表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Diva Driver ~誰ガ為之歌~  作者: 明治サブ(SUB)
第弐楽章「君や何処か屍山血河」
23/53

壱「戦争と、死体の山と、そして」

》十二月下旬 ――渡瀬(わたせ)歌子(うたこ)


 フレデリカは、退学と云う扱いになっていた。

 歌子は放課後を、誰もいないフレデリカの部屋で過ごすようになった。

 寝ても覚めても、フレデリカのことを考えている。


 テレビやラヂオをつければ、日羅の戦況が詳しく聴こえてくる。

 撒菱(まきびし)邸にいても、女学院にいても、街を歩いても、詳しい戦況が耳に入ってくる。

 大日本帝國陸軍は海軍の護衛の下、六個師団、一個戦車師団、二個歌唱旅団から成る三個軍団を朝鮮の仁川から上陸させた。より正確に云うならば、宣戦布告の数週間前から静かに派兵を進めていた。

 今は満州鉄道をフル稼働させて、甘粛(かんしゅく)――新疆の東に位置する、回族(ムスリム)たちの土地へと将兵を送り込んでいる。


 甘粛(かんしゅく)には大天使の進路を阻むようにして幾つもの大都市がある。

 嘉峪関(かよくかん)

 酒泉(しゅせん)

 張掖(ちょうえき)

 金昌(きんしょう)

 そして武威(ぶい)

 それらの都市で防衛線を敷き、亜米利加(アメリカ)、モンゴル、チベット、ウヰグルを始めとする回教(ヰスラーム)、旧露西亜(ロシア)勢力の助力に期待しながら、戦車師団を擁する第(いち)軍で以て正面から羅馬(ローマ)を抑えつけ、その間に南北から歌唱旅団を伴う第()・第(さん)軍を遠く西へと進出させて補給線を分断、然る後に包囲殲滅するのが狙いではないか、と軍事専門家を名乗る男がラヂオで云っていた。

 食料は現地での徴発・収奪で何とかなるが、武器弾薬と、何より歌姫(Diva)の補充は西欧羅巴(ヨーロッパ)からの補給線()りきだからだ、と。


(……どうでもいい)


 歌子は軍事ニュースを聞くたびに、俯いて耳を塞ぐ。

 歌子は戦況を聞くのが怖くてたまらない。

 フレデリカは羅馬(ローマ)の兵隊として羅馬(ローマ)に行ってしまった。

 そして今、日本は羅馬(ローマ)と戦争をしている。

 近く、旧中国の酒泉(しゅせん)とか云う街で両軍の先遣隊が衝突する可能性がある、とニュースで云っていた。

 日本と羅馬(ローマ)が戦火を交えることになったとして、自分はどちらを応援すれば善いのだ? 

 母国たる日本に勝って欲しいのか?

 ――――――――それとも、たとえ同胞が死んだとしても、フレデリカに生きていてもらいたいのか?

 答えのない問い。考えれば考えるほど泥沼にはまっていく思い。

 街を歩けば、どこもかしこも『羅馬(ローマ)を大陸から追い出せ』の一点張り。

 そんな中にあって、敵國人の安否を案じる自分は、一体全体どうすれば善いのであろうか。



   ♪   ♪   ♪



》一月上旬 ――渡瀬(わたせ)歌子(うたこ)


 新年は最悪の形で幕を開けた。日羅両軍による初の戦闘である。

 幸いにして、羅軍は大天使を伴わない先遣隊であった。

 ……が、果たしてその程度の幸運を『幸い』と表現して善かったのかどうか。

 対する日本軍は、嘉峪関(かよくかん)コンクリヰト(ベトン)による堡塁(ほうるい)(よろ)われた長大な防御線を敷こうとしている真っ最中であった。

 日露戦争――とりわけ旅順包囲攻略戦において地獄を見た日本は、自軍を()()()な防御陣地で固めることに躍起になっていた……それが時代遅れ(パラダイムシフトまえ)であるとも知らずに。






陸喰い(リヴァヰアサン)』。






 そう呼ばれる怪物が、戦闘歌姫(Diva)羅馬(ローマ)にいる。

 水の増幅を得意とし、近海だろうが砂漠だろうが、所かまわず大洪水を発生せしめ、敵國が必死になって用意した要塞も戦車も砲も銃も兵も、何もかもを一緒くたにして流し、壊し、殺してしまう悪魔の歌い手。






 その、『陸喰い(リヴァヰアサン)』が出た。

 酒泉(しゅせん)は半日にして壊滅し、後にはただ、目を覆いたくなる量の水死体だけが残った。






 嘉峪関(かよくかん)でも同じことが繰り返された。

 日本軍は両翼に展開していた歌姫(Diva)たちを急遽中央第壱軍に部署変えし、熱・炎・乾燥の歌唱で相殺しようと試みたが、無駄であった。

 ただただ、無数の戦乙女たちの水死体が浮かび上がるだけで終わった。


 張掖(ちょうえき)でも同じ戦術が取られた。

 たとえ無駄だと分かっていても、日本を更地にされたくなければ、やるしかなかった。

 死の恐怖におびえる歌姫(Diva)たちを最前線に部署する際、彼女らによる抗命騒ぎがあったらしいが、()()()()()()()()()()

