act.8:ブレイガーO起動実験-後編-
てくてくてくてく
なんと楽しそうな足取りだろうか
その道に今、小さな魔女と、人型に形取られたクッキーやマシュマロ、顔からしたのスティックで歩くチョコと言った菓子たちが歩いていた。
「いっくぞー!お菓子の魔女配下の陽気なお菓子軍団!!」
『うぉー!!』
小さな魔女は、ピンクを基調としたとても可愛らしいドレスに身を包み、そう言って前へと進んでいく。
菓子の軍団も続いて歩く。
この一行、先頭の魔女はこう見えてもう、
「ちょっとぉ!?どう見えるっていうのよぉ!!」
……失礼、彼女はもう齢1000年以上生きる大魔女の一人、コンフィズリア。
見た目通り、お菓子が好きなだけで生きたお菓子を作り始める変わった魔女である。
「見た目通りってなにさ天の声ぇ!!!」
「まぁなんだって良いもんね♪
今日は、勝手に私のお菓子の家の窓のハッカ飴を舐めつくした不届きものの悪ガキのいるあの街に!!
この、下剤とかヤバいお薬とか風邪ひいたときにわざわざくしゃみしてやって作ったお菓子を食わせて酷い目に合わせてやるんだからっ!!」
いぇーい、とファンシーなお菓子軍団が盛り上がる。
思いっきり地面を歩かせているのもそういう意図か……
「おっと、いけない!
こうしている間にも、賞味期限が来ちゃうから!
品質期限は存在しないけどねっ♪
さぁいくよみんな!
お菓子の魔女の恐ろしさをお腹に教えてやるんだから!!」
『アイアイ、マー━━━━━』
パヒュンッ!!
閃光。
その一瞬で、動くジンジャーブレッドマン達が黒焦げに成り果てる。
「え……?」
あまりの出来事に、コンフィズリアも目を丸くする。
***
「おー……!
神光切断砲とはこういうものか……!!」
5枚ほどのオリハルコン製の板を切り裂いたのを見て、パンツィアは感嘆の声を漏らす。
目と目が合えば、即!両断。
というべき凄まじい威力だ。
「しっかし、あの森まで切り裂いちゃったけど大丈夫かなぁ?」
『滅多に人の通らない森らしいですし、わざわざ街にも許可を取ったので誰もいませんよ、きっと!』
「じゃ、遠慮なく次やっちゃおうか!」
そんな訳で、パンツィアは次の武器を選び始めた。
***
「うわぁぁぁぁ!?!?
わ、わた、私のお菓子ちゃんたちがぁぁぁぁぁぁ!?!?」
じゅぅ……と炭がさらに焼けて真っ白になったような大地で、跡形もなくジンジャーブレッドマンが消滅した。
「どうしてぇ……!?」
ざ、とそんな言葉を漏らした瞬間に音がする。
振り向くと、満身創痍の男が……人間っぽいが、魔力の波動が魔族っぽい男がいた。
「お前か━━━━━っ!?」
「……!お前は……!」
「ってぇ、よく見たら剣の魔王スパーダだぁ!?
えぇ、蘇ったの……?」
「久しいな、菓子の魔女よ……相変わらず年齢不詳。
しかしちょうどいい……一体我はどれほど寝ていた……?」
「1000年ぶりに目覚めてなんでそんな満身創痍なのか聞きたいのはこっちだけどぉ……?」
その言葉に、ピクリと眉を動かし、しかしもう立てないとばかりに座り込むスパーダ。
「1000年、もか……
どうやら、時代が変わるには充分らしい……!」
「何一人で納得してるのぉ!?
こっちはそっちの戦いのせいで可愛い復讐用のジンジャーブレッドマンちゃん達が炭を超えて灰だよぉ!?」
「戦い……?
くはは……!馬鹿を言うな……!」
す、と半ばから折れた剣を空に向ける。
「こんなもの戦いでは無い……!」
「ん?」
ヒュルルルル……!
空気を切り裂き何かが落ちる音がする。
「『蹂躙』とはまさにこのことよ……!」
「へ━━━━ホワアアアアッッ!?」
ズドォン!!!
何か爆発するものが落ちて来た。
***
爆発魔法推進弾錬成機がもしもこのままうまく使えない場合にも備えて、新しい実弾兵器がブレイガーOには搭載されていた。
肘装甲内に格納された、テトラ発案の高貫通性無誘導爆弾高速錬成機。
名付けて、
「速射貫通榴弾ェ━━━━イドッ!!」
肘を折り曲げ、そこから伸びた4連装錬成機。
高貫通性の爆弾は次々とハリボテの壁を撃ち抜いて、後ろの適当な動物しかいない森を爆ぜさせる。
「うわぁ、すごい貫通力!
