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ナナミの冒険  作者: ななまる
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小さな勇気

グリフォン出現の報に調査に向かうナナミたち。高位の魔獣という、これまでにない困難に、知恵と勇気で立ち向かうのです。

ボクの肩に寄りかかって小さな寝息を立てるロロ。頭上からの無数の小さな光に照らされる寝顔を見ていると、こんな状況でもなんとかなると思えてきた。


ーーー


「ナナミー前に出過ぎ。」

「そんなことわかってるよ。ロロこそ隊列を乱すんじゃないよ。」

走鳥に跨り先頭を進むボクの後ろから声をかけたロロに、ちょっとムッとしながら返事をする。ロロの方が荷馬車をこんな前に持ってくるなんて、よっぽど勝手な行動じゃないか。


今、ボクたちは、商会の依頼を受けて商隊と一緒に東のバルドルムへと向かう街道を進んでいる。依頼は、護衛ではなくて、調査。街道途中の低山帯にグリフォンが出たって報告があったそうだ。その上、商人会に所属する商人の小さな商隊が行方不明になったみたいで、その商隊の安否確認と保護を含めて調査隊を出すことになったそうだ。


「このあたりの風景って、ちょっと変わってるよね。」

ロロが呑気そうな声を上げる。このあたりは、大きな岩がそこかしこにある。赤みを帯びた地面から無数の白っぽい岩が顔を出していて、わずかにある雑草の緑と相まって、荒涼とした風景となっている。

そんな岩のひとつに走鳥を立たせ周囲を見渡す。特に何もない。

「よし、戻ろう。」

岩の下の荷馬車に乗っているロロに声をかける。

岩から飛び降りた走鳥の足が地面につくかつかないか、そんな瞬間だった。


バサッ、バサバサッ


頭上から突然の羽音がして、大きな影に陽の光が遮られる。

グリフォンだ。

いつの間に、さっきまでは確かに何もいなかったはず。


ヒヒーン


混乱するボクの耳に馬の鳴き声が響き渡る。グリフォンに背を捕まれている。


「ロロっ」


突然のことに真っ青になっているロロの腕をとって無理やり御者台から走鳥の背に引き上げる。


「逃げるぞ。」


走鳥を走らせようとしたその瞬間だった。

ドンッ

という鈍い音を聞いたように思う。

「ウワァァーッ」

「キャァァーッ」

突然地面が崩れてできた穴に僕達は吸い込まれてしまった。


ーーー


「ナナミ、ナナミったら。起きてよ、ナナミ。」

ぺしぺしと頬を叩かれてる。

「ん、うーん。ロロー。もう少しー。・・・あっ」

ぼんやりしていた意識がはっきりとしてくる。

「ロロっ。」

「良かったー。目が醒めたのね。」

「うん、ありがと。グリフォンは?」

そうだボクたちはグリフォンに襲われて、足下が崩れて、落ちて、・・・どうなったんだ。

「グリフォンはもういないみたい。あたしたち、あそこに落ちて、必死でここまで上がってきたら、ナナミが倒れて、それで、それで・・・」

そうだった。ボクたちは運良く地底の池に墜ちて、無我夢中でロロと岸にだとりついたのは良いけど、そこで倒れちゃったんだ。

「大丈夫?どこも痛くない?」

「うん、大丈夫みたい。・・・・ててっ」

体の調子を確かめようと立ち上がると、足に鈍い痛みが走った。

「ちょっと足を挫いたみたい。大したことはなさそうだけど。」

「えっ、えっ。ここ?『治癒』」

ロロがボクの足に手を翳し、治癒の魔術をかけてくれる。暖かい空気に包まれ、痛みが引いていく。

「ありがとう。でも、こんな状況だから、魔法は節約しよう。」

「そ、そうね。あたし、慌てちゃって。」

「さて、これからどうしようか?」

痛みが引いた足を確かめるようにゆっくり立ち上がり、周囲を見渡しながらロロの手を引く。

ズキッ。

治癒のおかげで痛みはだいぶ治まったけど、完治までは行かなかったようだ。それでもら歩けるようになったのは有り難い。


「あの向こうに落ちたのかな。」

周囲を見渡してみる。ここは地底湖の岸辺のようで、大きな岩陰の向こうに、ほんの僅かだか光が見える。幸い岸壁伝いに道もあるようだ。

「明かりは・・・・と。何もないか。」

火打石やら松明を入れた道具袋は走鳥の鞍に置いていた、落ちたときに無くしちゃったのだろう。幸い腰に挿していたショートソードは残っている。

「あたし、必死で。ナナミの他は・・・」

「あぁ、わかってるよ。命が助かっただけでもめっけものだよ。」


「『聖光』」

ロロが呪文を唱えると、空中にふわふわと明かりが灯る。

「奥の方から出られそうだね。」

ボクらが落ちて来たらしきところには、天井にポッカリと穴が空いてて、洞窟の暗がりに慣れたい目に青空が眩しい。その奥の方には、岩肌に挟まれた細いスロープがあるのが見える。

