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54話 婚約の挨拶1


 貴族の世界は、血統重視である。血統を維持するために子沢山が求められ、男爵家以上の貴族家の当主には一夫多妻、一妻多夫が制度上認められている。


 しかし、いくら子沢山であったとしても、『家』を継げるのは一人だけだ。だから、家を継げなかった子どもたちは、自力で独立しなければならない。


 しかも、独立時に大きな経済的支援があるわけでもない。家の力を維持するために、多額の財産が必要で、それを分散させる訳にはいかないからだ。


 ただ、貴族の子どもたちがそれで苦労するかと言えば、そうでもないらしい。


 何故かと言えば、貴族の子どもは何らかの教育を受けているからだ。ほとんどの一般庶民は、読み書き計算ができないし、戦えないし、礼儀作法もできない。


 アモン監査官の実家のパール伯爵家のように、古典派の貴族派閥の中には、読み書き計算でさえも支配者には不要と考えている一派もいるらしいが、それでもその他はちゃんとできる。


 そのため、貴族階級出身者は就職に困らないシステムになっている。


 だからと言って、就職した先で出世できるかと言えば、そんなこともない。家を出た子どもたちが実家の権力を濫用することを、大半の貴族家は好まないからだ。


「豪華な屋敷だなぁ……」


 僕は以前、マイナ先生の家は貴族籍を持っていないという話を聞いた。つまりマイナ先生両親は、すでに家を出ている。にもかかわらず、こんな豪華な屋敷に住めるというのは、純粋に実力があるからだろう。


 見上げるような立派な門の前で執事に出迎えられて、僕は萎縮してしまった。


「こんな服で大丈夫かな?」


 不安にかられて、小声で義母さんに話しかける。さすがに昨日まで着ていた冒険者の服装ではないが、シャツの布地がベージュであまり綺麗に見えない。執事の服も真っ白ではないのが救いだ。


「大丈夫よ。いつもその服で子爵閣下にご挨拶してるでしょ?」


 言われてみればそうだ。だが、前世の感覚を思い出してしまったせいか、シャツが白くないのは、汚れているようで違和感を感じる。


 玄関から屋敷に入ると、内装も豪華だった。うちの屋敷は床も壁も石がむき出しになっていて、飾るものと言えば武器ぐらいだが、こちらは壁も滑らかで、絵や壺も飾られている。床にひかれている絨毯は靴で踏むのがもったいないほどふかふかだ。


