10.song to joe
一九八一年五月、そこは〝天庭の町〟ヘヴンズフィールド。
五番通りにあるライブハウス〝pony-boys〟に空席はなかった。
やがてライトが消され暗闇の中、彼がセンターステージへ向かうと待ちかねた客は総立ちになり、熱い歓声と拍手で彼を迎えた。
「お帰り! ボビィー!!」
「ボビィ、待ってたよーっ!」
ここで彼、〝R.J.ソロー〟=ボビィ・ストーンは唄っていた。
ここが決意した場所だった。
二十年振りのこのステージ。
今夜はあの頃と同じ、ブルースハープとアコースティックギター一本の弾き語りで曲を披露するのだ。
スポットライトが降り注ぎ、低く響く弦と共に彼は唄い始めた。
数々の名曲〝ライク・ア・ウィンド〟〝リリースト・ブルース〟〝ローリング・ロック〟〝デスプリンスからずっと〟……などをじっくり唄う。
音の一つ、声の一つに観客は聴き入り、合唱し涙した。
〝TRAMPS〟〝精霊たちが降りてくる〟といった初期の作品、そして〝FREEDOM〟を繊細に弾き語る。
「ありがとう、みんな……」
言葉少なにR.J.ソローも喜んでいた。
素朴に、身に沁みるライブ。
ウディ・ガリスの〝朝日に染まる家〟を切なく、そして最後に最高のボルテージで〝Song to Joe〜ジョーに捧げる歌〟を唄い、大合唱で終演を迎えた。
pony-boys、記念すべき熱い一夜……。
ジョーに捧げる歌
誰の目にも空は赤く映り
砂時計は落とした砂さえ残していない
焔の忠誠 献身の海は彼方に
次元を超えた天体の広がりも今はない
虚構を引き摺り歩く愚者のカードを引いた
陰鬱な影が通りを抜け 砦の産湯を覆い隠す
だけどジョー
あなたは今でも私の瞳の中に生きているんだ
歴史の答えを練り歩く殉教者の列
背信と策略の王が銃を突きつける
万有引力は確かに私の血も肉も骨も
構わず奪い去ってくれるだろう
月夜に道化があなたの仮面を剥ぎ取りに来る
待ち侘びた健気な夜の精が耳元で囁く
ジョー 無事を祈ってる
あなたは今でも私の瞳の中に生きているから
アカの汚名を着せられたデヴィッド・メリル
彼は友を売らない 偉大なる名誉のため
ウィリアム・H・ボニーは粗野だが
彼も決して仲間を裏切らない
癒しの鉄弦が全宇宙に波紋を投げる
困惑の欠片も見せないもの、それはあの地平線
ジョー、聞こえるかい?
あなたは今でも私の瞳の中に生きているんだ
ヘラクレスのように勇猛なあなたの幻影
私は限りなく子供で
しかも疲れてしまっている
逃避と絶望で織り重ねられた絨毯の上を歩く
するとあなたがそっと私に寄り添う
閃く神の手 救世主よ、とてもさりげなく
ジョー あなたは優しき巡礼者
ジョー 遥か旅の向こう、あなたに会いに行く
空に願う 私はあなたに会いに行く
……アンコールに何度も応えたボビィ。
彼、R.J.ソロー〝OUT OF HERE ツアー1981〟の最終幕は惜しみない拍手で閉じられた。
楽屋に迎えられるブリウス家族。
握手と抱擁で今の無事を確かめ合う。
ボビィはR.J.ソローとしてもはや神がかっていてブリウスは少し距離を感じたが、瞳の奥は二十年前のボビィのままだった。
三十分ほど話した後、最後にボビィはサラにギターでさよならを歌った。
「また会おう〜 君に会うために〜 僕はそこを目指すのだ〜〜」
その眼差しはどこまでも優しかった。
ブリウスは感無量だった。
胸に沁み胸に突き刺さる素晴らしいステージだった。
帰り道の車内、ボビィの歌を熱唱しては泣き熱唱しては泣いた。
ライセンスのことを想い、感謝した。
そして家に辿り着き、クリシアとサラの笑顔を確かめた。