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SARA  作者: ホーリン・ホーク
Sugar Mountain
28/34

28.sugar mountain

挿絵(By みてみん)


 アーロと同じようにサラも登山服に着替え、二人は空ボトルを入れたリュックを背に、入山管理所に入った。

 ロビーの係りの男は怪訝な表情で見つめた。

「初めてだなあんたら。ここはデートスポットじゃねえぞ」

 百万ニーゼずつ、それぞれに差し出す二人。サラが言う。

「入山料。間違いないかしら?」


 サラは採石場で稼いだそのお金をしっかりトレーに置いた。

 アーロも同じように父の手伝いで貯めた金を。

 係の男は適当な説明をしてペンを渡し、(たず)ねてきた。

「天体観測? ……ほぅ。君はもしやリバ族か?」

 アーロは小さく頷く。

「……それが何か?」

「いや。なんでもない」


 手続きを済ませ、二人が山へ向かうと係の男は受話器を取り、メモの電話番号を押した。


「もしもし……。えぇ、来ましたよ。あなたの言われる先住民族の男が……」



 ****



 ブナやクヌギの樹林を抜けると、まるで砂糖のような白く美しい岩肌が二人を待ち受けていた。

 だが道は険しく、風が吹き荒ぶ。

 やがて広がる荒涼たる原野。

 アーロはリバ族の守護石セイレイの波動を感じた。

 おそらくここにかつて暮らしがあったのだと、彼は膝をつき、両手を合わせた。

 サラも同じように鎮魂の祈りを捧げる。



 標高五千メートルのシュガーマウンテン。

 高く青い空に鳥が羽ばたいた。



 悠然と聳える霊峰に耳を澄ました後、アーロはサラを見た。

「ありがとうサラ。付き合ってくれて」

「何言ってるの。私もセイレイを授かった一人よ」と言って胸に手を当てた。



 山腹に流れる川のほとりで二人は休むことにした。

 リュックを下ろし、サンドイッチを頬張る。

 互いに少し照れながら、空腹を満たした。

 アーロは微笑んで言う。

「疲れたろ。肩も足も」

「ううん大丈夫。昨晩はモーテルで爆睡したから」

「……お母さんは、元気?」

「うん。いつも笑顔よ。詩を書いて雑誌に投稿したり……楽しんでるわ」


 それはごく最近のことだった。

 昔から、サラはよほどつらいことは話さなかった。

 サラの強がりはわかっていた。


「サラ……俺も信じてるよ。〝聖なる生命の水〟それでお母さんの耳、絶対治るって」

「ありがとう。……あ、そうそう、発つ前にお爺様から『燃料代』ってお金貰ったり、御守りも。そして『煙草はやめなさい。ダイエットにはならんぞ』って言われちゃった。だからもうやめた」

「ははは。……うん。やめてふっくら健康的」

「え? マジ? ふっくら太った?」

「プッ! 嘘。変わらず素敵だよ」


 楽しく話した後、アーロは祖父オールドマンに起きた事を話した。

 不安な表情を浮かべるサラに、彼は真剣な眼差しで言った。

「サラ。俺は君を……絶対に守る」





 陽が落ち、みるみる辺りが暗くなってきた。

 見えてくる星たち。

 アーロは祖父の言葉を夜空に重ねる。

『ヘルポレスお婆婆の水晶が告げた。およそ百三十年の周期のその日、彗星が煌めく。それに呼応するように竜が現れラグーンに導くのじゃ……』


 蝉やコオロギが一瞬鳴き止んだ……かと思うと二人の前を一匹の蜻蛉(トンボ)が横切った。

 それはあの透き通った――「妖精さん!」

 サラは声を上げ、アーロも立ち上がる。

 それから二匹、三匹と増えてゆく。

 二人のネックレス、胸のセイレイが眩い光を放った。

 アーロはリュックを背負った。

「爺ちゃんの書いた地図はどうやらこの辺までだ。あとは蜻蛉が導く。サラ、行こう! この守護石(セイレイ)が共鳴してる。呼んでるんだ」




挿絵(By みてみん)


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