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ナナミの冒険  作者: ななまる
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花の精霊

警備隊でのバイトを終えてヴィラの花市を楽しむナナミに襲いかかる黒い影。戦えナナミ、勝利の冠は君の頭上にこそ相応しい。

司祭様からの言いつけで聖水を評議会に届けた帰り道、なにやら広場に大勢の人が集まっていた。

「いいぞー」

「やっちまえー」

穏当じゃない掛け声に何事かと人壁を掻き分けると、中央に剣を構えたふたりが対峙していた。ひとりは大柄な獣人、もうひとりは仮面をつけているのでよくわからないがおそらくは人族だろう。


「何をやってるのですか。やめなさいっ」

「ちょいと落ち着きな。」

何かの揉め事なんだろうと思い、声をあげて駆け出そうとしたあたしの肩を後ろから掴まれる。

「な、なんですか。こんな往来で、武器をもって戦うなんて、ほっとけません。」

「落ち着いて連中の左手を見てみな。」

「左手?・・・・あっ。」

よく見るとどちらも左手首に鳶色の鎖を巻いている。動きがあって見づらいが鎖についている小さな像はおそらく熊だろう。

「熊?」

「そうさね。納得言ったかい。」

熊は力の象徴だ。このヴィラの街には、今、花市を目当てにいろんな人が集まってきている。中には腕自慢の冒険者なんかもいるが、自らの力を示したい者や自分の力試しをしたい者は、熊を形どったシンボルを身につける。要は、揉め事なんかではなく、両者合意の力比べだってことだ。

「わかったみたいだな。俺達警備隊の者も控えているし、滅多なことは起こらないさ。」

事情を理解して力を抜いたあたしに、人懐っこい笑顔を向ける。


「うぉおおっ〜」

ひときわ大きな歓声があがる。何事かと中央のふたりに目を向けると、獣人が振り下ろした剣を人族が小さく半歩引いてかわす。地面を打ち砂埃があがる中、跳ね上がった剣が人族を襲う。

「なっ」

獣人の技量に思わず声がでる。

「やるねえ。だが、甘い。」

警備隊員が呟く。

人族は跳ね上がった剣をこれまた小さく避けて、そのままの動きでショートソードを振り上げる。

無造作だけど流れるような動き。でも、当たる訳がない。無理な姿勢から、リーチも足りない。剣術には詳しくないが、あたしにもそれくらいはわかる。

「えっ」

確かにショートソードは空を切った。しかし、ショートソードの軌跡にそって、何かが煌めく。

「花びら」

ショートソードの動きに合わせて、無数の花弁が獣人を巻き込みながら舞い上がる。

次の瞬間、はらはらと落ちる花弁に包まれながら、人族が、膝をついた獣人にショートソードの切っ先を向ける。

「ボクの勝ちだね。」


「うぉおおっ」

「すっげっーぞ」

一瞬遅れて、歓声があがった。


「ぷぷっ」

「ロロ、笑いすぎ。」

「でも、その格好。」

「ああっ、似合ってるぜ。」

あたしがもらした笑いに、ナナミがぷくっと膨れ、ミリカさんがちゃちゃを入れる。

ミリカさんは広場であたしに声をかけてくれた警備隊員で、ナナミは広場での力試しをしていた人族だ。

ナナミの目の周りには大きな丸い青痣がついてる。ナナミは、あたしが見たのを含めて4人抜きしてたらしい。で、調子に乗って5人目を抜こうとして、敢え無く敗北を喫したのだった。まぁ、相当な実力があっても連戦てのはきついものだけど、その負けっぷりが余りにも見事で思い出しても笑える。

ただ、あたしとミリカさんが笑ってるのはそれだけじゃない。ナナミは珍妙としかいいようのない格好をしているのだ。ドレスとも見紛うシルエットの白を基調としたローブに無数の花があしらわれている。赤、黄、橙、紫、青、色とりどりの花に包まれ、頭にはご丁寧に花冠までつけている。

これが、さっきの戦いで舞い上がった花弁の正体だ。戦いの最中は無駄のない動きと相まって花の精かと見惚れたが、落ち着いて見るとちんどん屋だ。

「ところで、あんたこれつけてるってことは・・・」

ミリカさんがナナミの腰についている大きな青いリボンを指して訊ねる。

「そうだよ。品評会に参加してるんだよ。」

品評会っていうのは花市での催しのひとつで、花を使って作った何かを出品物の出来を競うってものだ。参加は自由、出品物の種類は問わない上に、審査員特別賞ってのがあって、これを狙ったイロモノで参加する素人も多い。

