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Diva Driver ~誰ガ為之歌~  作者: 明治サブ(SUB)
第参楽章「声を重ねて」
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陸「羅馬皇帝フリヰデリケ四世」

》一月十九日 十七時四十七分 酒泉(しゅせん)・郊外の牢屋 ――渡瀬(わたせ)歌子(うたこ)


 また、夢を見た。小さな自分が鳴いている夢だ。

 記憶の無いはずの、(ろく)(しち)歳ほどの自分が、泣きじゃくっている夢。


「何で泣いとるん?」


「だって、ウチも死んでもぅた」


「ヱ? ウチはこの通り生きとるやん」


「死んでもぅた」


「だって」


 いや――――……まざまざと思い出す。

 無謀にも、聖歌隊たちが紡ぎ出した灼熱に立ち向かった己。

 肌を焦がす地獄の炎……。


「まさか、ウチは本当(ホンマ)に……」



   ♪   ♪   ♪



》一月十九日 十七時五十分 大阪・撒菱(まきびし)重工敷地内の飛行場 ――撒菱(まきびし)千歳(ちとせ)


 ラヰトアップされた夜の飛行場に、巨大な戦闘機が佇んでいる。

 音子回路(オルゴール)式G軽減スーツに身を包んだ千歳は、その巨体を見上げる。

 全幅(じゅう)メヱトル、全長(きゅう)メヱトル伍拾(ごじゅっ)サンチ。


 試製『橘花(きっか)』。


 双発(ジェットヱンジン)の、野心溢れた一作だ。

 最高速度参佰(さんびゃく)陸拾(ろくじゅう)ノット。

 現在、戦場で主流となっているプロペラ機などまるで勝負にならないほどの高速を実現できる。

 歌姫(Diva)が乗れば、羅馬(ローマ)彗星(コメット)をすら置き去りに出来るだけのポテンシャルを持つ。

 ただし、搭載された『ヲ式ヱンジン』の耐久は非道(ひど)いもので、数十時間も飛べばタービン内の翼のコーティングが剥がれ、翼が溶けて削れて推進力を失う。

 圧縮室(コンプレッサ)側の翼は楽々と耐えるのだが、千度を超える熱風に晒される燃焼室側の方はどうしようもなかった。


(問題ないわ。私の手で、歌子にDiva Driverを届ける。私の目で、私の仮説が正しかったことを見届ける。それが出来ればもう、音学技師(ヱンジニヰア)としての私の悲願は叶ったも同然よ)






 音楽を、極める。






 謎に包まれた音子の真実を解明する。

 科学者の本懐だ。


「ご武運を」


 執事が厄除けに火打石を打つ。

 そんな執事に頷き一つ、千歳は先に上がっている操縦士(パヰロット)に引っ張り上げられ、複座に入る。


「よろしくお願い致します」


 千歳は、死地に飛び込むことを了承して呉れたこの勇敢な歌姫(Diva)に、深く頭を下げた。



   ♪   ♪   ♪



》一月二十日 五時四分 酒泉(しゅせん)・郊外の牢屋 ――渡瀬(わたせ)歌子(うたこ)


 目覚めた。全身が痛い。


「ここは……?」


 痛む喉を押して問い掛けると、


「牢屋だよ」


 果たして隣から、フレデリカの声が返ってきた。


「ろ――ッ!?」


 薄汚れた牢獄で飛び起きてみれば、果たして己は衣服が焦げだらけでありながらもちゃんと生きており、隣にはフレデリカが座っていた。


「私、あれからどうなって――…」


「参ったよ。炎の中に飛び込むんだもの」


 歌子と同じく服を焦がしたフレデリカが云う。


「歌子を助けることは出来たけど、おかげでこうしてとっ捕まっちゃったというわけ」


「ご、ご免――ッ、フレディ大丈夫!?」


 見れば、フレデリカの美しい顔が血まみれになって腫れ上がっている。


「ま、これぐらいで済んでラッキヰさ」


「全くだぜ」


 部屋にソプラノ男――ヱミヰリアが入ってきた。鉄格子越しに向かい合う。


「ママの指示がなけりゃァ、この手で絞め殺しているところだ」


 歌子は部屋の中に視線を這わせる。

 当然ながら拡声器(スピヰカー)は取り上げられてしまっている。

 喉がひりつくこの感じは、遮音結界(キャンセラ)だろう。

 部屋の窓からは、高くありながらも重い歌唱が聴こえてくる。


「……大天使」


「そうさ。これは検証作業なんだ」


「検証……?」


 ヱミヰリアの言葉に歌子が首を傾げていると、部屋に他の男たちが入ってきた。

 みな一様に、警戒の眼差しを歌子とフレデリカに向けている。


「検証だ。大天使様のお目当てが、本当にお前かって云う――」


 その時、ヱミヰリアの立つそのそばで、フワリと埃が舞い上がった。

 ヱミヰリアと男たちが、慌ててその場に跪く。


 ――果たして。






「久しぶりねェ。愛しい愛しい私の片割れ……フリヰデリケ」






 そいつは、現れた。

 何もないところから、豪華な赤いドレスに身を包んだ少女が、突然に!


「ヱッ!?」


 仰天する歌子と、


「――――……」


 特に何の反応も示さないフレデリカ。


 長い蒼髪に、蒼い瞳。

 西洋顔の美しい少女が非道(ひど)く嗜虐的に微笑み、


「アラアラ。綺麗な顔が台無しね、フリヰデリケ。もっと見せてご覧?」


「――チッ」


 フレデリカが不機嫌そうに顔を逸らす。


「ママ、何もを玉体を運ばなくても……」


 困った様子で、ヱミヰリアが云う。


(ママ……ってことは!?)


 フレデリカから聞いた話。

 部分的に耳に入っていた、フレデリカとアレクとか云う少年の会話。


「皇帝……フリヰデリケ四世!?」


 女学校で使った教科書に載っていた肖像画そのままの姿で、まるで十一年前に羅露戦争の最前線に姿を現した時から少しも年を取っていないかのような、十四歳の顔をした皇帝フリヰデリケ四世がそこにいた。

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