act.19:命の意味と髑髏王の維持
三首吸精邪巨神 ギドラキュラス
髑髏巨神 スカルキング
登場
既に日が沈みかけている時刻、
「急げぇーっ!!!」
首都の城壁の上、
ザッザッ、と軍靴の音が鳴り響き、
ギャリギャリ音を立てて自走車がやってくる。
ウィーンとパラボラアンテナと呼ばれる傘を逆に向けたような物が、次々上を向き、
ガコン、と音を立て高射砲へ弾が込められる。
「一等重騎士殿!!B区画、全砲配置完了!!」
「ご苦労!!本部へ報告する、見えたら撃て!!」
ブレイディア国兵士の白とそして金のボタンの軍服に、胸だけの鎧と兜に身を包む兵たちが、せわしなく動いている。
「待ってください、見えたら??
本部の報告は待たないのでありますか!?」
「上等兵、お前訓練は何時間だ!?」
「え、あ、80時間です……!」
「即席か、では実戦で生き残ってしまった兵の言うことは聞け!!
命令を待つだけが、良い兵ではない!」
「はぁ……」
「それともう一つ!
家族はいるか?」
「…………ええ、田舎で農家を……クトゥルーなので血は繋がってません」
「なら、ダメだと思ったら逃げろ。
お前が人間でも、収穫の時期に人手のない農家は悲惨だぞ」
「それで良いんですか!?」
「いい。
血が繋がってなくとも、家族がいるだけマシだ」
一等重騎士の兵は、ここからはよく見えるゴルザウルスとブレイガーOが戦った場所を一望して言う。
「まさか、一等重騎士殿……!?」
「おい!!今通信が入った!!
もうすぐ射程内入るぞ!!!」
と、別の兵士の言葉ににわかに慌ただしくなる。
「間も無く日没だ!!サーチライト照らせーっ!!!
発射用意ーっ!!装填ぇーんっ!!」
急いで砲が向けられ、その時を知らせる音がなる。
ボッ!!
「何か雲を破ったぞ!!」
言われて、観測所が双眼鏡や、一部のエルフ兵の遠視魔法でそれをみる。
━━━━キシャァァァァッ!?!
ドボン、と何か黒い邪巨神がコウシ湖に落ちた。
ざぁー、と大波が沿岸部を襲うが、想定の範囲内だ。
「アレがスカルキングか……!」
「じゃあ本命は……!!」
再び兵達が見上げた空、本命がやってくる。
キュルルルルルルルルッ!
もう夜空と変わりない空から、邪悪で禍々しい翼を広げて舞い降りる。
龍のような頭部、その両脇にある半身の頭、それらに2つずつ並ぶ禍々しい赤い目。
骸と言うべき外骨格のような体表を持つ禍々しさを煮詰め、その背に生えた龍のような翼を広げ降りてくる二股の尾を持つ邪巨神。
そう、ギドラキュラスだ。
「射程に入った!!砲撃開始!!」
瞬間、空気を切り裂き砲弾が飛び、夕闇を割いてメーザーの光が走る。
曳光弾の軌跡をなぞるよう、次々と弾が、雷属性の魔法が着弾していく。
『撃て撃てェッ!!
なんとしてでも撃ち落とせぇ!!』
━━キュルルルルルルルッ!
唐突に、ギドラキュラスが羽を広げる。
瞬間、赤い雷がギドラキュラスの全身から迸り、地上へと降り注ぐ。
地上は焼かれ、一瞬にして兵達が吹き飛ぶ。
僅か、一撃で全て薙ぎ払われた。
***
「まさか……!」
王城からは、その様子がよく見えた。
「陛下!お下がりを、危険です!」
「何を言うか!!
これではどこにいても同じではないか!!」
ブレイディア国王として、何より一人の人間として憤るクレド。
「しかし、王族が死んだとあらば、復興は遅れることでしょう!!
避難の準備は出来ております!!」
「民は!?
城下の皆はもう避難したのか!?」
「…………」
「していないのだな!?」
ぐ、と側近の胸ぐらの服を掴む。
「……時間が、なさ過ぎるのです……!」
「国は!
王だけでも、民だけでもダメなのだ!!
