29.neptune
針葉樹がひしめく葛折りを行く。
次第に数を増す蜻蛉が二人を誘う。
群れは暗く薄ら寒い鍾乳洞へ。
見ていた鹿たちが突如逃げ出す。
低い唸り声……それは熊だ。
アーロは立ち止まり、咄嗟に護身用の拳銃を手にした。
「アーロ!」
「大丈夫。俺の背に」
するとしばらくして熊は姿を消した。
「行こう。やはり気配を感じる。熊も逃げるほど怪しい気だ」
「え?」
「俺たちの後を尾けてる。いや、同じように蜻蛉に導かれて……。上か下か。得体の知れない何者かが近づいている。だから行こう。早く水を採取して帰るんだ」
セイレイの力でアーロの感覚は研ぎ澄まされていた。
足が竦むサラも確かに迫り来る異様な気配を感じ取った。
闇の洞をくぐり抜けると峡谷。
切り立った断崖に覗く星の輝き。
そして駆ける一筋の流れ星。
その眩い光に照らされて幾千万もの蜻蛉たちは束なり一つになり、やがて巨大な竜の姿を形作った。
それはシギシギと蠢きながら、アーロとサラの眼前に。
「サ、サラ……見えるかい? こ、これが……これこそが」
「光の竜……美しい……なんて、美しいの……」
サラは打ち震える。
神々しい輝きに思わず手を伸ばし、触れようとした……その時、突然そのサラの右手を捕らえる鞭が!
サラはそのまま鞭の主の下へ引き摺られた。アーロが叫ぶ。
「サラァッ!」
見上げた洞の出口には一人の男がいた。
黒いレザーコート姿に、銀色の歯で嘲笑う様子はまさに〝死神〟。
光り輝く竜を目の当たりにするその男――闇組織ネオ・ナピスの〝ネプチューン〟は言った。
「蜻蛉……なるほど、これが竜の正体か……」
ネプチューンの胸元にはオールドマンから奪ったセイレイが輝いている。
そしてサラの首にかかるセイレイも捥ぎ取り、天にかざした。
「おお……素晴らしいパワーだ。エネルギーが満ち溢れている」と彼が瞬いた時、飛びかかったアーロにネプチューンは殴り飛ばされ、よろめいた。
アーロはナイフで鞭を切断しサラを抱きかかえ、また後方へ跳んだ。
ネプチューンは背中から銛のような武器を取り出した。
「……ほぉ。流石はリバ族の血。凄まじい跳躍だな……いや、それもセイレイの力か?」
アーロはネプチューンを睨みつけながらサラを背中に回す。
サラは震えながら言った。
「……ありがとう、アーロ」
「俺から離れないで」
「見て、竜が動いてる」
伝説の竜がラグーンへ向かおうとしている……。