審査もどっかの会場に出品物を並べてってのじゃなくて、参加登録すると渡される青いリボンをつけとけば、街中の何処に置いておいてもいいってものだ。普通は、店先とかに置いておくんだけど、審査員の目を引こうと、あの手この手を使う者も結構いる。だからって、自分で着て街中を歩くなんて。

「ボクだってこんなことしたくないけど、ああやって人目を引けって、ダノンさんが・・・」

「ダノンさんか・・・なら仕方ないな。」

「うん、仕方ないね。」

ナナミの言葉にあたしとミルカさんは頷いた。


ーーー


「駄目だって言っるたろう。あんたもわからん人だな。」

「私は諦めんからな。また来るぞ。」

「何度来ても同じだ。もう来るんじゃねえ。」

タノンさんの怒鳴り声えを背に、銀の斧亭からひとりの女性が出てきた。フードを深く被って顔はよく見えない。

「お前たちは・・・いやいい。」

ミリカさんを見て女性は一瞬立ち止まるが、そのままの足早に去っていった。


「ミリカさんのお知り合いですか?」

「いや知らんな。」

「ミリカさんのことだから、忘れてるだけなんじゃないですか。」

無駄口を叩きながら店内に入ったボクたちをダノンさんが迎えてくれる。

「ナナミ、首尾はどうだった。」

「参加登録して、ちょこっとデモストレーションもしといたよ。まぁ、楽勝だったね。」

「何処が楽勝だったのかな?」

横から口出ししてきたロロがフードに手をかける。

「ぶわっはっは。なんだその顔は?負けたのか?」

「最後の一人だけだよ。その前に4人抜いたよ。」

「最後に負けりゃ、負なんだよ。実戦ではな。」

ボクの顔をみて笑うダノンさんに言い返すと、ミリカさんが笑いながら口を挟んでくる。それくらい、わかってるよ。


「おぉ、ミリカ久ぷりじゃねえか。なんか食ってくか?ちょうど昼が終わったとこなんで、賄いで良ければだがな。ナナミ、ロロも一緒でいいな?」


「いやー食った。ダノンさんの料理は、相変わらず美味いねぇ。ところで、今年はアレだけなのかい?」

遅めの昼食を終えて、人心地がついたところで、ミリカさんがダノンさんに問いかける。アレってのは、ボクが身につけているフラワー・アーマーのことだろう。アーマーじゃなくて、ローブかドレスじゃないかって?革鎧にレースを幾重にも被せて花を生ける土台にしてるんだから、見た目は兎も角としてアーマーで正しいのだ。因みに花は、切り花じゃなくて根もついている生きた花なので、戦いなんかで多少傷つけられても復元するようになっている。

「なかなかのもんだろ。」

ダノンさんがニヤリと笑って応える。

「ナナミの戦いを見てたが、初見殺しには使えても、ネタがバレたらお終いだろう。」

「ネタって?」

ミリカさんにはバレてたみたいだ。ロロにはわかって無いみたいだけど。

「フラワーアーマーの花はほとんどは毒花なんだ。これを頭の花冠を通じて操作してるんだ。」

「あっ。だから、さっきの戦いで獣人が倒れたんだね。」

「そう花の毒を吸い込んじゃったって訳。」

「でも・・・」

「ボクが大丈夫なのは仮面のおかげだよ。これの空流操作で花の出す毒の動きをコントロールしてるんだ。あと、多少の解毒作用もあるしね。」

「だから5人目は頭を狙ってきてたのね。」

「そういうこと。魔力の流れを感じたんだろうね。仮面と花冠が怪しいと目星をつけられちゃったみたい。結構繊細な魔力操作が要るから、ちょっとミスって自分も吸っちゃったっんだ。まだまだ実戦に使えるものじゃないってことだよ。」

「なーに言ってるんだ。アイデアを形にし、使い、修正するっての繰り返さなきゃ、完成に至らないんだ。彼の名匠カシュナルトもそうやって伝説と呼ばれた神速の剣を完成させたんだ。」