左手の湖面をみると、荷馬車の残骸が見える。荷台の幌が外れて、荷が一面に散乱している。かろうじて荷馬車の馬とボクの走鳥の姿は見えない。グリフォンに連れ去られたのだろう。


「行こう。」

バサッ、バサバサッ

ロロに声をかけたのと同時に、あの羽音が聞こえる。グリフォンが戻って来たみたいだ。

「まずい、戻れ。」

慌ててもと来た道を戻る。岩陰から覗くとグリフォンは荷台を突き回しているのが見える。 こちらに来る様子はない。ただ、立ち去ろうともしない。


「どうしよう?」

「ここで待ってても仕方がない。他の出口を探そう。」

心細そうに聞いてくるロロに答える。


ーーー


あれからどれくらい歩いたのだろう?

「聖光」の小さな明かりを頼りに洞窟を彷徨っていた僕達の目に僅かな光が見えた。

「出口ね。」

ロロが嬉しそうに呟く。この暗い洞窟から出られると、ボクの気持ちも昂ぶる。

でも、慌てて走り出すようなことはしない。光が漏れてきている岩陰の向こうを慎重に探る。


バタバタッ。バタバタバタッ。

突然、今日三度目のあの忌々しい羽音が響く。

「クソッ。あいつがいる。」

「どうして。だいぶ離れているのに。」

「やつは空を飛べる。ボクたちが落ちたような穴はあちこちにあって、そこに落ちた獲物を漁ってるんじゃないかな?」

「じゃあ?」

「別の出口を探そう。穴がいくつもあれば、そうそう出会う訳がない。」

グリフォンが複数いるというのも頭に浮かんだけど、ロロを不安にさせても仕方がない。それに、ボクだって、そんな事態は考えたくない。


来た道を戻り、そして、またボクたちは歩き出した。思ったとおりだ、穴ははあちこちに空いているみたいだ。しかし、光を見て喜ぶたびにグリフォンの羽音が響き渡る。たまに羽音がしないこともあるが、そういうときは天井にポッカリ穴が空いてるだけで、出られそうな道はない。


「いたっ。」

希望と絶望を何度繰り返したのだろうか。忘れてた足の痛みが戻ってきて、ボクはその場にへたりこんでしまった。

「大丈夫?」

心配そうに声をかけながら僕の横にロロが座る。

「あのグリフォンは、なんでこんなにしつっこくボクたちを狙ってるんだ?大体なんでボクたちの居場所がわかるんだ?」

疲れも相まって思考がグルグルしだす。

「魔力探知?」

こんがらがった思考が形をなす。高位の魔獣には魔力を持つものもいる。聖光の光も僅かに魔力を帯びている。これを魔力探知されているとすれば・・・・・

「逃げられない。」


「ひとりで隊から離れたナナミを・・・」

考えたくない結論に至ったその時、耳元で呟いたロロの声が妙に大きく響く。

「ボクがどうしたって。だいたいロロがひとり馬車で・・・・そうだ、あいつは最初ロロの馬車の馬を狙って来たんだ。」

頭に血が登ったボクは、言ってはいけないことを、言ってしまった。

そこからは無茶苦茶だった、お互い相手の非をあげつらい、否、非の無いこともあげつらい、責め合った。

ひとしきり怒鳴り合い、不毛な争いに疲れて、気まずい沈黙が始まる。どれくらいたったのだろうか、いつの間にか聖光の光は消え、あたりは闇と静寂に包まれる。

あんなことを言うつもりはなかったんだ。後悔がボクの心を覆い尽くしていく。

「ごめんね。」

小さくロロが呟いた。

ボクの方こそごめん。ロロを守れなかった。


・・・

・・・・・・


いつの間にか寝てしまったのだろうか?

