#003
アンジェリカは目を覚まし先ず目に入って来たのは毎日見ている自室だった。
ベッドの横には母のシンディーが椅子に腰掛けていた。
シンディーはアンジェリカが目を覚ました事に気が付くと椅子から立ち上がりアンジェリカを抱きしめた。
「っえ……お母さん如何したの?」
「よかった……アンジェ貴女が目を覚ましてくれて本当に良かった」
シンディーはアンジェリカが今の状況について行けずに困惑しているのにも構わず、抱きしめたまま放そうとしない。
アンジェリカは現状を把握できなかったがシンディーを抱きしめ返した。
お互いに落ち着くと離れ、アンジェリカは何があったのかを訊ねた。
「アンジェが何時まで経っても帰ってこないから男性陣に頼んで森に探しに行ってもらったら、貴女が倒れているのを見つけてくれのよ」
「あの……変な事訊くようだけど、私が倒れていたところに他に何かなかった?」
「貴女が倒れていた事以外には聞いてないけど、何かあったの?」
「何もなかったら別にいいの」
「そう?……私はこれからアンジェが目を覚ました事を皆に知らせて来るから、貴女はこれでも食べて待っててね」
机の上にはアンジェリカが何時目を覚ましても大丈夫な様に、ご飯が作って置いてあった。
シンディーが部屋を出て行くとアンジェリカはご飯を食べながら思いを巡らせていた。
(森の中で起こった事は夢だったのかな?)
『夢じゃない、あれは実際に起こった出来事だ』
「っえ、誰? 誰かいるの?」
アンジェリカのその問い掛けに応えるかの様に、アンジェリカの体から光が現れそれが人の姿へと変わっていった。
その姿はアンジェリカが森の中で出会った男だった。
「貴方は何者なの? それに私の……ト……奪って」
「ん、なんだって?」
「ファ……ス……」
「ん、だから何だ? しっかりと聞こえる声で言ってくれ」
「だからファーストキスよ!ファースト・キ・ス!! 私の大事なファーストキスを奪っておいてよくも平気な顔で私の前に現れたわね。ただじゃ済まさないわ!!」
「初めてだったのか、それはすまなかった。だが精霊と契約をする時はキスをするだろう?」
アンジェリカは自分がこんなにも狼狽えているのに、ジルが冷静な事に余計に腹が立ってきた。
「貴方は精霊じゃなくて人間でしょ!」
「ああ人間だ、と言っても今は精霊でもあるけどな」
「如何いう事なの?」
「精霊化と言う言葉に聞き覚えはあるか」
「たしか精霊と契約した人が契約精霊と一つになるってやつでしょ。それが何か関係あるの?」
「実は俺は精霊化を解除できなくされた。だから俺は人間でも精霊でもあると言ったんだ」
「そうなんだ……ってそんな事は如何でもいいの! 私の大切なファーストキスを奪ったんだから責任を取ってもらうから、って言うか取りなさい!」
「責任って俺に何をして欲しいんだ。お前を嫁にでも貰えばいいのか?」
「そんなの嫌に決まってるでしょ。なんで親と同じくらいの年齢の人と結婚すると思ったの、頭大丈夫? 大丈夫じゃないか。森の中でいたいけな少女に覆い被さって私が抵抗できない状態でファーストキスを無理やり奪う人に訊いた私が間違ってたわ。ごめんなさい」
「いたいけな少女ね、はぁ~お前よく面倒くさいって言われないか?」
「そんな事は如何でもいいの。貴方強いんでしょ、責任として私を鍛えなさい」
「そんな事って……お前が話し始めた事だろ。っで俺に鍛えてほしいんだな、それは好都合だ」
「好都合? って如何いう事なの?」
「元から頼まれなくっても鍛えるつもりだったからだ」
「もしかして私面倒ごとに巻き込まれたの?」
「もしかしなくても巻き込まれたな。っで如何するこのまま面倒事に巻き込まれるか、此処で死ぬか、どっちを選ぶ」
「そんなの選ぶも何も選択肢は一つしかないじゃない! 面倒ごとに巻き込まれてあげる、だから私を鍛えて……誰にも負けないくらいに。私はアンジェリカ、貴方の名前は?」
「俺か? 俺はシルヴェスターだ、生きてる事を気付かれると困るんでジルって呼んでくれ」
「私もアンジェで良いわ。これからよろしくジル」