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SARA  作者: ホーリン・ホーク
Harley-Davidson
3/34

3.sara

挿絵(By みてみん)


 一九七〇年、ブリウス・プディングは刑期を終え出所した。

 翌年クリシアと結婚し、幸せな家庭を持った。

 長距離トラックに乗り真面目に働いた。

 前科者として時に白い目で見られることもあったが、会社では熱心な働きぶりが認められ、気にすることはなかった。


 フリーホイールの土地に家を借り、週末にはクリシア手作りのアップルパイを楽しみにした。

 二人はいつも仲が良く、たくさん話をした。

 幸せな二人の間に一九七二年、子供が生まれる。


 生まれたのは女の子で「サラ」と名づけられた。

 それはR.J.ソローの曲のひとつ、〝SARA〟の主人公サラからとった。

 凛と拳を握って立つ、夢を諦めない女性――そんな理想と願いを込めて、名づけた。


 サラは母乳をよく飲み、元気に育った。

 よく食べよく眠り、よく遊び過ぎてよく困らせた。



 ****



「サラぁ、何てことするんだ!」

 三歳の頃、サラは飼い猫トムの首輪に毛糸の手綱をつけ、その上に乗っかって遊んでる。

 見つけたブリウスがそれを叱った。


「かわいそうじゃないか」

「ンマさん……ンマさん」

「え? ……ンマ……馬?」

 そこでクリシアが言った。

「だめよサラ。……あーそれ〝夕陽のヤングガン〟の真似よ。テレビであった西部劇をサラ夢中で見てたもの」

「カ、カウボーイか……」



 ****



 朝、トラックに乗り込むブリウス。

 それをクリシアと五歳のサラが手をつないで見送る。クリシアが訊く。


「忘れ物、ない?」

「ああ。帰りは明後日の朝になるかもしれない。電話するよ」

 サラが物憂げな顔でパパのことを見つめてる。

「……ん? サラ、どうした?」

「……サラもいきたいなぁ」

「ええ? パパはお仕事に行くんだぞ。わかるだろう? サラはママといるんだ。おとなしく、いい子にしてなきゃ」

「いきたいなあ……」

「だめって」

 ぷぃと口を尖らせたサラは家の中へ駆け込んだ。


 ブリウスとクリシアが顔を見合わせ息をつくとサラがまた走って飛び出してきた。

 背中にはリュック。ヌイグルミを抱いて。


「サラもいく。パパみたいにながたびするの」

「だから仕事だって! お・し・ご・と」

「サラ、そんなワガママ言っちゃダメよ。これからママがお買い物に連れて行くから、……ね?」

「イヤ! サラはぁ! パパのー、おおっきなトラックのほうがあ、すー きー なー の!」



 ****



 ついついやめられないのがオヤツと水遊びだ。

 洗濯物を干しながらクリシアがお願い事をした。


「サラ、この鉢とあっちの植木にお水をあげて」

 ニッと笑って蛇口をひねるサラ。

 ホースの先から勢いよく水が飛び出した。

「ジョウロ使うのよ。あんまり出しちゃだめ。少しずつねー」

「はーーい!」


 ……ママが向こうに行った。

 サラの目の端にはテラスの椅子の上で気持ち良さそうに日向ぼっこをしているお友達、猫のトムがいる。


 ホースの水がぴぴぴとトムに向かって飛んでゆく。

「ニャッ?」

「ひひ……きみはみたことあるかい〜 はれてるのに〜ふってくるあめを〜♪……。ねえ? トム。あそぼ!」



 ……次の洗濯籠を抱えてやって来たクリシアは、その裏庭の変わり様に開いた口が塞がらなかった。

 せっかく干した服やタオルはずぶ濡れ、跳ね上がった泥でシーツも汚れ……。そこには逃げ惑うトムと笑ってごまかすサラがいた。



「もう、サラったら! ひどいじゃない!」

「へへへ…… ごめんなさーい!」

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