気がつくと暗闇の中でボクは目を覚した。ボクの肩にロロが小さな頭を預けて眠っているみたいだ。スースーと、小さな寝息が聞こえる。

足の痛みはいつの間にか引いている。ロロの体温を感じてると、不思議と心が落ち着いてくる。

ぼんやりと考えるボクの目に、小さな緑色の光が写ってきた。淡い光はいつの間にか数を増やし天井一面に広がり、水面にもその光が映り込む。


「んっ。あれ??」

ロロが目を開ける。

「ロロ・・・」

「なに?」

「ごめんね。酷いこと言っちゃった。」

素直に謝る。どんなに謝っても仕方ないかもしれないけど、ただ、言葉が口をつく。

「ううん。あたしこそ。」


「きれい。」

「きれいだね。」

ぼぉとしながら、ふたりであたり一面の緑の光点を眺める。

足を撫でる風が心地良い。


・・・風?出口が近い?でも、また、でも。

希望が頭をよぎったけど、ボクたちの狙うあのしつこいグリフォンのことを思い出す。

「あのね。奇跡がすこし戻ったみたい。あと一度だけなら治癒できると思う。」

ボクが体を強張らせたのを、足の痛みが戻ったとでも思ったのだろうかロロが言う。

ありがとう、こんな時にもボクを気遣ってくれて。

バタバタバタッ

風に乗ってグリフォンの羽音が聞こえてくる。ロロにも聞こえたのだろう体を強張らせる。

なんだろう?


「ロロ、聖壁は使える?」

「できると思うけど、また逃げるの?」

「違う。もう逃げない。多分大丈夫だと思うけど、念のためにだよ。」

心が落ち着くと違和感の正体に気が付いた。思考が形を成していく。今いるここはどこだろう。グリフォンがボクたちを外から付け狙ったりするのか。いつ来るかわからない獲物を辛抱強く待つのものなのか。それに待ち伏せてるんなら羽音なんかたてるのか。今聞こえてるのは、本当に羽音なのか。


「岩のちょっと先に聖壁を張って欲しい。確かめてみたいんだ。」

「できるけど、足は大丈夫?」

「だから念のためにだよ。多分必要は無いと思うけど。」


やっぱりだ。

「ナナミっ。」

助かった安堵にその場にへたり込むと、ロロが駆け寄ってきたロロに告げる。

「グリフォンなんかいなかった。ただあれをそう思い込んでいただけだったんだ。」

天井にポッカリと穴の開いた広間を覗くと、そこにはグリフォンなんかいなかった。ただ、上から吹き込む風に煽られて、荷馬車の幌がバタバタと音をたてながら舞っているだけだった。


「ナナミ、ロロ、無事だったのですね。」

その場でへたり込んでいると、間もなく広間の向かいのスロープからフィーナさんが現れて、ボクたちに駆け寄ってくるのが見えた。後ろには、調査隊の人たちが続いてる。


助かったんだ。


ーーー


バルドルム低山帯調査報告 フィーナ(紅玉)、ナナミ(翠玉)、ロロ(翠玉)

アストル商人会が編成した調査隊に参加。低山帯地下の空洞が拡大している模様であり、ところどころに崩落跡を発見した。早急に街道ルートの安全確認と再設定が必要と思われる。

調査事項のひとつであった行方不明となった商隊を空洞にて発見。生存者はいなかった。おそらくは、空洞の崩落に巻き込まれたものと思われる。また、目撃情報のあったグリフォンは、調査隊参加者の一部による接触報告があるが、物証などはなく確認には至っていないものの、更なる調査が必要と思われる。


バルドルム低山帯地下空洞

☆(ナナミ、人族)

羊石と呼ばれる奇岩があるバルトルム低山帯に地下空洞があるのはご存知だろうか。あまり知られていないが、街道を少し外れると、地下空洞に続く穴が点在している。何らかの方法で、その中に足を踏みしめると、星明かりが届かないはずの地下空洞に、星空と見まごう無数の光点が頭上に散りばめらる光景が見られることがある。

ただし、これを見るためにはかなりの危険が伴うので、決してお勧めはしない。


★★★(ロロ、人族)

地下空洞の頭上に広がる星空は確かに美しかった。でも、そこに至る道はわかんないくて、あたしたちが辿り着いたのは遭難した上での単なる偶然だった。地下空洞そのものは、地上に開いた穴に飛び込めば行けるかもしれないけど、正解かどうかはわかんないし、帰ってこられるかもわかんない。博打どころかただの自殺行為だと思う。


ーーー


盤上の駒達を見る彼らは一様に安堵の表情を浮かべていた。

『一時はどうなるかと思ったけど』

『戻ってこれて、良かったね』


『ところで途中手を出しちゃったでしょう』

・・・

『ほんのちょっとだけだよ。もう心は決まってたんだし、結末に影響はなかったはずだよ。』


謎解きみたいなのを考えてて、上手くまとまらず、アレコレしてると、ふと「犯人いなくて良いんじゃね」って思ったのです。


タイトルの「小さな勇気」ってのは、最後にグリフォンがいないことを確かめるナナミの心象です。九分九厘確信してても残る不安。そこに一歩踏み出すのが「勇気」だと思うのです。


それにしても、最後の保険に「聖壁」ってのは、もっと良い手があるだろうって、突っ込みたいところなのです。

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