表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Diva Driver ~誰ガ為之歌~  作者: 明治サブ(SUB)
第壱楽章「二人のフレデヰ」
13/53

壱「その名はフレデリカ(陸)」

 歌子が呼吸を整えた。

 噂の転校生の実力はどんなものだろうかと、訓練場には野次馬が集まりだしている。


「歌子、君はどんな歌が歌いたい?」


「う、ウチは――…」歌子は空を見上げ呼吸して、「ラァーーーー~~」


 フレデリカが息を吸い、そして、嗚呼、そして――――……


 気がつけば、千歳はその場に座り込んでいた。

 まるで悪夢だ。悪夢そのものだ。



   ♪   ♪   ♪



》同日 十六時三分 大阪府立歌唱女学院・訓練場 ――渡瀬(わたせ)歌子(うたこ)


(――――えッ!?)


 気がつけば、歌子は空にいた。

 遠く眼下に訓練場の地面があり、息が詰まりそうになる。


「大丈夫。ゆっくりと息を吸って」


 フレデリカが、歌子の手を取って微笑んでいた。


「ほら、一緒に歌おう。ツァーララリラッツァツァーー~」


 真似して歌う。

 驚くべきことに、歌子とフレデリカの体が、ふわふわと空に浮いている。

 そして、二人の周りには、


(わぁ~ッ!)


 先ほどの歌と同じように、無数の水の魚が泳いでいる。

 だが、ただ見上げるばかりだった先ほどとは違い、今度は、まるで触れられそうなほどの距離に魚がいる。

 先ほど、空を見上げて束の間夢想した、『魚と一緒に泳いでみたい』と云う子供じみが願望が、見事に実現している。

 フレデリカの方を見ると、彼女は歌いながら、『お気に召しましたか?』とても云い出しそうな顔でウインクしてくる。


 魚。

 無数にいるこの魚が、またすごいのだ。

 魚の体内が輝いているのだ。


(あれは――火? えっ!? 水の中に火を生成し、維持しとんの!? しかも、魚によって色が違う……色が変わるほどの高温を生み出して、異なる温度を管理して、しかも水を蒸発させないって、人間業!? ――それにしても、綺麗)


 色とりどりに輝く魚たちの中で、一緒になって泳ぐ。


「僕と踊って()れるかい、歌子?」


 フレデリカが手を差し出してきて、微笑む。


 最早(もはや)歌ってすらいない。

 ただの発声と、その合間を繋ぐ鼻歌で以てフレデリカは音子(おんし)を思うさま操り、一体全体どう云う原理なのか、歌子はまるで大地に立っているのと同じような安定感で、ステップを踏むことが出来る。


「君の歌は美しい。だけど」


 踊りながら、フレデリカが耳元で囁く。


「音子たちは、君の歌に素直には答えて呉れない――そうだろう?」


 歌いながら、歌子は(うなず)く。

 歌子の歌は、いつも暴走する。

 千歳が――今はフレデリカが――支えて呉れなければ、音子がしっちゃかめっちゃかに散乱してしまい、思い描いていた形を維持出来なくなる。


「歌子、君は誰の為に歌っているんだい?」


(千歳の為)


「違うだろう? 歌はいつだって、自分の為に歌うものだよ。歌を歌う。歌を楽しむ。それが、歌の根源だ。音子なんてのは、音学なんてのは、この十年そこらでぽっと出て来た新参者に過ぎない。歌はいつだって、楽しむために歌うものだ。もう一度聞くよ? 君の歌は、誰の為の歌だい?」


(自分の……為? ウチの為に、ウチは歌ってええん?)


 途端、魚たちの輝きが増した。


「――素晴らしいッ! 本当に素晴らしいよ、歌子! 何なんだ、この音子の活性度! 羅馬(ローマ)でだって見たことがない!」


(けどこれは、全部フレデリカの歌や)


「そんなことはないよ」


 歌子の心を読んでいるかの如き正確さで、フレデリカが云う。


「確かに、この浮遊も魚たちの回遊も、全て僕が操っている。けれどその力の源は、君がその輝かしいばかりのソプラノで以て集めて呉れた音子だ。これだけ多くの音子を従える力は、この僕ですら持ってはいない。これは、この力は、間違いなく歌子だけのものだ」


 これほどの実力者に褒められる喜びを、どのような言葉で形容すれば善いのだろうか。

 歌子はただただ、心が震えた。

 キラキラと輝く空の中で、フレデリカと一緒に踊った。

 それが数分ほども続いたころ、


「流石にちょっとしんどくなってきたよ」


 フレデリカが云った。


「僕にしっかり(つか)まってて!」


「え? ――ぅひゃアッ!!」


 途端、足場が無くなった。


(お、落ちる――…?)


 気がつけば、水中にいた。

 フレデリカが、魔法のような歌(さば)きで以て、魚たちの水を巨大な空中プールに変えたのだ。

 二人、ゆっくりと地面へ降りていき、足がついた瞬間、水は幻のように消えてしまった。


(うえぇ……服がびしょびしょ――やない!?)


 乾いている。

 先ほどまでの出来事全てが嘘だったかのように、服はからっからに乾いていた。


「なっ……」


 感服した。と同時に、歌子は、これ以上にないほど、フレデリカに心酔してしまった。



   ♪   ♪   ♪



》同日 十六時十二分 大阪府立歌唱女学院・訓練場 ――撒菱(まきびし)千歳(ちとせ)


 歌子が激しく肩で息をしながら、呆然とした様子でフレデリカを見つめている。

 その眼差しは熱い。

 歌子はきっと自分の口が笑っていることに気づいていない。


「もし善ければ、また一緒に踊って呉れるかな?」


 神の奇跡か、はたまた悪魔の魔術の如き歌唱を披露したフレデリカが、キザったらしく礼をする。

 フレデリカに口付けされた己の手の甲を、歌子が呆然と見つめている。


「うた、歌子……」


 からっからになった喉で歌子に呼びかけると、果たして歌子がこちらを見て、一瞬、ひどく詰まらなそうな顔をして、次の瞬間、目をそらし、


「せ、せやな! 気が向いたらセッションお願いするかも……やけど」


 もう一度、こちらに顔を向け、精一杯の笑顔を見せる。


「やっぱり、ウチは千歳と一緒の方が歌いやすいわ。……御免、フレデリカ」


「ふぅん」


 フレデリカの、余裕を含んだ声が聞こえてくる。


「ま、今日のところはいいさ。けど僕は歌子、君を諦めてはいない。ねぇ、撒菱千歳さん? これから毎日この時間、歌子を懸けて弐重唱(デュヱット)勝負をすると云うのはどうだろう?」


「なッ、そんなこと――…」


 言いかけて、それ以上の言葉を紡げなかった。

 歌子が、ひどく物欲しそうな顔で、フレデリカを見つめていたから。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