脅威はその辺に転がっている
下校のタイミングは子どもたちによってさまざまである。放課後になるとすぐに学校を出る者もいれば、総下校の時間である16時まで、グラウンドなどで遊ぶ者もいる。
「じゃあ、気をつけて帰れよ」
「さよならー、司先生」
「京ちゃんもまたねー」
洋は用事がなければすぐに帰宅することが多い。それこそ、『全校一斉レクリエーション』でも企画しない限りは、学校の中より公園等で遊ぶことを好む児童である。なんでも、『外のほうがいろいろな発見が見つかりやすい』とのことだ。
咲は、一緒に帰りたい人に合わせて帰るタイプだ。今日はクラブ活動があったので洋と帰っているが、友人の優奈や双葉に合わせて放課後の教室で談話していることも多い。
「じゃあ、京はしばらく教室で待ってな」
「ん」
特異なのは京である。彼女は帰宅のために親に迎えに来てもらう必要があるため、いつも18:00まで教室に居残っている。司は、放課後の京の様子を知らない。みんなが帰ってしまってからの二時間を彼女はどのように過ごしているのだろうか。
特別学級担任の八雲智恵理に聞けばわかるだろうが、司は彼女とはあまり馬が合わない。それほど緊急の用でもないのに話しかけに行くのは憚られた。
そもそも京は、クラブの顧問として今後も長く付き合っていくことになる相手である。幸い今日の司は急ぎの仕事を持っていない。ならば、敢えて苦手な相手を頼りにせずとも、自らの時間をこの小さな魔王のことを知るために使うのがいいだろうと考えた。
司は、一度職員室に戻って、今日のクラブ活動の内容を簡単にまとめて、教師間で共有する情報フォルダに書き込みをした。その後、ふらりと特別教室に足を向けた。
「京、いるか?」
しかし、特別教室の中には誰もいなかった。部屋の主たる魔王がいないためか、いつもより教室が明るく感じられる。
「八雲先生もいない……どこかで一緒に遊んでいるのか?」
実は司は、これまで京とうまく会話ができた試しがない。彼女と世間話をするのは大人の『一般』女性にはひどく難しいのである。
京の言葉は文法が滅茶苦茶なため、話を聞く能力が高い人ほど混乱しやすい。表情も動かないため、コミュニケーションにかかる労力は他の児童とは比にならない。さらに、彼女の持つ話題の多くが『魔術』に関わるもののため、『貴族』ではない司には彼女の話そのものについていけないことが多いのだ。
(だからこそ、この機会にゆっくり話してみたかったんだが)
司は、京が意外と話を聞いているし、理解力が高いことをわかっている。時間に余裕をもって向き合えば、対話が行えないわけではないと気づいているのである。最近、少し魔術に関わる本を読んでみた。多少は彼女の話にもついていけるのではと見込んでもいる。
「まあ、トイレとかかもしれないし、10分ぐらい待ってみるかな。それでも来なかったら探しに行こう」
司は、ふと近くにあった本棚から、京のものらしきノートを抜き取る。なんとなく中を開いてみると、そこには様々な図形を組み合わせたような落書きがいっぱいに描かれていた。
何らかの魔術的なものかと、頭にいれたての魔術知識を総動員してみるが、該当する情報は思い至らなかった。
「あー、でも、昔見た漫画にあったなー。魔法陣ってやつ」
この物語の世界においても、現実に魔法陣など存在しない。魔術とは、元素番号-∞ Mgc で示される化学物質『魔力素』の特性によってもたらされる現象である。魔法陣など書いても基本的には何も出てこない。決まった詠唱というものも存在しない。
「魔術ってもう少し夢があるものだと思ってたんだけどな。まさか免許制とは思わなかった」
魔術は免許がないと使えない。特に、攻撃能力のある魔術は厳しく取り締まられる。どこでも使える攻撃魔術など、どこでも取り出せる包丁並みにたちが悪い。取り締まられないはずがないのである。
「さて、京も戻ってこないし、ちょっと探してくるか」
手にしたノートを本棚に戻してふと気がつくと、部屋の中が暗くなっていることに気づいた。5月も末になったところだが、もうこんなに暗くなるのか。夏はまだ遠そうだなどとぼんやり考える。そこに何かがあることに気づいた。
