プロローグ
楽しんで頂けると幸いです!
「うわー!!寝坊したー!!」
今日は日曜日。いつもよりも慌ただしく、僕は階段を一気に駆け下りる。
「もう!うっさいなー!もっと静かに降りてよ!」
低血圧の姉は、不機嫌な顔で僕を睨む。
「あはは。元気があっていいじゃないか」
父さんは新聞を広げながら、ニコニコ顔。
「ふふ。カケルちゃん。朝ご飯はどうするの?」
エプロン姿で台所から出てきた母さんが、優しく微笑んで僕に聞いてきた。
「ゴメン!遅刻しちゃうから、あっちで適当に買って食べるよ!」
「あらそう?じゃあ、気を付けて行ってきてね?」
「頑張ってこいよ!カケル!」
「……いってら~」
お母さんは僕の安全を、お父さんは僕の応援を、姉は気だるげだったが、それぞれ声を掛けてくれる。
「うん!いってきまーす!」
僕はそう言って、勢いよく玄関の扉を開けて外に飛び出した。
いつもと変わらない会話。いつもより少々慌ただしい日曜日。
こんな平穏な毎日が、いつまでも続くと思っていた。
そう。この時まで、僕はそれを疑いもしなかったんだーー。
【Legend of Summoner】ーー現在、大人も子供も関係なく大人気の、トレーディングカードゲーム。
このカードゲームは、天使や悪魔や神獣や聖獣等々と言った、架空の生物をモチーフにしたカードゲームである。
ルールは至ってシンプルで、プレイヤーはマスターと呼ばれ、マスターのライフポイントが五点。
マスターは、自分を守らせる為に、前衛と後衛に分かれた、三~六枚の配下を召喚する。
カードには攻撃力と守備力があり、それぞれ得意分野がある。
ワンターンに付き、攻撃は三回まで可能(勿論、それ以下でもオーケー)。
前衛と後衛の一列が崩れ、マスターまでの道が開かれれば、直にマスターに攻撃を加える事ができ、ライフポイントを削れる。(前衛を倒さないと、後衛に攻撃は無意味。但し、魔法や後方に直に当てる事が出来る能力があれば別)。
そして、どちらかのライフポイントが無くなるか、デッキが無くなれば勝負が決まると言うものだ。
そして、今日は都内で、その【Legend of Summoner】の大会が開かれるのであった。
大会会場は、僕の家の最寄り駅から二駅先だ。
昨日は遅くまでデッキの見直しや、戦術を考えていた為、こんな大事な日に寝坊してしまったのだ。
自業自得とは言え、昨日の自分を殴り飛ばしてやりたい。
僕は腕時計を見る。
大会の開始時間は十時からだが、既に一時間を切っていた。
最寄り駅まで走って十分。直ぐに電車に乗れたとしても、十五分程はかかるとして……そこから大会会場まで走って十分位か。
「…………ギリギリかな」
どうやら、あっちでも朝ご飯を食べてる余裕は無さそうだ。
正直な所、朝ご飯をちゃんと食べて、集中力とモチベーションを上げて臨みたかったが、こればかりは仕方がない。
自分が悪いのだから。
今回の大会は本戦になる。
地区予選で勝った上位三位迄が、本戦に出られる切符を手に入れられるのだ。
僕はそこでは一位だったが、それに満足するつもりはない。
世界には、僕より強い人など沢山居るだろうし、僕もまだまだ強くなる筈だ。
それに、僕には心強い仲間が付いてくれるのだから。
「ああ!もう最悪だ!」
今僕の目の前の横断歩道は赤信号だ。
駅まで、もう目と鼻の先だと言うのに、本当に今日は付いていない。
横断歩道で足踏みをしながら、僕は青信号になるのを、今か今かと待ちわびていた。
そして、青信号になると同時に、一歩足を進めた次の瞬間、
ガッーー。
………………………………え?
体に何か強い衝撃を受け、一瞬目の前が真っ暗になる。
ドッーー。
「っ?!」
そして今度は、背中に強烈な痛みが走った。
目がチカチカする。息が出来ない。苦しい。
何が起こっているのか、思考が追いつかない。
周りが、何やら騒がしい気がする。
僕は朦朧とする意識の中、何とか視線だけをさ迷わせる。
最初に視界に入ったのは、何処までも続く青い空。
ああ。今日は何ていい天気なんだろう。
これは絶好の大会日和だな。
なんて、そんなどうでも良い事を考える。
それから、視界の端に映ったのは、ヒラヒラと舞う僕の仲間達だった。
「…………い………………きゃ……」
行かなきゃ。
大会に間に合わなくなっちゃう。
必死に手を伸ばそうとも、僕の指先は、僕の意志に反して一つも動いてくれない。
まるで自分の体じゃないみたいだ。
徐々に体が冷えていき、視界が狭まっていく。
ああ。こんな所で寝てる暇なんてないのに……。
しかし、その眠気に抗う術を、僕は知らない。
そんな時、薄れゆく意識の中で、何かの声が僕の耳に届く。
『カケル?!いや!死なないで!!』
『マスター!!マスター!!』
『駄目だ!!目を開けよ!!』
『やだよ!!こんなの無いよ!!』
『カケル様!!お気を確かに!!』
『大会に出るのでしょう!!しっかりして下さい!!』
『神様!!どうかマスターを助けてくれ!!』
『『『『『『マスターを俺達から奪わないで下さい!!!!』』』』』』
それは何処か懐かしく、とても安心する声だった。
何かを言わなくちゃ、そう思っても口は動いてくれず、僕はとうとう暗闇の中に意識を手放したのだった。
とても温かいものに包まれながらーーー。
〈相手マスター〉
● ● ●
● ● ●
〇 〇 〇
〇 〇 〇
〈自分〉
↓
● ● ●
● ● ●
〇 〇
〇 〇 ※攻撃可
〈自分〉
文章だけでは、カードゲームの説明が分かりにくいかと思って、一応図にしてみましたが…………あまり変わらなかったかも?(汗
ま、まあ、この話はカードバトルものではないので、あまり詳しく突っ込むのなしで!
だって、実際こんなルールで本当にカードバトルが出来るかどうかも不明だし(爆