 シーゲン子爵の屋敷よりは地味だが、それでも圧倒的にお洒落な空間になっている。


 メイドや執事とすれ違う事も多く、数も多そうだ。我が家はアンとパッケしかいないので、落差が激しい。


「うちで本当に大丈夫なのかな?」


 自信満々に歩みを進めるクソ親父は、本当にわかっているのだろうか? 僕のぼやきにわずかでも反応したのは、先頭を歩く執事さんだけだった。


「わたしこのふくきらい。ひらひらですーすー。うごきにくい」


 ストリナはストリナで、ドレスの愚痴を言っている。今日はクソ親父がテーブルを斬った音で起きてきたが、まだ眠そうだ。


「僕もキツくて動きにくいなー」


 考えてみれば、この服は1年前に作ってもらって、着るのは多分3回目。たった3回でキツイとか、なかなかに貴族っぽい。


「お前ら、最低限の礼儀は守れよ」


 クソ親父が注意してくる。この人、国から派遣された監査官を斬ろうとしてたし、礼儀とか言われても説得力ないよな。


「いや、今回礼儀の授業うけてないから無理」


 年に数回、シーゲン子爵に挨拶に行く前に、アンが礼儀作法の授業をやってくれる。元々ああいう堅苦しいのは嫌いなので、記憶が戻る前から逃げ回っていた。

 シーゲン子爵の家には同い年の幼馴染がいるので、一緒に遊んでいればうるさく言われないというのもあったのだが。


 今回はいろいろ急だったのとで、礼儀の授業を受けていない。


「1ケ月前に受けたじゃないか。今回は重要なんだから、失礼のないようにな」


 僕はこの家を見てから、むしろ破談になったほうがマイナ先生のためになるんじゃないかとさえ思っている。クソ親父とマイナ先生では、釣り合わないだろう。


 わざと失礼をしてしまうというのも、一手かもしれない。


「大丈夫でございますよ。コンストラクタ閣下は貴族で、我が主は平民。家格が違いますので、ご心配には及びません」


 執事さんがポーカーフェイスで説明してくれた。確かに、貴族が平民に無礼を働いても、特に問題にはならない。


「内装が素晴らしすぎて、家格が違うと言われても信じられないが」


 不本意ながら、クソ親父に同意である。立場が平民と言うだけで、この様子ではそこら辺の貴族より力がありそうだ。実際、フォートラン伯爵家の家名を名乗っている時点で、普通の平民ではないだろう。


 いや、うち以外に見たことがある貴族家はシーゲン子爵家だけで、そこはここより豪華だが。


「武の極致である閣下にそう評価していただけるのなら、主も喜びましょう」


 執事さんの社交辞令に、クソ親父の頬が緩む。お世辞を本気にするとか、すぐに騙されそうで怖い。


 先導していた執事さんは、重厚な扉の前で立ち止まる。


「こちらで皆様がお待ちです。入ってもよろしいですか?」


 クソ親父と義母さんはお互いに身だしなみをチェックし、執事さんにうなずきかける。


 それを確認してから、執事さんはドアを2回ノックした。


「どうぞ」


 扉の向こうから、男性の声で返事がある。聞いた事のない声に、緊張が高まってきた。


 ガチャリ


 この部屋は応接間のようだ。中には立派な応接セットが並んでおり、手前のソファにマイナ先生とターナ先生と、おそらくマイナ先生の父であろう男性がいる。


 全員立ち上がって出迎えてくれて、ものすごく歓迎されているのが伝わってきた。


「ようこそいらっしゃいました。コンストラクタ卿。私はアスキー・フォートラン。マイナの父です」


 執事さんに導かれて部屋に入ると、3人が頭を下げてくる。


 僕は初めて見るマイナ先生のドレス姿に、目を奪われた。ドレスが似合っているのはもちろんだが、髪もツヤツヤで健康そうだ。


「こちらこそ貴重な時間を時間を我々のために割いていただき、感謝しています」


 クソ親父はごく自然に、堂々と答えながら、奥のソファへ誘導されてそこに座る。僕らはそこに並んで座ったら良いのだろうか。


 こちらが全員着席したところで、マイナ先生の家族が席に座った。


「落ち着いた素晴らしい屋敷ですね。辺境の田舎住まいですので、眼福でした」


 クソ親父が口火を切って、穏やかに会話がはじまる。


「先の戦の英雄であるコンストラクタ卿にそう言っていただけるのは、大変うれしいですね」


 互いに誉めあっていて、回りくどい。聞いている必要もなさそうなので、マイナ先生の家族を観察する。


 以前マイナ先生に聞いた情報によると、アスキーさんは賢人ギルドの重鎮で、今はシーゲンの街の支部長をしている。研究分野は聖霊についてで、僕と契約した黒い聖霊、自称『叡智の天使』についてもいろいろと知っていそうだ。

 非常に目が細く、笑顔だがどこを見ているかはわからない。


 ターナ先生は、村に温泉の調査をしに来た人で、何と現フォートラン伯爵家当主と同腹の姉なのだそうだ。こちらも賢人ギルドに所属していて、研究分野は美容と健康についてである。

 専門分野が美容だけあって、マイナ先生の姉といっても通用する若々しさだ。


 そしてマイナ先生。今日はうっすらと化粧をしていて、村に来ていた時とはまったく印象の違うドレスを着ていた。下品にならない程度に胸が強調されているデザインで、少しドキドキする。

 マイナ先生は目が合うと、笑顔で小さく手を振ってきた。本当にカワイイ。


「それで、今日はマイナ殿についてなのですが、話はお聞きでしょうか?」


 クソ親父は、照れたように頭をかく。


「はい。何でもマイナは男爵様の家に入りたいと自ら希望したのだとか。我々に相談もなく勝手に決めたようです。我が娘ながらじゃじゃ馬で、ご迷惑でしたら申し訳ありません」


