カタメノフタツメ
洋は必要性を感じればとことんまで準備する少年だ。だが、興味の対象に取り敢えず突っ込んでいく性格も併せ持っていることを忘れてはいけない。油断をしたところに、彼はこのような提案を前触れもなくぶつけてくるのである。
「さあ!七不思議のひとつ、カタメノフタツメを見に行こう!」
司としては、許可が降りない方が楽だった。しかし、校長は無情にも「先生が監督してくださるなら構いませんよ。保護者の方々には連絡しておきます」などと返答してきた。
「洋は危険なんてないっつったが、相手はよくわからん能力を使う七不思議だろ?私は『一般』だから魔術関係はよくわかんねえぞ?」
この世界の人々は『貴族』『一般』『異民』に分けられている。別に貴族が階級として偉いわけではないので注意されたし。簡潔に言えば、貴族は『魔術が使える人』、一般は『一部を除いて魔術を使えない人』、異民は『かつて魔王側についたために迫害を受けた歴史を持つ人』である。異民については、『現在著しい貧困状態にある人』と言い換えてもよい。この辺りの話は後々詳しく説明するので今は忘れて構わないが、取り敢えず『司は魔術について学べる機会がほとんどなかった』ことを理解してほしい。
つまり、彼女は七不思議という不思議現象に対して何一つの対抗策も持っていないのである。その上で許可が出たのは、ひとえに菊の存在があるためだ。
「何かあったら皆纏めて私が守りますよ」
あらゆる分野において頂点に君臨すると謳われる神童は事もなさげに笑う。事実、彼ならばよほどのことがない限り4人の護衛程度やってのけるだろう。神の子の名は伊達ではない。
しかし、仮にも児童に守ると言われて素直に頷けるほど司も恥知らずではない。まだ新米とはいえ、教師として、大人としてのプライドがある。それでも、何の手札も持たない身ででしゃばるのもまた愚かな行動だ。
「私は大丈夫ですので、あの三人を見ててやってください。どうにも危なっかしい奴らですから」
自分にかける意識を3人に向けさせるという方向で面目を辛うじて保つことにした。菊の足を引っ張らずに教師の立場を維持する唯一の回答であった。
菊は当然のようにその言葉の意図を汲み取る。
「では、そのように」
承諾を示したものの、実際に彼が司を護衛対象から外すことはない。神童桜木菊にとって、3人守るも4人守るも負担はさほど変わらない。どちらにしろ、取るに足らない仕事である。
さて、職員室から舞台は2年3組教室前に移る。この時期、まだ外は明るい。夕焼け空にすらなっていない。こんなタイミングで幽霊の1つや2つ出てきたところで場違いも甚だしいというものだ。咲と司の2人は早くもカタメノフタツメの存在に懐疑的になった。
「さて、もうすぐだな」
「洋?お外しっかり明るいんだけど、本当に出るの?こんなの絶対怖くないよ」
「安心しろって。暗くても別に怖くないから」
「暗いとお化けでなくても……まあ、ちょっと怖いよ」
緊張感のない会話に、司が思わず頬を緩める。正直、少し緊張していた。何せ相手は正体不明の七不思議。実在した場合、洋の集めた情報がどこまで正確かわかったものではない。
最悪の場合、『瞬間移動』と『捕まると目玉をとられる』だけが事実で、わざとらしい『遅さ』『弱さ』は後に希望的観測でつけられた後付けの噂である可能性もあった。正直、出てこないならそれに越したことはない。司は腕時計をちらっと見て、小さく息をはいた。
