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Diva Driver ~誰ガ為之歌~  作者: 明治サブ(SUB)
第壱楽章「二人のフレデヰ」
22/53

肆「戦争(弐)」

》一九二七年秋から冬にかけて《


 十月、露西亜(ロシア)で革命が起きた。

 中華民國から逃げ延びた國民革命軍と、満州・朝鮮の抗日パルチザンを大量に飲み込んだ赤軍が、主義主張もぐちゃぐちゃなまま、専制主義に対する怒りを幼児のように爆発させて、それは起きた。

 国内の全兵力を対羅馬(ローマ)戦線に張りつかせていた皇帝ニコライ二世は、(ろく)な抵抗も出来ずに、一族諸共八つ裂きにされた。

 革命を成功させたトロツキーの心境は、さしずめ西南戦争前夜の西郷隆盛であったろう。西郷との違いは、トロツキーは成功させたと云うことである。


 ソビエト連邦は西欧羅巴(ヨーロッパ)、コーカサス、及びニコライ二世が英吉利(イギリス)王朝との血脈を利用して多数掠め取っていた世界各地の植民地を羅馬(ローマ)へ献上することで、十年以上続いた露羅戦争を終結させることに成功した。


 同革命の成功により、大日本帝國内の革命分子も勢いを増した。



   ♪   ♪   ♪



 歌子と千歳は秋の実技試験でも一等賞を取り、二度目の飛び級に成功した。

 卒業試験で失敗しなければ、三月末には二人して歌唱女学院を卒業し、歌姫(Diva)の資格を得ることが出来る。


 そんな十一月のある日、撒菱(まきびし)重工業株式会社が、ある重要なプレリリヰスを発表した。

 来期からの人事についてである。

 次期代表取締役社長の名は、『撒菱千歳』。

 来年四月に歌姫(Diva)資格者となる予定の少女である。

 東京株式取引所上場企業、史上最年少社長誕生の瞬間であった。

 プレリリヰスから数日後、撒菱千歳次期社長が記者会見を開いた。

 いや、それは『会見』ではなく『展覧会(ショー)』であった。






 渡瀬式拡声器(スピヰカー)






 新星羅馬(ローマ)帝國を激怒させかねない、日本独自開発の拡声器(スピヰカー)

 日本は、世界は、何重もの意味で驚いた。

 世界中の國々が挑み、破れてきた拡声器(スピヰカー)の独自開発に、土壇場の日本が成功したと云うこと。

 それを成功させたのが年端も行かない少女であり、日本最大の工業企業の社長であると云うこと。

 これまで、保護國たる大満州國を散々喰い荒らされても見て見ぬ振りをしていた日本が、いよいよ重い腰を上げたと云うこと。

 その剣を振るう歌姫(Diva)候補生が持つと云う、『原初の歌姫(Diva)・フリヰデリケ四世』にすら匹敵せんとする歌唱力。


 国内は、右や左やの大論争となった。


 左派は、怒った。

 これ以上羅馬(ローマ)を刺激してどうするのだ、と。


 右派は、嘲笑した。

 これ以上? 

 同胞たる大満州国の腹を食い破られて(はや)二ヵ月。日羅はとっくの昔に戦争状態だ。

 これ以上、一体何を我慢する必要があると云うのだ?



   ♪   ♪   ♪



 十二月、朝鮮抗日パルチザンによる朝鮮総督府襲撃が発生した。

 ()()()()()拡声器(スピヰカー)がパルチザンへ大量供給され、総督府軍事警察と衝突。多数の死傷者が出たことにより、帝國本国は戦闘歌姫(Diva)を投入。

 図らずも日本と撒菱重工にとって、京城府は渡瀬式拡声器(スピヰカー)の実()試験場となった。



   ♪   ♪   ♪



》十二月二十二日 十六時二分 大阪府立歌唱女学院・二年生校舎 ――渡瀬(わたせ)歌子(うたこ)


 フレデリカが訓練場に来なかった。いつもなら、放課後になったら真っ直ぐやって来るのに。

 思えば自分はもう半年もの間、毎日のように弐重唱(デュヱット)をしている。

 不安になって二年生の教室をのぞいてみたら、果たしてフレデリカがいた。

 誰もいなくなった教室で一人、すやすやと眠っている。


(……ラッキヰや)


 歌子は抜き足差し足でフレデリカの前まで行く。

 椅子にもたれ掛かって眠るフレデリカ。

 長いまつげ。透き通るような肌。蒼く美しい髪。

 その頬に触れようかと思って、もし起きてしまったら勿体(もったい)ないと思った。

 じっと、五分ほども眺め続け、ついに我慢出来なくなって、自分の唇を、フレデリカの唇へ寄せて――


(な、何を考えとんねんウチは! フレディは女の子やで!?)


