#002
アンジェリカは首をかしげていた、何故こんな辺境の土地にある森の中で見知らぬ男が倒れているのだろうかと。
此処はイスピリト王国の北西に位置する村アグロス。
村の人口百名程度、王都まで馬で片道四日、お店なんて物もなくこの村に住む者達は皆自給自足で支え合いながら生活している、そんな田舎がアグロスだ。
そんな田舎にある森の中で見知らぬ男が倒れていたら事件の臭いしかしない。
アンジェリカも危険な事に巻き込まれるのは嫌なのか一瞬の躊躇いを見せたが、意を決し男の隣に膝立ちになり触れようとする。
直後、木が折れる音がしてそれがゆっくりとだが近づいて来る。
森で木を折る音を隠さずに行動する存在など限られている。魔物だ。
ゆっくりと大量の木を折りながら移動する存在など、アンジェリカは魔物以外に知らない。
アンジェリカは魔物が近づいて来ている事に気が付き男を連れてその場から離れようとしたが、脚が震えて上手く立ち上がれない
立ち上がろうと何度も試すが立ち上がる事ができない。
そうこうしている間に魔物は姿を現した。ブラッディベアーだ。
ブラッディベアーは黒い体毛に覆われその体毛の間から皮膚が光るのが見える。
それが血の様に赤黒い事からブラッディベアーと名付けられたと言われている。
その姿は大人でも漏らしてしまった者がいるとかいないとか。
アンジェリカは立ち上がろうと考える事すらできなくなり、ブラッディベアーが一歩また一歩と近づくのに合わせて後退り。
だがアンジェリカがまた後退りしようとすると木に遮られてしまった。
アンジェリカはもう逃げる事はできないと悟り、段々と迫り来る死の恐怖に顔が青ざめる。
「っい、いや……死にたくない」
「生きる為なら何でもできるか?」
「何でもする。何でもするから私を助けて!」
アンジェリカが聞こえた声にそう返事をすると、アンジェリカの横に倒れていた男がアンジェリカに覆い被さった。
「へ?」
アンジェリカは男が突然動いたことに驚き間抜けな声を上げたがすぐにその口は塞がれた、男の口付けによって。
「契約は完了した」
男はアンジェリカから口を離しそう言うと、剣と袋を残して光の粒になりアンジェリカの中に入っていった。
そしてアンジェリカの体に変化が現れた。
陽の光を浴びて煌めく海の様な水色髪と加工後の翡翠の様に綺麗な翠眼は、新品の剣や鎧を連想するような銀色に輝いていた。
ブラッディベアーはアンジェリカの突然の変化にその脚を止め様子を窺うが、アンジェリカが俯き動く気配がないのを確認すると、また一歩ずつ距離を縮めようと脚を前に出す。
ブラッディベアーが脚を地面から話したのと同時にアンジェリカは落ちている剣を抜き立ち上がる。
そしてその時には既に剣は振るわれており、ブラッディベアーの体は横に一閃されていた。
ブラッディベアーはバランスを崩して倒れるが、起き上がる気配がない。
アンジェリカはブラッディベアーが死んだ事を確認すると、剣を鞘に納め落ちていた袋を拾い、その中にブラッディベアーの死体を入れた。
入れ終わるとアンジェリカの髪と目が元の色に戻り顔は少しずつ青くなっていったかと思うと気を失い倒れた。