「で、他のはどうなんだ?さっきの連中も関係してるんだろ?」

ミリカさんが訊ねる。

「あとふたつ。ひとつは競りに出す新種のセコックだ。」

セコックっていうのは花の一種で園芸用に広く栽培されている。で、これが変種が異常に多い。本来は白く小さな花をつけるものらしいが、花が巨大化する、色が変わる、二重、三重と重なるなどなど。同じ種類とは思えないほどの変化があり、好事家にとってはたまらないものだそうだ。ダノンさんは見かけによらず園芸を趣味にしていて、店裏の大きな温室で様々な植物を育てていて、セコックの育成者としてもそこそこ名前が売れてるらしい。

「去年、競りに出した逃した歩くセコックを更に改良した。去年のあれはテトラフィッドの掛け合わせに成功したもので育種家としてはなかなかのものだが、いかんせん花が地味な上にすぐ落ちるから素人さんには受けなかった。今年は、ここんとこを改良したものを出す。今年こそ、最高落札額をいただくぜ。」

テトラフィッドっのは、南方の植物で食肉草とも呼ばれてる。毒のある鞭のような蔓でネズミなんかの小動物を打ち据えて動けなくしたら、4本の根っ子を自分で引き抜きながらゆっくりと近くまで移動して、獲物を少しずつ吸収するって生態を持っている。この蔓の付け根から良い油が取れるとかで何株か栽培してるそうだ。毒持ちなのでフラワーアーマーにも当然採用してる。

「なるほど、さっきの連中は、それを狙った何処かの好事家の手先ってとこか。警備隊でも少し気をつけるようにしとくよ。それじゃあ、そろそろ、お暇するぜ」

「おおっ頼むぜ。こいつの警備のためにナナミを呼んだんだが、ミリカもいれば心強いぜ」


「ナナミ、警備隊の応援が前半だけだったのって・・・」

ダノンさんとミリカさんのやり取りを聞いて、ロロがボクに聞いてくる。

「そうだよ。ダノンさんから、指名依頼で自宅警備及び開発助手等ってのを受けてたんだ。」


「ところで、もうひとつって何なのでしょう」

ミリカさんが慌ただしく帰った後、お茶を飲みながらロロが口を開いた。

「ああっ、それはコレだ。競りとか品評会じゃなくて、店で出すもんだがな。」

そう言ってダノンさんが持ってきた大皿には、色とりどりの花びらが盛り付けられていた。


「きれい。」

「美味しい。」

「そうだろ。そうだろ。」

驚きの声をあげるロロとボクに頷くダノンさん。でも一番驚いたのは、真当なものが出てきたことに対してだ。


ーーー


指名依頼完了報告 ナナミ(翠玉)

ダノン氏からの依頼、自宅警備及び開発助手等完了。依頼主からの完了証明を添付する。


銀の斧亭

☆☆(ナナミ、人族)

ヴィラの街西区画にある銀の斧亭は、元冒険者のダノン氏が切り盛りする酒場だ。氏は園芸家とも知られており、氏が手ずから育てた野菜を使った数々の料理は正に絶品。

お勧めなのは花を使った料理の数々。花のサラダは、ウスバアオイ、キンギョウソウ、ノウゼンハレンなど色とりどりの花を使った目にも嬉しい一品だ。観賞用として知られるセッコクにも食用に改良されたものがあるそうで、肉厚の白い花弁は、僅かな塩味が甘みを引き立て、ソースの酸味と見事なハーモニーを奏でる。

食後には、もちろん特製のハーブティーがお勧めだ。


☆(ロロ、人族)

銀の斧亭はヴィラの街にあるごく普通の酒場です。店主さんが菜園を営んでるだけあって、野菜は絶品。他の料理も、丁寧な仕込みと、豪快な盛り付けで満足感が充分に得られます。看板(?)の食用花は、いろんな料理に添えられて、目も楽しませて貰えます。

とはいえ、気取った料理屋さんというよりは、やっぱり酒場なので、大勢でワイワイとお酒を飲みながら食事を楽しむことに向いていると思います。

ただ、店主さんがかなり大雑把な性格なので、ご自身で作出した野菜なんかには、種族によっては禁忌になるようなものもあったりするので要注意です。特に、木の子類!!


ーーー


『食用花ってそんなに珍しくないよね。』

『結構ある。ブロッコリーなんかはもろ花だもんね。』

『それにしても木の子って何があったんだ?』


・・・・痺れてました。素人の木の子料理は危険です。


花霞を纏って戦う姿が浮かんで書いてみました。そこからレポートの食用花までは一直線。

途中の怪しいと女性とのあれこれは、長くなっちゃったので割愛しました。また、別の機会に書いてみたいと思います。

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