act.23:山を砕く鉄の城
三首吸精邪巨神 ギドラキュラス
改め、
超魔竜邪巨神
エンペラーギドラキュラス
髑髏巨神 スカルキング
登場
「いくぞッ!!
全制限装置解除ァァァ━━━━━━━ッッ!!!」
カチリ、とその引き金をパンツィアは引く。
瞬間、ブレイガーOに搭載された2基の反応魔導炉のリミッターが解除。
出力が桁違いに跳ね上がり、ギドラキュラスの吸収量を大きく上回る。
バチバチィッ!
スパークとともに、二つのギドラキュラスの口が煙を上げながら離れる。
━━━キュルルァァァッ!!
怒りに燃える中央の顔が、超合金を砕くあの赤い雷の一撃を放とうと口を開く。
「出し惜しみしている場合じゃないか……!」
パンツィアがコンソールを操作した瞬間、まだ無事な右腕に格納された『使う予定のなかった欠陥武装』が起動準備を終える。
「超高熱回転切断剣ッ!!」
突き出した右腕の手首付け根、シャランと伸びる細長い剣が口を開けたギドラキュラスのその口の中に突き刺す。
ギュルワワワワワワワッ!!!
刀身を迸るように回り始めた炎魔法。
大気をプラズマ化させ燃える刃が傷口を焼きながらズタズタにしていく。
「うらァァァッッ!!!」
右腕に力を込めた瞬間、ギドラキュラスの頭が真っ二つに開く。
「もう一発ッ!!」
あの攻撃を放てなくするよう、横薙ぎ一閃で全ての首を刈る。
「オマケだぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッ!!」
右斜め下からプラズマの刃をふるい、胴体から生えた翼を片方切り裂く。
ズン!!
ややあって、ギドラキュラスの胴体が倒れこむ。
同時に、ブレイガーOの右手首がスパークし、超高熱回転切断剣の光が消え、爆発するようにそこの部分が切り離された。
「…………でも、まだ終わりじゃないよね……!」
目の前で、気持ち悪いことに切り離された首が胴へ這って戻っていくのを見ながら、次の行動をとる。
何かの液体に満たされたカプセルシリンダーの中に金属球が浮かぶ、コンソールに備えられたボタン。
押した瞬間それが光り、中の金属球が二つに割れてゴポゴポと音をたて泡立ち始める。
ギュルゥゥゥ……!!
ブレイガーO胸部の脇に覗くファンが唸りを上げて高速回転を始める。
「発明者自身が、封印を選ぶほどの劇物だッ!
使うのは、ただこれっきり!
最初にして最後に食らって沈めッ!」
ゴポゴポ泡を立てるスイッチを、再度押すと共に起動詠唱を叫ぶ。
「強腐食ッ、
旋風砲ェェェェェェェェェェェェェェェドォッ!!」
グワァァァァッ!!!
大地を耕し瓦礫を巻き上げる二つの竜巻。
再生を終えたばかりのギドラキュラスを包み込み、やがてソレを運び始める。
ジュワァッ……!
唐突に溶け出すギドラキュラスの体表。
キュルキュル唸り、再生しようとするが…………それよりも早く肉体が溶け出し始める。
ゴポゴポと泡を立て、肉が、角質が、鱗が外骨格が、みるみる透明な液体━━水と、僅かな害のない有機物に分解されて崩壊していく。
セリーザ・ダイス魔法博士の作りし、物質破壊水素剤のこの威力!
みるみるうちに、恐ろしい白い骸の竜が、溶けて萎んでいく。
やがて、ブレイガーOの胸部ファンが止まる。
そのファン部分は、気泡や穴だらけのズタズタな無残な姿になっていた。
「ファン部分破損……!?
物質破壊水素剤は超合金でもこんなにするのか……!」
恐るべきこの薬剤の性能に、やはり改めてなんで封印すべきかを決めたのか理解する。
パンツィアは目の前に浮かぶ警告画面表示を右手でを払いのけ、コックピットから改めてギドラキュラスへ視線を戻す。
……キュ……キュワァァ……!キュワァァ……!!
焼けただれ、膨れ上がり、体液が、あるいは分解されてできた水が滴る身体。
再生しようとして、再び分解されて弾け、崩壊していく。
3つあった首は、真ん中だけがかろうじて形を保ち、右に見える首は半ばから溶け続けており、左には付け根の位置も見えない。
無残。
ただただ無残な姿を、ギドラキュラスは晒して、苦痛の声を上げて立っているだけだった。
「…………これで死なない生命力を褒めるべきか、これでも死なない相手をここまでにする物質破壊水素剤を恐れるべきか……」
『━━━━当然、後者かと思われますが?』
ふと、通信機から気怠げな声が聞こえる。
「セリーザさん!?」
「セリーザさん!?」「どぼしてここに!?」
オペレートルームに、突然現れ通信機へ声をかけたセリーザの姿に、シャーカ達皆が驚きの視線で見ていた。
「さて、パンツィア学長。
後はこのまま燃やしてしまってください。
雷属性の付与魔法が消えた水素は、何とも結びつかないで残っているはずです……今なら良く燃えます」
そんな張本人は、ただ静かにそう短くアドバイスをするだけだった。
「なるほど、了解!」
残りエネルギー残量、31%。
全制限装置解除使用状態なら、強力な一撃が撃てるはず。
「いくぞ!