暗闇の中に真っ赤な二つの目が浮かんでいる。それはまるで、自分の領域に入った闖入者を非難するように、息も瞬きもせずに若い教師を見つめていた。
「……京?」
「ん」
よく考えると、教室の電気はついているので、暗くなるはずがない。そもそも、ノートが問題なく読めていた時点で、実際に暗くなっているわけではないことは明らかである。やたら恐ろしい印象が頭の中に流れ込んできたが、何のことはない。司はこの現象についてすでに理解している。
この小さき魔王について、『他者に自分の姿を本来とは異なる恐ろしい姿に見せかける力を持っている』と紹介したことがあったが、その実例がこれである。見たものの『恐怖』のイメージに合わせて、恐ろしい幻覚を見せる。相手が、京……いや、『和国の魔王』を恐ろしい存在だと認識していた場合は、そのイメージに寄った姿が幻覚として現れるのだ。おかげで、『和国の魔王は巨大な蜘蛛だ』『無数の怨霊の集合体だ』『直視もままならぬ形容しがたい怪物だ』と様々な噂を呼び、それがさらに、この性質をより悪質なものとしている。
この現象が発生する具体的な条件は、『京を見た相手が京の正しい姿を認識していないこと』。京が、白髪赤眼の小ぶりな少女であると理解していない限り、必ず発生する。ただし、幻覚に惑わされず、彼女の本来の姿を見ようとする意志があるのなら、その姿は簡単に認識できる。
「……なるほど、京だと認識しない状態で京を見ると、知っていても幻覚は発生するのか」
「ん?」
京は司が何を言っているか理解できないようで、大げさに首をかしげて見せる。彼女はこの性質を理解できていないらしい。彼女は自分が体験できないことに対する理解力が少々低い傾向にある。それでも、周囲の尽力によって「京を見ると、みんなが怖がる」という事実そのものは理解できているので自分から教室の外に出ることはあまりない。
「なあ、京」
「ん」
「クラブ活動は楽しいか」
「ん?」
京は、首をひねる。司は、今のどこに首をひねる要素があったのか理解できず、一瞬戸惑ったが、すぐにその理由に思い至り、咳ばらいを一つして質問をし直した。
「『でぃぷ・らーくな』は楽しいか」
京の中で、『でぃぷ・らーくな』は『でぃぷ・らーくな』以外の何者でもなく、『クラブ活動』という言葉と繋がるものではなかったらしい。言葉の繋がりを解する能力が乏しいのは彼女の持つ課題の一つである。
「ん」
京は答える。その首は縦にも横にも動かなかった。しかし、それが肯定的な反応であったということは、司にも何となく伝わった。
「そうか」
「ん」
「どういうところが楽しい?」
「……」
今回の目的は「ん」以外の言葉を京から引き出すことである。思い切って、開いた質問……はい・いいえで答えられない質問を京にぶつけてみた。
京はちらりと司を見て、それから沈黙した。教師たるもの、待つことも大事である。司は、落ち着いて、京の返答を待った。一、二分経って、ようやく京が反応を見せる。
「ん!」
「ん?」
「ん」
一回目、京がいつもより強い口調で。二回目、司は思わず聞き返した。三回目、京は満足げに司から目を離し、何もない宙を見つめ始める。京は、これで答えたつもりらしい。司は、この現象もちょくちょく見ていた。その理由も何となく察しがついている。
おそらく、京は頭の中でいろいろ考えたのだろう。そして、頭の中で、『こんなことを言おう』と決めたに違いない。しかし、いきなり口に出しては、またしどろもどろになって、自分の考えが相手に伝わらなくなるのは目に見えている。京は、頭の中で、何度も決めた言葉を復唱したのだろう。そして、ついに満足のいく発言を頭の中で完成させたのだ!満足した京は、司に、その満足感だけを伝えてくれたのである。
「……いや、私に教えてくれよ!」
「ん?」
さすがに司も突っ込んだ。しかし、京はもう今の話題に満足してしまったので、おそらくこれ以上の話を続けてくれない。下手に突っ込み続けると、京は拗ねて「ん」すら返してくれなくなる。そうなっては、その日いっぱい、会話が成立しない。今日に関しては、それだけは避けたかった。
