闘いの広場
友だからこそ譲れないものがある。突如始まった闘いにナナミたちは巻き込まれていく。
ヴィラの街は花市が終わり落ち着きを取り戻していた。中央広場の屋台から甘い香りが漂ってくる。朝からロロの買い物に付き合っていくつもの店を回ったボクは、誘惑に勝てず、フラフラと引き寄せられる。
「チョコイチゴふたつね。クリーム多めで。」
「はいよっ。」
屋台のおっちゃんが、薄暗い焼いた皮にたっぷりのクリームを乗せ、そこにイチゴの散りばめる。チョコレートソースをたっぷりかけて、手際よく皮を折り畳んで小さな紙袋に入れて手渡してくれる。
「ちょっと、なにやってんのよ」
「ロロも疲れたでしょ。はいっ」
ロロの非難を無視して熱々の紙袋を差し出す。
「あっまーい。」
「ナナミって、こういうの好きだよね。」
ひと口食べて幸せを噛みしめるボクをジト目でみながらロロが呆れたような声を出す。
「あっ美味しい。」
ロロも声をあげる。
「あの屋台、最近ヴィラに来たそうなんだけど、古都では、こういうのが流行ってるんだって。」
おっちゃんからの受け売りをドヤ顔で説明する。
「なるほど。ここらじゃ珍しいけど、古都には魔族も大勢いるそうだもんね。」
そう、おっちゃんは人族ではない。青白い肌に頭には大きな角が生えている。魔族の姿は個体差が大きいけど、青い肌と角が典型的な魔族だ。特に、角は、そな数と大きさが魔力の質と量に関係しているそうで、魔族にとっては重要らしい。おっちゃんは、大きく左右に突き出したのと、両耳あたりに巻き角、さらに額にと5本も角を生やしてる。実はすごい人なのかも。
「はっはっは。まぁしばらくここにいるから、嬢ちゃんもよろしくな。」
なんとなく刺々しい態度のロロにおっちゃんは笑いながら声をかけた。
ーーー
「こんにちわー」
「ナナミ、ロロ。よく来たな。」
銀の斧亭のドアを開けると、いつものようにダノンさんが迎えてくれる。まだ、夕食には早い時間だ。お客さんもまばらで、いつの騒々しさは、まだない。
「ナナミさん?ちょうどいいところに来てくれました。」
席につこうとするといきなり声をかけられて、腕を引かれる。
「おいおい、他の客に迷惑かけんなよ。」
ダノンさんが助け舟を出してくれる。が、そんなこともお構いなしに端の席に連れて行かれる。
「彼女に何が美味しいのか教えてやってよ。」
みると席にはもう一人女性が座っていた。席にはジョッキやらグラスやらが並んでいて、既にだいぶ飲んでいのが見て取れる。
「あっ、六花亭の女将さんですか?」
席にいたのは以前お世話になった温泉宿、六花亭の女将さんだった。と、今気が付いてけど、ボクを引っ張ってきてのは、腕を引いて来た方は、エフィラ遺跡の黄金の小麦亭の女将さんだった。
で、話を聞いてみると、ふたりは旧知の仲で、時々、共通の知り合いであるダノンさんを訪ねて、この銀の斧亭に来てるそうだ。今日も、そうやってふたりで飲んでいるうちに、どっちの料理が美味しいのかって話になったそうだ。ボクはどっちも行ったことがあって、レビューもしたことがある訳だけど、そんなボクが入ってきたのに気付いて、引っ張って来たってことだ。
「それで、ナナミくんはどう思うのかな〜。うちは星みっつだったよね。」
と、黄金の小麦亭の女将さん。確かにそうだ。そしてにやりと邪悪な笑みをうかべてるのは、六花亭は星ふたつだったことも知っているからだろう。だけど、あれは立地とか、出会ったときの状況もあるし、そもそもお店同士を比較するものじゃないし。
「何よ、あんたとこなんて、同族のフィーナさんから星ひとつだったくせに。」
と六花亭の女将さんが言うと、
「ロロちゃんは六花亭は星ひとつだったよね。」
と切り返す。
「あ、あれは、行き道が大変だったし。それに、星なんて他にいろいろ合わせてつけてるものだし・・・ど、どちらも美味しくて優劣なんて・・・・」
ロロはしどろもどろに説明するが、聞く耳を持ってくれていない。
「ナナミ、ロロ。すまんな。良い奴らなんだが、昔から何かと張り合ってて。まあ、ホントは仲が良いんだがな。」
オロオロするボクとロロに、ダノンさんがフォローしてくれる。が、
「「あなたは、黙っててちょうだい。」」
ピシャリとと言われてしまった。それはもう、きれいにハモりながら。
唐突に、ドォーンという効果音とともに入り口の扉が開かれる。
「ダノンよ、久しいな。ちょちょいと迷宮を征服するついでに寄ってやったぞ。ウワッハッハッハ。」
と、中々に騒がしいお客が入ってきた。屋台のおっちゃんだ。角が扉に引っ掛かってるよ。
「アズ。お前、いつこっちに・・・」
ダノンさんが頭を抱えた。
女将さんたちの話を聞いた屋台のおっちゃんがおもむろに口を開く。
「うむ、なるほど。事情はわかった。しかしだな、いくら言葉を並べても仕方あるまい。しからば、自らの力を示して見せれば良かろう。」
「アズごときに諭されるとは。」
「アズのくせに正論ですね。」
「あぁ、なら、」
「「料理勝負だ!」」
女将さんたちも屋台のおっちゃん改めアズさんとお知り合いだったのですね。それにしても息、合ってますね。
ーーー
そして、今、ボクたちは中央広場にいる。アズさんが重々しく述べる。