トドメだギドラキュラスッ!!」
パンツィアがスロットルレバーに手をかけたその時、
ビキビキ……キュワァァッ!!
なんと、ギドラキュラスが割れた!
その割れたギドラキュラスから、太い一本の首に、キノコのように小さな首が2つ左右に生え、翼だけ生やした蛇のようなものが出てきたのだ。
「なっ……!」
必死にのたうち回り、死に物狂いで逃げ出す、情けない姿に成り果てたギドラキュラス。
だが……パンツィアは素早く赤いボタンを押しスロットルレバーを上げる。
(マズイ距離だ……極大炎熱魔砲の射程距離ギリギリになる……!!
他の武器じゃダメだ……確実に焼ききらないと……!!)
キュゥゥン、とエネルギーをチャージする間にも、必死な飛び方で距離を離そうとしている。
(間に合うか……!?)
だが、無情にも射程距離圏外に遠ざかり━━━━━━━
「くぅ━━━━━!!!」
フォン、ピピッ♪
え、と言うパンツィアの突然視界に出てきた文字。
[ブラストリガー接続:確認]
[魔法ロック:解除]
[超新星波動砲:使用可能]
「これって……!」
パンツィアは、こんな事をする誰かを思い浮かべてしまった。
━━━今使っているブラストリガーの製作者である…………
━━━ブレイガーOを作った張本人である……
「…………基礎システム、作ってないくせにさ……」
自然と、笑ってしまった。
自然と泣いてしまっていた。
「本っ当ロクデナシなんだからさ……!
でも……ありがとうお爺ちゃん……!」
━━━ブレイクトリガーの引き金を再度引き、再びスロットルを上げる。
ギュゥゥゥゥン……ヒィィィィィィィィィィィッッ!!!!
ブレイガーOの胸部クリスタル前に魔法陣が展開され、光る。
灼熱の赤から、黄色、緑、青、
そして、超新星の輝き、
白へ。
「いくぞ、ギドラキュラス!」
目標はすでに遠く。
しかし……コレならば当てられる……!
「超新星波動砲!!」
スロットルレバーを下げる。
瞬間、ブレイガーOの胸部に集まった超新星のごとき力が解き放たれた。
それは、まばゆい光の洪水。
いや、直進する竜巻と言わんばかりの光が、直線上にある全てを飲み込んで進んでいく。
手始めに溶け爛れたギドラキュラスの残骸を、街の瓦礫を、先の森を小高い丘を。
ややあって、ギドラキュラスもちっぽけなその他大勢とでも言うべき唐突さで巻き込まれる。
一瞬、影として確認できたその姿も、数瞬で消えてしまった。
やがて、光が収まる。
大地を一直線にえぐり、地形を変え、山を一つを二つに変えた光が。
後に残ったのは、
自身の攻撃力のせいか、正面のあちこちが吹き飛び、塗装が剥がれたブレイガーOが、
ただ、勝利を示すように雄大に立っているだけだった。
***
「…………」
映像が回復してしばらく、皆は唖然とした顔で黙っていた。
オペレートルームでも、ドレッドノートでも、大空戦艦でも、王城でも。
「勝った……!」
誰かがそれを言った瞬間、ようやく皆一斉に喜びの声を上げ始めたのだった。
歓喜の波は、全ての人間にすぐ伝わった。
生き残った街の人間達も、遠くでブレイガーOの勇姿を見て、大きく喜び、安堵していた。
「……被害の大きさに悩ましいですが……」
「生き残った喜びに比べれば軽いものだ!
それでこそ、平時の我らの仕事だからな!」
ふ、と大臣の言葉に笑って答えるクレド。
その横を、何処からか飛んできた鳥が掠め、大空へ飛んで行った。
━━━気がつけば夜は明け始め、太陽が東の空から上がりはじめていた。
***
登り始めた陽光に照らされてそびえ立つブレイガーO。
かしゅん、と音を立てて、頭部ウィンガー部分のキャノピーが開く。
「ふぅ……」
応急処置に自分で巻いた包帯だらけのパンツィアが、ひょっこりと同じぐらいひどい有様になったブレイガーから顔を覗かせる。
「ようやく、倒せた」
地上から25mの高さの風を浴び、折れてない左手で髪をかきあげて朝日を見る。
まぁ……周囲はひどい有様であるが、
清々しい朝の空気は変わらない。
「これで一件落着!!
