【四神獣】白虎
楽しんでいただけると幸いです!
「うわー!!凄い凄い!!」
今僕は上空で大はしゃぎしていた。
僕が現在跨っているのは、真っ白い毛に黒い縞模様が混じった、一見ホワイトタイガーのような、【四神獣】白虎ーー僕が新たに呼び出したカードである。
つい数分まで、僕はこの世界の神から、直に聞かされたと言う話を、ダンタリオンから聞かされていた。
「はい。何せこの世界は【剣と魔法の世界】ーーファンタジー世界ですから。つまりは、魔法が使えると言う事です」
「ま、ほう……?」
その言葉に、僕は目を丸くする。
僕だって男の子だ。そう言う事にテンションが上がるのは仕方ないだろう。
もう会う事もないが、こう言う話題が好きな親友が聞いたら、心底羨ましがるに違いない。
「ええ。此方では、何でも【適正】にもよるみたいですが、赤子でも練習次第で、すぐに初級魔法位は使えるようになるらしいですよ?そう言ったものも含めて、この世界に適応した肉体・能力等を、新たに生成して下さったみたいです。生前と変わらないお姿で」
「………………マジですか。じゃ、じゃあ!僕も練習すれば、魔法使えるかな?!」
それなら是非とも使ってみたい!
魔法って言ったらアレだよね?【ファイアーボール】とか【ウォーターボール】とか?
「ふふ。どうでしょうね。ですが、カケル様は、既に『魔法』をお使いになられてますよ?」
「…………え?」
予想外の言葉に、僕は首を捻る。
そんなの使ってたっけ?
「私を呼び出してるではありませんか」
「……あ!」
言われてみれば、これも一種の『魔法』なものなのだろう。
「正確には、【召喚術】ですけどね。そう言う者達を、【召喚士】と呼ぶらしいですよ?」
「召喚士……」
これは、どちらかと言えば、トレーディングカードゲームに酷似している。
ある意味、僕には一番適した能力かもしれない。
「最も、本来の召喚士とは若干食い違いはありますが、この世界では概ねそんな感じですね」
「それはどう違うの?」
「申し訳ありません。そこまで詳しくは……」
ダンタリオンが、困った顔で頭を下げて謝る。
「ううん!いいよ。分からなければ調べればいいんだし。その機会もこれからあるだろうしね。それよりも!さっきは、訳が分からないまま、言われたままに召喚してみたけど、その口振りからすると、少なくとも僕が持っていたカード達なら、誰でも召喚する事が出来るのかな?」
僕は目をキラキラさせて、ダンタリオンに詰め寄りながら聞く。
ダンタリオンは、優しく笑うと頷いて答えた。
「ええ。勿論です。召喚するに辺り、必要なのは【魔力】と呼ばれる物らしいです。それが、超常現象を引き起こす『源』となるようですね」
「ふむふむ。多少の事なら、親友にも聞いた事があるから、多分問題ないかな?」
それからは、ここぞとばかりに、ダンタリオンからリーシャス様に教えて貰った事を聞いたり、今後のこの世界でどう行動するべきか、大まかな話し合いをして、僕は現在白虎を呼び出して楽しく空のお散歩をしているのであった。
因みに、最初に召喚無しで出てきたミカエルだが、本来は主人が呼ばないと出て来てはいけないらしい。
でも、緊急事態だと判断して、勝手に僕の魔力を喰って出てきたのだとか。
どちらにしろ、僕に説明する者が必要だから仕方ないと言えば仕方ないし、僕としては別に外に出たければ好きに出ても良いと思うのだけど、ルールはルールだからと、流石にダンタリオンも容認出来ないとの事。
しかも、それは他の皆も同意見のようだった。
まず第一に考えるべきは、主人である僕の身の安全だけど、やはり、勝手に魔力を喰らって出るのはいただけないってさ。
そんな訳で、白虎に跨った僕とダンタリオン(彼は空を飛んでいる)は、空から森を抜けようとしていた。
どうやら、少し離れた場所に、街らしい所があるそうだ。
そうして、もうすぐ森を抜けようとしてる所で、何やら下が騒がしいような気がするのに気付く。
僕は下に目を凝らすも、木々より更に高い場所を飛んでいた為、ハッキリと見る事は出来なかった。
それでも、誰かが何かと戦っているのは分かったので、白虎に頼んで下に降りて貰う。
地面に着地した僕達は、一回茂みに隠れて、状況を確認する。
視線の先には、一台の馬車と、六人の鎧を着た騎士風の人達が、僕が最初に遭遇したライオンのような魔物と戦っていた。
その近くには、同じ鎧を着た一人の騎士が転がっている。
「…………あれって、死んでるのかな?」
僕は顔を顰めながら、ダンタリオンに問う。
「ここからでは判断のしようがありませんが、もしかしたら……」
ダンタリオンは、顔色も変えずに、淡々とした口調で答えた。
「……そっか。それなら、白虎とダンタリオンは、彼らを助けてあげてくれないか?」
「お言葉ですが、万が一と言う事もありますので、私だけでもカケル様のお傍に」
「……うん。分かった。それじゃ白虎、お願いしてもいい?」
僕は、ダンタリオンの申し出を苦笑しつつも、了承する。
何たって、彼らの最優先事項は、僕の身の安全だからね。
…………自分で言ってて恥ずかしいけど。
僕が頼むと、白虎が「がうっ!」と一声返事をし、颯爽と騎士達の元に駆け寄り…………瞬く間にライオンの魔物を倒してしまった。
は、速すぎませんかね?
