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#001

一周年記念に新しい作品を書いてみました。

別の作品も疎かにしない範囲で此方の作品も書いていく予定です。


 ジルは彼是三年間山奥にひっそりと建てられたこの研究所で過ごした。

 その間此処で生き抜く為に何でもしてきた。だがそれも今日で終わらせる。

 ジルは今まで従順なフリをしながら研究所から抜け出す為に計画を立ててきた。

 だが警備は厳重でこの研究所は来る者は拒み出る者は逃がさない。

 もし抜け出そうと考えている事を気付かれれば良くて処刑、最悪の場合は永遠に実験の材料として扱われ死ぬ事すら許されない。


 だからこそ慎重に計画を立ててきた。

 そして今日、抜け出すのに絶好の機会が訪れた。

 ジルは今まで練っていた計画を実行に移した。

 だが悲しい事に普段と警備の配置とセンサの位置が変わっていた。

 その事に気付き細心の注意を払い行動していたが。

 あと少しの所で隠されていたセンサに引っ掛かり気付かれてしまった。

 こうなってしまってはもう後に引けない、気配を消し研究所の外を目指す。


 ジルがセンサに引っかかってまだ数分しか経っていないのにもう駆けつけてきた。

 駆けつけてきたのは三人、全員精霊化をしているがジルは態々三人の相手をする気はない。

 相手をしている間に増援が来られると更に逃げづらくなるからだ。

 だからこそ少しぐらい傷付く事を覚悟でジルは警備を強行突破する。

 ジルにとっては幸いな事に三人は警備を任される程度の実力だ。

 ジルは全ての攻撃を躱しながら通り抜けて研究所の外に出ることができた。


 ジルはこれで逃げられるかと思っていた、だがそこには一面精霊化をした者達が虫一匹であろうと逃がさないと言った空気で囲いを造っていた。

 ジルが何処かに抜けられる場所はないか探っていると、研究所での最高戦力である十二人に与えられるナンバーズと言う称号を持つ者の一人、№Ⅱのジョサイアが近づいてきた。

「態々お前が出て来るとは思わなかったよ。過剰戦力過ぎないか?」

「まさか貴様が裏切るとはな……残念だ」

 ジョサイアはジルの問い掛けには答えず、誰にも聞き取れない呟きを漏らし剣を抜き構える。


 ジルはジョサイアが剣を構えたにもかかわらず剣を抜こうとすらしない。

 その姿はジルの事を知らない者が見たら舐めている様にしか見えないだろう。

 だがこの場にいる誰もそうではない事を理解している。

 ジルはどの任務であっても剣を抜かない事は周知の事実だからである。

 ジルが今までに戦闘で剣を抜いたのは二度しかない。

 一度目は単独で番の龍を二匹討伐した時。

 龍を一匹討伐することは国に仕える騎士であっても一人で討伐することができる者は片手で数えられる程度だ。

 ましてそんな存在を二匹同時に単独で討伐できる者など、数か国に一人いるかどうか?

 そして二度目は前№Ⅶと戦いその座を奪い取った時。

 ナンバーズの戦闘を見る事ができるものはほんの一握りしかいない。

 つまりジルが剣を抜かないという事は本気で戦う必要がないと言っているのと同義なのだ。


 そしてこの場にいるジョサイア以外の者は、ジルが№Ⅱを相手にするのに本気を出す必要がないと判断していることを理解していない。

 だからこそジョサイアは平静を装いジルのその侮辱とも言える態度に対する怒りを隠す。

 それを知ってか知らずかジルが問いかける。

「如何した掛かって来ないのか。それならそこを通してくれないか」

 それを聞いた瞬間ジョサイアは一瞬にしてジルを斬りつけていた。


 ジョサイアはけして感情に流される男ではない、寧ろ冷静沈着で任務中は感情を一切表に出さない。

 今も感情に流されて行動した訳ではない。

 №Ⅱとしてジルにこれ以上口を開かせるべきではないと判断してのことだ。

 それはそれとして、二人を囲っていた者達は驚きを隠せずに立ち尽くしていた。

 ジョサイアが一瞬で移動した事にではない。

 ジルがジョサイアの剣を摘まんで止めていたからだ。


 この場にいる者の大半がナンバーズの実力を知っている訳ではないが、一瞬で斬りかかる事に今更驚く者はいない。

 この中にもジョサイアと比べれば速度も距離も劣るが出来る者がいるからだ。

 だがそれを精霊化もせずに指で摘まむとなると話は別だ。

 普通なら剣で受け止めるか躱すのどちらかだ。

 そんな非常識な行動を見聞きした事のある者等一人もいない。

 故にそれをできて当たり前とでもいうかの様に存在するジルに驚愕し恐怖する。


「如何した? №Ⅱの実力はこんなものじゃないだろ、本気で掛かって来ないならそこを通してくれよ」

「ふざけるな、貴様を始末せよと上からの御命令だ、故に此処で貴様を殺す」

 ジョサイアが一旦ジルから離れ剣を構え直したが、その時にはもう既にジルの姿がこの場から消えていた。

 囲んでいた者達は慌てているがジョサイアだけは落ち着いていた。

 ジョサイアに捜索の指示を出すように要求する者出てくるがジョサイアはそれを全て却下し、待機しているように命じこの場から離れた。


    ■■■


 一方、一瞬であの場から逃げ出したジルはと言うと精霊化をして山々をまるで平地を走っているかのような速度で駆け抜けていた。

 山に棲んでいる魔物は本能でジルに恐怖を抱いているのかジルに道を譲るように逃げて行く。

 もうこの山にはジルの逃走を阻む者はいなかった。

 だがジルは未だ気を抜くことを許されていなかった。


 ジルの背中には逃げ出す際にジョサイアに無数の傷を付けられていた。

 その程度であれば大した問題にはならなかった、だが今現在ジルは精霊化を解除する事ができないのだ。

 精霊化をしている間、常に魔力を消費する代わりに莫大な魔力を得られる。

 だが解除できないとなるとそう時間が経たない内に魔力切れを起こし死に至る。

 通常の魔力切れならば魔力を使わずおとなしくしていれば死に至ることはない、だが精霊化を解除できない以上魔力切れが起ころうとも魔力を消費していく。


 もう既にジルには魔力切れの兆候が出ていた。

 このままだと後数十分の内に動けなくなり永遠の眠りにつく事になる。

 ジルは倒れそうになる体に鞭を打ち走り続ける。

 何処か人の暮らすところへ。


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