「勝負は三日。審判はこの広場に集う人々だ。それぞれの屋台での売り上げで勝負を決することとする。双方、異存はないな。では、はじめっ。」
アズさんがばッと手を上げると、女将さんたちはそれぞれの屋台に走る。こうして、三日に渡る壮絶なバトルが幕を開けたのだった。
黄金の小麦の女将さんはパンケーキ。店の名前にもしてる自慢の小麦で作ったものだ。蜜だけじゃなくて、クリームや彩り鮮やかな果物のトッピングもあって、いろんな組み合わせが楽しめる。これにお茶をつけて、屋台の前に置いた小さなテーブルで出している。お客さんの回転は悪いけど単価は高い。
対する、六花亭の女将さんは店で出しているあのふわふわかき氷。気泡のひとつもない透明な氷柱から削り出した氷が舌の上で軽やかに舞う。メニューも黒蜜とイチゴシロップの基本二種のみ。単価は低いが回転は恐ろしく早い。
両者、全っく正反対の戦略だった。
ちなみにボクとロロはたこ焼きだ。
三日間の勝負は壮絶だった。が、要約すると、だいたいこんな感じだった。
一日目。物珍しさと回転率で六花さんが圧倒。終始リードを保っていた。
ロロは、たこ焼きをくるくるするのが気に入ったみたいだ。
二日目。かき氷の頭キーンに懲りたのか、リピーターが思ったほどつかない。小麦さんはリピーターを中心にしたトッピング全盛りでの客単価アップもあってじりじりと追い上げる。負けじと、六花さんは小豆餡を投入して、再度の突き放しを図る。
ボクたちは、チーズを入れたチーズ焼きが大当たりした。
三日目。午前中は六花さんリード。しかし、午後になってからの急な雨に祟られる。一気に気温が下がり、かき氷は全く売れない。対する小麦さんは暖かいお茶とのセットが堅調に売上を伸ばしていく。
ロロが、たこ焼きを串に指して売り出す。傘を差したまま食べられると好評だった。
雨も上がり、再び、抜きつ抜かれつのデッドヒートがはじまった。しかし、時は一方に加勢する。時間帯に関わらず売上がある小麦さんに対し、六花さんは時間と共に客足が遠のく。食事にもなるパンケーキと、あくまでデザートであるかき氷の差だ。
ロロが、司祭様に耳を引っ張られて連れてかれた。この3日間、いろいろサボってたのだろう。
そしてタイムアップ。
「わたくしの負けですね。」
がっくりと膝をつく六花さん。
「いいえ、運が良かっただけ。あの雨がなければ、追いつけなかったわ。」
「ええっ、次は負けないわ。」
小麦さんが差し出した手を、六花さんがしっかと握る。
「「特に、あの馬鹿にはね。」」
ふたりの声がハモる。ふたりがそろって目を向けた先には、ダブルスコアどころかトリプルスコアをつけてふたりを圧倒したアズさんが高笑いしてたのだった。
「我の土俵で我に敵うわけがなかろうに。闘う前からこの勝負見えておったわ。うわっはっはっは。」
ちなみにボクたちのたこ焼きが2位でした。
屋台を片付けたあと、女将さんたちは、なんだかスッキリした顔立ちで帰っていったので、ボクとアズさんのふたりで銀の斧亭に戻った。
「終わったぞ。なかなかの勝負であった。最後には互いに認めあって和解もしておったぞ。奴らから、おまえにもよろしくとのことだ。」
「ご苦労さんだったな。まぁ、あいつらの張り合いは、いつものことだからな。」
ひとしきり料理勝負の顛末の話をして、少しの沈黙の後、ダノンさんはアズさんに聞いた。
「ところでアズよ。この街には迷宮主を狙いにきたった言ってたよな。」
「そのとおりである。我も、そろそろ迷宮のひとつも欲しいと思ってな。」
「そうか。勝算はあるのか。俺は・・・」
「もちろんある。そして、貴様に力を貸せとは言わん。ただ、こ奴らを貸してもらいたい。」
黙りこくるダノンさん。何か大変なことに巻き込まれるみたいだ。
ーーー
ヴィラの街の中央広場
☆☆☆(ナナミ、人族)
言わずとしれた中央広場。花市をはじめお祭りをやってるときはもちろん、そうでない時も多くの人で賑わっている。
いろんな屋台が出てるから、食べ歩いたり、ちょっとした雑貨を見て回るのも楽しい。大道芸人や吟遊詩人、楽士なんかも来ててるから、時間がいくらあっても足りないくらいに楽しめる。
☆☆☆(アズ、魔族)
ふらりと寄ったのだが、笑顔が絶えないなかなかに良い街であった。ほんのひと時ではあったが、この地の者との交流は我にとっても喜びであり、得るところが大きいものであった。また、後日立ち寄ることとしよう。
ーーー
盤上の駒をみつめる彼ら。
『なんか物語が大きく動く予感がする』
『これまでの駒達が繫がってきたね。』
『物語の紡がれていってる。』
『いや、気のせいだろ。』
彼らの間で徐々に高まる高揚感を、最後の一人がぶった切る。
続きものみたいな書き方になりましたが、如何でしょうか? 一応とそれぞれ独立して読めるように書いたつもりなのです。
後編は、夕方にはアップしようと思います。
あと、依頼の報告がないのは、今回の話では誰からも依頼を受けてないからです。たこ焼きは、自主的に始めたものです。(どこから屋台を持ってきたんだとかは言わないで下さい (人´∀`o)オネガイ )
続きものみたいな書き方になりましたが、如何でしょうか?後編は、夕方にアップします。