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でぃぷ・らーくな!  作者: アーギリア
8/10

今日は明日の前日譚

 司は謎の生物『おにくぶっちゃー』とともに職員室でパソコンに向かっていた。近いうちに初任教員のための研修があるため、資料をまとめているのである。

 『おにくぶっちゃー』は司の左腕にしがみついてむにむにと蠢いている。これで見た目が小動物的のようであれば可愛げもあったのだろうが、残念ながら鶏肉を雑に固めたような外見である。贔屓目に見ても、不気味としか言いようがなかった。


「こいつ、なんなんだろうなぁ。智恵理に聞こうにもどこにいるのかわかんねぇし」


 智恵理は、司と同期の教員であり、表向きは明朗快活な若手女性教員である。ただし、内心にはレディーと呼ぶにはいささか抵抗が生じる人格を秘めていた。

 彼女は、人の目を見て動くタイプの人間である。人前では可愛らしい新米教師を演じているが、人目につかないところでは明らかに丁寧さに欠けた仕事をする。……何、いつもまじめに全力を尽くすことが正義ではない。力を抜いていい場面では力を抜くことも世渡りの業である。しかし、彼女の場合はその程度の差が激しすぎる……と司は考えている。

 今日だって本来ならば、京には智恵理がついていてやらなければならない状況であった。少なくとも、一時間いっぱい児童を一人で放置するなど言語道断だ。……ただでさえ、強力な魔術を使える関係上、安易に目を離してはいけないというのに。京は彼女が一度も姿を見せなかったことに疑問を感じていない様だったので、智恵理はしょっちゅう京を一人にしているのだろう。

 そう考えると、どうにも智恵理の担任としての意識の低さが感じられて、司は何とも言えない気持ちになるのだった。


「智恵理に聞いてもわからないかもなぁ」


 司には、智恵理が京と楽しげに話す様子など想像できなかった。あのノートの内容を、知っているかどうかすら怪しいとさえ思っている。もともと、京と彼女の関係は、はた目から見ても良好なものではなかった。それでも、魔術を行使できる京を担当する智恵理は当然貴族であり、魔術に関わる教育を受けている分、司よりは有用な見解を持っている可能性が高いとの期待があった。しかし、この分では一欠片の情報も得られない可能性がある。

 考えているうちに、いつのまにか時計の短針は6を示していた。ふと窓の外を見ると、ちょうど東家の車が学校から出ていくのが見える。さすがに、太陽も沈もうとしている。だいぶ暗くなってきた外を見た司は、不思議なことに……おそらく京のいる空間に長いこといたためだろうが……「まだ明るいな」などとつぶやいた。


「はーい、東さん下校しましたぁ!児童はもう残ってませーん!」


 突然、甲高い声が職員室内に響き渡った。声の主を確認するまでもない。彼女が智恵理である。

 スーツをしっかり着用しているのに、どこか派手な印象を振りまく彼女は、慣れた様子でコーヒーをマイカップに注ぐと、それを手に鼻歌を歌いながら席につき、スタンバイ状態になっていたパソコンを起動させた。

 公務員らしい「真面目さ」を欠片も感じさせないその在り方は、根が真面目な司にはどうにも理解しがたいものであった。そのため、同期として着任して以来、司は彼女に対して不信感と苦手意識を払拭できないでいる。

 司は一瞬躊躇した。どうせ分からないのなら、敢えて智恵理に聞く必要もないのではないか。他にも貴族階級の教員はいる。取り敢えず話しやすい相手に聞いてみれば……。


(そういうんじゃねぇよな)


 司は、すぐに自分の勝手な考えを否定した。これは智恵理に対する侮辱である。生徒のことを知りたいならまず担任に聞く。この程度の常識すら理解できないほど、彼女は世間知らずではない。そうと決まれば、あとは思い切りだ。意を決して、彼女の席に向かった。


「智恵理、ちょっといいか」

「んー?なあに?司ちゃん」


 平静を装いながらも、つい表情が硬くなってしまっている司に対して、相手を一瞥もせず、すっかり緩んだ様子で智恵理は答える。司は、ため息を押し殺して、左腕を智恵理に見せていった。


