。


「おじいちゃんに会いたい!」


 途端、三人の体を浮遊せしめていた力が消え失せ、落下し始める!


「ちょっと歌子! 急に出てこないでッ!!」


 また、口調が変わる。

 と同時、浮遊の力が戻ってきた。

 どうも、この少女の中には二つの異なる人物――人格?――が入っているらしい。


「ふむ」


 男が頷いた。


「どうせ羅馬(ローマ)に追われる身になってしまったわけだし、出来るだけ遠くまで逃げるってのは善い案かな」


 こうして、奇妙な三人組の逃避行が始まった。



   ♪   ♪   ♪



 傭兵男――渡瀬(わたせ)絃太郎(げんたろう)氏は如何にも旅慣れしていた。

 買い出しの仕方、荷物の選び方、野宿の仕方、宿の無い村でも泊めてもらう為の交渉術。

 度々羅馬(ローマ)兵が襲い掛かってきて、その都度、少女――ウタコの中に眠るもう一人のウタコが撃退した。






 少年は二人のウタコに惚れ込んだ。






 少年は惚れた。

 困難な旅の最中でも笑顔を絶やさず、少年を気遣って呉れるウタコに。

 生まれてこの方、満足に走ることも出来なかったウタコは、自分の体が思い通りに動くのが嬉しくて嬉しくて堪らない、と云った様子であった。

 歩くのも走るのも、野宿の準備をするのもご飯を食べるのも、一挙手一投足が楽しそうだった。

 生まれてこの方、楽しかった思い出がほとんど無い少年にとって、彼女の笑顔はとても新鮮だった。


 少年は惚れた。

 歌唱に長け、神秘的(ミステリヰアス)な雰囲気を漂わせるもう一人のウタコ――ヱリスに。

 自身も歌唱の力を手に入れた少年であったが、それだけに、ヱリスの異常なほどの歌唱力に強い憧れを抱いた。

 自由自在に火を水を風を土を操り、一曲歌い上げるだけで森の中にちょっとした岩の住居を作り、動物を狩り、鋭い風で以て捌き、火で炙り、食事を用意してしまうヱリス。

 吐息の一つで索敵し、発声一つで敵兵の頭部を破裂せしめるその威力。


 ヱリスから聞いたところでは、やはり彼女はこの星の住人ではないのだそうだ。

 遠い遠い宇宙の果てから、長い長い、気の遠くなるような長い年月をかけて旅して来たのだそうだ。

『箱舟』の衝突によって消え去ってしまった大英帝國のことは可哀想だと思うが、少年は船が大英帝國に落ちてきた幸運を、自身が二人のウタコに出逢えた奇蹟(きせき)を喜んだ。

 辛く危険な旅だったが、それでも少年は幸せだった。


 ――そして。

 旅の終焉は、ある日突然訪れた。

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