24.worst comes to worst
フリーホイールのスーパーマーケットをHONDAステップバンが出て行く。
午前九時過ぎ、クリシアは食材を調達し家に帰るところだった。
今夜はブリウスの好きなカレーにしようと腕を振るうつもりで。
ブリウスから聞かされた話で彼女も気が滅入っていた。
「戸締まりだけはしっかりしておけ」と彼はクリシアとサラを抱きしめた。
深刻に考え込む夫を、クリシアは元気づけたかった。
やがて家に着くとガス会社のトラックが止まっていた。
今日が集金日であることを思い出したクリシアは慌てて車を停め、玄関の方を見る。
ちょうどチャイムを鳴らそうとしている職員の姿が。
「ごめんなさい、今帰りました……」と駆け寄るクリシア。
いつもの青年とは違う、その小柄な男は振り向き、ニコッと笑った……。
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先を急ぐブリウスのトラックは――。
レイは彼と同じように行く手に注意を払いながらも緊張をほぐそうとする。
ブリウスとクリシアの顔写真を摘み出すレイ。
それはダグラスの使いの男〝ホーク〟から渡されたもの。
ふと、ブリウスに不思議な親近感を覚えるのは何故だろうとレイは鼻をこすった。
「あんたとダグラスどっか似てんだぁ。他人の空似かなぁ」
だが運転に集中しているブリウスの耳に余計な話は入らなかった。
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……震えが止まらない恐怖というものを、クリシアは初めて感じた。
声も出ない、叫ぶこともできない、手に力も入らない――固い腕に首元を締めつけられ、引き摺られてゆく……。
キッチンの椅子に、その作業着姿の小柄な男トミーは腰を下ろした。
クリシアの背中に拳銃を突きつけながら更に強く引き寄せる。
電話のボタンが赤く点滅している。
トミーは手を伸ばしボタンを押す。
その留守番メッセージはブリウスの声だ。
《クリシア! いないのか?!》
《クリシア、誰が来ても絶対に出るな!》
差し迫った声が部屋に響き渡った。
トミーはニヤリと笑い、クリシアの耳元で言った。
「……どうやら勘付いているようだなブリウスは。奴もソサエティのメンバーなのか?」
――助けて……ブリウス……。クリシアの頬に涙がつたった。
冷蔵庫の横、トミーはコルクボードに貼ってある家族とジャックの写真に気づく。
「お前らが一緒でめでたい話だ。捜す手間が省けたからな。……幸せそうだなぁあ、綺麗な娘じゃねえか」
トミーは写真をむしり取った。
「そしてジャック! てめえの兄貴はとんでもねえクソ野郎だった! この俺を騙しやがって!」
クリシアの口を塞ぎ、トミーは噛みつくように言い放った。
「わかるか? 俺がここへ来たのはてめぇらへの復讐だ! 恨むんならこの兄貴を恨め!」
そして、
「そう、覚えているか? 十八年前の大震災……その義援金二億ニーゼの寄付。俺は案外お前がやったんじゃないかと思っているんだクリシア……んん? ジャックから預かった金をな」




