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私が此処にいると云う事

ある日の出来事

作者: しおり

 この作品が処女作にです。


次作「私のいる場所」と2部作として仕上げました。ふたつ合わせて読んでいただければ幸いです。

 頬に感じた冷たい風で目を覚ました。まだ頭がぼんやりとしたままである。随分と長い間眠っていたような気もするが、反対にまだ眠り足りない気もする。何故かうまく頭が働かない。いつもの朝とは少し違っている?疲れが残っているせいであろうか?良く分からない。まだまだこのままでいたいが、、ふと風の方に目が向いた。すると窓が開いたままになっている、、、っとそこで初めてはっと気が付いた、、今、何時なんだろう?




枕もとの時計を見ると8時を指している。いけない! 朝食の支度、夫は8時過ぎには家を出るのに、、。急いで身支度を整えキッチンへと向かう。と、ちょうどその時、夫が冷蔵庫から牛乳を出して、パックのまま飲み干すのが見えた。「ごめんね、なんか寝過ごしちゃったみたい。」しかし夫は私の声を無視し、そのまま玄関へと向かう。「本当にごめんなさい、目覚ましに気付かなくて、、」それでも夫は黙ったまま靴を履きドアをバタンと閉めて出かけていく。




あ~あ、、やっちゃった。相当怒ってるんだろうな、このところずっと機嫌が悪いみたいだし、。帰ってきたらまた面倒なことになるなと憂鬱な気持ちになる。ただ普段と少し違っている。こんな場合、夫は大抵私を無視するのではなく、むしろ私を睨む様な目で見て、文句の一つも言ってから出掛けて行くのが常であった。今朝はどうしたんだろう?それだけ怒りが激しいのであろうか?「はぁ~」っと、つい声に出してため息をついた。そう、夫は癇癪持ちであり気分屋でもある。機嫌の良い時には良く笑う。その反面、外で何か面白くない事があると、家に帰ってから必ず私にあたる。勿論私に何も関係無い理由でである。こちらが気を遣おうがそうでなかろうが必ず怒鳴り散らす。物にも当たって良く壊す。暴力も数回あった。まして今朝は私のミスで朝食を食べ損ねている。そこに仕事で何か問題でも起き、怒りを抱えたまま帰宅したとしたら、、?想像だけでも恐ろしい。



 最初は優しい人だと思ったのだった、、それが間違いだと分かった最初の出来後が思い出される。新婚旅行ツアー2日目の事である。二人で市内バスに乗り観光に出かけた。そしてそれはバスを降りた後に起こった。私たちが支払った料金が不足していたため(前日ガイドさんから聞いた料金と違っていたのが理由)運転手さんに文句を言われた事で、急に機嫌が悪くなり、いきなり私の頭を殴ったのである。私は呆気に取られてしばし呆然としていたことを思い出す。そんな時でも夫は決して謝らない。「俺は恥をかいたんだ!」それはわかる。でも恥をかくと何故私を殴るのだろう?私が何かした訳ではないのに、、。


2度目の時は首を絞められたんだった、、。その時の事も鮮明に覚えている。最初に主人が言い放った言葉に私が腹を立て言い返したら、私が悪いと首を絞められる羽目になった。「お前が悪いんだから、謝れ、謝るまで俺は締め続けるぞ!」と、、。そして手を離した後も、「お前が悪いんだから俺は絶対に謝らない」と自分を正当化する。言い返した私が悪いなら、先に言ったあなたはもっと悪い、まして首を絞めておいて、自分は何も悪くないから謝らないと、当然のごとく言い放つなんて、呆れて物も云えない。かなりの理不尽であるが、しかしそれは夫には通用しない。思えばあの時に離婚すべきであったのだろう。どうしてそうしなかったのか?自分でも良く分からない。



 それから一事が万事そんな調子で生活が続いている。今更考えても仕方がない、そんな事まで何故か今朝は思い出される、、既に忘れてしまった筈だったのに、、妙な違和感が胸の中に広がっている。これはもう我慢の限界に来ているという意味なのであろうか?益々そんな自分が分からなくなってきた。



しなければいけない家事があるのに、体がだるくて動けない。多分相当疲れが溜まっているのであろう。とは言え今の時間に、夫が帰ってきた時のことを考えても仕方がない。取りあえず、ソファーで少し休もう。




思えば、本当に女として妻として幸せだったと思える時間があまりにも短かった様な気がする。それは事実なのだが、、どうして今日はどうでもよい事ばかり思い出すのか?座っていても疲れを感じるのでそのまま横になる。するとすぐに眠気に襲われそのまますぐに眠りに落ちた。




どのくらいの間そうしていただろうか?また冷たい風に起こされた。いくらか気分が良くなった様に思い、ゆっくりと起き上がってみた。さっきよりだいぶ楽に感じる。ふとまた窓が開いたままであるのに気付く。あれ?また閉め忘れた?そして外に目をやるとすっかり日が暮れている。いけない!夕食の支度!!っとその時、玄関から、鍵を開けるガチャガチャという音が聞こえてきた。嘘、やだ、、帰ってきちゃった!!!



