13.new beginning
一九八六年、サラは十四歳になった。
情熱的で個性が光っていた。
英語が好きで夢は将来通訳の仕事もいいと思ったが、世界を旅することが先だった。
オートバイか4WDに乗り異国の風と匂いを肌で感じたかった。
そこにしかない美味しいものを食べ、奏でられる音楽を聴き、そして白馬の王子様に出会い……と、果てなき夢を抱く少女だった。
友達のエリザベスは可憐で淑やかで男子から誘われることも。
それを護るのがサラの役目だった。
エリザベスのボディガードとして目を光らせていた。
明るく笑顔を絶やさない挫けない。
ブリウスもクリシアもそれが嬉しかった。
……一匹のトンボが肩を擦り抜けた。
ある朝、陽の光を透かして。
サラは自然に追いかけたが、見失った。
ティンカーベルのように――それは神秘の瞬き……。
新緑芽吹く通学路。
いつものようにサラはエリザベスと学校に行く。
「お待たせ! サラ」
「おっはよ〜」
いつになく目を輝かせながらスキップしているサラを見て、エリザベスは気持ち悪いと言って笑った。
「だって聞いてよベス、私見たの! 透明なトンボ」
「はあ?」
「だから透明なトンボよ、スゥ〜〜ッと飛んでって……すぐに消えちゃったけど」
「確かに暖かくなってきたけど……トンボはまだまだ早いわ。蝶々でしょ?」
「違ったもん……あれは絶対、四枚の羽根がピンと伸びてて、まるで妖精さん。そうよ、あれは」
ベスが「あっ」と言って指差す。
「わかった。あなたピーターパンの見過ぎ」
「も〜〜う」
サラは少し口を尖らせ……でもやっぱり気分が良かった。
「キレイだったなあ。何かいいことありそう」
「春だし気をつけるのよ〜」
新学期の新たな学年。
サラとエリザベスが同じクラスで席も隣りでいいことあったと喜んでいる一方で、皆の注目は新たな転入生に集まっていた。
先生が彼を紹介した。
「今日から一緒に勉強する、アーロ・ブロンコ君だ。皆さんよろしくー! ……はい、ご挨拶なさい」
背が高く、なかなかのハンサムである。
サラは〝ルー・チャベス〟に似てると思った。
横のエリザベスがサラを小突いて囁く。
「あなたのタイプそー。超いいことあったじゃん」
はにかむサラ。でも彼の声は小さく、よく聞こえなかった。
「……アーロ・ブロンコです」
一番後ろの席の悪たれタネンが品のないデカい声で言った。
「おい! 聞こえねーぞ、先住民!」
アーロは黒い目でキッ! と睨んだ。
タネンは気に入らねえと思った。