8.invitation ticket
「パパ、おかえりー!」
小学生のサラが勢いよくブリウスの胸に飛び込んでくる。
「おぅ! ただいま、今日も元気だな」
「ねぇいっしょにプロレス見よーよ、早くー!」
「じゃあ、これ食べながらな」と言って差し出すご褒美のケーキ。
「お前の好きなチーズケーキだ」
「やったーー!」
キッチン。クリシアは忙しく食事の支度をしている。
「ごめんね。調味料きらしてバタバタしてたの」
「いいよ気にしないで。いつも家族のためにありがとう」
ブリウスはランチボックスを水に浸した。
「……何よ。あらたまって」
「ハハ……別に」
「……あ。わかったわ。何かおねだり?」
「違う違う。帰りが遅くなって申し訳なくてさ」
彼の様子で話したい事があるのをクリシアは察した。
「どこへ寄り道してたの?」
「……デスプリンス」
「え?」
「ライセンスに会ってきた」
忘れたい過去。離れているのがつらかったあの頃。
前に進むためにも、二人の間であの四年間の事を話すのは避けてきた。
「ごめんなクリシア。近くに行ったものだから」
ブリウスは、出した手紙も返事はいらないとし、クリシアを気遣っていた。
「どうしても顔を見たくて……。随分と痩せていたよ」
手を動かしながら最後の盛り付けをした後、クリシアは優しく返した。
「言ってくれてもよかったのに。もし次に訪ねる時は早く言って。私も連れて行って」
「……すまない。ありがとう」
「忘れたいけど……あの人は私たちを助けてくれた。やっぱり忘れられないわ」
そこへ痺れを切らしたサラが駆け込んでくる。
「もうパパ、プロレスおわっちゃうよー! ニッポンのイノキってのが強いのなんの!」
「あ、ああ! ごめんごめんお手伝いしてたんだよ、もうゴハンも出来たから」
クリシアもパシッと手を合わせ謝った。
「お待たせ! サラ。さ、食べよ!」
豪華パエリアに目を光らせるサラ。
「わぁー! おいしそーーっ!」
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一ヶ月後、ブリウスのもとにR.J.ソロー〝OUT OF HERE ツアー1981〟その招待券が届いた。
それはライセンスからブリウスへの謝礼として、彼の友人ジョーに頼んで送らせたものだった……。