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ぐろりあ  作者: karon
9/9

ずっと後


 腕に刺すような痛みを感じて目を開けた。びっくりするほど細くなった腕に実際に針が刺さっていた。点滴につながれている。

 白い天井とクリーム色のカーテンそして灰色の床の上に、誰かが土下座していた。

 よく見ると、それは旦那の兄だった。

「申し訳ない、晶さん」

 顔を上げたら、油汗と涙でぐちゃぐちゃになっていた。

 はて?

 そして、義兄が去った後、警察官が入ってきた。そして、なぜ死ねなかったのかと運命を呪った。

 旦那が、私ではない美しい女と逃亡した後、旦那と私、それぞれの職場の人間が、警察に自宅の捜査を依頼したのだ。

 旦那の同僚は、みるみるみすぼらしくなり、それでいて夢見る目で意味不明の言葉を連ねる旦那の様子にただならないものを感じていたらしい。

 そして私の場合は、ゴシップに命を懸けている女、斎藤さんだった。

 私の欠勤と欠勤するまで私の様子がおかしかったことを彼女なりに推理したらしい。そして。私の自宅をこっそり事務方の書類を盗み見て確かめその近所を張り込んだ。

 そして地道な聞き込みの末、私の旦那が私以外の女といちゃついていた現場を発見、写真に収めたそうだ。そして、家の周りを操作した挙句、適当な景観を引っ張って我が家に突入したらしい。

 ひとえにゴシップを愛する彼女の情熱を私は舐めていた。

 ほとんど犯罪捜査の刑事並みの執念だ。

 そして、家に突入した、とにかく何かとんでもないことが起きているかもしれないと、旦那の同僚がその場に居合わせたのは単なる偶然だ。

 無断欠勤した旦那をたまたま訪ねてきただけだ。 

 窓を壊して家に入ると鼻をつんざく異臭を感じたという。

 その異臭の正体は垂れ流された私の糞尿で。

 窓から飛び降りたいのですが、身体が動きません。着ていたものはパジャマの上のみ下はすっぽんぽん。

 点滴の針を抜いて、何とか延髄を刺すことができないものでしょうか。

 死んでいるかと思われたが、ぎりぎり息があると救急車で搬送。数日昏睡状態だったそうで。どんなひどい状態だったか本気で死にたい。

 そして事件性ありということで、旦那を指名手配したそうで、私は記憶にない、ただ旦那は病院に連れて行ってくれというのを無視して軟禁したとだけ言うと、そのまま寝た。

 

 リハビリが終わり、そろそろ退院のめどが見えたころ旦那が見つかったと伝えられた。

 旦那は私に会わせろと半狂乱だった。旦那の手には古めかしい西洋人形があったそうだが取り上げられたらしい。

 そのまま今は拘置所だ。私の家族は離婚一択、旦那の親族もやむを得ないという形になった、何しろ私に対する殺人未遂の疑いで逮捕だ。どんなへぼな弁護士でも離婚は勝ち取れるだろう。

 結局、ご近所の奥様達の無言の圧力に耐えられず、旦那はグロリアと逃げた。

 グロリアは私と遠ざかったため元の人形に戻ったのだろう。

 どういう仕組みか知らないが、私たち夫婦以外にも人となったグロリアの姿は見えたらしい。

 旦那が私と合わせろと騒いだのは正気に戻ったのかそれとももう一度グロリアの動力にするためだったのか。

 グロリアはこのまま警察署の証拠物件保管室で、いつまでも封印されることを祈る。

 グロリアが何だったのか私は知らない。太古の魔法使いが作り上げた道具なのか、男の願望、それとも女の怨念のこもった人形なのかもしれないが、私は知らない。

 ただ警察署の中なら多分グロリアが動き出す状況にはならないんじゃないかと推測するだけだ。


 会ったこともない親戚の伝手で、私は今まで一度も行ったことのない県に住んでいる。

 旦那は保釈されたら私のところに来ると言い出した。うちの家族もあちらの家族もそれは危険と判断した。

 金は積立貯金はどちら名義もだいぶ食いつぶされていたが、旦那親族から慰謝料と家、ぎりぎり事故物件にはならなかった。を売り払った金と、同じく親戚の伝手で就職先を用意してもらった。

 新生活はまあ順調、再婚の予定はない。

「大丈夫よ、ここはね、生産者直売なの、だから安いのよ」

 私は骨董の趣味を続けられなくなった。古いものが怖い。

「掘り出し物がありますか」

 職場の先輩は力強く断言する。

「大丈夫よ、私に任せて」

 茶碗祭りとのぼりが上がっている。

 ずらりと並んだ掘り出し物が今から私の目標だ。

 


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