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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

どうして!!と我妻は問う

作者: どんC

 どうして!! どうして!!


 どうして分かってくれないの?


 と我妻は私に詰め寄った。


 私は貴方を愛しているのに。


 魔王を倒した貴方に私は一目で恋に落ちて。


 貴方も私を愛してくれたから結婚してくださったのでは無いの?


 何故なの?


 何故私を避けるの!!


 何故目をそらすの!!


 何故側にいてくれないの!!


 何故私を愛してくれないの!!


 私の実家は伯爵家でかなりの持参金を持って来た。


 その持参金で貴方の借金を返した。


 夜もろくすぽ眠らず。


 民の為に働いて豊かな実りを与えた。


 私の描いた魔法陣で荒れ地は豊かな穀物地帯になった。


 牛も家畜も肥え太り、増えた。


 道は舗装され商人が行き来するようになって、街は大きくなり栄えた。


 私の中にある、優しさ、真心、誠意、愛情全てを貴方に捧げてきた。


 どうして……


 そんな冷たい目で私を見るの?


 私の何がいけないの?


 私は何処で間違えたの?


 私達の結婚は、教皇様の言いつけで、私が20歳になるまで『白い結婚』だけど……


 今は貴方に子供を与える事が出来ないけれど。


 20歳になったら、私達は真の夫婦になれるのに。


 そうしたら、私達の子供が生まれるわ。


 なのに……


 今日、都から来たあの女は誰?


 何故貴方の寝室の隣の部屋に居るの?


 貴方の寝室の隣の部屋は妻が使う部屋よ!!


 あの女は貴方の愛人なの?


 妻である私は北の塔に住んでいるのに。


 我が物顔でパーティーに出て。


 あなたの腕にしがみついているその女は何なの!!


 そう言って妻は塔の部屋に引きこもり。


 泣いて泣いて泣いて。


 心が壊れてしまった。


 妻の心が壊れたのを知って。


 私は妻を抱きしめ泣いた。





 ~~~*~~~~*~~~~



 妻が東屋の椅子に腰掛けて薔薇の花を見ている。

 妻が好きだったピンクの薔薇だ。

 結婚式の時に贈ったブーケもピンクの薔薇だったな。


 いや……


 元妻だ。


 今は私の妻ではない。


『ふむ。ユリシーズご苦労だったな』


「女神エリス様……」


 妻の体を乗っ取った神は嗤う。


『不満そうだな。お前はわらわに魔王を倒す力を欲した。妾はお前の頼みを聞きお前が愛する女の体を欲した。契約は結ばれ、お前は魔王を倒し、妾は体を得た。何が不満だ?』


「彼女の心を壊す為に私を操り彼女の心を壊させた」


 彼女にした仕打ちに彼の心は、苦痛にのたうち回っている。


『ふむ。何かを得るなら、何かを捨てねばならない。例えるなら、本が欲しいなら金を出さねばならない。至極当然の事だよ勇者殿。お前は魔王を倒す力を欲して愛する者を私に差し出したのだ。世界を救う代償が一人の女の心だけだ。安い物だろう。教皇も王族も承諾している。今更グダグダ言うでない。見苦しいぞ』


「そうですよ。本当に見苦しい。全てを手に入れる事など出来ないんですよ」


「女装の変態神官に見苦しいと言われる筋合いはない!!」


 女装変態神官はまあ酷いと女のような声を出して勇者を嘲笑う。


 そう、私にしがみつき媚を売っていたのは男なのだ。


 私と妻を監視する為に教皇が遣わしたスパイだ。


 本当に気色悪いし、王も教皇も腹黒い。

 魔王を倒す代償が一人の女の体なら、安い物だろう。

 そして……私は愚かだ。


「不和の女神と契約したのが運の尽きさ」


 綺麗な顔で彼は言う。

 誰もこいつが男だと気が付かなかった。


「普通、不和の女神と契約させるか?」


「契約できる神でエリス様が一番強力だったんだよ」


 しれっと神官は言う。

 どうだか。


 今はドレスを脱ぎ白い法衣に身を包んでいる。


「それで、妻の体を手に入れてどうなさるつもりですか?」


 女神エリスはにたりと嗤う。


『不和の女神がすることと言えば、決まっているだろう』


 魔王よりこいつの方が質が悪い。

 もしかしたらとんでもない化け物を解放してしまったんじゃないのか?

 私は恐ろしくなった。


「そう言えば、金のリンゴに『一番美しい人に』と書いて、神々の宴の席で三柱にリンゴを贈ったのは貴方でしたね」


 美しい三柱の女神はリンゴを争って戦争を起こした。

 人間にはいい迷惑だ。


『ああ……これの事か』


 女神の手に金のリンゴがのっている。


「そのリンゴは一番初めに貴女に贈られたものでしょう。つまり貴女が一番美しいのだ」


 性格は置いといて、エリスは美しい。

 いつもは薄汚れたマントに身を包んでいるから、神官でも気が付かないが。


『ふふふ……あの女共面白かったぞ。自分が一番だとリンゴを奪い合うさまは浅ましくて。笑えた』


 不和の女神は伸びをする。


『さて……行くか』


「何処に行かれるのですか?」


 私は尋ねた。


『不和のある所に……』


 そう言って女神と変態神官は消えた。

 金のリンゴをテーブルの上に残して。




