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72話 チンピラ壊滅


「イントはどこに行ってもトラブルを起こしてるな。何だ、この面白そうな状況は」


 絶望しかけた僕の隣に、ひらり、と空から親父が降ってきた。


 呆れたように僕を見下ろす。


「いや、これには事情があって……」


 言い訳しながら、考える。親父は今どこから降りてきただろうか? 屋根の上?


 親方も呆然と親父を見上げている。


「その辺は後で聞こう。マイナは無事だな?」

「うん。あとはユニィも一緒だよ」

「あそこにいるチンピラどもは?」

「全員敵。さっきまで人質がいたけど、人質は救出済み」

「なるほど。ではとりあえず行ってくる。お前は休んでいろ」


 簡単な情報交換の後、親父が進み出る。


 助けが来たことにホッとして、僕は膝の力が抜けてしまった。


「何だぁ? てめぇ誰だ!」


 親父はすでにチンピラの中心に立っている。


 僕は舗装されていない路上にへたりこむ。こんな雰囲気にビビらない親父は、本当に大したものだと思う。


「俺はヴォイド・コンストラクタだ。言いたいことがあるなら聞こう」


 リーダー格は親父の胸倉を掴み、ガンをつける。


「んだぁ? 『闇討ち』しか能がね———」


 そのセリフ、流行っているんだろうか。リーダー格の男は全部言い終わるより先に、宙を舞っていた。


 グシャ、っという嫌な音を立てて、リーダー格の男が地面に叩きつけられる。


「てめぇ!」


 取り巻きのチンピラは次々と親父に剣を振り下ろすが、甲高い金属音と共に刃が弾き返される。


 鎧を着ているわけでもないのに、剣をはじき返すとか、理屈がまったくわからない。もう何でもありだ。


「『闇討ち』しか能がねぇ、何だって?」


 親父は怒気のこもった声で、リーダ格の髪を掴んで持ち上げた。


「ひぃぃぃぃっ! ば、化物!? お前ら、俺を助けろ!」


 リーダー格はみっともない悲鳴をあげている。


 部下たちは指示する前から、何度も刃を突き立てようとしているが、親父はかわすそぶりさえ見せない。


 やがて、チンピラたちの剣のうち、一本が折れたところで、チンピラたちの心も折れた。全員が剣を放り出して逃げ出す。


 父上が空いた手をブンと振ると、触れてもいないのに何人かが転倒した。


「どけっ!」


 リーダー格の男が邪魔になって難を逃れたチンピラたちは、親父から離れることには成功したが、今度は野次馬に行く手を阻まれる。チンピラたちは無理やり押しのけて逃げようとしたが、路地裏の強面たちは動こうとしない。


「ヤーマンさーん! こいつらどうします?」


 強面たち親方に声をかけてくる。親方は親指を下にして、何かジェスチャーを送った。


 それだけで、チンピラたちは強面の輪の中に引き込まれて消えて行った。


 もしかして、野次馬たちは元々味方だったのだろうか?


 だとしたら、もうちょっと早く助けてくれても良いんじゃないだろうか?


「で、『闇討ち』しか能がねぇ、何だって?」


 親父は髪の毛を掴んだまま、リーダー格の男を尋問している。


「すいませんでしたぁぁぁ! オレはそう教えられたんです! 間違いでした!」


 リーダー格がギュッと目を閉じて、みっともなくわめいている。


「そうか。じゃあ、お前にそう教えた奴のところに連れて行け」


 親父の怒気は相当なものだ。それを正面から受けているリーダー格の男に、ちょっとだけ同情した。


「おい、イント」


 唐突に、魔物のような気配を放つ親父が、僕に声をかけてくる。


「は、はい!」


「何でこんな雑魚に舐められていた?」


 不機嫌以外が全部塗りつぶされているレベルで、不機嫌な声だ。


「いや、そいつ、けっこう強くて……」


 必死に言い訳するが、親父は声とは裏腹に無表情で、片手で男を持ち上げたままこちらを見てくる。


「こいつが強い? そうか……帰ったら、また訓練だな」


 怖い。


「……はい」


 不機嫌な時の親父の訓練は異常にキツい。あの八つ当たりのような訓練は嫌なので、帰るまでにどうにか機嫌を直しておいてほしい。


「ちょうどジェクティたちが追いついてきたな。お前はジェクティと一緒に宿に帰れ」


 父上が上を指さすので見上げると、義母さんとストリナが空中に立っていた。


 ストリナは義母さんと手を繋いでいて、たまにずり落ちるように沈み込んで、そのたびに軽くジャンプしてもとの位置に戻っている。


「おにいちゃ~ん!」


 ストリナは気配を消す様子もなく、こちらに手を振ってくる。


 仙術の『雲歩』は、習熟すると空中を蹴るだけでなく、歩くことができるようになるとは聞いていた。まるで仙人が雲の上を歩くように。


 多分、父上が空から降ってきたのも同じ理屈だろう。


 にしても、義母さんまで『雲歩』が使えるのは驚いた。義母さんが訓練しているところは何度も見たけど、『雲歩』を使っているところは見たことがない。義母さんは神術士なので、仙術ではなく神術の類かもしれないが。


「何だあれ!?」


 野次馬たちも上空の二人を見て騒ぎだしている。こちらの世界で、空を歩いている人など、うちの仙術士一門の人ぐらいしか見たことがない。


 人口が100万人を超える王都でも見かけないということは、本当に珍しいのだろう。そして、珍しいものは目立つのだ。


「イント君? 終わったの?」


 へたり込んでいる僕を見て、マイナ先生が顔を出す。顔だけ出して周辺を見回して、親父を見つけるとそのまま僕のところまで歩いてきた。


「あ、救援間に合ったんだ。あの笛、ここでも使えるんだね~」


「ありがとう。マイナ先生が合図を出してくれたおかげだよ。義母さんも来たから宿に帰れって」


 僕が上空を指さすと、マイナ先生も上を見上げる。


「良かった〜」


 マイナ先生は義母さんたちが空を歩いていても、さほど驚いている様子はなかった。

 義母さんは重力加速度を無視した、ゆったりとした速度で降りてくる。物理法則とは? と一瞬考えたが、ドツボにはまりそうなのでやめておく。


「あなた、もう終わっているようだけど、この後どうするの?」


 義母さんは親父を見上げ、普通に話しかけた。不機嫌な親父が怖くないのだろうか?


「とりあえず、こいつら潰してくる。お前は子どもを連れて宿に戻れ」


 親父、物騒な後始末を考えていた。なんとなく無敵感あるので、親父なら実現させそうだ。


 義母さんは、不安そうな目をぎょろぎょろさせているリーダー格の男をチラリと一瞥して、ため息をついた。


「もう貴族なんだから法を守りなさい」


 義母さんが冷静でホッとする。来てくれてよかった。


「私はその辺ちゃんと調べたわよ。良い? 今回は相手の無力化が終わっているから、その場のでの無礼討ちにはできないわ。まずは衛兵の詰め所に行って、事情を説明。その上で貴族院へ宣言書の届け出を依頼。状況によって衛兵隊か騎士団が仲裁に出張ってくるから、それまでに終わらせる必要があるわ」


 ちょっと待て。何で合法的殴り込みの話をしているんだ。


「わかった。ちなみに詰め所に行かなくても、あいつらに言ったらなんとかなるか?」


 親父が指す方向には、手際よく襲撃犯を取り押さえていく衛兵たちの姿があった。


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