二つが合わさってこその……!」
「分かっております、しかし!」
二人の会話が熱を持って来たその時、ドシィィン、と轟音とともに強風が吹き荒れる。
『!』
ギドラキュラスが、ブレイディアの大地に立つ。
***
ギドラキュラスは、静かに王城の方角を睨む。
その眼に映るは、数多の命の輝き、
━━世界の命を滅ぼすという使命を思い出させるもの。
キュルルルルルル……!
一歩、前に踏み出た瞬間、真ん中の頭の後頭部に巨大な衝撃が走る。
ズドォン、と転倒する地面のすぐ脇に、同じ勢いで土煙を上げる割れた巨岩が落ちる。
━━━キシャァァァァァァァッ!!
湖から、ズン、と思い足音を立て、食った巨大な魚の尾ひれを落としやってくる。
そう、スカルキングだ。
「いい加減、しつこい下等生物だ」
キュルル、と唸って立ち上がるギドラキュラス。
「しつこくて悪いかよぉ〜ッ!!
めちゃくちゃ大昔からテメェが蘇ったらよぉ!!
どーやって張り倒すかを考えてきたんだよ俺はァ!!」
キシャァァァァ、と再び大きく吠えるスカルキング。
「……大昔、お前と同じ顔を何匹か殺したな」
ズン、と白骨纏うような脚が、小さな建物を踏み潰す。
「復讐という奴か?同族の??
いや家族か……そうでなければ復讐心など保てるはずがない」
低く唸るギドラキュラスに、鋭い視線で睨みつけるスカルキング。
瞬間、お互い大地を抉るような勢いで走り出し、衝撃で土煙が上がるほどの勢いでぶつかる。
未だ、前の襲撃での復興の終わっていない場所とはいえ、原型があった建物がそれで崩落し、無事だった建物が踏み壊される。
「何故貴様は、勝てないとわかっていて戦う!?」
バキィ、と腕の一撃でスカルキングが横に吹き飛び、倒れたせいで建物が瓦礫に変わる。
「ガハッ!?」
「力の差が分からないのか?
いや違う!!」
ドシィン、ドシィィン!!
踏みつけられスカルキングは赤い血を吐きながら、なおも反撃しようと腕を振るう。
「貴様は勝てないと知っている!!
むざむざ殺されると分かっているな!?
わかっていた上で我に挑んでいるな!?
馬鹿な!!不合理だッ!!」
そうして、ギドラキュラスはその3つの口から、唐突に赤い稲妻のような攻撃を吐き、スカルキングを痛めつけるようなぶる。
キ……シャァァン……!!
見て分かるほど、短時間でスカルキングはボロボロになった。
全身から血が吹き出し、あちこち焼け焦げて爛れている。
瓦礫と土砂に背を預け、瀕死の震えの中、ギドラキュラスをただ睨みつける。
「…………その眼は、なんだ??」
がしり、とギドラキュラスはスカルキング首を掴む。
「お前を殺す前に興味が湧いた……!
なぜそのような目で、私を見れる?」
キュルルルル、と何か語りかけるように鳴くギドラキュラス。
その時、唐突にボン、とギドラキュラスの左顔が爆発する。
その方向には、まだ生き残っていた人間の砲兵たちがいた。
「目障りな、ゴミムシ共め!」
ギドラキュラスの3つの口が光る。
ビシャァ、と空気を裂く音で、砲兵たちは目をつぶる。
……だが、一向に砲兵たちは死なない。
恐る恐る目を開けたその先には、
黒い巨大な体が、
髑髏のような恐ろしい顔の邪巨神が、
その身を盾にして、
自分たちを、守っていた。
「なにぃ!?!
貴様、正気かァッ!?!」
ギドラキュラスは恐怖した。
まさか、そんなことをするとは微塵も思わなかったのだ。
何故、そんな自殺行為が出来るのかと。
…………グワッ、グワッ、グワッ!
その時、満身創痍のスカルキングは、
確かに笑っていた。
「お前はよォ……一匹で生きていられるかァ??」
「な、に……?」
ズシィン、ズシィン、
スカルキングは、静かにギドラキュラスにそんな体で歩み寄る。
「俺は、無理だね。
俺のメシは、俺より弱い奴だ。
弱い奴がいなきゃ、腹減って死んじまう。
俺は最強の王って、小さい毛むくじゃらに言われてる。
お前は強いけどよぉ……お前は一匹で生きられるかぁ??」
ぐ、と拳を握り、何か話すように鳴くスカルキング。
「俺は、最強だ。
けど、弱い奴がいなきゃ生きていけねぇ。
強い奴はな、弱い奴を食わなきゃ……生きちゃいられないんだ。
弱い奴を、食う分確保しなきゃ…………
弱い奴を、明日食う分は生かしておかなきゃ……
弱い奴を踏まなきゃ……!