「時間だが、出ないな」
「バカな!何故だ!?何か条件があるのか……!?」
「明るいし、人数多いし、お化け的にはあんまり出てきたくないシチュエーションじゃない?出てこなくてもおかしくないと思うけど」
何事もなかったことに司と咲は安堵した。なに、所詮は噂話であったのだ。楽しみにしていた京辺りには可哀想なことだが、無いものは調査できない。七不思議調査は中止になるだろう。
「場所がずれてるだけかも!ちょっとだけ見てくる!」
「もう下校時間は過ぎてるんだから、さっさと戻ってこいよ」
司は、三人を先に帰らせようと彼らの前に出て振り向いた。「解散」とただ一言言って終わりのはずだった。しかし、次に言葉を発したのは司ではなく……意外にも京であった。
「きた」
京がポツリと呟く。気がつけば、辺りはほんのり暗くなっている。外は相変わらず明るいままだ。なのに、学校の中だけが異様に暗くなっているように感じる。
普段、自分からものを語らない京が突然「きた」などと言うとなんとも言えぬ不気味さがある。怖いものが苦手な咲はその妙な雰囲気に当てられたようで、ぷるりと体を震わせた。
「……なにが?」
なんとか平静を装って、咲が京に尋ねる。京はなにも答えない。ただ、黙って咲の目を見つめた。
京からの説明は期待できないとわかり、咲は後ろを振り向こうとした。何となく、東が『きた』と言った対象はそこにいるような気がした。しかし、その行為は司によって止められる。
「咲」
「ひっ!?え、何、先生」
「何もなかったし、さっさと洋を連れて帰ろう」
司はそれだけ言うとさっと前に向き直る。そして、まるで後ろを見ないようにしているかのようにスタスタと歩き始めてしまう。
待って、と咲が早足でその後ろに付こうとしたとき、その声は聞こえた。
「あそぼ?」
かわいらしい、小さな女の子の声であった。その瞬間、咲は司の舌打ちを確かに聞いた。口が悪いときは度々あるが、意外と真面目な司は、普段、児童の前で舌打ちを打つような教師ではない。
「喋んのかよ」
「せ、先生?」
3人の子ども達と向き合う形になっていた司からは当然それの出現が見えていた。教室の向かい側の壁に黒い染みが現れ、それがみるみるうちに広がり大きな穴になった。そして、中からは小柄な女の子のような何かがぬるりと出てきたのである。
どうみてもまともな存在ではない。何故こんなものが学校に現れることが黙認されているのかがわからない。司は、一目見ただけで、洋に怖くないと聞かされたはずのそれに間違いなく恐怖していた。
「お前が、カタメノフタツメか」
「あそぼ?」
洋の資料通りの見た目だ。小学校低学年程のシルエット。その顔には巨大な穴と縦に並んだ2つの目がある。制服らしき装束はボロボロで、それが不気味さに拍車をかけていた。
カタメノフタツメは、ニタニタ笑いながら四人の人間を値踏みするように見回していた。司は、咲を抱き締めながら考える。京と菊は既にあの怪異を目視している。司の位置からはその表情は伺えないが、慌てている様子は見られない。この二人は一先ず放置しても大丈夫だろう。ならば、怖がりな咲だけでもここから離すことが先決か。……いや、二人が大丈夫というのは楽観的な考えではないか?洋がどこかに行ってしまったし、まずはそれを呼び戻して……?
