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SARA  作者: ホーリン・ホーク
Harley-Davidson
9/34

9.times outare 〜旅路②

 一九九二年、フリーホイールから七百キロ。

 そこは商業都市タイムズアウトア。

 マフィアのドン・ラブシーニは恋に悩める男だった。

 正妻はさておき、愛人が十人以上いた。

 裏稼業のファミリーの重要財源として〝マインドマート〟なるチェーンストアを展開していた。


 時折ラブシーニは店に入り品定めをする。

 そこで何人の女たちを手に入れただろう。

 ただ、金目当てで群がる女どもは、本当は嫌いだった。

 ――あいつらは俺の威光・権力に惹かれ金に惹かれてるだけだ。俺は本当の恋がしたいんだ。俺の心を愛してくれる女。今の女は誇りも何もねぇ。俺は……純粋な恋がしたいんだと、だがそれでもついつい札束を振りまいてしまう自分がいた。

 彼は恋に悩める男だった。



 その夜、ラブシーニは()()()広いおでこを押さえた。

 マインドマートの店内、彼は一人レジカウンターの椅子に座ってボーッと一人の女性客に、気がついたら見惚れていた。

 ライダースーツ姿の、ブロンドの髪をポニーテールにした美しい女に。

 昔彼はバイクに突っ込まれて瀕死の重傷を負ったのでバイク乗りは嫌いだったがこの時ばかりは違った。

 凛と清々しく、特別な輝きを放ってる……おっとうっかり、ラブシーニは瞬く間に恋の病いに落ち入った。



 ライダースーツの女――サラは買い物カゴをレジに置いた。


 立ち上がるラブシーニ。彼はまん丸い太鼓腹を精いっぱい引っ込め、胸を張りながら商品を袋に詰めた。

 サラが「え? スキャンは……」と訊く前にラブシーニは百万ニーゼを手にしていた。

 ――いかん、また悪い癖が……でも……「俺の女になれ」と彼はつい口から先に出てしまった。


 ポカンと驚いているサラ。何の冗談かと思った。

 しかしラブシーニは抑えきれなかった。

「お前に一目惚れだ。俺の女になってくれ」と言って札束をサラの手に握らせた。

「ちょ、ちょっと何すんのよ変態! 気色の悪い」

 サラはそれを突き返し、買う商品の代金をきっちりカウンターに置いた。

 ラブシーニが薄い頭頂部まで真っ赤にして声を荒らげ、

「おい! よそ者だとは一目瞭然だがこの俺を誰だと思ってる! 〝エルドランドの交差点〟タイムズアウトアの顔役ドン・ラブシーニだぞ!」と言って彼女に手を伸ばしたところで一人の男がドカドカと店に入って来た。

 それも血まみれ命からがらで……。



「……ボス、お、叔父貴を……()られちまいました」

「何ぃ?!」

 それはファミリーの幹部ダトローニだ。

「や、奴らと……いよいよ全面抗争ですぜ……」と虫の息。ラブシーニは困り果てる。


 申し訳ないけどお邪魔しましたとサラは紙袋を胸にツカツカ店を出て行こうとする。

「ま、待ってくれ! 時間がない、頼む! 二百……いや五百万でどうだ?!」と吠えるラブシーニにサラは振り向いてあっかんべーした。

 ついにラブシーニは追っかけた。

 そして彼女の右腕を掴む……が、スパッと払い除けられた。


「ボスを待たせてるの。やめてちょうだい」

「クッソーてめえ、下手に出てりゃあ……ボスとは誰のことだあ?!」


 店の扉が開き、照明を浴び燦然と待ち受けているのはハーレー・ダビッドソン――サラが言う……

「BOSS HOSS !」

 そして這いつくばって追ってきたダトローニが渾身最期の力でラブシーニの足を掴んだ。


 光り輝くモンスターバイクに唖然としながらラブシーニはそのまま前つんのめりに倒れ込んだ。

 そのズッコケがちょっとおかしかったが、助けてもあげられずにごめんなさいとサラは手を振り、轟音と共に夜のネオンと雑踏に消えていった……。



挿絵(By みてみん)

挿絵(By みてみん)

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