「なあ、これ、京の魔術の産物なんだが、何なのかわかるか?」

「はぁ?あの子また魔術使ってたの?やめてって言ってるのに……うわっ、気持ち悪っ!ちょっと、近づけないでよ!」


 智恵理は、『おにくぶっちゃー』を見留めると、がたりと音を立てて席を立ち、司に軽蔑したようなまなざしを向けた。思い切り素が表出しているが、そもそも彼女のそれがキャラづくりであることは職員室の全員が知っている。そのため、ことあるごとに彼女は割と遠慮なくキャラを崩す。司にしてみれば、なぜ彼女が知られているのを知ったうえでかわいい子ぶるのを続けるのかさっぱり理解ができない。


「これさ、京にもらったんだけど。育て方とか、わかる?」

「そんなキモイの知らねぇよ!それを育てる?正気!?前々から変人だとは思っていたけど……そんな汚い奴、どっかに捨ててきなさいな!」


 散々な言い様であった。見れば、『おにくぶっちゃー』はどこか悲しそうに身を縮めてプルプルしていた。こんな生物にも、五分の魂というものは存在しているのかもしれない。

 司は、少し粘ってみたが、

智恵理は結局、知らぬ存ぜぬの一点張り。司は、一応話を聞いてくれた智恵理に礼を言って、その場を後にした。


(まさか、本当に一欠片の情報も得られんとは)


 司は、ひどくガッカリしていた。情報が得られなかったこともそうだが、何より智恵理が京のことをなんとも思っていないのではないかという疑惑がさらに深まる結果に終わったことが、何よりも悔しく、残念であった。もはや、彼女は頼るまい。

 それから司は、他の貴族教員に話を聞いて回った。誰もが、『おにくぶっちゃー』を見て目を丸くしていた。あるものはそのあり方の不可解さを説き、あるものはその不気味さ、恐ろしさを語った。魔術については一かじり程度の知識しかない司には、ほとんど理解ができなかった。


「それ、生き物なのか?」

「一応、感情などはあるようです」

「とんでもねえな。京が作ったってんなら、そいつは呪術による産物だろう」

「呪術?」


 司は魔術について勉強したことを思い出す。魔術は主に「火・水・風・土」の四属性で用いられる。というより、それ以外は厳しい制限が設けられている。本来は、どんな物質でも作れる物質であるが、際限なく許可すると、極端な話では「核物質」をポンポン生み出すことも可能になってしまうわけで、流石にそれは認められない(一応、国に申請して新たに免許を申請・取得することは可能である。例えば、養護教諭の鷲島鷹志は「電気」の免許を持っている)。


「『呪術』なんて属性ありましたっけ」

「お前さんはまだ属性魔術しか知らんのだな。いい機会だから知っておきな。『魔力素』には三種類ある。『神性』『魔性』『虚性』だ」


 教頭は次のように説明した。


 『神性』は『神術』と呼ばれる魔術を使うための『魔力素』である。『神術』は『神の存在』を前提において発動する魔術形式で神が許せば何でもできる。まあ、文字通り神の力の一端を使えるわけだ。ただし、神の許可を得るのが一筋縄ではいかないため、使用者はひどく限られる。大体の貴族はこれを持っているが、属性しか使えないのが大半である。

 『魔性』は『呪術』を使うために必要な魔力である。『魔力素』が発見される以前から存在した古い形式で、何かを犠牲にしながら発動する恐ろしい術式だ。かつて、この世界を支配した『魔王』に由来するもので、本来『魔術』とはこれをさしていたという研究結果もある。こっちも犠牲さえ払えば何でもできるが、何で犠牲を払えば現実に干渉するレベルの事象を発言できるのかはわからん。

 『虚性』は貴族以外の人々が持つ『魔力素』だ。他二つに比べると、やたら変質しづらくて、基本的には使用不可能だ。『一般』『異民』が魔術を使えないのはこのためだ。だが、まったく変質しないわけじゃないらしく、強い思いに呼応して、不可逆的に形を変えることがある。その場合、『貴族』でなくともたった一つだけ、強力な魔術……『魔法』を使うことができるようになる。