 どうしよう、、夕食の支度出来ていない、しかも今朝、あんな状態で出掛けて行ったのに、どうしよう、私は軽いパニックになった。取り合えず玄関に向かう。「お帰りなさい」夫に声をかけるが、朝と同じく私を見ることはなく、勿論返事もしない。どうしよう、、。相当怒っている。私は恐怖で体が震えてきた。「あの、、ごめんなさい、、今日は体の調子が悪くて、朝もそうだったけど、、夕食も作れなかったの、、本当にごめんなさい。。もし、少し待ってもらえるなら、今から急いで作るし、、駄目なら、、そう、、何か買ってくるか、、あ、違う、近所のラーメン屋さん、、ほら、最近行ってないし、、あそこ美味しい、あなた好きよね?」慌てて、浮かんだままを言葉にする、、。でも夫は何も言わない、、。もしかしていきなり殴られる? 夫が近にづいてくる、、こ、怖い!



ところが夫は私の横を無言のまま通り過ぎる、、。一体どうしたというのだろう?今日はこのままずっと無視を続けるのであろうか?こんなことは初めてだ。




 っと、、その時初めて、、とてつもない違和感に襲われた!


私の体傾いている? えっ?いつもの貧血?いや、違う。根本的に私の体がおかしい。


どう言えば良いのか、、そう、全く力が入いらない。と言うより、手足の感覚が無くなっている、、いったいどうしたというのであろう、、。顔全体も痺れている様な気がする、、口が全く動かない、声を出そうとしてもそれ自体がどういうことか全くわからなくなっっている、、。 私っていったい、、。。。


 


 そこで  は じ め て  きがついた きがついたのだ





 夫は私を無視していたのではなかった? 私が見えない、みえないんだ。私の声は聞こえない?きこえないんだ、、。


そう、、そうだった。もっと早く気付くべきであった。 日常的に返事が返ってないことが多く、気分次第で態度が変わる事に慣れ過ぎていて、今朝の夫の態度をそれ程異常だと思わなかった。今、自分に起きていた全てに合点がいった。



そう思って部屋を改めて見てみると、、




  壁に私の写真が飾ってある。確かそれは無かったはずである。



    そして部屋の片隅に何と神棚が出来ていた。




  ここで私ははっきりと思い出した。 そう、そうなんだ、、私は今は


もう生きていないのだ。


だから、、。


だんだんと思い出してくる、、。

 確か、、そう、あれは夏の終わり、、、、その日は途轍とてつもなく体がだるく何も出来ず、ベッドに横たわったままでいた。

すると、いつもの様に夫が暴言を吐いたのであった。

そして最後に「 死んでからゆっくり寝たらどうだ?」


私はもう限界に来ていた。もう何もしたくない、何も考えたくもない。

そして、、そう、急にどうでもよくなって手首を切ったのであった。

今それをはっきりと思い出した。

痛かったのかも良く覚えていない。

けれどだんだんと薄れていく記憶の中で何故か窓から入ってくる涼しい風が気持ち良かったのを覚えている。

 

私はもう死んでいたんだ、、そしてここにはいないんだ。


そうだったんだ、、。


もうこれからは悩む事も苦しむ事も無いんだ。




 多分夫は特別悲しむ事もなく、ただ淡々と日常へと戻っていったのであろう。少し寂しい気もするけれど、、いや、よそう。私も死ぬかなり前から、夫には何の感情も無くなっていたのだから。



 ただ、全てが明らかになった今、今までに感じた事が無いほどの、ゆったりとした心地よい感覚がある。何だか体全体が軽くなってきたようである。そして自然と自分の中から喜びが湧いてくるのを感じる。




 そう、ただただ、感じていれば良いのだ。


そして私の在るべき場所へと導かれるのであろう。




遠くに光が見える。だんだんと私に近づいてくるようである。


そう、ただ、それを待っていれば良い。そしてその後にはきっと、新しい世界が、、、そう、きっと必ず!

拙い小説をお読みいただき本当にありがとうございます。


今後、ジャンル別に名前の漢字を変えて発表します。【涼織】(しおり)」を今後とも宜しくお願い致します。



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