なので、司は別の話題を提示することにした。
「さっき、あのノート見せてもらったんだが」
「ん」
「あの図形は何なんだ?」
「……」
またしても、沈黙が場を支配する。そんなはずはないのに、教室がどんどん暗くなっていくように感じる。司は、本当に教室の電気がついているのか疑わしく思って、ふと蛍光灯を確認する。当然、しっかりと白い電光を放っていた。和国小の公務補は優秀である。
突然、司の袖と意識が何かに引っ張られた。いつの間にか、京が近くに来ており、例のノートを手にしてこちらを見つめていた。
「どうした?」
京は無言でノートを開き、無数に書かれた図形の一つを指さした。
「ねこちゃん」
「……へ?」
その図形は、七角形と三つの四角形、丸が四つで構成されたものであった。どう穿ってみても猫には見えない。
「えっと……?」
「くまちゃん、わんちゃん、こうもりくん、おにくぶっちゃー」
京は、図形を次々指さして、淡々と動物の名前を言う。いや、最後の『おにくぶっちゃー』はわからない。無理をすれば、豚っぽく聞こえないこともないが、名前の響きが他と比べて異質すぎる。
「おにくぶっちゃー?はやたら簡単な図形だな」
「ん。かんたん」
『おにくぷっちゃー』の図形は丸と四角二つだけで作られた簡単な形だった。司は、せっかく京との会話ができているので、この調子でいろいろ付き合ってやろうと考え、胸ポケットにいつも入っているペンとメモ帳を取り出し、その図形を描いてみた。
「こうか?」
「ん、やってみる」
司が京に笑いかけると、京は、相変わらずの無表情で……しかし、どこか楽しそうに司の描いた絵に触れた。
「ん?やってみるって?」
「わたしのせかい、みんなのすむせかい、わたしはみんなにしるしをつけた。そっちとこっちをつなぐきごう。おいで、おにくぷっちゃー」
京が音階のない歌を歌う。すると、記号が扉の形になり、それがパカリと開いた。そして、中から小さな鶏肉の塊のような生き物がのそりのそりと這い出てきた。
「は?」
「おにくぶっちゃー、でた」
京はおにくぶっちゃーというらしき生物ををむんずと掴んだ。おにくぶっちゃーは指のない二本の腕を懸命に動かして、京の手から逃れようとしている。顔も足もない、謎の生物は司を見つけるとその二本の腕を懸命に伸ばした。その姿は、助けを求めているようにも見える。
司はただ口を開けて呆然としている。この怪現象はおそらく魔術だろうが、勉強した魔術とあまりにも乖離した現象が起こって困惑しているのだ。
「なあ、魔術って、魔力素の『生物の脳から出る信号で別の元素に変質する』性質を利用した技術だよな?」
「ん?」
「命とか、心とか、人が認識しきれない概念的なものは作れないはずだよな?」
「んー?」
「実在しないものを作ると、維持が難しくて、すぐ消えちゃうんだよな?」
「きえないよ」
司が、簡単に魔術について触れてくれたので、こちらでも解説しよう。この世界には、魔力素と呼ばれる化学物質が存在する。これは、生物の脳から発せられる電気信号によって、水素や酸素などの代用物質になったり、熱や光などの現象を発生させる性質を持つ。
魔力素は持ち主である生物がイメージしたものに変質するが、ざっくりと水をイメージしても水は出てこない。水の構造がH2Oであることは一定水準以上の教育を受けたものならば誰しもが理解することだが、その分子の形・大きさ・つながって水の形を形成するに至るまで事細かにイメージすることが重要となる(ある程度の差異は現実の強制力によって補えるが、その分魔力が無駄に消費される)。
さらに、魔術で作り出したものは、たいてい数秒で消えてしまう。本人の持つ魔力が尽きるか、少しでもイメージがぶれれば消えてしまう儚いものなのだ。
故に、この「おにくぶっちゃー」のように命ある細胞群を生成し、存在させ続けているのは異常なことであった。
「あげる」
「え?」
京がぞんざいに「おにくぶっちゃー」を投げてきたので、司は思わずそれを受け取ってしまう。「おにくぶっちゃー」は司の手にぴっとりと張り付き、安心したように動かなくなった。