弱い奴の知恵を借りなきゃ……!
弱い奴をよぉ、守っていかなきゃ……!
弱い奴が、この世にいなきゃあ……!
どんなに強くたって、一匹だけじゃあ生きられねぇ……!!」
荒い息の中、スカルキングはギドラキュラスを睨む。
そして、スカルキングは思い出す。
今言った言葉を、最初に言った『小さな勇者』を。
幼い自分を守るために、自分より小さいのに戦った、あの『強くて小さな背中』を。
「小さいのが弱いからこそよぉ、俺が強いからこそ守ってんだよこちとらぁッ!!!
強いだけじゃあ、何も出来ねぇからなぁ!!
弱肉強食!!
だから俺らがお前みたいな外道からァ、守ってやんなきゃ行けねぇんだよ、オラァッ!!!!」
ズゥンッ!!!
満身創痍の力ではない拳が、ギドラキュラスを一撃で倒れさせる。
「ガッ……!!」
「俺はもう、ピグマリーより背中がデカイし強いんだぁッ!!!
アイツがちびっこい体で守ったもんは俺が守るんだッ!!
分かったこの無駄食い野郎がァ━━━ッ!!!」
倒れた体にボディプレス。
地面が開墾される勢いで悲鳴を思わずあげたギドラキュラスに、さらにマウントポジションを取り滅多打ちにする。
「この、
調子にのるなクソカスがァーッ!!」
しかし、ギドラキュラスの口から迸る赤い雷に吹き飛ばされ、また一つ更地を作り地面に叩きつけられるスカルキング。
「下等生物供がぁーッ!!!
貴様らの不完全な生態系なぞもはやどうでもいいッ!!」
「うるせーッ!!!
テメェも、兄弟だか何か食わなきゃ復活できないところで、偶然拾ったメシでお腹いっぱいになった癖によぉーッ!!」
怒りのまま吠えるギドラキュラスに、スカルキングも応戦するよう、傷に似合わない猛々しさで吠える。
「いいだろう!!
不味いと思って生かしておいた我が浅はかさを清算するとしよう!!」
再び、しかし今度は必殺の威力を長く込めるべくギドラキュラスは口へ赤い光を溜め込み始める。
「ここで死ねぇッ!!
下等生物がぁ━━━━━ッ!!」
ひときわ大きく3つの光がスパークし、いよいよその発射の時を迎える。
スカルキングは、満身創痍の身のまま、腕を組み、
「いや、悪いけど俺より先にアイツじゃねぇ??」
と、顎で指し示して鼻で笑った。
瞬間、ギドラキュラスの右の首が飛ぶ。
「!?」
キィィィィィッ!!!
空気を切り裂く甲高い音と共に、遠くに現れる影。
いや、影というには派手な、真っ黄色のボディ。
「超高熱火球砲、
発射ぁーッ!!」
ブレイガーOの右腕が光り、空中から狙ったギドラキュラスの体に命中させる。
キュルルルルルルルルッ!!
直後、ビシャァッ、と空気を切り裂く赤い稲妻がブレイガーOへ襲いかかる。
減速せず降下したブレイガーO。
大地に着いた足は地面をえぐり、そのままスクランブルウィンガーのエンジン出力のまま後を残して進む。
そのままブレイガーOの右腕が光る。
ズガガガガガガガガッ!!!!!
大地を爆速でえぐりながら進み、超高熱火球砲を正確に叩き込みながら減速を始める。
キュルルルルルルルルッ!!
怒りの雷撃がブレイガーOに降りかかり、地面が大爆発するように土煙が上がる。
「━━━━さぁて、」
生きのできなかった時間は終わり、ブレイガーOの中でパンツィアはギドラキュラスを見据える。
「覚悟しろギドラキュラス……!」
ブレイガーOは、ゆっくりと進み始めた。
***




