僕はさっさと街に行きたい。
土日に投稿出来ませんでしたので、その分と今日分で三話投稿しときます(汗)
桃色の髪。肩より少し長めに伸ばした髪の毛先は、内側にカールしている。
歳は、僕と同い年かやや年上。
胸元のリボンが特徴的な、黄色のワンピースを着た女の子。
そんな彼女が馬車から降りると、髪を振り乱して、僕に向かいこう言った。
「お願いします!!彼を助けてあげて下さい!!」
多分、彼女はこの中で一番偉い立場なのだろうと思う。
さっきも「お嬢様」とか言われてたし、他の人達も微妙な顔をしているが、何も言わなくなった。
僕は、彼女の願いを叶えるべく、ダンタリオンに頼んで、倒れてる騎士に回復魔法をしてあげた。
騎士の体全体が、僅かに光を帯びる。
「……これで、一応は問題無いかと思われます」
ダンタリオンがそう言うので、僕は騎士の顔を覗き込むと、確かにさっきよりは大分顔色がマシになったように見えた。
「……うん。ありがとね!ダンタリオン!」
「勿体無きお言葉で御座います」
丁寧な所作で頭を下げるダンタリオンに、僕は苦笑する。
「後は……この人達を運ぶ手段だけど……」
僕はチラリと白虎を見る。
その意味をすぐに理解した白虎が、僕の方に近付こうとするが、騎士の人が素早くそれに反応した。
「あ!その事なら大丈夫だ!魔物の襲撃で逃げてしまったが、馬も近くに居る筈だ。呼べばすぐに来るだろう」
「そうですか?なら、僕達はこの辺で……」
騎士の言葉を聞いて、それなら安心だろうと思い、僕達がすぐにこの場を後にしようとすると、後ろから呼び止めの声が掛かった。
「あ!お待ち下さい!!」
「……はい?」
僕は振り向くと、先程のお嬢様と呼ばれていた少女が僕に近付いてくる。
騎士達は、止めようか迷ったが、結局止めずにいた。
「まずは、遅くなりましたが、御礼を申します。我が騎士達を守り、治療までして下さった事に」
「いえ、当然の事をしたまでですから」
「それと、騎士達の非礼をお詫び致します。あの様な態度は、命の恩人にするものではありませんでした」
騎士達が、バツが悪そうに、お嬢様と共に頭を下げて来た。
「大丈夫ですよ。その人達も、お嬢様?を守りたかったのでしょうし。それに、助けられたからと言って、頭から信じられた方が、僕は信じられません。頭ごなしに疑えとは言いませんが、警戒するのは極自然だと思います。その相手が、もし悪漢などでしたら、目も当てられないでしょうからね」
僕の言葉に、お嬢様が一瞬目を丸くしてから、すぐにとても綺麗な笑顔を浮かべた。
「ふふふ。そう言ってもらえると、とても助かります。それにしても、随分大人びた考えをなさるのですね?」
「そうですか?」
そう言えば、親友曰く、僕は『子供の皮を被った大人』らしい。
某名探偵もビックリなのだそうだ。
「もし差し支えなければ、お名前を伺っても?」
「僕はカケルと言います」
苗字は…………まあ、いいか。
日向翔?カケル・ヒュウガ?どっちが正解か分からないし。
見た所、顔の形や髪の色とかも、日本人には到底見えない。
「……カケル様ですね?申し遅れました。私の名は【メリーナ・ラジル】と申します。どうぞ気軽に、メリーナとお呼び下さい」
そう言って、お嬢様……メリーナさんは、スカートの裾を摘んで、優雅にお辞儀をする。
僕も慌てて、軽く頭を下げた。
もしかしたらと思っていたが、この人はやっぱりいい所のお嬢様なのかもしれない。
それこそ貴族……或いは王族だろうか?
