僕は辺境伯と会う。
本日ラストです。
楽しんでいただけると嬉しいです。
門を潜って、道なりに真っ直ぐ行くと大きな屋敷が見えてきた。
僕のような一般人からして見れば、城と呼んでも大差ないが、きっとこれがこの世界の領主の住まいとしては常識なのかもしれないと思い、深く考えるのは止める事にした。
そのまま、屋敷の門も潜り、そして応接室らしき部屋に通された。
今この部屋には、僕とダンタリオンだけだ。
白虎は、街中では人目もあるので、悪いが中に戻ってもらっている。
ダンタリオンの方は、僕の知らない所で、どうやら皆で話し合った結果、僕のお世話係みたいな感じで、常時僕の傍にいてくれるらしい。
僕としても、一人より二人の方が心強いので、とても有難い。
ソファーに座って待ってるように言われたが、正直落ち着かない。
「うー……胃が痛くなってきた。何でこうなっちゃうかな~……」
「大丈夫ですよ。何かあれば、どんな事をしてでも、カケル様だけはお守りしますので」
ソファーに座って、お腹を抱える僕の後ろで、物騒な事を平然と言うダンタリオン。
「…………何でそうなる」
何かある事前提なのかと、呆れてしまう。
けれど、ダンタリオンが言ってる事も、なきにしもあらずかもしれない。
何も起こらないに越した事はないけど、いくら娘さんを助けたからと言って、この街一番のお偉いさんが、素性も知れない子供に、こんな簡単に会ってくれるだろうか?
なるべく穏便に済ませて、もしもの時は全力で逃げよう。
出来れば、被害は出したくない。
そう、僕が心に決めてから暫くして、応接室の扉がガチャりと開く。
僕は、すぐ様立ち上がると、そちらの方に体を向けた。
入室して来たのは、総勢五名の男女だった。
「やあ、待たせてしまって済まなかったな」
その内の一人が、まず初めに代表として口を開く。
「いえ。態々お忙しい中、僕のような者に時間を割いていただき、誠に有り難う御座います」
僕は笑顔で、軽く会釈してそれに答える。
「……ふむ。話で聞いていた通り、聡明そうな子供だ。しかも、胆力もありそうだ」
男の人が、感心した様に言う。
いえ!内心めっちゃ緊張してますから!
まだ胃はキリキリしてるし!
ただ外面がイイだけですよ!
僕は、心の内を悟られないよう、必死に笑顔を張り付けたまま、全員が席に着くまで待った。
五人の内三人が、向かいのソファーに腰掛けるまで待ち、僕に座るよう促してから、改めてソファーに座り直す。
そこで、じっくりと入室してきた人達を観察する。
僕の向かって右側には、淡いブルーのワンピースに着替えたメリーナさん。左側には、メリーナさんと同じ桃色の髪をした、おっとりとして優しそうな雰囲気の女性が。
多分この人が、メリーナさんの母親だろう。
そして、真ん中に座るのが、間違いなくこのラザン辺境領の領主その人ーーラザン辺境伯に違いない。
見るからに風格がある。
金髪で大柄な体躯ではあるけど、それは決して太っていると言う訳でなく、鍛えられた体が服の上からもハッキリと分かる。
まだまだ若そうで、現役?って感じだ。
その後ろで佇んでいるのは、女性騎士のクラネさんと、もう一人は、くすんだ青髪をした青年だ。
こちらの青年は、油断なく僕達を観察しているように見える。
ざっと、気付かれないように、この人達の顔を観察し、推測し終わると、ラザン辺境伯が口火を切る。
「さて、俺がこのラザン辺境領を治めてる【スレイバ・ラザン】だ。娘を助けてくれた事、心より感謝する」
そう言って、辺境伯が頭を下げた。
いきなりの事態に、僕は慌てる。
「い、いえ!当然の事をしたまでですから!だから、どうか頭を上げて下さい!」
僕の必死さが伝わったのか、辺境伯はやっと頭を上げて、「……そうか」と一言。
そして続けて、一人一人を紹介していった。
「それから、メリーナはもう知っとると思うが……」
「改まして、メリーナ・ラザンと申します。この度は、危ない所を助けていただき、誠に有り難う御座います」
ラザン辺境伯が視線を送ると、メリーナさんは立ち上がり、先程と同じような所作で、再び挨拶をしてくれた。
「そして、こっちが俺の妻だ」
「お初にお目にかかります。ラザンの妻で、メリーナの母親、【ミランナ・ラザン】と申します。この度は、我が娘をお救い下さり、誠に感謝しておりますわ」
そう言って、メリーナさんのお母さんも立ち上がり、これまた美しい所作で、優しく微笑んで礼をしてくれる。
三人、それぞれの自己紹介が済むと、僕も急いで自己紹介する事にした。
「あ、あの!僕からも、改めて自己紹介させて下さい!僕の名は、カケル・ヒュウガと言います!宜しくお願いします!」
僕はもう一度立ち上がって、少々意気込みつつお辞儀をする。
僕には、皆さんのような挨拶の仕方など分からないので、頭を下げるだけに留まる。
今度は、ちゃんと苗字まできっちり自己紹介した。
「……ああ。宜しくな。因みに、後ろに控えてるのが、クラネ……はもう知ってるか。無愛想で根暗に見え
るのが、俺の補佐を勤めてくれている、ウェスタムだ」
「改まして。第二騎士団団長の、クラネ・コレイユと言います」
「……私はウェスタム・ルーシャスです」
辺境伯の紹介はどうかと思うが、ウェスタムさんと言う方は、慣れているのか、顔色も変えずに淡々としていた。
「……で、だ。メリーナから聞いたが、カケルは遠い所から来た旅人だと言うのは本当か?」
「え、ええ……まあ……」
「もし良かったら、何処から来たのか聞いても?」
や、やっぱり、そこ気になりますよね~?
