19.ray needle & douglas stayer
これも後に絡んでくるある殺し屋のお話――。
超一流の殺し屋ライセンス・トゥ・キルやジョーカーマンと同じようにその男レイ・ニードルも早くに裏社会から足を洗った。
〝殺人中毒〟とまで呼ばれた若き日の彼の手を止めたのは反ナピス地下組織ソサエティのリーダー、ダグラス・ステイヤーだった。
十六年前、ジャック・パインドを煽動していたとされるダグラスを、レイは遂に追い詰めた。
夜の海、レイはダグラスを断崖絶壁に追い込んだ。
レイが銃口を向けた時、突如地が揺れ、想像を絶する巨大な津波が二人を飲み込んだ……。
……目が覚めると、レイは焚き火の前。
傍らでダグラスが枝木を焚べていた。悲しげに彼は言う。
「……自然は恐いなあ」
ガバッと起き上がるレイの体に激痛が走る。
「うわっ!」
「まだ動かない方がいい。全身岩に叩きつけられて……あちこち骨が折れてる」
「くそぉ、……あ、あんたぁ、何で無傷なんだぁ?」
「おお、北部訛りか。鍼師の息子ニルス・ヤグラン。故郷の親御さんは元気か?」
「そったらこと、あんたにゃ関係ねえ!」
「トミー・フェラーリに雇われて、俺をつけ狙ったんだろ?」
ダグラスは微笑みながらコーヒーを啜った。
地下組織ソサエティはレイの本名素性全てを調べ上げていた。
手も足も敵わないレイは苛立ち、口を噤んだ。
ダグラスは彼の手当てをしながらずっと語りかける。
「……若いの。生きる方を選べ。命は生きようとしているのだから」
レイが目覚めて五日目の朝、憔悴しきったレイに対しダグラスは叱るように言った。
「つまらん意地を張ってないでこの粥を食え!」
……レイはついに口を開けた。
美味かった。舌に五臓六腑に温もりが沁み入った。
何も見えなくなるほど、涙が溢れ出た……。