 お? 両親に事前相談していないとは、話の流れ的には破談コースかな。


「迷惑などとそんな。マイナ殿には子どもたちの教育や政策の助言などで助けられました。非常に賢く、しかも美しい。なぜ田舎の新参貴族である我が家を希望されたのか、不思議でなりませんよ」


 会話の合間に、流れるような動作でメイドたちが、お茶とお菓子を天板が低いテーブルに並べていく。この屋敷に何人使用人がいるのか、少し気になる。


「ははは。そう言って頂けると父親冥利に尽きますな。しかし、コンストラクタ卿は先の戦争の戦功で身を立てられた方。しかも領地を急激に発展させて、跡継ぎのイント様も文武に優れているご様子。ご謙遜が過ぎますな」


 アスキーさんの剃刀のような眼光が、僕の顔の上をかすめていった。社交辞令を僕にまで向けるとは、なかなか卒がない人だ。


「そう言えば、先日うちのターナに事業をお任せいただいた石鹸も、最初に考案したのはイント様だったとか。錬金術や算術にも造詣が深いとお聞きしていますし、多才で将来有望ですね」


 父親はあらかじめ答えを考えていたのか、すらすらと答えている。


「それもこれも、マイナ殿の教育の賜物。感謝しております」


 社交辞令合戦の間も、クソ親父は爽やかイケメンオーラを全開にして、マイナ先生に笑いかけた。自分の年齢の半分近い女の子に、何をしているのか。爆発すればいいのに。


「お互い高め合えるようで何よりですな。今マイナは、イント様に感化されて王都で発表するための論文を書いておるのですが、ここでイント様にアドバイスいただいても?」


 用意されていたのだろう。紙の束が出てきた。前世の白く滑らかな紙と違い、茶色くて表面がけば立っている。薄いフェルトみたいな質感の紙だ。


 うちの村にも紙はあったが、魔物である骨喰牛の皮を薄く引き伸ばして表面を削ったものだった。王都へ送った報告書なんかもそれに書いたし、今朝冒険者ギルドの報告で受け取ったのも同じ手触りのものだ。


 植物性の紙は、マイナ先生が持ち込んだものぐらいしか見たことはないが、書き心地は皮の方が良かった。


「ええ、もちろんです」


 紙のことを考えている間に、クソ親父が安請け合いしてしまう。


「ちょっと待ってよ。僕は論文とかわかんないよ」


 僕は元高校生で、小論文までしか知らない。論文を見せられても、アドバイスなんかできる気がしない。


「大丈夫大丈夫。君も知ってる内容だから」


 マイナ先生にもそう言われて、しぶしぶ内容に目を通す。少しインクが滲んでいて読みにくい。


 内容は「数字」と「計算記号」の書き方や、筆算の仕組みを解説したものだった。転生がバレるキッカケになった話題だが、その後も何度か説明した内容がそのまま書かれたものだった。


「そうそう。本題に入る前に、例の石鹸の事ですが、ターナ、お願いできるかな?」


 論文を読む僕の隣で、話は進んでいく。


「ええ。あの石鹸ですが、コンストラクタ様が王都に送られた報告書が公開されて以降、かなり売れていますわ。品薄となっていますので、賢人ギルドでは現在増産に向けて準備しています。しかし機密性を考慮して準備しておりますので、なかなか進んでおりません」


 隣の会話も気になるが、マイナ先生からペンと赤インクを渡されたので、採点感覚で論文に書き込みを入れていく。


「そうですか。ちなみに現在はどの程度売れているのでしょう?」


 収入と直結するためか、クソ親父は少し身を乗り出した。

 