 ~~~*~~~~*~~~~


 昔一人の若者がいた。

 若者は木の枝に座って歌っている乙女に恋をした。

 乙女は私を妻に迎えたいなら金のリンゴを持って来てと言う。

 若者は部下と共に金のリンゴを探して旅立った。

 しかし……

 若者は金のリンゴを持って帰る途中で亡くなり。

 乙女のもとに金のリンゴだけが、神々の宴の途中で届けられた。

 リンゴには『一番美しい人に』と刻まれている。

 若者にとって女神エリスが一番美しい人だった。

 女神エリスは金のリンゴが欲しかったわけではない。

 欲しかったのは若者の【愛】だった。

 若者の死に絶望した女神は金のリンゴを投げ捨てる。

 勘違いした三柱は金のリンゴを争って戦を起こす事となる。


 まさか……

 数千年たって若者の生まれ変わりに出会えるとは思わなかったと、後に女神は神官に言う。

 しかし若者は前世の記憶を失なっていた。

 若者は魔王を倒す力を得るために女神と契約をした。

 己が愛する最愛の人と引き換えに。

 契約をした時点では若者には最愛の人はいない。

 家族を村を滅ぼされた勇者には、憎しみしかなかったから。

 魔王を倒し王宮で宴が開かれた時、若者は最愛の人に出会った。

 二人は結婚し。

 王に与えられた領地で幸せに暮らすはずだった。

 だが、女神エリスとの契約が発動して。

 若者は妻につらく当たるようになる。

 己が言葉が妻を虐げ嘲笑うのを、彼はどうする事も出来なかった。

 妻の心が死んだ時、彼の心も死んだ。


 彼は爵位と領地を王に返納すると旅に出たという。

 風の噂によれば、荒れ地で隠者のように暮らしているとか。

 森の中で亡くなった妻の墓を守っているとか。

 居なくなった妻を探して各国を渡り歩いている。

 と伝えられているが、定かではない。






            ~ Fin ~



 ***************************

   2021/3/25 『小説家になろう』 どんC

 ***************************



    ~ 登場人物紹介 ~


 ★ ユリシーズ・グラッツ

 勇者。魔王を倒す力を得る代わりに、最愛の人を差し出す契約をする。

 契約時に最愛の人はいなかった。


 ★ ユリシーズの妻

 魔王討伐の凱旋の宴でユリシーズに一目ぼれした。

 尽くしても尽くしても愛されない最愛の人。

 女神エリスにそっくりな美人さん。


 ★ 不和の女神エリス

 不和の女神故に騒動を振りまく。

 契約で一番強い力を持ち。

 普段はボロいマントを着て顔を隠している。

 性格悪し。


 ★ 女装変態神官

 女神の契約を執行するためにやって来た。

 ユリシーズ以外男だとバレなかった。


 ★ 教皇

 人と神々との契約を結ぶ。

 性格は悪い。おじいちゃん。








最後までお読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[一言] ギリシャ神話って本当に理不尽ですもんねぇ。 暇を持て余してると、神々だろうが人間だろうが碌なことしないんだなーという印象。 もっとも死んじゃった後は良識派のハデスさんの管轄になるのか、そこそ…
[一言] さすがトロイア戦争の元を作った女神様 女神本人含め誰も幸せにならないという… ギリシャ神話の神って基本的に狭量で自分勝手なんですよね、そこが魅力でもあるんですが 知らずにうっかり水浴び見ち…
[気になる点] 女神はもともと女神だったのか? 不和の原因となった人間が神格を得たのか? [一言] 不和の女神も主人公も、その妻も、可愛そうですね。ギリシャ神話のような理不尽さが良かったです。
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