 そのニュースを日本で聞いた歌子は、フレドリクのことを思い出した。

 彼が、「消音師(サヰレンサ)歌姫(Diva)を殺す」、「消音師(サヰレンサ)は味方歌姫(Diva)の督戦もする」と云っていたのを。

 フレデリカが退学してしまい、ふさぎ込むようになって以降、歌子はフレドリクと会っていない。

 毎日ふさぎ込んでばかりの歌子を心配した千歳が、「あの傭兵さんに稽古でもつけてもらいなさいな」と云われた時には驚いた。

「何で知っとるんッ!?」と云う歌子の問いに、千歳はさも当然と云った風に「真夜中に無防備な女の子が家を抜け出すんだもの。そりゃア監視兼護衛くらいつけるわよ」と云った。

 夜、いつもの埋め立て地に行ったが、フレドリクはいなかった。

 何日も無断で欠席したのだから、怒らせてしまったのかも知れない。

 その時になって初めて歌子は、自分が彼の素性はおろか、彼との連絡手段すら持っていなかったことを思い知らされた。


 恐怖に震える戦乙女たちを死地に立たせた張掖(ちょうえき)の戦では、もう一つ新たな試みが行われた。

 朝鮮から遠路はるばる音子回路(オルゴール)式戦闘機を飛ばしてきて、複座のうちの一つに消音師(サヰレンサ)を乗せたのである。

 戦闘が始まる。

 遠く前線の奥深くで、『陸喰い(リヴァヰアサン)』による死の歌唱が始まる。

 すると日本軍の戦闘機が最前線のその先にまで飛び込んで、『陸喰い(リヴァヰアサン)』の歌唱を阻害するのである。






 この作戦が、成功した。






 繊細な制御を必要とするのであろう『陸喰い(リヴァヰアサン)』の歌唱は阻害され、その制御を失った。

陸喰い(リヴァヰアサン)』に洪水を発生させない、と云う日本側の作戦には失敗した。先の二回の戦と同等かそれ以上の水が天から降って来て、日本軍は絶望の海に文字通り呑み込まれた。


 ―――が、同じ絶望を、羅馬(ローマ)軍も味わった。


 暴走した洪水は、張掖(ちょうえき)に展開した両軍の全てを呑み込み、破壊し尽くしたのである。

 日本軍は数万人の英霊を以て、敵の最大戦力『陸喰い(リヴァヰアサン)』を屠ることに成功したのだ。



   ♪   ♪   ♪



》一月十五日 十七時三十一分 大阪府立歌唱女学院寮 フレデリカの部屋《

渡瀬わたせ歌子(うたこ)


「~~~~♪」


 フレデリカのベッドに腰かけて鼻歌を口ずさんでいると、


「……やっぱりここにいた」部屋に千歳が入ってきた。「貴女宛ての手紙よ」


 手渡された手紙は『新生羅馬(ローマ)帝國第壱歌唱師団第壱旅団特務連隊』発となっており、中立国たるソビヱト連邦を中継して届けられたものだった。


「ろ、羅馬(ローマ)……歌姫(Diva)の部隊――」


 震える手で、封を切る。手紙が数枚、入っている。一枚目は、


「フレデリカの字や」


 それは如何にもフレデリカらしい、戦場での毎日を陽気に綴ったものだった。

 大天使のそばは音度が高いから歌唱の通りが善くて気持ちが善い、とか、

 現地は水の確保も難しいような砂漠で、水を無限に生み出せる自分は引っ張りだこだ、とか。

『もう一度君に逢いたい』とも書いていて、思わず泣きそうになった。


 次の手紙は、少し毛色が違った。


『本当はこの手紙を自分の手で投函したいところなんだ。けど、何しろ國と國がこんな状態だからね。だけど唯一、君に手紙を届ける方法があるんだ。僕の身に何かがあった時。家族やそれに準ずる相手に、特別に、手紙を届けてもらえるんだ』


(ヱ? どういうこと? それって――…)


 震える手で、紙をめくる。最後の一枚だ。そこには男性的な、無機質な字で、こうあった。






『一九二八年一月九日。フリヰデリケ特務少佐、張掖(ちょうえき)ニテ洪水ノ直撃ヲ受ケ行方不明。同少佐ヲ特務大佐ニ任ズ』






「あ、嗚呼……」


 文字が上手く読めない。

 何故だ? 視界が涙で滲んでいるからだ。

 頭が痛い。

 金槌で殴られたみたいに、頭の奥がガンガンと痛む。

 視界がぐるぐると渦巻いている。

 文字が上手く読めない。

 行方不明?

 二階級特進?

 理解出来ない理解出来ない理解デキナイデキナイデキナヰヰヰヰ――――……


(いや)……厭ぁ……厭ぁぁあぁあぁぁあああぁぁああああアアアアアアッ!!」


 記憶はそこで途切れている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