司は恐る恐るこの謎の生物をつついてみる。ややべたつく感覚があり、決して気持ちの良いものではなかった。
「えっと、京。これは……」
「だいじ、してね」
そして、京はもう語るべきことはないといわんばかりに、司に背を向け、鞄から取り出した洋手作りのパンフレットを読み始めてしまった。
その背からは、なんとなく有無を言わせない圧力のようなものを感じて、司は何も言うことができず、ついには教室から出てしまった。
「まあ、智恵理先生に聞けば何かわかるだろう」
そういえば、智恵理先生は何をしているのだろうか。京がいくらおとなしいとはいえ、総下校後にあまり一人で居させるべきではないと思うのだが……。司は、いまさら特別教室に戻るのもはばかられたので、智恵理先生を探しに行くことにした。「おにくぶっちゃー」の話を聞くということを口実にして。
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一方、こちらは帰り道の洋と咲。二人はまたもや不思議な生き物に遭遇していた。
「見て見て、洋!かわいいよ!」
「なるほど、そういうのがイマドキの女子の流行なのか。俺にはわかんないや」
咲は、三〇センチもある巨大な虫を持って嬉しそうにしていた。勘違いされては困るので補足しておくが、この世界においても三〇センチの虫はさすがに一般的ではない。当然、今どきの女子の流行でもない。
見た目はオオヒラタシデムシの幼虫に近いが、胸部に二対の翅があり、六本の足がせわしなくワシワシと動いている。一応、昆虫であり、成虫であるらしいことは洋にも予想がつくことだった。
「名前はバクサンだって!」
「そっか。よろしくな、バクサン」
バクサンと名乗った(らしい)虫がキュリルリと鳴く。挨拶を返してくれたのだろうか。もしかすると、とても賢い虫なのかもしれない。洋は、ちょっと興味がわいたので、試しに撫でてみることにした。咲に抱かれた状態で、バクサンは意外にもおとなしく撫でられた。その様子を見て、洋は一つの結論を出した。
「咲、それ、普通にやばい魔物だと思うぞ。人間を怖がってないもん。仮に、普通の虫だったとしても、自分より大きな相手を恐れないのは相応の力を持ってる奴だって相場は決まってるんだ」
ワタモコリの時も同じようなことを言った気がする。洋はデジャビュを感じた。同じような状況で、同じようなことを言ったのだから、当然同じような結果が帰ってくる。
「大丈夫!挨拶も返してくれたし、きっといい子だよ!」
咲は笑顔でその昆虫を抱きしめる。バクサンは特に苦しそうな様子は見せず、むしろ嬉しそうにキュルリと鳴いた。それでも、窮屈ではあったのだろう。翅を震わせて、「下ろして」と咲にアピールをした。
「あっ、ずっと持っててごめんね」
「キュルルリ」
「うん、わかった。今度遊びに行くね」
「キュリルン」
虫の言葉は理解しかねるが、どうやら、「バクサン」なる怪虫は、咲に自分の住処を教えたようだった。人間の友人同士であれば、ほほえましい情報の共有であるが、相手が三〇センチ程度の昆虫となると話は違う。普通に考えて、自分より巨大な異種族の生物に自身の巣を教えるということはひどく大きなリスクを伴う行為だ。洋も指摘していたが、この生物には、人間を恐れないだけの強大な力が隠されていることが推察される。
謎の昆虫「バクサン」は飛び去って行った。咲は友達にそうするように、笑顔で手を振って見送った。一方洋は、この世界には自分の知らない存在が沢山あることをしみじみと感じながら、「バクサン」の飛び去った先の真っ赤な空を眺めていた。
そして、そんな二人を陰で覗いていた人物が一人。桜木菊は、飛び去った虫を睨みつけながら、手元の通信機に向かってこのようなことを言った。
「『爆散』の頭領格。種族名『オオヒラタシリアゲ』。西の森への帰還を確認しました。被害は現実改ざんの可能性を考慮しない限りゼロ。防衛庁の皆さんは引き続き西の森周辺の調査に当たってください」