考えは中々纏まらない。しかし、子どもが恐怖に駆られる中、拘束状態に耐えられるはずもない。咲は器用に首を回して、横目でそれを見てしまった。
「ねえ、あそぼーよ」
「ひぃっ」
「あっ、馬鹿。怖いのダメなんだから見るな。怖いもの見たさはわかるが……」
ちゃり……とカタメノフタツメが行動を始める。ゆっくり、ゆっくりと人間達に近寄っていく。
「大丈夫ですよ。洋くんの事前調査が正しければ、遊びの誘いを受けなければそもそも危険はありません。落ち着いて対処しましょう」
やはり菊はカタメノフタツメを意に介している様子はない。京に至っては興味津々な様子でまじまじとその不思議存在を観察している。怖がっているのは司と咲だけのようだ。
(魔術とかかじってると、こういうのには慣れっこになるのか?だったら一般教養として、使えないなりにでもかじっとくべきだったな)
司は、心のなかで毒づく。が、突然腕の中にいた咲が暴れ始め、思考が強制的に現実に向けられる。
「あ、おい!暴れんな!落ち着け、咲」
「やっ、いやぁ!」
恐怖のあまり錯乱したらしい咲は、司の腕を振りほどき走って逃げてしまった。司は、しばらく呆然としていたが、元々カタメノフタツメから逃がすつもりだったことを思い出し、手間が省けたと好意的に考えることにした。
しかし、そのような甘えた考えを七不思議は許してくれないらしい。
「あっ、にげた!おにごっこ、すたーと♪」
「「は?」」
司と菊が同時に声を上げた。まさか、逃げることで鬼ごっこが始まるとは思わなかった。その驚愕から立ち直るのは菊の方が早かった。咳払いを一つして、司に策を伝える。
「一旦、私がカタメノフタツメを引き受けます。先生は錯乱した大村さんを保護してください」
「京は!?」
「私に任せてください。近くにいてくれるならば護るのはたやすいのです。今一番危ないのは錯乱状態で、単独行動をしている大村さんですので、早急に捕まえてください」
「わかりました」
菊がカタメノフタツメと向かい合い、それを確認した司は咲を追いかけようとした。しかし、そこで信じられない様子を目の当たりにしてしまった。
カタメノフタツメが空間移動を行っていた。あの行為は鬼ごっこの対象とある程度距離が離れなければ使ってこないはずである。それが本当ならば、なぜ彼女は目の前に司達がいるのに空間移動をしようとしているのか。それが示す答えは一つである。
「鬼ごっこの対象は咲一人……?」
カタメノフタツメから逃げたのは「咲一人」。そのために鬼ごっこは咲とカタメノフタツメの一騎討ちになってしまったのだ。
すぐに行動に出たのは流石の神童、桜木菊であった。人間離れした走行速度でカタメノフタツメに急接近、手の中に魔力由来の水の剣を顕現させ、攻撃を仕掛けた。
無論、『鬼ごっこ中は無敵』という性質を忘れたわけではない。菊の思惑は倒すことではなく、自分に注意を向けさせることだった。その隙に司が咲を保護し、落ち着かせ、冷静に対処をさせる。これが最善策と判断したのだ。
しかし、その思惑は死角からのイレギュラーによって潰されることとなる。このときの擬音は「ごっつんこ」が相応しい。菊は横からとんできた塊に頭を強打、見事に吹っ飛ばされた。神童とはいえ、体重は普通の子どもと変わらない。
「……っ?何ですか一体」
怪異の少女は今もずぶずぶ沈んでいく。手を出してきたのは彼女ではない。第二の敵の可能性を警戒した菊は直ぐに体勢を整え、飛んできた物体を確認する。そこにいたのは、和国の魔王。つまり京であった。
京は腕に魔力を纏わせていた。魔力を何の物質でもない『エネルギーの塊』にして殴りかかってきたようだ。実は凄まじい難易度の魔術なのだが、その辺の詳細は後々語ることになるだろう。
「東さん……?何故?」
「……んん」
どうして邪魔をしたのか、と考えて直ぐに理由に思い至った。菊は京に作戦を説明していなかったのだ。加えて、京は咲によくなついている。彼女なりに、咲を助けようと動いたに違いない。京は表情と言葉がなくとも、感情と判断力は人並みに身に付けているのだ。
菊の最大の誤算は自分の速度に京が付いてこられるなど考えてもいなかったところにある。菊が魔術を用いた場合の走行における初速は時速80キロをこえる。一階分の階段を上って体力を使い尽くす少女が自分と同じ反応速度、魔術の構成速度、走行速度で同じ目的の行動をするなど流石に読みきれなかった。
「菊!京!大丈夫か!?」
「司先生!我々よりも、咲さんを!とにかく落ち着かせて、学校から出してください!それでカタメノフタツメとの鬼ごっこは終わるはずです!」
