4.unknown legend 〜出発
一九九二年、九月。
必要な物だけ、全てバッグに詰め込んだ。
鋼鉄の愛馬の整備も抜かりない。
マゼンダのレザースーツを着、髪を束ね、ブーツを履く。
ひび割れた丸太の椅子に腰掛け、ジッポーで最後の煙草に火を着ける。
出発前、これからしばらく世話になるハーレー・ダビッドソン〝BOSS HOSS〟。
その勇猛なライン、畝るファイヤーパターンを静かに見つめる。
これから彼女は旅に出る。
これから彼女は夢を叶えに行く。
煙草を揉み消し、アッシュケースごと捨てた。
晴れ渡った空を見上げ、彼女は立ち上がった。
頑強なシートに跨り、キーを回す。
地に重く轟く、ハーレーの嘶き。
メタリックな巨馬の猛々しい咆吼。
「素敵よ。あなたの鼓動」
サラはそう微笑んでサングラスをかけ、ハンドルを握った。
フリーホイールの地からシュガーマウンテンまで。
それは知る人ぞ知る、伝説の物語――。
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砂漠を走るハイウェイのどこか
ハーレーに跨って疾走する彼女
金色の長い髪を風に踊らせ
これまでの人生の半分を走り続けてきた
彼女の愛馬は
黒光りするクロームと頑丈な鉄のボディ
あの娘の発散するやさしい雰囲気と
およそ似つかわしくないのさ
――〝UNKNOWN LEGEND〟 ニール・ヤング