【学術の悪魔】ダンタリオン
楽しんでいただけると幸いです!。
いきなり、訳の分からない世界に飛ばされ、二足歩行するライオンに早速殺されかけ、あまつさえ、その僕を助けてくれたのが【Legend of Summoner】のカードの一枚である、イラストと瓜二つの人物だった。
現状に着いていけない僕は、放心したまま、崩れる様その場にズルズルとへたり込む。
僕に振り返った、【四大天使】ミカエルと同じ顔をした男性は、そんな僕を見て、慌てて駆け寄ると、しゃがんで顔を覗き込んできた。
「大丈夫か?カケル」
優しい声音だった。
僕のことを心底心配してくれているのが、その瞳からも伝わってくる。
僕は声も出せずに、ただコクコクと頷くことしか出来なかった。
もう訳が分からなかった。
それ程長くは生きていないけど、それでもきっと、こんなに驚くことは後にも先にもないだろうと思う程には。
それ位、色々な事が起こり過ぎである。
僕はただ、まじまじとミカエルを凝視することしか出来なかった。
そんな僕に、ミカエルは柔らかな笑みを湛える。
「色々混乱してると思うけど、説明は【ダンタリオン】に任せてある。……ダンタリオンは分かるよな?」
僕はまた、こくりと頷くだけだ。
「うむ。ならば、『ダンタリオン〈召喚〉』と口にすれば良い。俺はもう戻る。強制的に出てきてしまったからな」
「…………え?まっ……!!」
そのミカエルの言葉に、僕は漸く我に帰り声を取り戻した。
僕は慌てて呼び止めるが、ミカエルは淡い光の粒子となっていく。
僕は必死に手を伸ばすものの、彼は僕を安心させる様、もう一度笑い、
『……大丈夫だ。心配するな。これから先は、我ら皆が其方と共にある。必要な時にはいつでも呼ぶと良い』
それだけを言って消えてしまった。
僕が伸ばした手は、虚しくも空を掴む。
再び辺りは、サワサワと木々の葉の擦れる音のみ。
僕は暫く呆然とする。
しかし、我に返った僕は、手を胸に当てて、まだバクバクと煩い心臓を鎮める為、大きく深呼吸をした。
取り敢えず、言われた通りやろう。
ミカエルが言った言葉を思い出し、一度目を閉じてから口を開く。
「……ダンタリオン〈召喚〉!」
僕がそう口にした途端、先程感じた胸の温かみと脱力感が、再び僕を襲う。
すると、僕の体から、光に包まれたカードが飛び出し、目の前でクルクルと廻りだしたかと思うと、そこに魔法陣のようなものが浮かび上がった。
その魔法陣から、人の影が浮かび上がる。
そして、魔法陣が消え、光が収まったそこには…………一人の、また見慣れた別の男性が立っていた。
男性は、黒髪のオールバックに、白をハイライトにしたメッシュを入れている。
服装は、燕尾服と言えば良いのだろうか。
一見、執事のように見えた。
二度目の見知った顔で驚きも少ないと思ったが、そんな事は無かった。
僕は結局、ミカエルの時同様に、ポカンと口を開けて、彼を見詰める。
すると、目の前の彼が、そんな僕の前で、唐突に膝を折り頭を下げて口を開く。
「ご尊顔を拝しまして、恐悦至極に存じます。カケル様」
第一声がこれである。
何とも堅苦しい挨拶に脱力して、逆に冷静になってしまった。
僕は「はあ……」と曖昧に答えるも、その顔をジッと見詰め、観察してみる。
確かに、顔は僕の知ってる顔である。
けれど、やはり違和感が拭えなかった。
「……如何がなさいました?」
僕が首を傾げていると、ダンタリオンが聞いてきた。
「あ……いや、服が…………僕の知ってる服装じゃなかったから」
そう。ダンタリオンは、僕が毎日と言って良い程見ていたカードのイラストの時とは、服装が大分異なっていた。
