1.R.J.Thoreau
第一章はクロスカッティング。主人公が旅をしながら回想するイメージで過去と現在(1992年)が交錯します。
もしきみが待っててくれるなら
もしきみが待っててくれるなら
今度こそぼくが支えるから
あの海が見える丘の上で結婚しよう
ぼくは長い間黒い鉄格子を見てきた
生まれてきたことを呪って
長い間牢に閉ざされていた
生きる力を失って
きみに出会って花が咲いたんだ
暗闇に赤や薄紅、色鮮やかな花の祝福
きみを見つけた喜びは
死んだぼくを生かしてくれる
はるか海の彼方から風が向かってくる
変化の風が町に吹き荒れる
きみの花はたおやかで、けっして倒れることはない
一途に空と、ぼくを見ていてくれる
もしきみが待っててくれるなら
今度こそぼくが支えるから
あの海が見える丘の上で結婚しよう
……R.J.ソローの歌を聴きながら
彼の歌を口ずさみながら、ブリウスは歩いている。
朝の光が眩しく道を指し示す。
野に咲くかすみ草が健気に揺れている。
友に背中を押されるように、ひとつひとつの思い出を頼りに、重い扉を開けた。
白のオースチンセブンに乗ってクリシアが迎えに来た。
もう離れないとブリウスは彼女を抱きしめた。
この世の仕打ちはわかってる。
疑う彼らによく見えるように歩いていこう。
新しい切符を握りしめ、彼は町に帰ってきた。