「では、この『おにくぶっちゃー』は何かが犠牲になって生み出された代物だと」

「切り傷だの擦り傷だの生っちょろい犠牲じゃないぜ。黒曜石を親指に深々と突き刺してようやくタンスの角に指をぶつけるぐらいの痛みを相手に与えられる……みたいなひどい燃費の術式だ。命を作り出すなんてした日にゃ、何が犠牲になっているのか想像したくもないね。日丸先生、悪いことは言わない。明日にでも、そいつは京に返しちまった方がいい。あの子はともかく、あの子の生み出す生物の安全性は、俺でも保証できない」


 教頭からの助言は有用であった。彼は、魔術師としてかなり名の知れた男である。そんな彼を以てしても、この生物は不可解千万な代物らしい。……結論自体は、智恵理と同じものであったことに、司はある種の理不尽さを感じざるを得なかったが。少なくとも、この生物は司の手に終えるものではなさそうだ。 


 さて、『おにくぶっちゃー』についての情報も多少把握し、明日の準備も無事に終えた司であったが、帰り際、智恵理から忠告を飛ばされた。


「司。割とマジでそいつ捨てたほうがいいと思うよ。あの子が使う魔術って、本当に意味不明で何が起こるかわかんないから」

「そうなのか?私は魔術についてはほとんど知らないが……」

「っていうか、知らない魔物をどうにかしようとするのがそもそも間違い。そういうのは、近づかない、戦わないが基本。飼うなんて、もってのほか。貴方なんて、『貴族』じゃないんだから……」


 これは、智恵理なりの親切心からくる言葉だったのだろう。どうにも軽い態度が目立つ彼女ではあるが、小学校の教員を志しただけの優しさというものは持っているということである。あるいは、曲がりなりにも同期である司に対する、ほんの少しのの情けであったのか。

 しかし、頼るまいと決めた相手から、最後の最後でまともな助言を受けるというのもとんだ皮肉であった。彼女は彼女なりに、京を評価し、向き合っているのかもしれない。そして、考え抜いた結果として、なるべくの不干渉という立場を取っていることも考えられる。結局のところ、司は彼女のことを、何もわかっていないのである。苦手意識を持つのは、いささか時期尚早だったのかもしれない。


「今度、飲みに行くか」

「いきなり何よ?まぁ、何だかんだで貴方とはあんまし接点なかったし、そういうのは歓迎するけどさ」


 司は、智恵理ともっと話してみようという気になった。智恵理は元々、司を避けていた様子はなかったので、お互いに歩み寄ったというよりは、司が少しばかり大人になったと言うところだろう。

 去り行く同僚は満面の笑みで「お疲れ様」と一言。なんとも嬉しそうに仕事を終えるものだ。

 

 ちなみに、司が研修ということは、同期の彼女も当然研修である。そんなことなど完全に忘れている智恵理は、翌日、司に泣きついてくることになる。失礼、これは余談であった。


「私も帰ろ」


 『おにくぶっちゃー』を引っ付けたまま、司も学校をあとにした。思えば、今日は久しぶりに色々な先生たちと話をした気がする。ある意味、京のおかげと言えるかもしれない。

 教員は、子どもを成長させるとともに、子どもに成長させられる職業だと、どこかで聞いたことがある。これもまた、そういうことなのかもしれない。司は、ついに沈みきって、うっすら赤を残すばかりの藍色の空を見ながらそう思った。


 さて、教頭や智恵理からの忠告は非常に有益だったものの、それはそれとして、児童から貰ったものをその辺に捨ててしまうのは気が引けた。現状、この生物が自分に対して不都合な行動をとっているわけでもない。


「しかし、明日から私は研修に行かなくちゃならない……学校に置いていくわけにもいかんし……まあ、少しの間くらい育ててみてもいいだろ」


 考えた結果、帰り道に中サイズの虫かごを購入して、次に京に会えるまでは『おにくぶっちゃー』を育ててみることにした。名前ぐらいは可愛くしようと、「みぃと」と名付けた。