菊は、洋の作った資料を信じ、その知識を司に託す。司は菊にこの場を任せて、咲を探さねばならなかった。しかし、司の脳裏に不安がよぎった。予想外のことが続いている。自分が目を離した隙に、菊や京が傷つけられる可能性があるのでは?と考えてしまった。そして、その思考は致命的な時間ロスとなった。既にカタメノフタツメは移動を完了。3人の前から姿を消していた。
「……くそっ、すみません。指示通り動けませんでした」
「いえ、私が司先生を不安にさせたせいです。守るなどと嘯いておきながら情けない。こうなっては先生はむしろ動かない方がいい。京さんを見ていてあげてください」
「神童様はどうするんです」
「人探しに都合のいい魔術があるんですよ。ちょっと咲さんを探してきます」
菊は何やら方位磁針のようなものを創り出した。魔術のわからない司は自身との能力の差を見せつけられた気がして少し落ち込んだ。目を回している京を抱いて、せめて保健室に連れていくぐらいは、と立ち上がる。
「いやあぁぁぁっ!」
咲の叫び声。声の聞こえ方からして、咲は走っていないことが……「特定の場所から移動していない」ことが予想された。
「なあこれ……咲、逃げるの諦めてないか?」
「……間に合わないかもしれません。最悪です。彼女は『悪いことができない』。カタメノフタツメを殴れない可能性がありますから」
「ん……?」
ここで京が目覚める。きょろきょろと辺りを見回し、直ぐに司の腕から飛び降りた。着地に失敗し、パタリと倒れる。彼女の運動能力は致命的に劣っている。
「おい、京!こんな時に変な行動しないでくれ!」
「ん……んー!」
「東さん、何か名案が?」
「ん……さき、たすける。あ、えっと、だから……」
京はカタメノフタツメのゲートの痕跡を追って、咲が捕まったであろう場所を特定し、そこに残っているであろうカタメノフタツメのゲートから咲を助けにいこうと提案した。魔力は魔術を維持する意志が途切れると自動的に拡散する性質を持つ。
ゲートの痕跡を追う……既に拡散した使用済みの魔力から痕跡を広い集めるという菊にすらできない原理不明の技術を京は行使できた。珍しく焦っているらしい菊では辿り着けなかった最短距離の解決法を示すことのできた京は魔力を知る者、魔王の名を冠するに相応しい風格を見せつけたと言えよう。
問題があるとすれば、京がこれを解説するのにたっぷり8分を要したことである。どちらにせよ救出は間に合わなかっただろうが、それにしても中々痛いタイムロスであった。
京は、見事にカタメノフタツメが作り出したゲートを見つけ出した。たった2分であった。
「京さん、流石です。こんな不安定な魔力の発生源をよく特定できましたね」
「さきー」
「何だこれ……ゲート?どうなってんだ」
京と菊は、ためらいなくゲートに飛び込んだ。魔術の素養がない司は、未知の魔術的存在に流石に躊躇したが、これも自分の児童のためと不安を圧し殺し、ずんずんと力強く入っていった。
結果として、司、菊、京の3人が閉鎖教室への侵入に成功した。さて、カタメノフタツメの閉鎖教室の広さは未知数。すでに咲が傷つけられている可能性もある。一刻の猶予もない。
などと意気込んで三人が閉鎖教室に降り立つと、いとも簡単に目標を発見することができた。
「あ、さきちゃん。おともだちとせんせいきたよ」
「うう、おこられるぅ」
「おこられないよ。だいじょーぶ」
「ごめんなさい……廊下を走ってごめんなさい、大声出してごめんなさい」
咲はカタメノフタツメにしがみつき、ぷるぷる震えていた。彼女は担任の教師と目が合うと、「ひぃ」と小さな悲鳴を上げてカタメノフタツメの背に隠れた。司にとっては何とも理不尽な事態である。疑問しか浮かんでこない。なぜ、自分が突然怖がられているのか。なぜ、よりにもよって彼女は自分を拐った不思議存在に庇われようとしているのか。なぜ、信頼の面において、担任の自分が今日初顔合わせの七不思議に負けているのか……。
ちなみに、司はこれまで、咲に対して理不尽に怒ったことは一度もない。だが、咲のこんな様子をみれば、外野からは大抵「司は怖い先生なのだろう」と思われてしまうことだろう。それは和国の七不思議とうたわれる少女の怪異も例外ではなかったらしい。
「せんせ、せんせ。さきちゃん、わるいことしてないよ。おこらないであげてね」
「え?うん。怒んないけど……」
「やくそく!」と言ってカタメノフタツメは小指を立ててニコッと笑った。七不思議としての不気味さはなく、低学年の少女のいたずらっぽい愛らしさに溢れた笑顔であった。
それはそうと、七不思議に諭された司はどうにも解せない気持ちでいっぱいだった。何が悲しくて、自分は正体不明の不思議存在に諭されなければならないのか?結局このカタメノフタツメとは何なのか?たった10分の間に何があって咲とこれは仲良くなったのか?
