32.new departure
だいぶ昔の話だ。
〝R.J.ソロー〟ボビィは歌番組のダーツゲームで見事ハーレーを獲得した。
だが若き日のバイク事故による恐怖症で乗れず、それを友人のブリウスにプレゼントしたのだ。
久方振りのボビィからの電話はこうだった。
《どうだいブリウス。ハーレーの調子は?》
「おーぅ絶好調で乗ってるぜぃ! 娘が」
《あれをサラちゃんがあ? ひぇ〜〜っっ!》
「少し前だがあれでシュガーマウンテンまで行ったよ」
一九九四年、快晴の春。
そこはフリーホイールの地、プディング宅。
二年間の専門学校生活を終えたサラは次なる旅支度をしていた。
外で父ブリウスがハーレーBOSS HOSSを磨いている。
荷物をまとめたサラがちょこちょこやって来る。
「わあ! ピッカピカ、ありがとうパパ」
「だろう? 俺が乗ってこうかな〜」
「一緒に行く?」
「やめとく。俺は命が惜しい」
青い空に白いシーツがなびいている。
小さな庭に、穏やかな陽射し。
ブリウスは遠くの尾根に友ジャックを想う。
彼との出会いが始まりだった。
ジャックが奪ったとされる金を巡っての騒動は終結した。
〝ナピス〟崩壊後、ジャックは二億を入れたギターケースを車のバックシートに隠していた。
それはあの襲撃の後、車の修理工場で発見された。
クリシアはその金を震災義援金として寄付した。
レイ・ニードルからもその後『ウォルチタウアーはムショで死んだ。安心しろ』と電話があった。
レイやダグラスがこれからも陰で見守るという。
ジャックとの出会い。ブリウスに悔いはない。
彼は最後まで《妹を頼む》と言った。
――そう、クリシアは俺がずっと守るんだ……。
決意を新たにブリウスは煙草を揉み消し、サラを見た。
随分悩ませた。つらい思いをたくさんさせた。
それでも少女のままの瞳で見つめてくれた。
君がいてくれた、それだけでいいと彼は心から思った。
感涙鼻汁垂れまくりのブリウスをサラが見る。
「うぇー。パパブサイク」
「は、ハハ……うるさいわい」
サラはその顔をティシュで拭いてあげる。
「……ごめんな。お前を困らせてばかりで」
「もう言わない。パパがどんなでも、大好きよ」
「お前には感謝しかない。パパもママもお前が誇りだ。大好きだ」
二人は笑顔で頷いた。
「……サラ。ママと話したか?」
「うん。昨日の夜、ゆっくり」
「そっか。……じゃ、もう行くんだな」
「うん」
サラは家の中にいるクリシアに。
「ママーーッ! そろそろ行くねーーっ!」
洗濯籠を持ったクリシアが慌てて走ってくる。
「はーーい! 気をつけて! 行ってらっしゃい」
END




