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Diva Driver ~誰ガ為之歌~  作者: 明治サブ(SUB)
第参楽章「声を重ねて」
32/53

壱「フレデヰ」

》一月十九日 十三時二十三分 大満州國・張掖(ちょうえき) ――渡瀬(わたせ)歌子(うたこ)


 懐かしい人、フレデリカ。


「フレディ~~~~~~~~ッ!!」


 歌子はタックルでもするかのような勢いでフレデリカに抱き着き、フレデリカの頬に熱烈なキスを無数に浴びせ掛ける。


「ちょちょちょっ、歌子!? 一体全体どういう情緒をしているんだか」


 呆れ果てた様子のフレデリカだったが、情緒など、とっくの昔に壊れている。

 他ならぬ、フレデリカの訃報を目にした時にだ。


「フレディ、嗚呼ッ、フレデリカ――――……ん? んんん?」


 念願のフレデリカをたっぷりと接種してから、歌子はようやく気づく。

 フレデリカの雰囲気が随分と変わっていることに、だ。


 目の前にいる彼女は、確かにフレデリカの顔をしている。

 匂いも雰囲気もフレデリカそのものだ。

 が、衣装は民間人風の男装で、長かった蒼い髪はバッサリと切られており、何よりも――


「む、むむむ胸が無いなっとる!?」


 バストが、無かった。

 歌子はぺたぺたとフレデリカの胸に触れる。

 バストは無く、代わりに逞しく鍛え上げられた胸板がある。


「ん? この、細いけど逞しい感じ……フレディってもしかして――」


 その時、フレデリカが羽織っている外套の下から、()く善く見知った自動人形(オートマタ)が出てきた。

 犬か猫か善く分からない人形の姿をした、自動人形(オートマタ)が!

 その自動人形(オートマタ)と目が合った瞬間、歌子の中で全てが繋がった。






()()()()()()()()()()()()()()()()!?」






 バストを持たない彼女。

 男装の善く似合う彼女。

 すらりと長い背丈の彼女。

 中性的で、王子様然としていて、宝塚(ヅカ)好き女学生たちを虜にした彼女。

 女性離れした声量を持つ彼女。

 歌子と一緒に温泉に入るのを頑なに厭がった彼女。

 羅馬(ローマ)からやって来た彼女。

 戦災孤児の身の上だと語った彼女。


 けっして顔を見せて呉れなかった彼。

 自動人形(オートマタ)に代わりに喋らせていた彼。

 羅馬(ローマ)からやって来たと云っていた彼。

 戦災孤児の身の上だと語った彼。


 フレデリカとフレドリク。

 同時期に――どころか同じ日に歌子の前に現れた、二人のフレディ。


 あの、有馬温泉デヱトの日に、他ならぬフレデリカが云っていたではないか。

 羅馬(ローマ)には、去勢してソプラノを維持する男性歌姫(Diva)がいるのだと!


「ヱヱヱッ!? ってことはフレディって男!?」


 実のところ、歌子はフレデリカに対する恋愛感情をそんなには持ち合わせていなかった。

 この感情は、深い尊敬と憧憬。

 キスも、性的な行為ではなく親愛からの行為だと考えている。

 そんな歌子だったので、フレデリカ――フレドリク?――が男だと知って、急に猛烈な気恥しさが胸の奥から湧き上がってきた。


「あわ、あわわわわわ……」


 けれど肝心のフレデリカが返事をしない。

 ただ、何やら切羽詰まった表情で歌子を押し倒してくる!


「きゃあっ!? 待って待って、心の準備が――」


「伏せろッ!!」


 フレデリカの真剣な声に、歌子は一瞬で脳を平時から戦時に切り替える。

 そも、ここは前線なのである。


 指示された通り伏せるや否や、背後で高音の歌唱。

 ソプラノ男の声だ。

 先ほど病院を消し飛ばしたのと同じか、それ以上の熱量を持った爆炎が襲い掛かってくるが、フレデリカがすかさず風の歌唱で応戦する。

 ちらりと見えたところでは、フレデリカはフリヰデリケ式の中でも歌子が見たことのない型式(モデル)拡声器(スピヰカー)を手にしていた。

 敵の爆炎が、フレデリカが放つ暴風で霧散する。


「ちぇっ、死んだフリだなんて、詰まらない真似をするじゃアないか、ヱミヰリア?」


 挑発するみたいに(わら)うフレデリカ。歌子の知らない嗤い方をする彼女は、歌子を優しく抱き起して呉れる。


「ヱミヰリアじゃない! ヱミヰルだッ!」


 ソプラノ男が怒鳴り散らす。

 ソプラノ男の足元には小さな箱型の音子回路(オルゴール)らしきものが転がっている。

 あの音子回路(オルゴール)で顔に纏わりつく水を消したのだろうか?

 女性歌姫(Diva)二人は確かに死んでいるらしく、ピクリとも動かない。


「俺をその名で呼ぶなよ。殺されたいのか? 裏切者め、お前のことは軍に報告してやる! お前は破滅するのさ」


「おあいにく様、僕はもう死人なんだ。コイツは機能しない」


 喉を指でトントンと示すフレデリカ。


「そんなものなくたって、俺がこの場でお前を殺してやる!」


「それは無理な話だね。だってお前は今ここで、僕に殺されるんだから」


「はンッ! 雑魚狩り専門のお前なんかに、この俺が殺せるとでも!?」


「殺せるさ。僕を誰だと思っているんだ? 聖歌隊の一等一位、陸喰い(レヴィアタン)のフレドリク様だぜ。年下に追い抜かれちまった哀れな次席サマは、さっさとお家に帰ってママのおっぱいでもしゃぶってろよ」


「フレディィィィィイイイィィイイイイッ!!」


 ソプラノ男が激高する。

 二人の間で、高密度な音子が蒼い火花となってパチパチと光り輝く。


「お前こそ、僕をその名で呼ぶなよ。そう呼んで善いのは世界でたった一人――歌子だけだ」


 両者同時に、大きく息を吸い込んだ。

 怪物同士の歌唱戦が、始まる。

 次回、怪獣大決戦。陸喰い(リヴァイアサン) VS 河呑み(ベヒーモス)

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