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Diva Driver ~誰ガ為之歌~  作者: 明治サブ(SUB)
第弐楽章「君や何処か屍山血河」
30/53

捌「空中戦」

 歌子は自身の歌唱による飛翔には自信がある。

 並みのプロペラ機などは悠々と引き離せるだけの自信がある。

 高速飛翔、高高度飛翔の際に問題となる呼吸、気圧も風の歌唱で解決出来る。

 が、今現在、歌子の背後に喰らいついているのは――


(ジェットヱンジン)式!!)


 日本では未だ実用化に至っていない、最新鋭も最新鋭の兵器である。


(ってことは、あれが噂の、羅馬(ローマ)彗星(コメット)!?)


 後方で、歌唱。

 一機が猛然と速度を上げ、歌子を追い抜く。

 その一機はあっと言う間に豆粒ほどのサヰズになり、かと思えば(インメルマン)旋回(ターン)してこちらに向かって突っ込んでくる!


「ヘッドオン!」


 敵操縦士(パヰロット)の声。

 敵操縦士(パヰロット)と目が合った。


「東洋人――敵だッ!!」


 歌子は仏蘭西(フランス)人とのハーフとは云え、顔つきは日本人寄りである。騙し通せるものではなかった。

 戦闘機の機首に備え付けられた機銃が、ぱっと火を噴いた。


「ラァーー~ッ!!」


 歌子は鋭く歌唱する。

 捌漆(はちしち)式の刀身から放たれた突風が弾道を狂わせるが、そのうちの一発が左肩を擦った。


「ギャッ!」


 焼けるような痛みに集中力を乱され、飛翔が途切れる。

 ゆっくりと落下していく歌子を、もう一機が追撃してくる。

 歌子は震える手でバックパックから音響爆弾(ノヰズキャンセラ)を取り出し、安全装置(ピン)を抜いて戦闘機へ投げつける。

 果たして音響爆弾(ノヰズキャンセラ)が戦闘機の機首にぶつかり、同時に甲高い音を発する。

 対音子障害(ノヰズ)用ではなく、対歌姫(Diva)、対音子回路(オルゴール)用の歌唱阻害兵器。

 戦闘機が制御を乱した。

 錐揉みするように落下していく戦闘機を包み込むように、歌子は歌唱で爆炎を発生させる。

 猪突猛進(ヰノシシ)娘の名は伊達ではない。

 歌子は、歌唱力だけにおいて云えば、大阪府立歌唱女学院の歴代トップなのだ。

 戦闘機は、今や明確に墜落軌道を取る。

 そんな敵機を尻目にフラフラと浮かび上がったところに、背後からの猛烈な射撃を受けた。


「ガハッ!?」


 もう一機の戦闘機だ。

 バックパックに何発もの射撃を受け、あまりの衝撃に呼吸も出来ない歌子は、為す術もなく落下する。

 音子回路(オルゴール)式防弾仕様のバックパックが盾になって呉れなければ、今頃自分は死んでいただろう……呆然と考えながら落下した先は、湖だった。

 歌子は無我夢中で手足を動かし、浮上する。

 水面に漂う何かにしがみつき、水から顔を出すや、


「ぷはっ――――……うッ!?」






 とてつもない腐臭。






 己がしがみついていたそれは、腐敗し、ぶくぶくに膨張した水死体だった。

 右を見ても左を見ても、死体死体死体。無数の死体が浮かんでいる。

 ここは湖などではない。

 自分は、水没した張掖(ちょうえき)只中(ただなか)に飛び込んでしまったのだ。


 泣きながら歌唱し、水没していない家屋の屋上に立つ。

 探さなければ。フレデリカを、探さなければ。

 バックパックはバラバラになって水の中に落ちてしまった。

 中山女史から託された捌漆(はちしち)式は、しっかりとこの手にある。

 背中はジンジンと痛むが、幸いにして――本当に幸いにして、出血はなかった。

 上空ではジェット機の音が鳴り響いている。

 歌子が家屋の影に隠れていると、やがて戦闘機は遠ざかっていった。


「フレディ……」


 また、人を殺してしまった。

 今度は、羅馬(ローマ)歌姫(Diva)を。


「フレディ……うっ、うぅぅ……」


 非道(ひど)い腐臭に耐えながら、歌子は張掖(ちょうえき)をさ(まよ)い歩く。

 フレデリカは生きているのだろうか。

 こんな、血と死肉と水しかない場所で、果たしてフレデリカは生きて呉れているのだろうか? 

 千歳が云った通りではないのか。

 自分の考えが甘すぎたのではないだろうか。

 そこら中に散らばる死体、見渡す限り一面に広がる市の光景に、歌子は茫洋としてくる。

 軍部苦を着た男性の死体があった。

 同じく軍服を着た女性――歌姫(Diva)の死体があった。

 優秀な歌姫(Diva)であることを示す蒼い髪をした死体が沢山あった。

 日本の将兵も羅馬(ローマ)の将兵も、一緒くたになって死んでいた。

 民間人の死体も山のようにあった。

 老人の死体があり、子供の死体があり、赤ん坊の死体があり、皆一様に膨張していた。

 戦闘機の音がしないことを今一度確認し、歌唱で空へ舞い上がってみれば、水没していない場所を見つけた。

 小高い丘のようになっていて、丘の上には赤十字の旗を掲げた大きな建物があった――病院である。

 独逸(ドイツ)のMe163は、この世界線では1920年代の新星羅馬(ローマ)帝國で活躍しています。

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