「現在は日産二百で、金貨1枚で販売していますわ。試供品で提供したものをのぞいて、すでに二千は販売が終了しております」


 ターナ先生の答えに、思わず添削の手が止まる。コンストラクタ村の取り分は売り上げの5%。売り上げは金貨二千枚で、その5%は金貨百枚。


 思わず顔をあげてマイナ先生を見る。考案した僕の取り分は村に入る分の5%なので、金貨5枚という計算だ。問題なくマイナ先生を雇えるだろう。


「そんな高く売れるものなんですか?」


 父上はまだ石鹸を手洗いぐらいにしか使っていないので、実感がわかないのだろう。胡散臭そうな顔をしている。


 悔しいが、僕も同意見だ。


「ええ。流行病を予防して、美容にも良いという新しい物なので、ブームが起きていますわね。ちょっと強気で値段を付けましたが、問題なく売れています」


 ターナ先生はニコニコしている。しかし、所詮、材料は灰と石灰と油でしかない。いくらなんでも高すぎはしないだろうか。


 確か前世の10円玉は青銅制だった。インフレやデフレは常に起きていて、需要と供給次第でモノの値段は変わるが、一応参考に計算すると、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚になので、金貨一枚はだいたい十万円ぐらいの感覚だろうか。


 液体石鹸一つで、10万円。庶民に買えるとは思えない。


「そ、それで、うちにはいくらぐらい入るんですか?」


 クソ親父は、生唾を飲み込む。情けない表情だ。


「今日お渡しできるのは、金貨百枚ですわ。今後も増えていきますので、どのように受け渡しするか決めておかなければなりませんわね」


 ターナ先生は、良い報告ができたのが嬉しいのか、ニコニコと笑っている。クソ親父は思っていたより金額が大きかったのか、動きがぎこちなくなっていく。


「そ、そうですか。これから増産されていくというのは、ありがたい話ですね」


 クソ親父はバラ色の未来を想像している可能性が高いが、実際はそうはならないだろう。


 公民や政治経済でやった、『需要と供給』というやつだ。


 石鹸が増産されて、需要に対して供給が拡大していくと、行き渡っていく分需要が落ち着き、供給が増えるとその傾向はさらに大きくなる。需要曲線も供給曲線もシフトして、値段はどんどん下落していく。


 まぁ、別に今言わなくても良い話かもしれない。


 僕は再び、論文のチェックに戻ろうとして———


「イント様? 今何か言おうとされませんでしたか?」


 僕の反応を見逃さなかったアスキーさんに声をかけられた。


「え? いや、その」


 予想外に話題を振られて、うまく反応を返せない。ちょっと緊張しているようだ。


「思いついた事があったなら、何でも言ってね」


 マイナ先生も、笑顔で追撃してくる。やめておこうと思ったが、聞かれたら答えざるをえない。


「わかりました。何か書くものありますか?」


 即座にあの質の悪い紙が出てくる。


「モノの値段の決まり方から確認させてください。まず質問なんですが、もし自分が客の立場だったとしたら、同じモノが安い場合と高い場合と、どちらがたくさん買いたいですか?」


 簡単な質問だったので、手を上げてもらう。全員、安い方で手を上げた。


「では逆に、自分が商人の立場だったとしたら、同じモノが安い場合と高い場合と、どちらがたくさん売りたいですか?」


 今度は全員、高い方で手をあげる。


「ですよね。つまり客は安値でたくさん買いたくて、商人は高値でたくさん売りたいと思っています。真逆の事を考えているんですよね。じゃあどうやってモノの値段が決まっているか」


 紙に需要供給曲線を書いて、縦軸に価格と高安と書き加え、横軸に量と多少と書き加える。そして、需要曲線に「客の気持ち」、供給曲線に「商人の気持ち」と書き込んで、半回転させてテーブルの上に差し出す。


 ペン先が紙に引っかかる。この紙は本当に質が悪い。


「これはあくまでイメージですが、先ほどの理屈を図にするとこうなります。客は安ければ大量に買い、高ければそんなに買いません。逆に、商人は高ければ大量に売り、安ければ売りません」


 二つの曲線をそれぞれ示しながら、説明する。


「そして、この二つの気持ちが交わる点が、均衡価格、いわゆる相場となります」


 アスキーさんとターナ先生が、食い入るように紙を見つめる。


「石鹸の状況で言うと、今は供給が少ないので高いですが、供給量を増やすと、供給曲線は右にズレます」


 もう一本供給曲線を描くと、元の曲線と新しい曲線を矢印で繋ぐ。


 この世界ではまだグラフを見たことがないが、通じるだろうか?