額に汗がじわりと滲む。
辺境伯が、気持ち身を乗り出すように聞いてきた。
「え、えーと…………東、ら辺?ですかね……」
「………………ふむ」
絶対怪しまれてる!
僕自身、あまり嘘は得意じゃない。
目を泳がせて、冷や汗流して、曖昧に答えてれば、当然疑うものだろう。
ウェスタムさんの目が、一瞬キラリと光ったような気がするし…………う!また胃が。
「…………もう一つ確認だが、後ろに控えてるのは、カケルの従者か?」
「えっと、彼は……」
そう問われ、僕はチラリとダンタリオンを見遣る。
話を振られたダンタリオンは、ウェスタムさんに負けず劣らず、顔色も変えないで淡々と答えた。
「そう思って下さって結構です。私共は、カケル様に全てを捧げた身。カケル様の為なら、この命惜しくはありません」
「ダンタリオン……」
またそんな大袈裟な事言って……。
「むぅ。良く分からんな。カケルは貴族……ではないんだよな?」
「あ、はい!それは勿論違います!」
まあ、確かに従者なんか連れていたら、普通はそう思われるかもしれないけど。
幾つか、ダンタリオンと話し合って決めた事がある。
この世界について、ダンタリオン達もリーシャス様から全てを聞いているわけではない。
僕の魂が、この世界に適応出来るように再構成している間の僅かの間、聞かされたのは僕の転生の理由と、僕や皆の大まかな能力についてなど。
なので、この世界自体の細かい部分等は、今だ分からない状態だ。
そこら辺はまあ良い。おいおい調べれば問題無いと僕は思っているから。
最も、初日からこんな事態になるとは、想定外もいい所だったけど……。
そこで、周囲には、転生とダンタリオンの事を隠す事にした。
不可抗力は仕方ないにしても、僕としては、あまり波風を立てたくないと思っているし、無駄に目立つのも得策とも思えない。
僕が転生者である事は勿論の事、ダンタリオンが何者であるのか。
当然、元がカードですなんて言えるわけもないし、そんな話誰も信じないだろう。
いや、魔法なんてものがあるのだから、もしかしたらアリなのか?
しかし、まだ安心は出来ない。
大体、白虎の時も相当怖がらせてしまったし……。
「そんな強い【使い魔】を使役するなんて凄いな~」と騎士さんに言われたが、そもそも【使い魔】ってなんだよ!
召喚自体もいまいち良く分かってないのに、余計な事を口走って、場を混乱させたくない。
因みに、召喚術を使える事は、それ程珍しくは無いようだ。
適正云々は関係してくるが、別に使えないわけではない。
ただし、それで【召喚士】を選ぶのは珍しいと聞いた。
召喚者の能力により、召喚出来る【使い魔】の強さが大きく関わってくる。
弱い使い魔しか召喚出来ない人が、態々【召喚士】を名乗る筈もなく……そんな訳で、召喚士自体は多くは無いが、特に珍しくはないそうである。
まあ、白虎を従えてる時点で、皆さんはかなり納得してたみたいだけどね。
そんな訳で、大変心苦しいが、現状の僕では話せない事も多々あり…………どうしても、嘘や誤魔化しになってしまうのはしょうがないだろう。
「そうか……所で、カケルは召喚士と聞いてるが、それは間違いないか?」
「え?あ、はい。まあ一応は……?」
召喚士である事は、別に隠していないので、素直に白状する。
「……もし、嫌でなかったら、ここで見せてくれんか?」
「えーっと……別に構いませんが……」
召喚士は珍しく無いと聞いてたんだけど、何故態々見たいのか?
僕は首を傾げる。
けれど、見たいと言うなら断る理由も無く……僕は、言われるがままに、もう一度白虎を呼び出す事にしたのだった。
ここまで読んで下さり、有難う御座います。
誤字脱字などありましたら、お気軽にどうぞ。