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第6話 翌日

 ぽつんと空いた、僕の隣席。


 教室という一つの空間が未完成と思えるほどに――まるで、パズルのピースが欠けたかのように。

 いつも明るく話しかけてくれる、彼女の姿はなかった。


 その放課後のこと。


「これ、水野に届けてやってくれ」


 帰り支度をしている最中、僕の席に担任がやって来た。

 手には冊子――これは、近々開催される校外学習の案内だろう。早いとこ通知しておきたいという気持ちはわかる。でも、どうして届けに行くのが僕なんだろう? 普通、水野さんの友だちに頼むよね。

 疑問を含んだ眼差しで冊子を受け取る。それをどう受け取ったのか――、


「お、おほうっ。あー、うん。せ、先生もよくわからんのだけどな、逆巻を指名してきたんだよ」


 ――ビクりとした対応、後ずさる。


「ま、まあ、帰り道の途中だしいいだろ? これが水野の家までの地図だ。とにかく、それ頼んだぞ」


 そそくさと、答えが出ぬままに担任は去って行った。

 残されたのは冊子と疑問――わざわざ、僕をご指名? 明らかに、おかしいとしか思えない。

 天子は冊子を指でぺらぺらと、


「ほう。神ヶ丘に行くのか」


「神ヶ丘?」


「近くに二つの丘があるじゃろう。その名を神ヶ丘――正式名称、神が降り立つ丘ともいう。この町がここまで発展する前、古来より人々の安息の地となっておった。今も昔も変わらぬことに、天子も素直に嬉しく思う」


 天子は満足気な様子で、首を二度三度と縦に振り、


「発案者は素晴らしい。ほめたたえようぞっ!」


 神が降り立つ丘、ね。

 言葉の端々から察するに、天子とも関係あるのだろうか? ただ、今はそれよりも気になることがある。僕も冊子に目を通しながら、


「自然との触れ合い、遠足みたいなものだね。……内容はさて置き、これを届ける役に僕をご指名って、やっぱり昨日の一件が関係あるのかな」

「ふむ。その線が有力ではないか?」

「ではないか? ……って、神様でもわからない?」

「神といえども、そこまで万能ではない」


 と、天子は指で丸を形作り、


「お主が期待しておるのは、この心理眼じゃろう? 残念ながら、これは天子の指を通して視界に入れたものしか見ることはできぬ。それに、見れる範囲は決まっていてのう。事細かに一部分を覗くのは難しい」


 あくまで、人物の特徴――心のキャンバスと言った。


「簡単な話、行けばわかる。ご指名ならば行こうではないか」


「……行けばわかる、か。うん、そうだねっ!」


 力強く頷き返す。

 僕は鞄の中に冊子を――その奥底、白色のハンカチが目に入った。今日、謝罪と共に返そうと思っていた代物である。ちゃんと、洗濯機を五回は回し、手洗いをして、なんとなく匂いを嗅いで――や、過程なんてどうでもいいね。


 水野さんの家まで行くんだ。


 もしかしたら、謝れるチャンスかもしれない。ポジティブに考えすぎだけど、水野さんが謝る場を設けてくれたという可能性もある。


 微かな希望と期待を胸に、僕は学校を後にした。

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