……この世界には人間がいて、神様がいて、幽霊も妖怪も、魔物だっている。だが、残念なことに龍は存在しない。いや、龍は『すでに絶滅している』。
かつて、この世界最強の生物として人間と生存争いをしていた龍は、あろうことか予想だにしない第三者に滅ぼされた。ああ、流石の龍どももまさか想像していなかっただろう。自分たちを滅ぼす存在が、神ではなく、神とともにある人でもなく、魔物とはいえ「虫」だったなどと。
オオヒラタシリアゲ。発見されたのは100年以上昔のことである。立ち入り禁止区域『西の森』にすむ危険生物『頭領格』の一体で、拠点を得るためにと西の森を襲った龍の軍勢をたった一匹で滅ぼした怪虫である。
「きりゅりゅりゅん、きりゅりゅん」
オオヒラタシリアゲは一定のリズムで鳴き声を発しながら西の森へと戻った。その姿を、和国中央区を守る防衛庁の一人が偶然にも確認していた。彼は、その姿を「歌っていたようだった」と報告した。
物語的に言うのであれば、今回はちょっとしたお披露目である。彼らが本格的に物語に関わるのはもう少し後のことだ。
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☆魔力についてさらに詳しい説明(興味がなければ読み飛ばしてほしい)
この世界の魔術では、イメージが現実の物に近いほどに魔力の消費量が減る。今回は水の弾を発射する魔術を使用するという想定で、実践的に解説をしよう。
人間が持つ平均的な魔力素の量を「100」としよう。水の魔術を使うので、H2Oの基礎消費量……今回は「2(H=0.5+O=1)」としよう……が消費される。
さらに、水を弾にするために必要な要素を加える。ここでのみ、物質に現実離れした要素を加えることができる。今回は「形質変化:固める」「形質変化:丸くする」という要素を加えるのでそれを実現するためにも魔力を消費する。今回は「5」+「5」=「10」と仮定しよう。
最後に、イメージしたものを現実化(『顕現』という)させる。この工程にあたり、イメージと現実の差異を魔力の消費によって強制的に訂正される。ここで、人間が知りうる知識で分子レベルまで完璧にイメージできた場合の消費を「3」とする。その場合大まかに水そのものをイメージして顕現させるなら消費は「20」程にもなる。
①分子レベルでのイメージ
【基礎消費2】+【性質追加(形質)】10+【顕現補正】3=15
②水そのものをおおまかにイメージ
【基礎消費2】+【性質追加(形質)】10+【顕現補正】20=32
さて、本題はここからである。魔術において、もっとも重要なのは維持である。魔術が解除される条件は維持中に『イメージを崩す』『魔力が尽きる』の2つである。そして、維持に必要な魔力量は秒数に対し比例する。つまり、①は100÷15=6.66秒の間に攻撃ができればよいが、②は、100÷32=3.12秒の間に攻撃をしなけらばならない。訂正の度合いで、この二つの効果は全く同じなのにもかかわらず、倍以上の消費量の違いが発生するのである。
ここまて物質の魔術行使について取り扱ってきたが、現象に関しては、その発生過程を事細かにイメージすることで物質の顕現ができる(火ならば、有機物、酸素、高温の状態などを具体的なイメージにする)。また、人の理解の及ばないもの……例えば、命に関しては、構造が複雑すぎて、まず基礎消費がとんでもないことになる。命なぞ事細かにイメージできるはずもないので、顕現時の消費も凄まじい。結果として魔術で生命を作り出すのは不可能ということになる。
では、京はどうして生物を作ることができたのか?それはまた、必要になったときに説明したいと思う。
☆詳しい説明 おわり
Tips 魔術
・謎の化学物質『魔力素』を用いた科学技術。
・魔力素の『脳から発せられる電気信号によって形を変える性質』を用いている。
・本人のイメージが曖昧だったり、現実に存在しないものを作ることはほぼ不可能。
Tips 頭領格
・この世界最強の生物群であり、危険生物と呼ばれている存在。
・『西の森』を住みかとしている。現在二〇種類以上見つかっている。
・めったに外に出てこない。