 司は、どうしようもなくなると楽観的な思考に陥る癖があった。それが吉とでるか凶とでるか、それはその時々による。今回のこれは、はてさて、どう転ぶやら。

 見た目を参考に、鶏肉の切れ端を与えて見れば、普通に食べたので、飼育自体はそう難しくはなさそうである。しかし、不思議なもので、こんな不気味な生物相手でも、名前を付けて餌をやれば可愛く思えてくるものなのだ。


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 日は既にとっぷりと暮れ、カラスの鳴き声も聞こえない。洋は、既に宿題を終え、机に向かって明日の活動の準備をしていた。何を隠そう、明日からは『七不思議探索』本格的始動である。打ち切りにならないよう、綿密な計画を立てる必要がある。

 そんな洋の様子をこっそり覗き見している女性の姿がある。彼女は光上無限(こうじょうむげん)。洋が生まれる前から君賀家に居候している、洋にとっては素性不明の女性である。洋は、研究職に就いている彼女をムゲン姉ちゃんと呼んで慕っている。


「咲のことを考えると、明日は見かけも含めて怖くないのでいくべきだよな。だったら、首吊りとかオオムカデとかは無しだな」


 洋は、ノートに書き連ねた『七不思議』の名前に次々と線を引いていく。無限……概念としての『無限』と被ってはいけないので、片仮名でムゲンと表記させてもらおう……は、そんな洋の姿を優しく見守っている。


「万が一、他の七不思議とかち合った時のことも考えとくか。同じタイミングで出る可能性があるのは、『カイガ』と『フワリン』、あとは外伝の『ヒトモドキ』か。『ヒジョウグチ』は考慮しなくてよさそうだし、『鏡の中の鏡の中の鏡の中からの使者』は……条件的にまず会わねぇだろ」

「本当?そいつはトイレならばいつでもどこでも出る可能性があるんでしょう。一万回に1回すら、出会うことがないと言い切れるのかな?」


 ムゲンがいつの間にか洋の後ろに迫り、唐突に声をかけた。洋は、特に驚いた様子もなく、「なるほど」と一言返して再びノートに向き合った。


「手鏡は持ってこないようにと注意しておこう」

「そうそう、懸念材料は一つ一つ丁寧に潰していくといい。アドリブなんて、しなくて済むに越したことは無いんだから」

「うん、ありがと!」


 洋は、ムゲンに対して晴れやかな笑顔を向けた。ムゲンは満足そうに頷くと、おもむろに洋の部屋にある漫画を一冊取り出して、その場にごろりと横たわり、気怠そうに読み始めた。それから30分間、室内ではカリカリと鉛筆を走らせる音と、紙がシャラシャラ擦れる音だけが聞こえた。

 洋が顔をあげればもう21時。よい子は寝る時間である。

 ムゲンがゆっくりと体を起こし、漫画を本棚に押し込んだのを確認すると、洋は彼女と一緒に部屋を出た。洗面台に二人で並んで、歯を磨く。


「明日、本格的に七不思議調査に乗り出すんだ!」

「へぇ。どんなのがあるんだっけ?」


 洋は、これまでの調べで分かったことを楽しそうに話し始める。

 1階の廊下を徘徊する『カタメノフタツメ』。鬼ごっこを仕掛け、捕まえた人間の目玉をくり抜く。

 2階の廊下を徘徊する怪力の大男『タノシゲナカイガトトモニ』。唸り声をあげて、走り回る。

 3階の5年生の教室のどこかに出現する首吊り女『フウワリブラリン』。突然背後に表れて首を絞めてくるらしい。

 保健室の陽気な透明人間『キサクナシンシ』。笑いながら原料不明の紅茶を差し出してくる。普通においしいらしく、少なくとも2週間以内に体に変調をきたすことはなかったという。

 図書館の主である巨大な妖怪『オオムカデサマ』。深夜の図書室に一人で居ると這いずるような音が聞こえる。本体は10メートルを超える巨体の怪物だが、滅多に見られない。

 校長室においてある神格化された石像『ショダイコウチョウテンテイ』。光り輝きながら浮遊し、目が合うと挨拶してくる。危険性は不明。

 長方形を持って逃げ惑うピクトグラム『ツイニニゲダシタヒジョウグチ』。捕まえるといいことがあるといわれている。

 唯一、出会うために儀式が必要な『カガミノナカノカガミノナカノカガミノナカカラノシシャ』。手鏡を持って、二階の女子トイレであることをすると出現する。。出会うと鏡の世界に引きずり込まれる。