僕も先程、恐怖を与えられた対象が、逆に同情してしまう程呆気なく倒されてしまった。
僕は顔を引き攣らせる。
正直、何をどうしたのか、僕には全く理解出来なかった。
もしかしたら、あの男性達もかもしれない。
何が起こったのか分からないのか、ポカンとして口を開けていた。
僕は、安全になったのを確認(と言うより、ダンタリオンが問題ないと言ったので)してから、茂みから出ると、男性達に声を掛ける事にした。
「えっと、あの~……」
「「「「「「っ?!」」」」」」
僕の声に、漸く我に返った騎士達が、弾かれた様に一斉にこちらを振り向き、剣を僕の方に構えた。
「うわっと!」
僕が驚きの声を上げると、すかさずダンタリオンと白虎が、僕と騎士の間に割って入る。
「き、貴様ら!何者だ!」
……うん。言葉は分かる。
これは事前にダンタリオンに聞かされていたので、特に驚きはしなかった。
何でも、リーシャス様の計らいで、言語を理解出来るようにしてもらってるらしい。
「えーっと、旅の者?みたいなもの?なんですが、大変お困りのようでしたので、勝手に助っ人させてもらいました」
僕は、ダンタリオンと白虎の間の隙間から、ひょっこりと顔を覗かせて、何とも曖昧な言葉で返す。
「た、旅人だと?!あ、怪しい奴め!!」
まあ、それが普通の反応ですよね。
僕が逆の立場でも、同じ反応すると思うし。
それにしても…………騎士さん達かなり腰が引けてる感じだ。
きっと、白虎のあの異常なまでの強さを目の当たりにしたせいだろう。
それだけでなく、ダンタリオンと白虎が、騎士の言動に怒りを隠そうとしていないせいもあるか。
騎士が僕に剣を向けた瞬間から、完全に二人が騎士達を敵認定している。
ダンタリオンは殺気を騎士達に向け、白虎は「ガルルルルっ」と唸っているし。
このままでは、いつまで経っても話が進まない。
僕は軽く溜め息を吐くと、少しキツめの口調で二人に言った。
「白虎!お座り!ダンタリオンも殺気出さない!」
僕の言葉を聞くと、白虎は素直にその場でお座りし、ダンタリオンも殺気を引っ込めてくれた。
それでも、まだ警戒は解いてないみたいだが、さっきよりはマシだろう。
騎士達も、先程よりも幾分か顔色が良い。
「それよりも、そこの倒れてる人は大丈夫ですか?」
そこで、僕は話を切り出す。
助けられるなら、どうにかして助けてあげたい。
けれど、騎士達の顔はあまり宜しくなさそうだった。
「…………もしかして、もう死んでます?」
「……いや、辛うじて息はあるが、恐らくはもう…………」
騎士の一人がそう答えた。
それを聞いて、僕はどうにか出来ないかとダンタリオンに聞いてみた。
「そうですね……あまり回復魔法は得意では無いですが、私でも一命を取り留める程度には癒す事は可能かと……」
「っ?!それは本当か?!あ……いや……だが、しかし……」
ダンタリオンの返答を聞いて、騎士が一瞬だけ安堵した表情になるが、すぐに冷静さを取り戻して、戸惑いの表情に変わる。
今は迷ってる暇は無いんじゃないかな?
仲間を助けたく無いの?
僕が若干イライラしていると、突然馬車の中から叫び声が響く。
「お、お待ち下さい!お嬢様!!」
その声を押し退けるように、一人の女性が出て来て、開口一番……。
「お願いします!!彼らを助けてあげて下さい!!」
【白虎】
中国の伝説上の神獣である四神の1つで、西方を守護する。白は、五行説では西方の色とされる。
細長い体をした白い虎の形をしている。また、四神の中では最も高齢の存在であるとも言われている。(逆に、最も若いという説もある)
俳句において秋の季語である「白帝」と同義であり、秋(西・白)の象徴である。
(Wikipediaより)