で、いいのか━━━━」
ダンッ!
「うわっ……!?」
突然、下からそんな音が響く。
慌てて、少し顔をのぞかせた瞬間、その目に飛び込んできたのは……!
「嘘……!!」
キュルルルァッ!!!
そこには、全長にして精々4m程度の姿のギドラキュラスの━━━首に前脚の様にブレイガーへかぶりつく2つの首が生えたような、おぞましい姿で復活した状態の物がそこにいたのだ。
「まだ生きていたのか!!」
とっさに、特殊スーツの腰に備え付けられていた特殊魔法銃を構え、中級雷属性魔法を放つ。
ピィィィ!
キュルルァァァッ!!!
一瞬、怯みはしたものの、小さなギドラキュラスはパンツィアの方めがけ一気に駆け上ってくる。
「往生際が悪すぎるぞ!!
とっととくたばれ!!そして死ね!!」
自分でも口汚いとは思うが、そう言わざるを得ないほど、その姿は生と何かにしがみつくように見えた。
ちょっと本気を出してしまう程度に。
「……炎神の血、灰塵と化せ、土に還れ……!」
だいぶ端折って高速詠唱し、魔法陣を銃口の先に展開。
━━━流石に本家より威力不足だろうが、これを葬るにはぴったりの魔法を放つ。
「極大炎熱魔砲ァァァァァァァァァッッ!!!!」
炎魔法が得意でよかった、と思える程度には凄まじい威力で熱の奔流は放たれ、パンツィアの思惑通りの威力でギドラキュラスを焼く。
━━キュ、ルル……ルァ……ァ!!
どさり、と足元で黒焦げに燃えるギドラキュラスが落ち、怨嗟に満ちた鳴き声を上げる。
━━ルゥ……ア……ッタ、ト……!!
「?」
いや、これは…………
━━勝ッタ、ト、思ウ……ナッ!!
「喋った……!?」
そう、それは、
ギドラキュラスの、吐き出した『言葉』!
こちらと同じ言語で、怨嗟を紡いだのだ!
━━オ、レハ……始マリ、ニスギナイ!!
と、突然赤い雷を吐き出し、パンツィアを狙い当ててくる。
「きゃっ!?」
とっさに避けたお陰で、超合金製のブレイガーOの頭部装甲がパンツィアを守ってくれた。
━━イズ、レ、オレノォ……兄弟達ガァ、マザーノォ意思ニヨッテェ……!
そして紡がれた言葉は、信じがたい事。
「なんだって……?」
━━キュルルゥ……ダガソノ前ニィィィィィィィィィィィッッ!!
信じられない言葉の直後、焼けた体表を崩し、ひとまわり小さくなった姿で突然大きく飛び上がる。
「なっ!?」
━━貴様ハ殺スゥゥゥルルルルルァァアァァッッ!!!!
身を乗り出していたパンツィアめがけ、縮んでなお巨大な口がこちらに開かれる。
あまりにとっさのことで、思わずパンツィアは身を屈める。
ズシィィィィン!!
…………
「……?」
ふと、巨大な音はやってきたものの、衝撃は何もないことに気づく。
キュワァァ!?キュワァァ!!
そして、何故かしきりに鳴くギドラキュラスの声が聞こえ、恐る恐る目を開けてそちらを見る。
━━━そこにあったのは巨大な手。
岩石のような体表の黒い手に、握りつぶされる様に掴まれたギドラキュラスの姿。
━━グルルルルル……ッ!!
忿怒に染まる、髑髏の顔。
スカルキングが、変わり果てたギドラキュラスを掴んでいた。
キュルルァッ、キュルルァァッ!!
もがくギドラキュラスは、必死な形相で逃げようとする。
が、唐突にスカルキングは、ハエを潰すようにギドラキュラスを両手を叩きあわせ潰す。
瞬間、掌が赤熱化し、挟まれているであろうギドラキュラスからと思わしき煙が出てくる。
━━━やがて、開いた掌には灰以外残っていなかった。
━━━キシャァァァァッ!!!!
スカルキングの、勝利の雄叫びが響く。
そして、ぐらりと倒れたスカルキング。
土煙を上げ背中から地面へ倒れ、そのまま大の字になって大きな大きなため息をついた。
…………今度こそ、戦いは終わった。
柔らかな朝日が、黄色とむき出しの鉄色、あちこち傷だらけのブレイガーOを照らす。
「…………」
戦いは、終わった。
━━━━ひとまずは。
***