ちゃんとでも爆発するんだ……!」
まるで元の世界の戦略爆撃。
元の世界でのひいおばあちゃんの語った東京大空襲のような光景だ。
***
「うわァァァァァァァァァッッ!?!」
目の前で、木が、大地が、マシュマロマンが、チョコキャンディーマンが、次々と爆ぜて消えていく。
「私のお菓子ちゃんたちがぁ!?」
「くっ……貴様も来い!」
叫ぶコンフィズリアを抱えてスパーダが飛ぶ。
取り残されたお菓子の軍団が尖った爆弾に焼き尽くされた。
「キャァァァァァァァァァッッ!?
と゛ほ゛し゛て゛こ゛ん゛な゛こ゛と゛す゛る゛の゛ぉ゛!?!」
「知らぬ!我も目覚めたばかりよ、今の世の理は知らぬ」
どんどん飛んできた爆弾は、しかしいつしかピタリと来なくなる。
「……終わった……??」
シュタッ、と降り立つスパーダから降ろされたコンフィズリアは、抉れた大地を見て呆然と呟く。
まるで、これは100年前にあったとされる『戦争』。
砲弾と、竜騎兵による爆撃が通った場所のような、あの新聞の写真のような光景だ。
「嘘でしょ……?
いくら私のお菓子の軍団が物理的に脆いって言っても……嘘でしょ……??」
「……この威力……!
古よるきたる勇者の魔法のそれなど赤子の遊戯……!
童の頃に聞いた神話の再現とでも言うべきか……!?」
「この10年ずっと山に篭ってたけど、なんなのこれ……?」
ふと、二人の頬を風が撫でる。
さぁぁ、と突然吹いて来た風。
さっきまで無風だったはずなのに、突然なかなかの強さで吹き始める風。
ぴちょん、
「ん?」
ふと、雨かなにかか、と思って頬を拭った瞬間、
ギュルォォォォオォォォォォオォッッ!!!!!
「にょわァァァァァァァァァ!?!」
「ヌゥゥゥゥゥゥゥッ!??」
凄まじい竜巻が二人を空の彼方まで吹き飛ばした。
***
「強腐食旋風砲ェェェェェドッ!!!」
ブレイガーO胸部に存在する二つのファンが高速で回転し、凄まじい突風を巻き起こす。
本来は、強腐蝕化合物ミクロハイドロゲンを同時に散布し物体を腐食させるのだが、今回は試験の為に水を巻き上げていた。
『ぎゃわぁぁぁぁ!?!テントが飛ぶぅぅぅぅ!!!』
「おっと!」
流石に長時間の起動は、腐蝕液なしでもまずい。
凄まじい威力だ……竜巻だけでも天災級だ。
『━━━━終わったか?』
ふと、シャーカではない声が聞こえる。
「お、来てくれたんだ!
今終わった所だから、早速頼んでもいいかな、アイゼナちゃん?」
通信の相手━━━━アイゼナにそう尋ねたタイミングで、遠方に飛竜の群れが見えてくる。
『いいぞ。
手は抜かない……落とせるものなら落としてみせろ!」
***
「━━━ヌゥンッ!!」
「おりゃっ!!」
スパーダは身一つ、コンフィズリアは巨大なロリポップキャンディに跨って空へ浮く。
「わ、ちょ、久々でムズッ!?
あんたなんでそんな安定できるのぉ!?」
「重力魔法なんぞ完璧にできる訳はない!
我が魔力の多さにより無理やり安定させておるだけのこと」
そして、ふむ、と唸りながら下を見る。
「あれが……我らを襲ったものか……?」
「え?
…………えぇ!?何あれ!?」
遥か下の荒野の中、黄色い巨大な鎧のような巨人が動いている。
「女神デウシアの巨神戦鎧か……?
にしてはなんと珍妙な色よ」
「そんな神話級の物がホイホイいてたまるかー!!」
ふと、その巨人の方向でピカッ、と何かが光る。
「「ん?」」
瞬間、青白い光が襲いかかる。
***
『ははは、パンツィアせんせーこっこまでおいでー♪』
「にゃろめぇ!!ちょっとは手加減してよぉ!!」
ひらりと躱す飛竜の後ろ、たなびく的に当てられない超高熱火球砲の一撃が通り過ぎる。
「地上観測班!!全然!!