 そして、美術室で自分の血を使った絵や字を描き続ける少女『チモジメイカー』。彼女の描いた文字を見ると不思議なことが起こるらしい。


「……七個じゃないよ?」

「ここでは『複数ある』ぐらいの意味だよ、七不思議の七は。八百屋だって八百品目ピッタリ揃えてる訳じゃないでしょ」


 洋は、十分程の歯磨きを終え、口をゆすぐ。ニッと笑みを作り、鏡で自分の歯がツルツルになったのを確認すると、洗面台の正面をムゲンに譲った。

 一応、執筆者の責任として付け加えておくが、歯を磨きながら喋るのは余りオススメしない。歯磨き粉の跡に気づけばわかるだろうが、意外と飛び散るものだ。彼の場合、洗面台掃除を風呂掃除と併せて自分の仕事としてやっているので、まぁ後始末をちゃんとするなら、と多目に見てやってほしい。


「そうなんだ。それにしても、ネーミングセンスが……悪いというか、バラバラだね?」

「一人がつけた名前じゃないからね。俺が勝手につけた名前もあるし」


 色々と説明するに当たって、名前があるというのは便利である。それにしても、特徴をそのまま名前にしているものが多いため、やたら長ったらしい名前が大半を占めているのは考えものだ。『カガミノ……』等は、一々書いていたら読者諸君らから文字数稼ぎと非難されること必至である。

 しかし、そんなことは洋だって気づいている。その証拠に、より説明しやすくするための略称を既に用意している。最初からそれを紹介すればいいのに、というせっかちな方は、是非とも引用の原則を学んでいただきたい。先行研究へのリスペクトは疎かにしてはならないのだ。


「取り敢えず、それぞれ『カタメ』『カイガ』『フワリン』『シンシ』『オオムカデサマ』……はそのままで、『テンテイ』『ヒジョウグチ』『シシャ』『チモジ』って呼ぶことにしたよ」

「あら、わかりやすい。最初からそっちで教えてよ」


 彼女は光上無限。研究職に就いている君賀家の居候である。彼女には是非とも引用の原則を一から学び直していただきたい。





 次の日。朝一番に彼はノートを確認する。時間を置いての再確認は製作物の完成度を上げてくれる。また、昨日考えたことを整理し、今日に引き継ぐことができる。


「よし、バッチリだ」


 洋は、満足気に頷いた。改めて見返しても綿密といって差し支えない計画。今回は、カタメちゃんのときのような万が一の危険もない。余程の想定外でも発生しなければ咲を含む『でぃぷ・らーくな』メンバーが辛い思いをすることはない。

 母親が用意してくれた朝ごはんを残さず平らげ、歯を磨き、家を飛び出す。


「行ってきます!」

「気を付けてねー」


 まだ誰も歩いていない通学路。間違いなく今日の一番乗りは彼だろう。燦々と輝く太陽に向かって、洋は、今日という日への期待を胸に走っていくのであった。


 おっと、しかし、彼はもう忘れてしまったらしい。かの、シラミズアキラに言われたアドバイスである。人の目は前にしかついていないが、大事なものが必ず前方に落ちているとは限らない。時には振り返ることで、見つけられるものもあるのだ。

 一緒に登校しようと少し遠回りして洋の家に咲がやって来た。ムゲンはそんな健気な彼女に苦笑を浮かべながら、「洋ならもう行ったよ」と残酷な真実を伝えた。咲は、一瞬がっかりしたような顔を見せたかと思うと、ありがとうございますと口では言いながら、ぷっくりと頬を膨らませた。今日のクラブ活動の始めには、彼女のご機嫌取りが必要だろう。

Tips 洋の家族

・母とムゲンと洋の三人でくらしている。

・父は仕事であまり帰ってこない。

・洋は家族のみんなを尊敬していると言う。

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