ミカエルは、黄金の鎧を来ていて、完全にイラストの通りだったのだが、ダンタリオンは何故か違った。
僕の記憶の中の彼は、どちらかと言えば、学者風な恰好をして、右手には分厚い本を抱えていた筈だ。
この場で気にするべきはそこではない気がするが、気になってしまったのだからしょうがない。
そんな僕のどうでも良い質問に対して、ダンタリオンは嫌な顔一つせずに、微笑んで答えてくれた。
「我々は、言わば精神体です。服装は、自分がイメージした服装に変換することも可能なのですよ。今回は、此方の方が都合が良いと判断しましたので」
「へ~、そうなんだ。じゃあ、他の服にも変えられるの?」
「勿論で御座います。何でしたら、他の服装に着替えましょうか?」
「あー……いや、いいや。それはまた今度で。ゴメン。変なこと聞いて」
僕は今更ながらに謝る。
「ふふ。構いませんよ。私も、こうして貴方様と言葉を交わす事が出来、万感の想いです」
「…………やっぱり、カード……なんだよね?」
「はい。左様でございます」
先程のミカエルに出来なかった質問を、僕はダンタリオンに聞いてみた。
ダンタリオンは、それをハッキリと肯定する。
「何か変な感じだ。でも、何で……?」
「我々は、ずっと貴方の声を聞いておりました」
「え?!そうなの?」
「はい」
『ずっと』と言う事は、コチラに来る前って事だよな?
ダンタリオンは、目を瞑ると感慨深く語る。
ーー『ただいま!皆!』
ーー『お帰りなさい!カケル!』
ーー『皆!新しい仲間だよ!仲良くしてあげてね?』
ーー『当然だろ?俺達は皆、共に戦う戦友なんだからな!』
ーー『明日はどんな戦法で行くかなー』
ーー『ぼく!ぼくが出るよ!カケルの為に頑張るからね!』
ーー『……負けちゃった。ゴメンね、みんな。僕の力不足だ』
ーー『そんな事は無い!ワシらが弱すぎたのじゃ!すまぬ!次こそは必ず勝たせてやる!』
ーー『やった!勝ったよ!これもみんなのお陰だよ!』
ーー『違います!カケル様の実力で御座います!おめでとう御座います!カケル様!』
ーー『みんな!今日も宜しくね!』
ーー『『『『『『はいっ!!全ては貴方の為に!!』』』』』』
「いつから……誰が最初で、何故かは我々も分かりません。ですが、ある日を境に、私達には貴方の声が届くようになりました。私共の声は貴方に届かずとも、ずっと声をかけ続けておりました」
「……そうだったんだ。ちょっと恥ずかしいけど…………うん!でも嬉しいものだね!」
良く、友達からは変わり者だと言われてたけど、僕の想いは、ちゃんと彼らに伝わっていたんだ。
そう思うと、やはり嬉しい。
僕が照れながら笑うと、ダンタリオンも目を細めて笑い返してくれた。
暫し、僕達は見詰め合っていたが、そろそろ本題に移らなくてはいけない。
僕は、一度大きく息を吸ってから、意を決して口を開く。
「……それで、この状況の説明をしてくれるんだよね?」
「……はい。単刀直入に言います。カケル様、貴方は………………転生しました」
それは、僕が予想した通りの言葉だった。
[ダンタリオン]
72体の魔神の1体で、地獄の36の軍団を率いる序列71番の大公爵。
悪魔学における悪魔の1体。
無数の老若男女の顔を持ち、右手には書物を持った姿で現れるとされる。あらゆる学術に関する知識を教えてくれる他、人間の心を読み取り意のままに心を操る力を持ち、他人の秘密を明らかにしてくれる。また、愛を燃え立たせる力、および、望む場所に幻覚を送り込む力を持つ。
(Wikipediaより)