攻撃!!当たりません!!!」
『くぅ、我らが作ったものとはいえ…………無線誘導システムが不完全すぎる……!!』
「もう、これ手動でやった方が当たる気がするぅ!!」
さっきから本当に当たっていない。
『はっはっは!そうムキになるな!
これでも、隊長クラスの精鋭しか連れて来ていないのだからな、そうなって当然だ!』
笑い声とともに、肩に飛竜が一匹乗る。
当然のように白い飛竜のラインに、それにまたがる凛々しい女竜騎兵はアイゼナだ。
「分かっていても、納得できないこともあるんです!」
『はは、天才も皆の子か』
はいはい、と肩に勝手に乗るアイゼナに見えなくとも手を振っておく。
『……そういえば、パンツィア。
陛下から例の件の許可が下りたぞ』
ふと、そんな通信をアイゼナがしてくる。
「早すぎない……?
二つ返事同然じゃ……??」
『……直接話していいか?』
そう言うのであれば、とパンツィアはブレイガーOをこの姿勢のまま固定して、コックピットハッチを開く。
いつのまにか、ラインが頭に乗っていたようで、ウィンガーの上を歩いてアイゼナがコックピットの中を覗き込む。
「ずいぶん狭いな」
「これでも広くした方。
お姫様のお部屋よりは狭いけど」
「口が上手いやつめ!」
す、と上半身をコックピットの中へ覗き込むように入れるアイゼナ。
……鎧を特注しなければいけない豊満な二つの膨らみが嫌でも目に入ってくる。
「聞け、パンツィア。
許可を出した理由は、我が国は正規軍が今出せないのが理由の一端なんだ」
だが、そんなことを気にしていられない話をアイゼナが始めた。
「ゴルザウルスに陸軍が壊滅させられたからか……」
「だから、現状ブレイガーO以外に出せる戦力は、我々竜騎兵部隊ぐらいだ。
明らかに火力不足だろう?」
「派遣されたメーザー部隊、間に合いそうにないんだね」
「ああ。お前が鉄道王なのが幸いというか、首都防衛に回すのが精一杯だ。
地方軍は目下、今も移動中の邪巨神の『誘導』以外は出来そうにない」
「なるほど……目的地が分かるって言うのなら、行かせてそこで決着を、ってことか」
ああ、と悔しそうに言うアイゼナ。
「……目的が完全にわかれば、ブレイディア首都外の、ましてスカルグラウンド周辺の荒地ならば誰も迷惑はかからん。
あそこは何処の国にも属してはいないからな」
「…………」
「それと、立地的にトレイルもマルティアも軍は出せないが、魔王諸国連合から、ネリス陛下が新兵器を持っていくらしい」
「ネリスさんが……?」
あの魔王も相当な魔法博士としての技術力と魔王ゆえの工業力を持っているはず。
新兵器、と言うからには恐らく相当なものを持ってくるはず……
「ん?」
と、その時、急に空が暗くなる。
「どうした!?」
「……アレは……!?」
自然と、皆が空を見上げていた。
***
「む!?」
「今度はなにさー!?」
それは、あの二人の頭上からやってきた。
***
巨大で真っ赤な船体。
どこかウィンガーのような形と、海に浮く船を合わせたデザインは、鋼鉄製の巨大な飛行物体。
下に備えられた魔力砲や実体砲の砲塔や近接防御用らしい機関砲など、一体何を想定しているのかとツッコミを入れたくなるデザインだ、とパンツィアは思ってしまう。
要するにそれは、
真っ赤な飛行戦艦、だ。
『━━━━ふぅーっはっはっはっは!!
驚いたか?驚いたよなぁ、HALMITの賢者たちよ!!』
わざわざ大音量のスピーカーでそう声をかけるのは、結構迷惑な気がするのでやめてほしい。
『おっと、流石にうるさいよな!!
これはすまぬ!!
お、真下にいるのは、ブレイガーか!?
随分と派手で奇抜な配色よな……余けっこうそういうの好き!!
ちょっと待つのだ、そっちに今行くからな!!』
その声の主は、間違いなくネリスだった。
「というわけでじゃんじゃじゃーん!!
余、こと雷竜魔王ネリスである!!