僕には、親友から教えて貰った、にわか知識しか持ち合わせていないので、どう判断すれば良いか迷う。
「それで?カケル様はこの後どちらに?」
「えーっと、取り敢えずはこの先にある街にでも……」
そう、僕が言い終わるか終わらない内に、メリーナさんが「まあ!」と手を叩いた。
「それでしたら、私達と御一緒しませんか?私達もそちらに帰ってる途中でしたから」
「お、お嬢様?!」
彼女の発言に、メリーナさんと同乗していた女性騎士がサッと顔色を変える。
「……むぅ。何ですか?クラネ」
メリーナさんは、急に話に割り込まれて機嫌悪くし、頬を膨らませてクラネと呼んだ女性騎士を睨む。
それでも、女性騎士はめげずに反論した。
「その様な得体の知れない者をお供に付けるのは、些か軽率に思われます」
「……得体の知れないとは、随分な言い方ですね?私達を守ってくれた方ですよ?」
「そ、それは確かに感謝しておりますが……ですが……」
見る見る眦が上がるメリーナさんに、流石の女性騎士さんも強気には出られないようだった。
僕は、他の騎士達を見遣る。
今では、騎士は四人に減っていた。
僕達が話してる間に、馬を呼び戻して二人の騎士がそれぞれ倒れた騎士を街まで運んでいったからだ。
ここから街まで、上空から見た限りではそれ程遠くは無かった筈。
相当運がないなら別だが、駆け足で馬を走らせれば、魔物にも襲われずにすぐにも街に着けるだろう。
だが、馬車は別だ。
重い車を轢いてる馬が、それ程速く走れるとは思わない。
特にお嬢様を乗せてるのだから、荒事をするわけもいかないだろう。
メリーナさんと女性騎士さんのやり取りに、他の騎士達もどうすれば良いのか、困惑気味である。
そこで、僕は一つの提案を持ち掛けた。
「あの……少々宜しいでしょうか?」
「…………はい。何でしょう」
かなり不機嫌オーラを出しているメリーナさんに苦笑しながら、僕は続けた。
「女性騎士さんの言ってる事は最もです。なので、こうするのはどうでしょう?抜けた騎士さん達の穴埋めと言う訳では無いですが、僕達が護衛の役割を代わりに担います。と言っても、見ての通り僕は全くの非力ですけど、この二人なら十二分に護衛の役は務まると思いますよ?」
僕がダンタリオンと白虎を見ると、二人も特に異論はないようだった。
男性騎士四人は、お互い顔を見合わせ、女性騎士は、まだ何か言おうとしてたみたいだが、言葉が見つからなかったのか口を噤む。
メリーナさんは、少しだけ考える素振りを見せたが、すぐに笑顔になって頷いた。
「そうですね!その方が此方としても有難いです!でしたら、カケル様は私の馬車に……」
「それはお断りします」
メリーナさんがとんでもない事を言い出し、また女性騎士さんがそれに抗議しようと口を開きかけたが、僕が先にハッキリと拒絶の言葉を口にしたので、そのまま固まってしまった。
メリーナさんも、「え?」と言う顔で固まっていた。
「先程も言いましたが、女性騎士さんの言い分は最もです。僕達は、当然最後尾から着いていくつもりです。僕があなたと同乗してしまったら、馬車の中まで警戒しなくちゃいけないでしょ?彼女達の仕事を増やさないであげて下さいね?」
僕は有無を言わさず、ニッコリとした顔で告げる。
自分達が守る対象であるお嬢様が、見ず知らずの男と馬車に乗れば、今度はそちらにも気を配らなければならなくなる。
そうでなくても、魔物に襲われたばかりで、皆さん心身共に疲れてるだろうし。
それに、正直これ以上押し問答してるのが面倒臭くなってきた。
そんな事をしていたら、日も暮れてしまうかもしれない。
この数時間で、色々な事が起こりすぎて、こっちも精神がゴリゴリ削られているのだ。
無駄な時間を、もうこれ以上浪費したくは無かった。
僕の気持ちを知ってか知らずか、お嬢様も僕に気圧されたように「あ、はい」と頷いてくれた。
そして何故か、男性騎士達からは感心したような視線を向けられたのだった。
毎回、一章に手こずります。
最初が肝心だと分かりつつも、上手く纏まらずに落ち込む……
なるべく話が進みやすい様に書きたいのに、中々思う様に行きませぬ(涙)
出来るだけ、皆様に楽しんで頂く様に最善を尽くしますので、長い目で見てやって下さいm(_ _)m