22.sara 1992 〜旅路③
それは一九九二年九月二十五日のサラ。
彼女はこれまで旅をしながら子供の頃からの思い出を辿り、両親の事を考えていた。
フリーホイールから東へおよそ千キロ。
セントセフトスを駆け抜けひと暴れし、タイムズアウトアを燦然と轟かせた。
その日、陽が沈みブリンギングスの街に入るとハーレーを停め、公衆電話にコインを入れた。
電話の向こうはエリザベスお嬢。エリザベスは大声で返した。
《何してんのよ、じゃないわよ! サラ、あなた今どこにいるの? もう三日も……》
「ごめんごめん。あなたのボディガードはもう終わったと思って。パワーファイターの彼にコクられて」
《もーう、やめてよー! タネンきらーい、あいつ本当はあなたのことが好きだったのよー》
「うっそ! うへー! パグ・タネンがぁ?」
《……ていうか、本当にシュガーマウンテンに?》
「そうよ。私は夢見る少女ですもの」
《信じてるのはいいけど……無茶しないでね》
「わかってる」
《本っ当にマジに絶対、ちゃんと帰ってくるんだよ! 私あなたがいないと生きてけないからー!》
おいおいそこまで言うなよと、サラは笑って頷いた。
「……ありがとうベス。またね」
受話器を置き、鋼鉄の愛馬の脇に腰を下ろす。
誇らしいフロントフォークに夜空の星が煌めいている。
胸元を広げ、ネックレスの石を手に見つめる。
たとえそれが幻影でも幻想でも信じて走ってきた。
あの事があってから……ずっと希望を追い続けた。
光の竜よ、聖なる生命の水よ……
彼女は祈る。大切な人のために。