大体、四日ぶり??」
いつも通り騒がしい様子で、雷竜魔王ネリスはやってきた。
金髪で白い肌の美しい顔となかなかメリハリのあるボディを惜しげもなくあざとくポーズを決めるのも、妙に似合う彼女が。
「ええ、また会えて光栄です。
上の物が、新兵器で?」
「うむ。正直言って、結構大陸の他の国に見せるのも躊躇ったのだ。
ガッツリ戦略的兵器ゆえにな……
これが、余の『大空戦艦』である!」
真上に浮かぶ、巨大な真紅の船を指差してそう答える。
「……あんなものが頭上にあると言うだけで恐ろしい」
「であろう、ブレイディアの姫よ。
アレは、余のお気に入りの船であるが、困ったことに遊覧船などではない。
そこのパンツィアの反重力魔導機構、
そして、かねてよりずっとそれを応用した『推進機構』をもって進む、恐るべき空中の要塞よ」
なんと、とパンツィアは驚きの顔を見せる。
「リパルサーを推進に!?
重力推進と!?」
「上の技術者曰く、『斥力魔導推進機構『マキシマリパルサードライブ』』と言うものだ。
まぁ、主のジェットエンジンと違って未だに小型化が容易ではないのが難点だがな」
ほあー、と真上を見てしまう。
アレは、つまり魔王諸国連合の魔法科学の粋を集めたものだ。
それだけでブレイガーOと同等の価値がある。
「……邪巨神も砲撃で殺せそうだ」
「そうであろう?
うむ、当たればたとえどのような敵であろうと粉砕だ!
まぁちょっとばっかり、大雑把な戦略兵器ではあるのだがな。
仕方ないネ♪」
「ところであの『シウス』は……」
あ、とつい前世の記憶でそんな言葉を口走るパンツィア。
「しうす?」
当然、隣のアイゼナはそんな顔になる。
あちゃー、と言い直そうとした瞬間、
「━━━近接防御火器機構(CIWS)が気になるか、パンツィア?」
なんと、極自然にネリスはそう答えた。
「!?」
「んん?どうした、自分が言った言葉ではないか。
そんなに驚くこともあるまい?
まぁ、こんな『そなたの世界でもごく一部しか使わない言葉』、
知る人間も少ない、よな?」
まるで、『知っている』かのような言い方をするネリス。
「……まさか、パンツィア今のは……!?」
「うん……でも、なんでネリス陛下、知って、」
「━━━━ネリス、だと?」
ふと、気がつけば横に見知らぬ二人が立っていた。
「え、どちら様?」
「む?
……剣の魔王様!?スパーダ様ではございませぬか!!」
「久しいな……いつのまに、と言うのも変だ。我も1000年近く眠っていた。
美しく成長したな、お前に母上のように」
と、ボロボロの戦士然とした男がネリスに近づく。
「まさか、行方不明となっておられた貴方がこんなところで……?」
「あの、これは一体?」
とりあえず、おずおずと手を上げて言うパンツィア。
「…………ふむ…………
まずは、話をするべきだろう、お互いに」
剣の魔王、と呼ばれた男は唸るようにそう言葉を漏らす。
そんなわけでお互い、どう言う状況かを交互に説明することになった。
「━━━確保!」
「どうしてこの流れで私ぃ!?」
コンフィズリアは、竜騎兵隊が捕まえた。
「副隊長、説明をお願いしますわ」
「わかった!!
お菓子の魔女、お前のハッカ飴を山に出かけた子供達が局部に入れてしまったせいで病院に送られたからだ!!」
「初耳ぃ!?てか食ったんじゃないのぉ!!!
なんでそんなところにハッカ飴を入れたのさぁ!?」
「というわけで、全部憲兵の所で話そうね〜?」
「私無罪だぁ!!むしろ被害者なのにぃ!!」
さて、そんなコンフィズリアのことは置いておいて、
「━━━━何、この小さき賢者も転生者……!?」
剣の魔王スパーダは、そしてパンツィア自身も驚いていた。
「……も、って……じゃあ、他にも……?」
「うむ。定期的に現れておるよ。
場合によっては、『転移』という形でもな」
案外普通な言い方で、ネリスは言う。
「とはいえ、我らも知っているのは一人よ。
其奴は、軍略の知識や兵器の概念に詳しい魔族であった。
不自然なぐらいにな。
故に、まだ魔王が一人だった、ちょうど我の時代に問い詰めたのよ」
「……信じたんですか?この話」
「なぁパンツィア?