「これはわかりやすいね。つまり、石鹸は今より安くなるという事かな?」


 アスキーさんは、あごに手を添えながら、紙を覗き込んでくる。どうやら通じているみたいだ。良かった。


「そうです。ただ、噂がさらに広がってより多くの人が石鹸を欲しがった場合、需要が増えるので需要曲線も右に動き、結果価格は今のままかもしれませんね」


 僕が答えると、アスキーさんはうなずきながら思考の海に沈んでいく。


「ちょっと待って。という事は、石鹸を作るのに、油とかの材料をたくさん買い集めた場合、材料の値段って上がるの?」


 ターナ先生に質問されて、僕は慌てた。考慮していなかったが、確かにそれは考えられる。


「ええと、そうなります、かね?」


「じゃあ、需要が増えて値段が上がっても、材料代が増えて利益はどんどん小さくなるのね?」


 ふむ。やっぱりこの世界はこういった考え方はないのだろうか? 賢人ギルドの偉い人でも知らないとなると、そもそもこういった考え方が存在しない可能性すらある。


「ですね」


 横で聞いていたアスキーさんの意識が、再び戻ってきた。


「なるほど、面白い。つまり同じ材料の石鹸をたくさん作ると、儲からないという事だね?」


 やっぱり鋭い。理論を与えたアスキーさんの思考は、簡単に僕を超えていく。


「そうなりますわね。今使っているオリーブ油だけでなく、他の油を使ったたり、もしくはいくつか混ぜてみても良いかもしれませんわ」


 ターナ先生にも思考が連鎖していく。ついて行けないので、黙って見ていると、二人は紙を見ながら、話合っている。


 需要と供給という市場原理を足掛かりに、二人の未来予想のレベルがみるみる上がっていく。


「イント、これはどういう事だ?」


 クソ親父がそんな先生方の様子を見て、怪訝な顔をしている。なぜ僕の話で、二人が反応しているのか分からなかったのだろう。


「さぁ。僕もわかんない」


 クソ親父には適当に答えながら、論文のチェックに戻り、最後の数ページをサラサラと添削していく。


「マイナ先生、終わったよ」


 紙を空中でパタパタと振って乾かせてから、論文の束をマイナ先生に返す。これは論文というより、教科書に近いかもしれない。


「何か気になるところはあった?」


 受け取りながら聞いてくるので、頭の中で回答を考える。気になるところ、あると言えばあるか。


「紙はもっと白い方が読みやすいかな、あと、もうちょい滑らかな方が書きやすいよ」


「え? 紙の話?」


「え? 違った?」


 あ、内容の話だったか。ちょっと勘違いしていた。


「いや、良いんだけど、もしかして紙を良くする良い方法知ってたりするの?」


 言われて考え込む。思い出すのは、転生前に化学の先生から聞いた無駄話だ。


「そうだなぁ。昨日一緒に水酸化ナトリウムとさらし粉作ったじゃない? 水酸化ナトリウムは紙の繊維を柔らかくする効果があるし、さらし粉は消毒に使うけど、漂白剤でもあるから、水に溶かしてつけてやると白くなるよ」


 説明してなかったっけか。


「面白い話をしているね。イント様はもっと白くて滑らかな紙を作れるのかい?」


 僕とマイナ先生の会話が聞こえていたのだろう。再びアスキーさんが会話に入ってくる。


「ちょっと待つのですわ。水酸化ナトリウムといえば、前にイント君が固形石鹸を作るのに使えるって言ってたものじゃないかしら?」


 そういえばターナ先生には、水酸化ナトリウムの話をした事がある。まさか覚えているとは思わなかったが。


 まぁ、できるかできないかで言われれば、できるだろう。


「そうですね。できると思います」


 アスキーさんとターナ先生は視線を交わし、急に笑いだした。


「本当に面白いね。ところでイント様、あなたは何歳かな?」


 今さら何の確認だろうか。


「え? 8歳ですけど……」


「8歳か。マイナとは7歳差だね」


 ちなみにクソ親父は30歳なので、マイナ先生とは15歳差になる。


 アスキーさんは、マイナ先生に向き直る。


「マイナ、確認していなかったのだけど、婚約したいと言ったのは、ヴォイド様とイント様、どちらとだい?」


 え?ええええええええええ!?


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