「司先生。取り敢えず、咲さんを救出しましょう」
「ああ、うん。そうですね。鷲島先生はまだいるはずです。この状態の咲は専門のカウンセリングが必要です。すぐに保健室に連れていきましょう」
咲は、自分が悪いことをしたと思うとパニックを引き起こす精神特性(かつては精神異常、精神障害と呼ばれていたが、現在、この世界ではこのように呼称される)を持つ。咲が「悪いことを異常なまでに嫌う」所以である。
司は屈んで咲を呼び、怖がらせないように気を付けながら優しく抱き抱えた。それをみていたカタメノフタツメは満足そうに笑っている。
「カタメノフタツメ」
「……せんせ、それ、あたしのこと?」
なるほど、洋が言っていた七不思議の名前は別に本人達が把握しているモノという訳ではないらしい。名前がないのも不便なので、「そうだ」と答え、一つだけ質問をした。
「お前は、何者なんだ。七不思議とはなんだ?」
「……?ななふしぎ?よくわかんない。あたしは、みんなとあそびたいだけだよ。こんどはみんなであそぼーね」
司の求めた答えは返ってこなかったが、彼女の言葉に悪意などは感じられなかった。本当に、純粋に遊びたい盛りの子どものそれにしか聞こえなかった。
七不思議とは何か?その疑問はまだ解決されないまま、司達は閉鎖教室をあとにした。
「またあそぼーね」
ぐったりしていた咲が少しだけ動いたのを司は感じた。手を降ろうとしたのだと、何となくわかった。挨拶に対して、挨拶を返さないのは『悪いこと』である。
今回は、不幸な事故で調査が終わってしまった。しかし、カタメノフタツメと咲の様子を見ていると、七不思議と友達になるための調査。洋が言い出した思いつきは案外、この学校において重要なテーマを含んでいるのではないか?と司は考えずにはいられなかった。
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……まだ終わっていない。京と菊は、もう少しだけこの閉鎖教室に居座っていた。せっかく不思議な存在に出会えたので、今この場にいない洋への土産話にインタビューの一つでもと考えたのである。
「ええと、咲さんとどうやって仲良くなったんですか?」
「あそぼー」
「げーと、すごく、すごいちから。どうやってる?」
「おにごっこしよー」
「咲さんはどうやって彼女と交流していたのですか……?」
菊と京が何を話しても、彼女は遊びのことしか口にしなかった。どこから取り出したのかわからない釘抜きをブンブン振り回しながらはしゃいでいるので怖い……というより、普通に危険である。しかし、先程は確かに理性的な言葉を操っていた。なにか、条件があるのか……?菊は、暫し思考を巡らせた。
「咲さんに話を聞くべきでしょう」
「わたしがおにね?」
「京さん。我々も一度保健室に行きましょう」
「いーち、にー、さーん」
「さき、いってて」
カタメノフタツメによる不気味なカウントも意に介さず、菊は、さらりと閉鎖教室から離脱した。京はその5分後くらいにゲートから出てきた。京の脱出と同時に、カタメノフタツメのゲートは消失した。
Tips 東京
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