仮にも『我が父』ぞ?」
と、あまりの事に驚くパンツィア。
「我が父は、魔族としてはまぁそこまで武に長けていたわけではない。
当時の勇者一行からは『四天王最弱』とも思われていたぐらいよ」
「だが、我は奴を必要としていた。
あやつは、内政においても優秀だったのだ……何より、『兵站』が分かっている奴だった……
突飛な話でも信ずるに値するだけの働きと考えもつかない考え方をしていたのだ……
忌々しい勇者だとか言う名の『暗殺者』が来なければな」
スパーダもネリスも、まるで懐かしむようにそう語る。
……その、別の転生者の魔族、という人物は……きっと、彼らにとって大切な存在だったのだろう。
「……これが、1000年もの前の話となってしまったか…………」
ふと、スパーダは絞り出すような声で言う。
「……我も結局、勇者一行に倒された魔王の宿命に勝てなかった。
そして時代はもはやそういう時代でもない、か」
「……スパーダ様……」
「…………良かったな、ようやく勇者に怯える時代が消えた。
人間と魔族は争うもの、と言う時代が消えた。
……なんだ、その顔は?
意外なことを言っているように見えるか?」
ふと、両手で持っていた剣を背中の鞘へと収めるスパーダ。
「我とて、お前達がどちらかが奴隷のように相手を扱うような関係ではないと見れば分かる。
だがお互い臆せず物を言っている。
良いではないか。
左手でナイフを持ち握手するような関係でも、まだ利害を話せているような関係なのだからな」
スパーダは、肩の荷が下りたかのように、安堵の顔で言う。
「……復活はしたが、我は隠居でもしようか。
ネリス、連れて行ってくれるか?」
「……もちろん、貴方様の頼みとあらば。
しかし、あいにく余達はこれより軍事活動をせねばなりません。
数日は、ここに……」
「あ、でしたら、」
とパンツィアがおずおず手をあげる。
「私の『会社』を使いましょう!」
「おぉ!」「何……?」
***
一時間後、スパーダははじめての高速鉄道の旅を始めていた。
「……時代はかなり変わったか。
だが、これもまた良し」
中々にいい味の茶を飲みながら、まずは乗り換えの為トレイル方面へ向かっていた。
***
HALMIT東門前駅から発射された様子を見ていた一行だった。
「━━━━『新幹線』か。
余の若さで見れるとは思わなんだ」
「やっぱり、ネリス様のお父様は、『日本人』……」
「多分な!
色々知っていて、余の寝る時にお話ししてくれたのだ!」
そのことを話す時のネリスは、童心に帰ったかのような弾む口調と心から楽しそうな様子だった。
「……私以外にも、転生者がいたのは驚きです」
「まぁ、そこそこ伝説はあるものの、時代はバラバラな上に、普通は自分からそんなことを言うとは思わん。
というか、あの女神デウシアは近くにいるのに何も言わなかったのか?
かの女神は割と長生きで関わりがある神話も残っているのに?」
「私、歴史に疎いのでそれも初耳なんですが……
デウシア様、そう言うの関係なく人と仲良くなってそうじゃありません?」
***
「ふぇっきしっ!?」
格納庫の作業員のたまり場で、粗茶を片手にくしゃみをする薄汚れた作業着の女神が一柱。
「風邪っすか女神様?」
「こう言うのは大抵不敬なこと言われたくしゃみなのよ」
まぁまぁ、と作業員に粗茶のお代わりをもらって一気飲みする姿は、本当に女神なのか疑問に思ってしまうほど似合っていた。
***
「たしかに」
ネリスどころか今まで黙っていたアイゼナも深く頷く。
今度かの女神の神話でも聞いてみようとパンツィアは心に決めた。
「……知らないことだらけだなぁ、私」
「そう言うものよな。余もたった1700年しか生きておらんから、いかに何も知らないかを痛感する日々だ」
「寿命の短い我々ならなおさらと言う訳ですか、魔王陛下」
うむ、と言ってネリスは改めてパンツィアの方を向く。
「……なぁ、パンツィア・ヘルムス。
ここまでの流れで行くとつまり、お前は知らんのか?」
「?
何をです?」
「お前の養父……ケンズォのことだ」
何を、と言う前に、ネリスは説明してくれた。
「お前の養父のケンズォの、魔法の師の話だ。
其奴は人間だった。
『前世の記憶を持っている』な」
「え……?」
まさか、と思った顔を察して、ネリスは答えてくれた。
「そうだ。
あのケンズォは、二人の『転生者』と関わりを持っていた。
自らの魔法の師と、お前のな」
……まさか、と言うのがパンツィアにとっては正直な感想だった。
そんな偶然、あるのか?
「どう言うことだよ、おじいちゃん。
そう言うことは、話すべきじゃん……!」
思わず、誰にともなく呟く。
もう、答えてくれるロクデナシ半魔はいないが。
***