 慌てて離れようとして、


(――うっ!?)


 離れられなかった。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 引っ張られる。

 歯と歯がぶつかり合うようなキスだった。


「んいぃぃったぁ!? 何すんねんフレディ!」


「それは僕の(セリフ)なんだけどねぇ?」


「う、ウチ、初めてやってんで!?」


「安心しなよ、僕も――――……ん?」


 やおら悩み出すフレデリカ。


「え? え? え? ま、まさか――」


「いや、あれはノーカンだ。これがファーストキスだよ」


「何やねんノーカンってぇ!?」


 歌子は卒倒しそうになる。


「あれをカウントに入れるんなら歌子だって――…まぁ何にせよ、寝込みを襲ってくるような狼さんに云われたくはないな」


「うっ……」


 顔を真っ赤にして、教室を見渡す。


「そ、それにしても何か懐かしいわ、二年生の教室」


「悔しいな」


「え?」


「秋の実技試験で主席を取って、ようやっと歌子と同じ学年になれたと思ったら、君はもう三年生だ」


「……御免」


「いや、今のは忘れて呉れ」


 フレデリカがこちらの頬を撫でてくる。愛おし気に。


「君の道を邪魔するのは本意じゃない。君は君の覇道を、臆せず進むと善い」


「覇道やなんて……そんな大げさな力なんてウチにはないよ」


「あるさ。歌子、君はこの星の全ての音子を――この星そのものを従えられるだけのポテンシャルがある。僕はそれを、出来るだけ近くで眺めていたかったんだ。……だけど」


 フレデリカが立ちあがる。


「もう、歌えない」


「え? フレディ、それってどう云う――…」


「戦争が、始まった。転校初日こそ、日本の為に命懸けで戦うだなんて云ってたけれど……あれは、嘘。僕の願望だったんだよ」


「フレディ、ウチ、分からへん。さっきから何を云って――」


「ここに」


 フレデリカが歌子の手を取り、自身の喉に触れさせた。

 ぐっと押し込むと、


「……あれ? の、喉仏!?」


「ではなくて、爆弾だ。命令に逆らった兵士は、首が弾け飛ぶんだよ」


「えッ!?」


 歌子は理解が追いつかない。


「僕は、羅馬(ローマ)の正規兵――戦闘歌姫(Diva)だ」


 云いながら、フレデリカが教室の外へと歩いてゆく。一歩、また一歩。


「騙していて悪かった、歌子。けれど」


 今や完全に教室から出て、廊下に立ったフレデリカが振り返り、


「この半年間は、本当に楽しかった。ありがとう。そして――」


 泣くように微笑んだ。


「――――……さようなら」



   ♪   ♪   ♪



》一九二七年十二月二十三日《


羅國(ローマ)(たい)スル宣戰(せんせん)詔書(しょうしょ)


 天佑(てんゆう)ヲ保有シ萬世(ばんせ)一系(いっけい)皇祚(こうそ)()メル大日本帝國天皇ハ(あきえあか)ニ忠誠勇武ナル汝有眾(ゆうしゅう)ニ示ス。


 (ちん)(ここ)二羅国ニ對シテ(いくさ)(せん)ス。

 朕()陸海軍将兵ハ全力ヲ(ふるっ)テ交戦ニ従事シ朕()百僚有司(ひゃくりょうゆうし)ハ励精職務ヲ奉行シ朕()衆庶ハ各々其ノ本分ヲ尽シ億兆一心国家ノ総力ヲ挙()テ征戰ノ目的ヲ達成スルニ遺算(いさん)ナカランコトヲ期セヨ。(御名御璽)





 斯くして、日羅戦争が始まった。






                  第壱楽章「二人のフレデヰ」――――Fin.

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